第159話 ミューゼン公国の争いと新世代の息吹⑥
そして、
「まだかな~、産まれたかな〜」
ウロウロと、歩き回る僕。
「落ち着いてくださいっす、グーテル様」
ガタン! バタン! ガタン! バタン!
そう言いながら、外に出たり中に入ったり、激しく動き回る、アンディ。
「少しは、落ち着け、アンディ!」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
と言いながら、激しく貧乏ゆすりをするガルプハルト。
「いやっ、ガルプハルトさんが落ち着いてください。家が壊れますよ」
と言いながら、唯一落ち着いている、マスター。
「マスター、ビール!」
「はいよ! って、何、人の家で集まってんですか!
「まあまあ、あなた、落ち着いて。はい、ビール持って来ましたよ」
と、マスターの奥さん、アイリーンさんが、ビールを持ってやってくる。
「だから、何でビールを振る舞うんですか!」
「まあまあ、お金は払うからさ〜」
「お金の問題じゃないんですよ!」
ここは、ヴァルダ城内にある、マスターの家だった。マスターは、ランド王国から帰国後、今回の旅で覚えた料理を
ヴァルダ城内の家で、のんびりとした生活を送っていた……。はずだったが、
そして、今日も、さあ寝ようかと
「まだかな~、産まれたかな〜」
「だから、まだっすよ。産まれたら、すぐに知らせが来るっすから」
ガタン! バタン! ガタン! バタン!
「そうだね~。まだかな~」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ。
「ああ、もう!」
自分の家で、落ち着けず眠れぬ夜を過ごすマスター。
「く~、く~、く~」
平気で、寝るアイリーンさん。
「まだかな~、産まれたかな〜」
ガタン! バタン! ガタン! バタン!
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ。
「ああ、もう!」
そして、翌日の早朝。ジークと、ルシェリアさんの第一子が産まれる。女の子だった。
「おじいちゃんですよ~、かわいいでちゅね~」
「フフフ、お
ルシェリアさんに笑われた。まあ、良いか~。それよりもだ。
「名前は、決めたのか、ジーク?」
「はい。エリザベートです」
「エリザベート? 良いのか?」
エリザベートは、
「はい。この子は、
うん、それはちょっと困る。
「良いの、ルシェリアさん?」
「はい、とても良い名です」
「そうか、エリザベートちゃん、かわいいでちゅね~」
「フフフ」
こうして、幸せに包まれて、1312年は始まった。ジークは18歳、ルシェリアさん20歳だった。
ヴァルダや、ボルタリア王国の国内に、ボルタリア国王ジークハルトと、
「う〜ん、もう飲めない〜」
「グーテルさん、飲み過ぎですよ、良い加減にしてください!」
エリスちゃんに、怒られる。
「いやっ、何で、人数増えているんですか? エリスちゃんまで」
マスターが、自分の家に集まった人物を見て、
「まあまあ、良いじゃない、マジュンゴ」
「ああ、もう! 集まるなら宮殿で良いんじゃないですか! 後は、カツェシュテルンもあるんですから!」
「え〜、だって、宮殿は
「ここでも、騒がないでください!」
「やっぱり、料理はマスターの料理が良いし」
「えっと、それはちょっと嬉しいですが……」
「じゃあ、良いじゃない?」
「駄目です」
「え〜!」
「え〜、じゃありませんよ~」
「は〜い。じゃあ、次はしませ〜ん」
「ああ、もう!」
こうして、幸せに包まれた一日は過ぎていった。
そして、
「えっ、ミューゼン公が、亡くなった?」
「はい、
「そう、今年の冬は、寒かったからね~」
「はい」
「確か10歳だよね。若いのに」
「はい、それで……」
「ん?」
「ミューゼン公の母君が、暗殺だと
「えっ! え〜と、先代ミューゼン公ローエンテールさんの奥さんの……。ワーテルランドのクワトワ公エンラート3世さんの娘さんの……。誰だっけ?」
「そう言えば、私も名前存じ上げませんが……」
「そう、まあ良いか~。で、どうしたの?」
「はい、で、そのお方が、暗殺だと騒ぎ立てまして」
「ふ〜ん、犯人は? ステファンさんは、2年前に亡くなられたし」
亡くなられたというか、戦死されたのだった。
「それが、ミューゼン公国宰相のロートレヒ
「えっ! ロートレヒさんが? 何か、ロートレヒさんに、そういう動きがあったの?」
「いいえ、
「それじゃ、何で?」
「さあ、母親として、認めたくないんでしょうか?」
「まあ、そうかもね〜」
実際、息子さんを暗殺された方を
レイチェルさん、元気かな〜? 今は、ロウジックでデーツマン2世さんと暮らしている。
まあ、その話は、良いや。
「う〜ん、騒ぎ立てているだけだったら、良いけど。何か、動きがあったら教えて」
「はい、かしこまりました」
それから、しばらく経って、やはりオーソンさんから報告が入る。
「あの後、ヴィナール公が本当に暗殺があったのか調査されたのですが、途中、
「えっ、邪魔が入る? え〜と、ローエンテールさんの奥さん?」
「いえっ、襲撃者は不明ですが、調査の責任者として入っていた、ヒューネンベルク
「そう、ヒューネンベルクさんの」
「それでヴィナール公は調査を中止させて、ヒューネンベルク侯爵を引き上げさせたのです」
「で、その時に、え〜と……」
「ローエンテールの奥さん?」
「はい、その方がヒューネンベルク侯爵と共に、ヴィナール公国に入られまして……」
「カール
「はい。暗殺者も、
「ふ〜ん。それで?」
「ヴィナール公は、ロートレヒ卿を討つ約束をされたそうです」
「なるほど。それが
「えっ、はい、その通りです」
「だとすると、ロートレヒさんから、救援の
僕は、ちょっと考えて。
「ロートレヒさんに、援軍の要請をするなら
「はっ、かしこまりました。ですが、自らですか?」
「うん。援軍を送るなら、その人物が信用出来るか、その人となりを見ておきたいんだよ」
人となり。人としての、
「かしこまりました。さっそく、お伝えします」
「うん、よろしく」
さて、こっちも準備だ。
「
僕は、書状を書くと、各地に送った。
後は、
「戦いに、なりそうだよ」
「おお、それは腕がなります」
ジークが、僕の
「どこで、戦うのでしょう?」
ヤン君が、僕を見て聞いてきた。多分、戦いになりそう、とかいう情報が無いから
「ミューゼン公国だよ。ローエンテールの奥さんが、息子は暗殺されたんだって、騒いでるんだって」
「あらやだ! おほん、失礼しました」
ヤルスロフさんが、ご近所の奥さんの集まりみたいなセリフを吐き、すぐに
「確かに、そのような話をヤルスロフ殿から聞きましたが。ヴィナール公国が調査に入ったと……」
パウロさんが、ヤルスロフさんのセリフが無かったかのように冷静に話しつつ、ヤルスロフさんを見る。
「
僕は、ヤルスロフさんの言葉に
「その調査の責任者は、ヒューネンベルクさんなんだけど、その従者が襲撃されて殺されたんだって」
「えっ、そのような事が……」
「さらにね」
「えっ、まだあるのですか?」
ヤン君が、驚きの声をあげる。
「うん。カール従兄さんは、ヒューネンベルクさんに調査中止して帰ってくるように言って、ヒューネンベルクさんは帰国したんだって」
「はい」
3人の声がハモる。ん? 3人? 見るとジークは、すでに戦いの方に意識が行っているようで、話を聞いていないようだった。まあ、良いや。
「ヒューネンベルクさんと一緒に、ローエンテールさんの奥さんがヴィナール公国に入って、カール従兄さんに犯人はロートレヒさんだって訴えたんだって」
「はい」
「そして、カール従兄さんは、ロートレヒさんを討つことを
「最後は、都合良さ過ぎに、聞こえますが……」
と、パウロさん。まあ、そうだよね。
「うん、僕もそう思う」
「では……」
「可能性は、あるよね」
「だったら……」
「だから、今回はボルタリア王国の兵を出来るだけ集めて対抗しようかと」
「おお、では全軍を集めて、ヴィナール公国に攻め込みましょう」
再び、ジークが
「かしこまりました。では、ヤン卿や、カレン卿にも声をかけましょう。さらに、領内諸侯にも
「うん、よろしく」
こうして、僕は、出兵の準備を始めたのだが、そんな中、ミューゼン公国の宰相ロートレヒさんがやってきた。
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