第181話 グータラ皇帝の最期?の一日
「おはようございます、陛下」
「うん、おはよう」
なんか張り合いがないな~。フルーラだったらとか、アンディだったらとか、思い出す。
「いやっ、勝手に殺さないでくださいっすよ」
「あっ、アンディ、生きてたんだ?」
「ついに、ぼけたっすか?」
「ん?」
まあ、アンディもフルーラも相変わらず元気だった。フルーラは、66歳になって、皇帝直属騎士団の騎士団長は退いたものの、後進の
アンディは63歳、相変わらず護衛騎士として働いている。まあ、昔ほど動けないそうだが。で、
「
「おお、カール、おはよう」
カールも、ヴァルダに帰って来ていた。理由は、ルシェリアさんが病に倒れたからだった。
そして、今は、カールがルシェリアさんに代わり、ボルタリア王国の政治の表舞台に立っていた、14歳なのに偉いものだ。そして、僕が元々名乗っていたクッテンベルク
「御祖父上様の栄光ある名前を引き継げて光栄です」
だってさ~、可愛いよね、カールは。
で、その隣にいる女性からも挨拶される。
「おはようございます、御義祖父様」
両手で、スカートの
昔、僕とエリスちゃんが結婚した時に、
で、僕に挨拶した女性は、カールの婚約者だった。まだ、カールは14歳。結婚は早いが、婚約者として、ヴァルダで一緒に生活はしているのだった。
名は、ブロンセちゃん。この名を聞くと、シャロロ君の奥さんで、不倫問題で幽閉された方を思い出すが、もちろん別人だった。
現在のランド王国国王フェラード6世さんの
で、カールと、ブロンセちゃんだが、別に、ランド王国で知り合ったわけではないそうだ。カールはルテティアにいて、ブロンセちゃんは、ブランズ地方で暮らしていて、
それで、2人の婚約をすすめたのは、ランド王国側だった。そう、エグレス王国との対立が
今のエグレス王は、エドワルド3世。先代のエグレス国王と、フェラード4世さんの娘さんにして、不倫事件の
という事は、男子直系ではないものの、ランド王国の王族の血は継いでいると主張、ランド王国に介入し始めていた。戦争にはなっていないが、いつ全面戦争に発展するか分からない。
そこで、ランド国王である、フェラード6世さんは、後方の安全を確保する為に、マインハウス神聖国との関係を強化する目的で、カールと、ブロンセちゃんとの婚約を推進したのだった。
もう、完全に政略結婚だが、2人が仲良さそうだから、よしとしよう。
僕は、特には用事が無いが、
「これは陛下、いかがされました?」
「いやっ、特には、用事ないんだけど、ちょっとね」
「そうでしたか」
僕が、昔使っていた
僕は、部屋の中にアンディと共に入っていった。
「で、ボルタリア王国はどうなの、ヤン君?」
「あの〜、そろそろヤン君は……。そうですね〜、陛下の
「そうなんだ」
それを聞いて、今度はユージフさんが、
「まあ、ですが、人口の流出もあり、人口自体は増減なしってところでしょうか?」
「そうなの?」
「はい、これはマインハウス神聖国自体に言えるのですが……」
そう言いつつ、ユージフさんは、こちらへ体ごと向ける。まあ、若いうちから
「うん」
「陛下のおかげで、マインハウス神聖国国内が平和になり、
「そうなんだ〜」
「まあ、マインハウス全体では、人口は増加なのですが、ここボルタリア王国は国王が、あれですので……」
「あれか~」
「はい」
という事らしい。って、意味わかんないよね?
まあ、要するにジークは、相変わらず、傭兵のように、戦場で戦っているが、ボルタリア王国の貴族の反発や、騎士達の家族からの
で、
「まあ、ですが、ボルタリア王国もマインハウス神聖国も落ち着いております。陛下は安心してお休みください」
「永遠に?」
パウロさんに言われて、僕は冗談で返すが。
「や、やめてください、
「ハハハハ、ごめんね。じゃあ、後は頼んだよ」
「はい、かしこまりました……後は?」
で、僕は昼の
「ああ、僕は、なんかさっぱりしたものを一品で良いよ。だけど、ワインはもらうかな」
「グーテルさん、大丈夫ですか?」
エリスちゃんが、心配そうに聞いてくる。そうなんだよね~、最近食欲が無いのだ。
「大丈夫だと思うよ、暑いから夏バテだよ」
「そうですか? ですが、いつもはならないように思いますが……」
「そうだけど、今年は特別暑いんじゃない?」
「そうでしょうか?」
エリスちゃん、心配し過ぎだよ~。
食事が終わると体を軽く動かす為に、ヴァルダ城内を散歩する。そして、そのまま、ヴァルダ城から、城下町マージャストナへと続く、石段へと向かうと。
「グーテル様、申し訳ないっすが……」
「ああ、ごめんごめん、アンディ」
「いえっ、今、アンジェを」
そう言って、他の護衛を残して、新宮殿へと向かい、アンジェちゃんがやってくる。
こう見ると、アンジェちゃんは、本当にフルーラに似ている。まあ、もうアンジェちゃんっていう歳ではないと言われるけどね。
「すみません、お待たせ致しました陛下」
「いやっ、いいよ。さあ、行こうか」
「はい」
僕と、アンジェちゃん達は、石段を下る、今見るとかなり急な階段だった。慎重に一歩一歩降りる。
「ですが、アンディ様も、このような石段降りれないのであれば、
「ハハハハ、アンディは、僕の為に若い頃から無茶して戦ってきたんだよ。だから、体を
「そうですか……。出過ぎた事を言いました、忘れてください」
「うん」
僕達は、マージャストナに降りると、元々、カッツェシュテルンだった場所の前に立つ。カッツェシュヌルバールトという看板がかけられ、工事中だった。
「これは、これは、殿下、お久しぶりです」
えっ、マスター?
僕は、一瞬、そう考え、思い直す。そうだった、マスターはもういない。遠い空の向こうに行ってしまったのだった。
だけど、目の前にいる男性は、マスターに似ていた。マスターの息子さんのハンス君だった。
昔のハンス君は、スラッとしていたが、今は、マスターのようにガッチリした体格になっていた。そして、肌の色は、だいぶ白いものの、その濃いひげが特徴だった。
だから店の名前もカッツェシュヌルバールトとなったのだろうか? 意味としては猫の髭といった所か?
「自分でやってるの?」
お店は、改装中だった。そりゃそうだ。僕がマスター連れてヴァルダにやってきて、40年以上が経っている。建物は良いとして、中はだいぶ古くなっていた。
「ええ、ある程度は。自分でやらないと気が済まないたちなのですよ。こういうところも親父に似たんでしょうかね?」
「そうかもね」
「しかし、親父もあの年齢で、旅って馬鹿ですよね~」
「そうだね」
そう、奥さんを亡くされたが、マスターとガルプハルトは、数年前にマスターの故郷を目指すと言って出かけて行った。もう79歳と74歳、皆がとめたのだが、無駄だった。その後は、消息不明。どこいんだろうね?
「さて、もう少し頑張ろうかな?」
ハンス君は、そう言いつつ、お店の方を振り返る。
「そうか、頑張ってね」
僕は、そう言うと、ハンス君に背を向け、歩き始めた。
「殿下、お店、改装終わったら、必ず来てくださいね」
「うん」
僕は、そう返事すると、マージャストナをちょっとぶらぶら歩き、城へと戻る石段を登り始めた。
うん、今日は疲れたな~、早めに寝よう。僕は、早めに新宮殿に戻り早めに寝る事にしたのだった。
「では、陛下、お休みなさいませ」
「うん、アンジェちゃん、お休み」
アンジェちゃんが、部屋から出て行くと。
「さて、見るべきものは見て、やるべき事はやった。満足だよ」
僕は、誰に言う事なく
「お休みなさい」
「グーテルさん、おはようございます」
「グーテルさん?」
「グーテルさん!」
あまりに起きてこないグーテルを心配して、起こしにいった皇妃エリサリスによって、グーテルが、呼吸していない状態で冷たくなっているのを、発見されたのだった。
こうして、マインハウス神聖国皇帝グルンハルト1世は、62歳で眠るように死んだ。
神聖暦1330年の8月24日の事だった。
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