第156話 ミューゼン公国の争いと新世代の息吹③

 僕は、ふらっと中庭なかにわに出る。


 ギンッ! ガキン! ヒュッ! キン!


 中庭では、ジークと男女の若い騎士が、訓練にいそしんでいた。


「踏み込みが、甘いぞ!」


 ジークは、1対2で斬り結びつつ、アドバイスまでしていた。そう、強いんだよジークは。



 話し合いの時とは、打って変わって生き生きとしたジークを、驚いた顔で見つめるルシェリアさん。そして、徐々じょじょにうっとりとした視線に変わっていく。これは、邪魔しない方が良いだろうね。



 僕が、中庭を離れ、廊下に戻ると、フルーラと、アンディが話しかけてきた。


「ジーク様は、さすがです。それに比べ、アンジェの何と不甲斐ふがいない事です。お恥ずかしい」


「それ言ったら、グリフォスなんてもっとっすよ」


「いやっ、グリフォス君は、まだ子供ではないか」


「アンジェちゃんは、女性っすよ」


「それは、関係ないだろ」


「すみませんっす」



 そう、ジークと斬り結んでいた2人は、フルーラとアンディの関係者だった。



 アンジェちゃんこと、アンゼリカさんは、フルーラのお兄さんの子で、女性騎士にあこがれヴァルダに出てきて、フルーラの養女となり、フルーラの従士じゅうしとして勉強中だった。


 年齢は18歳。外見は、フルーラにそっくりで、ちょっと小さな髪の短いフルーラという感じだった。性格は大人しく真面目。そして、ちょっとクール。


 戦闘スタイルは、そのスピードと瞬発力で相手を翻弄ほんろうする。そのスピードに、あの身体でついて行く、ジークもかなりのものだ。



 そして、グリフォス君は、アンディの息子さんだ。年齢は、15歳。そう、まだまだ子供? だけど、アンディは、従士として手もとに置き騎士として、育てるつもりのようだった。


 身体は、アンディよりガッチリとして、筋肉が浮き出ている。髪は茶色だが、肌の色は、アンディより白い。お母さんの血だろう。顔は、イケメンだが、アンディよりは、優しげな顔だった。性格も母親思いの優しい子。真面目で良い子だった。


 戦闘スタイルは、パワーで相手を圧倒。だけど、父親譲りの剣技もある。というタイプだ。



「剣の事は分からないけど、3人とも将来楽しみだね」


「はい。ビッシビシ鍛え上げ、グーテル様のおっしゃられるとおりにさせます」


「そうっすね」


 親の目は、厳しいね〜。





 そして、婚約の儀も無事に終わり、40日が経過。無事に結婚の儀へと進んだ。



 結婚の儀は、ヴァルダ城にある、聖スヴァンテヴィト大聖堂にてヴァルダ大司教であるパウロさんの手で行われた。



 結婚の儀が終わると、すぐに即位式の準備が行われる。パウロさんの立ち会いのもと、僕が、ボルタリア王を退位して、ジークが、ボルタリア王に即位するという形で行われる。



 即位式の場所は、結婚式と同じく、ヴァルダ城内にある大聖堂だった。一際大きな大聖堂、聖スヴァンテヴィト大聖堂だった。その大きくそびえる尖塔は、100m程、全長は130m程、幅が70m程。かなり巨大な聖堂だった。



 その大聖堂に、列席者が続々と入っていく。フランベルク辺境伯トンダルキントには招待状を送り来てもらった。それ以外にも、ミハイル大司教ペーターさんに、トリスタン大司教ヴェルウィンさん。ヴェルウィンさんは、即位式後に、クッテンベルクの骸骨がいこつ教会を案内する事になった。



 その後は、ボルタリアの王冠と呼ばれる、マインハウス神聖国の領邦諸侯でありながら、ボルタリア王国にも忠誠を誓う諸侯、チルドア侯ヤンさんと、ウリンスク諸侯の方々が続く。マリビア辺境伯カレンさんは、皇太子妃こうたいしひの親という事で、別席だ。


 そして、宰相であるパウロさんは、儀式を仕切る側なので、ボルーツ伯ヤルスロフ2世さん、ロウジック伯ヤン君以下のボルタリア王国領内諸侯が続く。



 そして、列席者が大聖堂の中に入ると、即位式の儀式が始まった。儀式を進行するのは、さっきも言ったが、ボルタリア大司教区首座のヴァルダ大司教にして、宰相のパウロさんだった。



「では、これよりボルタリア王国王位継承の儀を行います。まずは、このき日を迎えられたこと、神に祈りましょう。アーメン」



 というわけで、儀式が始まった。今のところ中央の玉座ぎょくざには僕が座り、その左隣に、王妃おうひとしてエリスちゃん。僕の右隣に皇太子こうたいしとしてジーク。そして、エリスちゃんの隣に、皇太子妃として、ルシェリアさんが座っていた。



 パウロさんが、祈りをささげつつ、聖油せいゆを皇太子であるジークの頭に塗り、清め、そして、神に祈る。


 そして、


「では、ボルタリア王グルンハルト1世陛下より、皇太子ジークハルト様に王位継承をします」


 パウロさんが、そう言うと、ジークは立ち上がり、僕の前にひざますき、頭を差し出す。僕は、自分の頭からボルタリアの王冠を外すと、立ち上がり、ジークの頭の上に、王冠をかぶせた。


 それと同時に、エリスちゃんも、自分の頭の上から、王妃のティアラを外し、自分の前にひざまずいた、ルシェリアさんの頭にティアラをつける。



「ここに、ボルタリア王国の新王ジークハルト陛下が誕生しました!」


 パウロさんの宣言を受け、


「おめでとうございます」


 と祝意しゅくいしめす、列席者の方々。



 そして、僕も、立ち上がると玉座をジークに譲り、一歩前に出る。すると、左右から、皇帝冠こうていかん皇妃こうひのティアラを持った、修道女さん達が出てきて、僕とエリスちゃんの頭にのせる。



「皆、ありがとう。我が息子ジークハルトの即位が無事に終わり安心している。これよりは、マインハウス神聖国皇帝としての、政務せいむ専念せんねんさせてもらおうと思う」


「ははっ!」


「我が息子、ジークハルトに対しても変わらぬ忠誠をお願いする」


 と言いながら、頭を下げる。そして、そのまま、パウロさんの方を向き。


「ヴァルダ大司教にして、ボルタリア王国宰相パウロ」


「はっ!」


 パウロさんが、平伏へいふくする。


摂政せっしょうとして、ジークハルトを支えてくれ、そして、ボルタリア王国の大地と民を守ってくれ、よろしく頼む」


「はい、かしこまりました」



 さらに、話を続ける。


「ボルーツ伯ヤルスロフ2世、ロウジック伯ヤン。そして、執政官しっせいかん諸君しょくん


「はっ!」


「外務大臣、内務大臣、執政官として、ジークハルトの治世を支えてくれ」


「はい、かしこまりました」


 そして、僕は、玉座に座る二人を振り返る。


「ジークハルト、ボルタリア王として、皆の声に耳を傾け、ボルタリアを良い国に導いてくれ」


「はい、父上」


「ルシェリアは、良くジークハルトを支え、ジークハルトがボルタリア王として良き道を歩めるよう、手助けをしてくれ」


「はい、かしこまりました。お義父とう様」


 さて、これで僕の役目は終わり。エリスちゃんと共に、玉座の背後にまわり、そこに用意されていた椅子に座る。



 すると、今度は、ジークとルシェリアさんが立ち上がり。


「皆の者、ボルタリアの新王となったジークハルトである。も父のように、ボルタリアの為に、くしたいと思う、皆の助力を期待する」


「はっ!」


「うん。よろしく頼む。皆の忠義に期待するぞ」


 すると、列席していた、領内諸侯の人々が、膝をつき頭を下げて、


「はい。忠誠を誓います」



 


 これで、即位式は終わった。ジークとルシェリアさんは。その後、王宮広場に向かい、馬車に乗りヴァルダの街を、パレードする。


 パレード後は、新居しんきょとなった、クッテンベルク宮殿に戻る予定だった。



 そう、本宮殿は、完全に僕の執務室や、大臣室、執政官の部屋などなど、完全に政治の場となり、僕達は新宮殿に住んでいたのだが、ボルタリア王となった、ジークに新宮殿を譲ろうとしたら、皆の反対にあったのだった。


 皇帝がクッテンベルク宮殿に住むわけにはいかないそうだ。そこで、ジークには、クッテンベルク宮殿に入ってもらったのだった。





 そして、即位式が終わり、ようやくのんびりなんて考えていた僕のところに、急報きゅうほうが入る。


 ミューゼン公国にて、ステファンさんによる反乱が起こったのだ。ボルタリア王国軍の撤退てったいにより、追い詰められた上の蜂起ほうきだった。



 まあ、当初、ボルタリア王国軍が、ヴィナール公国軍を討ち破ったと思い余勢よせいを勝って、ロートレヒさんの軍と衝突しょうとつ。勝利したが、カール従兄にいさんみずから、ヴィナール公国軍を率いて、ミューゼンに入ると形勢は逆転。ステファンさんは、あわてて自領に引きこもった。


 そして、一年後、カール従兄さんがミューゼン公国を離れると同時に、蜂起したのだった。



 でだ、最近、カール従兄さんの評価はミューゼン公国での事で急上昇中。さすが、ダリア王。となっているようだった。良いな~。



 そして、ステファンさんから、援軍の要請ようせいの書状が届く。



「援軍か〜、援軍ね〜」


 さすがに援軍は出せなかった。しかし、見殺しにも出来ない。反乱をしずめた上で、講和こうわする。しかし、ステファンさんの処遇しょぐうも難しい。下手したら戦いになる。最近、失策が多い気がするが、年齢によるものだろうか?



「とりあえず、無謀むぼうな戦いはせず。大人しくしていてくれると良いんだけどね~」


「はい」


 僕は、オーソンさんをミューゼンに派遣はけんして、細かな情報探索じょうほうたんさくをお願いした。


「周辺地域も含めて、全体の動静どうせいを報告して」


「かしこまりました」



 さてと。僕も動くか~。ボルタリア王国は、動けない。ヴィナール公国軍を襲撃したのだから。


 だいいち、ボルタリア王はジークだ。となると、マインハウス神聖国皇帝として、皇帝直属軍が動く。ただし、あくまでも戦いを止める為に、というわけなのだが。本格的な冬までには決着をつけたい。



 僕は、1310年の秋。皇帝直属軍を率いて、ヴァルダを離れる。


「父上、俺も連れてってください」


「ダメ」


「なぜですか? もう、俺は、ボルタリア王なんです。それに戦いなら父上よりも……」


「ボルタリア王だからだよ。今のミューゼン公国の混乱を生み出したのは、ボルタリア王国軍なのだからね」


「そ、それは……。フェルマンがやった事です。だったらフェルマンを処断しょだんして……」


「フェルマンさんは、優秀だよ。罪も無いのに処断出来ないでしょ。これから、ジークの治世ちせいを支えてくれる人だからね」


「うっ、でも……」


「それに、今回は、戦いにするつもりも無いよ。もし、次回があったら、戦いになるから、その時は、ボルタリア王として参戦してよ」


「はい、かしこまりました」





 僕は、ミューゼンに向かい軍を進める。皇帝直属軍15000。騎士5000、兵士10000という軍容ぐんように、率いるはガルプハルト。ガルプハルトは軍勢の先頭を、僕は中団ちゅうだん辺りを進む。



 街道を南西に進むと、ミューゼン公国のミューゼンに至る。僕達は、ミューゼンに至る街道を進み。ミューゼン公国へと入った。

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