第175話 天征記①

 僕達は、サパ・リューカ共和国を出て、ジローラ公国を経由し、ロマリアへと入る。


 毒殺されかかり、そこからの回復や、ビオランティナの大火事件の復興を手伝っていた事で、かなり遅くなり、1318年になっていた。


 ボルタリア王国のヴァルダを出発してから、2年という月日が経過してしまったのだった。



 そのロマリアは、教主庁のランド王国への移動によって、さらに衰退すいたいしかけていたが、ヴィロナ公国、ゼニア共和国、サパ共和国、そして、ジローラ公国の助力じょりょくや、先代教主のクレメントさんの働きもあり、緩徐かんじょだが復興ふっこうをみせていた。



 そして、クレメントさんが送り込んだ枢機卿すうききょうの皆さんによって、ちゃんとロマリア教主庁きょうしゅちょうは、再建されていたのだった。



 僕は、出迎えを受ける。僕に戴冠たいかんしてくれたセロラ・ダロウナさんだった。


「グルンハルト陛下、ご無沙汰致ぶさたいたしております」


「ご無沙汰しました、戴冠式のおりは、ありがとうございました」


「いえいえ」



 僕は、ダロウナさんに案内されて、ロマリア教主庁の中にある宝物庫ほうもつこへと向かう。そして、クレメントさんからたくされた、聖遺物せいいぶつロザリオを安置あんちして、手を合わせる。



 戦いになるかもと、ビオランティナ共和国に向かった時は危なかったので、サパ共和国にとどまっていたが、ロマリアへは、エリスちゃんや、マリーも同道していて、共にいのりをささげたのだった。



「クレメントさんの意志、ロマリアに持ってきましたよ。やすらかにお眠りください」


 なんて祈って、外に出るとダロウナさんが、


「すでに、準備は出来ております。陛下のご指示があれば、すぐにでも行いましょう」


 えっ、なんの話?


「なんの話?」


「はい、ロマリアに教主をたてる準備でございます。クレメント聖下から、陛下に意志はたくしたと、うかがっております」


「え、え〜と」


「すでに、広く声を掛けさせて頂き、チェリア王ホフォリゴ2世、ダールマ王ハールイ1世、そして、エスパルダのラアコン王ロメイ2世まで、来訪予定です。さすが、陛下のお力です」


 もう、すでに外堀そとぼりは埋められているようだ。クレメントさんのがねかな?


「そう」


「陛下こそ、神に成り代わり新しい神聖教教主様を、ここロマリアに誕生させる。神の代理人。言うなれば、天を征するお方なのだと、クレメント聖下せいかも申されておりました」


 また、出てきたよ。天を征するお方……。神様怒っちゃうよ。だけど……。


 え、え〜と、逃げ場なしか?


「で、どうするの?」


「はい。まずは、陛下にコンクラーヴェの開催を宣言して頂きます」


「うん。でも、コンクラーヴェって、結構大変なんじゃ?」


「はい、そうなのです。ならば、陛下が、この人物が、次の神聖教教主だと言って頂ければ……」


「えっ、さすがにそれは、フェラードさんと同じになっちゃうよ」


「そうですか。ならば、気長きながに待って頂くしかありませんな~」


「ダロウナさんが、立候補すれば?」


 そう、昔にパラーリ事件とかやらかしてはいるが、今の教主庁を作りあげたのは、ダロウナさんだ。


 ダロウナさんが立候補すれば、皆も反対しないんじゃ。


「いえいえ、そのような事、おそおおい。私は、大罪たいざいを犯した身です。それに教主庁にて仕事がございます。コンクラーヴェに参加するつもりは、ございません」


「そう」


 大罪を犯した身って、やっぱり自覚じかくしてたんだね〜。それを反省し神聖教にくす。立派な心掛こころがけだけど。


「分かったよ、とりあえず、コンクラーヴェの開催は宣言しようか」


「そう言って頂けると思っておりました。では、早速さっそく


「えっ、ダロウナさん、どこ行くの?」


「すでに枢機卿の皆は、教主庁の前に集まっております。陛下の宣言を待っておりますよ。さあ、行きましょう。さあ」


「えっ、えっ、えっ、ちょっと待ってよ~」



 僕の目の前には、期待の眼差まなざしでこちらを見る。30人あまりの枢機卿の方々。


 クレメントさん、随分ずいぶん、枢機卿増やしたね~。ランド王国のラヴィオルにも、ヨハン22世のもと、枢機卿団がいるだろう。クレメントさんは、ひそかに枢機卿を増やし、ロマリアに送り込んでいたのだろう。



 そして、僕は宣言する。


「マインハウス神聖国皇帝グルンハルト1世の名において命ず」


 あっ、間違えた。宣言すると命ず……。まあ、良いか?


「コンクラーヴェを開催し、次の神聖教教主を選定せよ」


「ははっ」


 枢機卿団は膝まずき、頭を下げて、命令に服する。あれっ、言い方間違えたかな?



 こうして、僕は歴史書にこう書かれる事になった。



 神民しんみんの身でありながら、神に成り代わり神聖教教主の選定を命じるという天にあだなす行為。しかし、この地上において、かの人物に逆らえる者は無し。天すらも征する威光いこうは、地上を照らす光なのだ。彼こそ天が地上につかわせた神の子羊そのものかもしれない。


 また、大袈裟おおげさだね~。ちなみに、この歴史書は、後の神聖教にとって都合が悪かったようで、ロマリア教主庁の奥深くに封印される事になったようだった。


 まあ、僕にとっても都合が悪いから良かったよね。





「は〜あ〜」


「お父様、お行儀ぎょうぎが悪いですわよ」


 僕が、ロマリア教主庁の一室で、机に寝そべりだれていると、マリーに注意されたのだった。


「良いのよ、マリー。お父様は、まだ、体調が回復しきっていないのですから」


「お母様、お父様を甘やかし過ぎですわ」


「マリー、あなたも早く甘やかせる存在に出会えると良いわね~」


「むっ、お母様。やりますわね~」


 もう、エリスちゃん、娘に対して大人げない。あっ、そうだった。



「そう言えば、マリー。ダルーマ王国の国王ハールイ1世、こちらに向かってるそうだよ」


「やはりそうですか。では、私も準備しませんと」


「えっ、準備って?」


「ハールイ1世陛下に見初みそめされる準備ですわ。ハールイ1世の好みの容姿ようしに、服装、そして仕草しぐさ


 そう言って、マリーは、部屋から出て行った。


「ねえ、エリスちゃん。女性って、みんな、ああなの?」


 すると、エリスちゃんは、びっくりした表情で、マリーを見ていたが、こちらを向くと、ふるふると首を振って。


「マリーって、凄いですね~」


 だそうだ。





 そして、コンクラーヴェが始まり、ただの退屈な待機が始まると、まず最初にダルーマ王ハールイ1世がやってきたのだった。



 僕の隣にはエリスちゃん。そして、清楚せいそな感じでなよっとしたたたずまい、そして、可愛かわいらしい服装をしたマリーがいた。



「グルンハルト1世陛下、此度このたびは、ロマリア教主誕生にさいして、お声掛け頂きありがとうございます」


「うむ。ダルーマ王ハールイ1世陛下のわざわざの御運おはこび痛み入る」


 なんかちょっと偉そうに言う僕。ダロウナさんのアドバイスだった。


えらそうに、堂々どうどうと、この集まりを招集したのはだという威圧感いあつかんを出してください」


「え〜。無理だよ」


「無理ではありません。陛下の威光に逆らう人物は、このヨーロッパにはいないのです。その陛下の招集に応える。ですから、偉大いだいな皇帝ではないといけないのです」


「は〜い」



 こうした訓練を受け、ハールイ1世を迎えるが、ハールイ1世の視線は、ちらちらと僕の横を見ていて落ち着かない。


「その〜、陛下。陛下の横におられる美しい女性は、どなたでしょうか?」


 ん? 横? 美しい女性? 僕はエリスちゃんを見る。エリスちゃんは、何故なぜかふるふると首を振っている。


「ああ、皇妃こうひであるエリサリスだが……」


 そこまで僕が言いかけたのだが、ハールイ1世は、それを制して。


「いいえ、そうでは無く。いえっ、決して陛下の奥方様おくがたさまが美しくないとかそんな事ではないのですが、そこの見目麗みめうるわしい、若い女性は、どなたなのかと……?」


 一瞬、エリスちゃんから殺気さっきが発せられるが、それはスルーして、見目麗しい若い女性を見る。


 マリーは、頭大丈夫か? という感じでしなをつくり、赤面せきめんしモゾモゾと……、モジモジとデレていた。そして、


「見目麗しい等と……。恥ずかしいですわ」


「おお、おおお」


 二人とも大丈夫? 医者呼ぼうか?



 だが、マリーから盛んにアイコンタクト。えっと、ハ・ヤ・ク。はいはい。


「うん、これか? これは、僕……、余の娘である皇女こうじょマリーである。長女のセーラは、ランド王国の王妃おうひとなっているので、次女ではあるが」


「おお、皇女様であらせられましたか。いやっ、お美しい〜」


「まあ、ハールイ陛下は、御口おくちがお上手でありますこと」


「いえっ、そのような事は」


「まあ」


 ああ、はいはい。


 そして、ハールイ1世が本題に入る。


「グルンハルト陛下、誠にあつかましい申し出だとは思いますが、私は、先妻せんさいを亡くし、さみしく思っていたのです。私のそばに良き妻がいて、私の偉業いぎょうを支えてくれればとも思っておりました。そこでなのですが……」


 そこで、ハールイ1世は、こちらに寄ってきて。


「皇女マリー様を我が妻として、ダルーマ王国に嫁いで頂けませんでしょうか? 決して悪いようには致しません」


 すると、ナヨナヨしていたマリーが、なよっと、ハールイ1世の隣にひざまずき。


「私からも、お父様にお願いがあります。ハールイ1世陛下のもとに、とつぎたいと思います。お許し頂けないでしょうか?」


「おお、マリー殿。なんと嬉しいお言葉」


「ハールイ陛下……」


「マリー殿……」


 はいはい。見事に、ハールイ1世さんは、マリーの策略に、はまったようだった。ご愁傷様しゅうしょうさまです。


「良いのか、マリー。ならば、余からは何もない。ハールイ1世。我が娘を大事にしてくれよ」


「ははっ」


 もう臣下しんかの礼のごとく、頭を下げるハールイさん。これで、ダルーマ王国の王妃も我が家、ハウルホーフェ家の皇女が入る事になった。


 これで、ランド王国に続き、ダルーマ王国にも我が家の血が入る事になった。ガハハハ!


 って、感じで良いのかな?





 まあ、これで、ダルーマ王国国王ハールイ1世さんと、マリーの結婚が決まり、二人の希望で、ロマリアにて、婚約こんやくの儀が、そして、40日の経過を持って、結婚の儀がり行われる事になった。


 儀式を取り仕切るのは、もちろんこの方、コンクラーヴェに参加していない、枢機卿セロラ・ダロウナさんだった。



 こうして、ハールイさんと、マリーの結婚式は、マインハウス皇帝グルンハルト1世、そして、皇妃エリサリス。さらに、チェリア王ホフォリゴ2世、エスパルダのラアコン王ロメイ2世、ヴィロナ公アペリーロ・ヴェルディ、ゼニア共和国元首アリオーニ・スコピーニ、サパ・リューカ連合共和国元首ウルチョーネ・デッラ・チョロチョーネ、副元首オストルッチャ・オロスコーニ、ビオランティナ共和国元首ジョアン・ドナテシ、さらにジローラ公国のノヴェスキの方々まで出席して盛大せいだいに行われたのだった。

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