第180話 グータラ陛下の後始末

 神聖暦しんせいれき1322年、僕の次男シュテファンと、トンダルの長女カレリーナさんとの結婚式が行われた。


 シュテファン24歳、カレリーナさん18歳だった。


 シュテファンは、フランベルク辺境伯へんきょうはくになった。元々は、トンダルがフランベルク辺境伯だったので、その娘さんと結婚し、フランベルク辺境伯の地位をゆずり受けたという理由付けのためだった。



 そこに、久々に家族全員が集まる。


 マインハウス神聖国皇帝に、皇妃こうひ。ボルタリア王国国王、ランド王国王妃、ダルーマ王国王妃に、そして、フランベルク辺境伯。何か、凄い事になっていた。



 シュテファンと、カレリーナさんの結婚。これは、僕とトンダルとのより強い結びつきとなる。けど……。


 え〜と、お母様と叔父様は姉弟。僕は、ハーフヒールドルクスで、シュテファンは、クォーターヒールドルクス。トンダルも、ハーフヒールドルクスで、カレリーナさんは、クォーターヒールドルクス? まあ、近親婚きんしんこんにはあたらないよね~?



 結婚式は、ヴァルダにて行われ、そこに皆が集まったのだった。当然、トンダルもやって来たが、馬から降りると、皆に運ばれ、席に座る。やはり、歩行は出来なくなっていたのだった。



「トンダル、遠くまでありがとう。でも、良かったの? 結婚式、ヴィナールでやっても良かったのに」


「フランベルク辺境伯と、ヴィナール公の娘の結婚式です。そういう意味でも、ちょうど中間地点にある、ヴァルダは都合が良かったのですよ」


「なら、良いけど」


 僕が、そう言いつつトンダルを見る。だいぶ太ったよね。


「あの、トンダル。え〜と、肉づき良くなったよね?」


「ええ、太りましたよ。歩けないのに忙しくて」


 そうか、歩けないもんね。


「大変だね」


「まあ、政治関係や、事務仕事は歩かなくても出来ますしね。だけど、頭使うから、お腹だけは減って」


「で、食べちゃうと」


「そうなんですよ」


 まあ、聞くところによると、本当にトンダルは忙しそうだった。ヴィナール公国の財政再建ざいせいさいけんを急ピッチで行いつつ、領内諸侯りょうないしょこうとの良好な関係も築き上げているとの事だった。



 そして、その領内諸侯の関係性で、ヴィナール公国の発展につながるだろう、決まり事を作っていた。これを、ヒールドルクス家家憲と言った。家憲かけんとは、ヒールドルクス家が守るべきおきてのようなものだった。


 トンダルは、領内諸侯や家臣を集めて、ヒールドルクス家への忠誠を改めてちかってもらった上で、ヒールドルクス家家憲を発表した。


 子供達に、領民の安寧あんねいと国内平和を守る事をきつつ、家臣や、領内諸侯には、実力をもって領主の非道ひどうを止める事を説いたのだった。


 他の家憲の見本となると同時に、ヴィナール公国出身の領内諸侯や家臣と、元々は、外からやって来たヒールドルクス家との間に、強い連帯感れんたいかんを生み出し、ヒールドルクス家が、ヴィナール家と呼ばれるようになっていくきっかけとなったのだった。こうして、トンダルは、賢公けんこうと呼ばれるようになっていくのだった。



「そう言えば、グーテルやりましたね?」


「何を?」


「オルセンです」


「ん?」


 そう言えば、オルセン君、最近亡くなっていたね~。


「まあ、処分に困っていた、私もいけないのですがね」


「ん?」


 なんの事でしょうかね~?



 こうして、無事に、シュテファンと、カレリーナさんの結婚式が終わると、僕は、さらなる、やり残した事の処置に入る。





 僕は、同年、選帝侯会議せんていこうかいぎ招集しょうしゅうする。別に僕が退位しようとか、何か問題が起きたとかではない。



 ダリア地方で会った、バドバ出身の神学者しんがくしゃにして、法学者のマロシウスさんに作成してもらった帝国法を、選帝侯会議にて承認してもらい、さらに帝国議会にて決をとった上で、公布しようとしていた。


 別に、マインハウス神聖国皇帝からの金印勅書きんいんちょくしょではなく、あくまでも、議会にかけて承認される形をとったのだった。


 金印勅書とは、皇帝の命令が記され黄金の印章が押された公文書だった。まあ、皇帝の勅命という感じだ。マインハウス神聖国における、最高法規でもあった。



 それで選帝侯会議を招集したのだが、今や、僕は、選帝侯会議に出席する権利も、議決権ぎけつけんもない、招集したら見守るしかないのだ。



「では、父上、行って参ります。必ずや、良い結果になりますよう働きかけますので、楽しみにお待ちください」


「うん、期待しているよ」


「はっ」


 というわけで、我が長男ボルタリア王ジークハルトが出かけて行った。場所は、今や帝都はヴァルダだが、帝国議会場のあるフローデンヒルト・アム・マイン。



 そして、選帝侯会議のメンバーも変わった。変わってないのは、ザイオン公アーレンヒルト2世君と、トリスタン大司教ヴェルウイン君くらいだっただろう。


 まずは、ボルタリア王は、僕からジークに。さらにフランベルク辺境伯は、トンダルから、シュテファンに。これで、確実に2票……。ヴェルウイン君も、いるから3票か? じゃなくて……。


 え〜と、ミハイル大司教ペーターさんは、1320年に引退されて、今は、マティウスさんという方が大司教をされている。かなりの武闘派ぶとうはのようで、フュッセン方伯ほうはくとの戦で、新たな街を建設して、激しい戦いをしているそうだ。ジークと気が合うかもしれないね。


 他には、キーロン大司教ジークフリートさんが亡くなられて、エングルトさんという方が、キーロン大司教になった。で、この方は、良く知らない。



 さらに、フォルト宮中伯家きゅうちゅうはくけだが、パウロさんと、ミューゼン公ロートレヒ君のお兄さん、ランドルフ1世さんも、もういない。



 僕と、カール従兄にいさんとの戦いの後、フォルト宮中伯ランドルフ1世さんが、カール従兄さん方についたのを怒ったミューゼン公ロートレヒ君が、フォルト宮中伯領に侵攻しんこう、エグレス王国へとランドルフ1世さんを追放して、1319年にランドルフ1世さんは、亡くなられたのだそうだ。


 で、今のフォルト宮中伯は、ランドルフ1世さんの息子の、アーノルド君、22歳だそうだ。しかし、後見人としてロートレヒ君が君臨くんりんして、アーノルド君は言いなりだそうだ。これで、4票……。じゃなくて。


 まあ、こんな感じで、選帝侯会議の様相ようそうもだいぶ変わったのだった。



 そして、僕の提案は、あっさりと承認されたようで、僕のところに知らせが来た。そして、帝国議会出席の為に、僕は、ヴァルダを出発する。



 皇帝近衛団を率いて、フローデンヒルト・アム・マインへと向かった。フローデンヒルトでは、議長である、ミハイル大司教マティウスさんの出迎えを受け、さっそく、帝国議会での採択を目指した。


 そして、


「マインハウス神聖国皇帝グルンハルト1世陛下より、提案のありました帝国法は、帝国議会によって承認されました」



 こうして、帝国法が公布された。皇帝としての命令ではなく、マインハウス神聖国の領邦諸侯が決めて採択さいたくした帝国法だった。



 帝国法自体は今まで明文化めいぶんかされていなかった、掟のようなものをマロシウスさんに、まとめてもらっただけだった。


 例えば、マインハウス神聖国の領邦諸侯同士で争わないようにしましょうとか、マインハウス神聖国の君主は、選帝侯会議にて選び、帝国議会で承認する。とか、その程度だった。



 で、僕が、加えたのは、一つは、帝室裁判所ていしつさいばんしょ創設そうせつだった。これは、出来うる限り、領邦諸侯同士の争いを話し合いで解決したり、それこそ、ジークのような離婚問題を、話し合いで解決しようという組織として作ったのだった。



 さらに、帝国書記官という官僚かんりょうはいた。しかし、その権利を強化し、組織として増強し帝国統治院ていこくとうちいん開設かいせつ。これは、皇帝が、不在時でも、マインハウス神聖国としての政治活動が止まらない為だった。


 まあ、今までは、領邦諸侯の集合体であり、そこまでマインハウス神聖国としての活動は、少なかったが、ランド王国が絶対王政化ぜったいおうせいかし、今は、友好関係にあるが、いつどうなるか分からない。少しは、マインハウス神聖国として動けるようにしていた方が良いだろうということだった。



 で、最後だが、マインハウス神聖国皇帝に関してだった。今までは、神聖教教主によって、マインハウス神聖国皇帝となれるかどうかが決まっていたが、これを、皇帝の推挙すいきょは選帝侯会議において、さらに、承認は帝国議会によって、そして、戴冠は、神聖教教主によって行われるとしたのだった。


 というわけで、今後は、マインハウス神聖国の君主は、全員が、皇帝となれるように帝国法に記載きさいしたのだった。


「うん、これで、よし」



 こうして、やるべき事を終わらせた僕は、のんびりとした日々を送る。





 月日は流れ、1328年の事だった。セーラの旦那だんなさん、フェラード君が36歳の若さで亡くなる。病死だった。どうも、フェラードさんの家系は短命たんめいなのだろうか?


 フェラード4世さんこそ、50代まで生きられたが、フェラード4世さんのお父さんは、40歳で。そして、フェラード4世さんの息子さんは、長男のロイ君が、27歳の若さで、三男のシャロロ君も28歳で、さらに、今度はフェラード君が、36歳の若さで亡くなられた。


 僕より先に若い人が亡くなるのは、正直辛しょうじきつらい。それに、セーラも大変だろう。



 僕と、エリスちゃんは、あまり護衛を連れずに、ランド王国ルテティアへと入った。フェラード君の葬儀そうぎと、セーラの様子も見たいし、それに、ランド王国の後継者問題もあった。口を出すつもりはなかったけどね。



 フェラード君と、セーラの間には、子供が3人いた。だけど、全て女の子だった。そこで、問題となったのが、ロイ君から、フェラード君に王位が継承けいしょうされる時に持ち出した、女性の王位継承を認めないという、サリカ法典ほうてんだった。


 まあ、一度サリカ法典を盾に、女性の王位継承を否定したのに、今度はオッケーというわけにはいかず。シャロロ君も、女の子が1人しかいないというわけで、男子直系は断絶だんぜつという事になったのだった。ここに、いわゆるケープ朝は途絶えるという形になったのだった。



「セーラ、大丈夫なの?」


 ルテティアに到着して、王宮に入ると、さっそく、元王妃となったセーラに会う。そして、エリスちゃんが、心配して声をかけたのだが。


「お父様〜、お母様〜、わざわざ遠くまでお越しください〜、ありがとうございました~」


「いやっ、僕達の事は良いんだよ」


「私ですか~? 私は、大丈夫ですよ~。少しさみしいですが〜」


 えっと、少しなのか?


「そ、そうか?」


「はい〜、旦那様は、少し前から病床びょうしょうにいて、覚悟は出来てましたし~、子供達のこれからもありますから、悲しんでなどいられませんよ~」


 うん、セーラは強いな~、尊敬するよ。葬儀の準備などをテキパキこなす、我が娘を見て、あらためて、見直したのだった。



 そして、カールもその相談相手になって、共に働いていた。


 カールは、12歳になっていた。相変わらず可愛らしい顔立ちだが、体は歳相応としそうおうになっていた。



「カール、ランド王国はどうだ?」


御祖父上様おじじうえさま御祖母上様おばばうえさま、ご無沙汰ぶさたいたしております。ランド王国は、とても良い国です。フェラード陛下や、叔母上おばうえは、優しく、とても良くして頂き、心ゆくまで勉学べんがくに励むことが出来ました」


「そうか」


 カールにとっては、とても良い留学だったようだ。


「それで、これからどうするのだ?」


「はい、叔母上もルテティアを離れ、ブルニュイに行かれるようなので、僕も、ルテティアを離れ、ダリアに行こうと考えております」


「えっ、セーラは、ブリュニュイに行くのか?」


「はい、聞いておられませんか?」



 エリスちゃんが、後で、セーラとその事で話したそうだ。セーラいわく、他人が王となる、ルテティアにはいたくは無いが、娘達はランド王国にれしたんでいる。というわけで、僕がブリュニュイ公国に獲得し、セーラに与えた領地で暮らすのだそうだ。



 エリスちゃんは、ヴァルダに帰って来ることも説得したが、セーラは。


「娘達がやっぱり一番ですよ~」


 だそうだ。


 こうして、セーラは、フェラード君の葬儀が終わると、ブリュニュイ公国へと移り住んでいったのだった。そして、後になって、セーラの娘達は、ブリュニュイ公や、フランダース伯等と結婚して、子孫をつないでいくことになるのだった。



 で、ランド王国の後継者だが、フェラード4世さんの弟、ブランズ伯チャルロさんの子供である、フェラード6世が35歳にて、即位して、これよりブランズちょうが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る