第155話 ミューゼン公国の争いと新世代の息吹②

 カール従兄にいさんからの返事は、あっさりしたものだった。


 極論きょくろんすれば、分かったよ。という感じだった。カール従兄さんにしては、あっさりし過ぎかとも感じたが、ダリアでのカール従兄さんの対応を考えると、おかしくないようにも思えた。う〜ん?



 それよりもだ。僕は、宰相さいしょうであるヴァルダ大司教パウロさん、外務大臣であるボルーツ伯ヤルスロフ2世さん、内務大臣であるロウジック伯ヤン君を招集しょうしゅうする。



「今回のヴィナール公国軍に対する、襲撃事件しゅうげきじけんの責任をとって、僕はボルタリア王を退位しようと思うんだ」


「なっ、それは……」


「そのような事を……」


「……」


 三人とも、絶句ぜっくする。



 僕は、経緯けいいを説明する。カール従兄さんへの謝罪の意味で退位する事。御祖父様は、マインハウス神聖国皇帝に即位後、すぐにヒールドルクス公位を、叔父様に譲った事などをだった。



何故なにゆえ、我々に相談もなく……」


 ヤルスロフさんが、こう言うが。


「しかし、確かに。良い考えかと」


 パウロさんは、こう言い。ヤン君は、コクコクとうなずいていた。


「それで、次期ボルタリア王なのですが……」


 パウロさんは、次の王を誰にするかを聞いてきた。


「パウロさん、やる?」


「何を、言ってるんですか!」


 パウロさんに、怒られた。


「まあ、ジーク様、一択いったくでしょうかね」


 ヤルスロフさんの言葉に、ヤン君がコクコクと頷く。


「まあ、そうなるね。だけど、大丈夫かな〜?」


 いやっ、辞めるって言った、僕が言うセリフじゃないけど。


「それは、大丈夫でしょう」


 ヤルスロフさんは、パウロさんを見ていた。ヤン君も、パウロさんを見ながらコクコク頷いていた。


 そう、パウロさんが宰相として、政治をになってくれるなら問題ない。というか、今までもそうだったのだから。



 ジークは、まだ16歳。一応、政治の表舞台には立てるが、後見人こうけんにんとしてパウロさんが政治の指揮をとる。少なくとも、21歳となるまでは。


「そうだね、パウロさんが居れば大丈夫か〜」


「はい、それよりもです」


 パウロさんが、何か口を開きかけたが、すぐ閉じて、ヤルスロフさんの言葉に耳をかたむけた。


「結婚相手です」


「誰の?」


「ジーク様です」


「まだ、早くない?」


「いいえ、早くはありません。ボルタリア王になられるのですから」


「そういうもんかね~」


「はい」


 そういうもんらしい。ジークは、まだ16歳。身体はかなり大きくなって、僕なんか子供に見えるぐらいだ。だけど、精神は子供という気がするが……。



 僕が結婚したのは、神聖暦しんせいれき1287年、今から23年前の事だ。僕が、19歳、エリスちゃんが21歳の時だった。


「ボルタリア王として、ボルタリア王妃おうひがいるといないとでは、世間せけんの見る目が違うのです」


 ヤルスロフさんが、力説りきせつする。


「分かったよ。で、誰か良い人いる?」


「えっ、それは、広く意見を聞いてですな~」


 というヤルスロフさんの言葉を受けて、ヤン君が。


「では、まずは、大臣達や、執政官しっせいかんおもな領内諸侯、それに、チルドア候や、マリビア辺境伯へんきょうはくを集めて意見を聞きましょう」


「おお、それは良いです」


 ヤルスロフさんが、目を輝かせてヤン君を見る。


「そう。じゃあ、招集しょうしゅうしようか」


「はい」





 というわけで、会議が開かれたのだが、


「それならば、マリビア辺境伯カレン殿の御息女ごそくじょが良いのではないか? 確か、年齢も近い。そして、何よりボルタリア王家に血が近い」


「おお、確かに」


「なるほど」


 始まってすぐに、チルドア候ヤンさんの意見が出て、多くの賛同さんどうも集まる。さすが、ヤンさん。ヤンさんとヤン君。う〜ん、ややこしい。



 えっと確か……。僕は、ボルタリア王家の血を思い出す。先代のヴェーラフツ3世は結婚していないので、子供がいない。そして、先々代のカール3世さんは、子供はヴェーラフツ3世だけだった。


 先々代のカール3世さんのお父さんのカール2世さんの娘さんが、クリエナさんとアネシュカさんで、そのクリエナさんが、マリビア辺境伯カレンさんのお父さんリンジフさんと結婚した。


 まあ、リンジフさんは、先代の王、ヴェーラフツ3世の暗殺事件の犯人でもあるのだが……。


 そして、アネシュカさんは、叔父様とお母様の弟である、叔父様の暗殺犯のお父さんである、ヨハネさんと結婚した。まあ、この家系は、二度と歴史の表舞台に出てくる事はないだろう。


 まあ、それは良いとして。



 僕には、ボルタリア王家の血は入っていない、エリスちゃんのお母さんが、ボルタリア王家の人間だ。カール3世さんの、さらに先代の王、ヴェーラフツ2世の娘さん。


 という事は、エリスちゃんが、ハーフボルタリアで、ジークは、クォーターボルタリアか? で、相手もクォーターボルタリアかな? まあ、血が近すぎるって事もないのか?


「私の娘ですか? そのような、おそれ多い……」


 カレンさんはあわてて、否定するが。


「おそれ多いなんて事はないだろ?」


 ヤンさんの言葉に皆がうなずく。これは、決まりかな?


「カレンさん」


「は、はい」


「娘さんの名前は?」


「ルシェリアと申しますが」


「そう。年齢は?」


「18になります」


 ジークよりは、2歳年上だ。エリスちゃんと僕と同じ感じだ。


「そうなんだ。決まった相手がいるの?」


「いえっ、そんな相手はおりません」


「だったら、そのルシェリアさんが、良ければジークの相手にどうかな?」


「はっ、そ、それは……」


 カレンさんが、言葉につまっていると。


「なかなかの才女さいじょだとも聞くが、父親としては、ジーク様とは釣り合わないとお考えか?」


 と、ヤンさん。


「いえっ、決して、そのような事は」


「ハハハ、なら、決まりだな」



 こうして、ジークの結婚相手が決まった。ボルタリア王家の血を引く、マリビア辺境伯カレンさんの娘さんで、ルシェリアさん。


 そう言えば、ジークよりセーラの方が年上か〜、結婚相手考えた方が良いのかな〜? まあ、あんな性格だし、あせる事もないか~。





 こうして、1310年の事。ジークのボルタリア王即位と、結婚の準備が始まった。まあ、僕は何もしないのだけど。



 エリスちゃんや、まわりの方々が大騒おおさわぎで準備している。ジークは、出かけようとして捕まり、着せ替え人形にされていた。



「父上と母上は、恋愛結婚だったと聞きます。俺も、自分のこの目で選んだ相手と結婚したかったです」


「わがまま、言わないの。僕とエリスちゃんだって、恋愛結婚というわけじゃないよ」


「ですが……」


「確かに、お互いこの人と結婚出来たら良いな~、って相手だけど。御祖父様の思惑おもわくと、エリスちゃんの思惑がからみ合った、一応、政略結婚せいりゃくけっこんだったからね」


「そうなのですか、母上の……」


「まあ、仕方ないね。一応、名門の貴族に産まれたんだからね」


「はい、かしこまりました。父上」


「まあ、ボルタリア王家の方々は、美形びけいが多いから外見がいけんは、良いんじゃないかな?」


「えっ、そうですか!」


 あからさまにテンションがあがる、ジーク。


 大丈夫かな、ジークは?





 そして、マリビア辺境伯カレンさんと、その奥さん、そしてルシェリアさんが、マリビア辺境伯領のオルミッツからやって来た。



 まずは、顔合わせのような感じで婚約こんやくの準備が行われた。



 そんな初日に、六人のみで対面する。マスターの料理で、カッツェシュテルンでなんて出来ないから、ヴァルダ城の新宮殿しんきゅうでんにて会う事にした。



「お初にお目にかかります。マリビア辺境伯カレンが長女ルシェリアです。以後、お見知り置きをお願いいたします」


 う〜ん、さすが、カレンさんの娘さんだ。純血じゅんけつのスラヴェリア系の外見。肌はき通るように白く、薄い亜麻色あまいろの髪に、グレーアイ。スラッとして整った目鼻立めはなだちはっきりして、知的な外見だった。まあ、要するに美人だった。



「は、おほん、お初にお目にかかる。マインハウス神聖国皇帝グーテルハウゼンが長子、ジークハウゼンである」


 ジークが、何故なぜか、芝居がかった挨拶あいさつを返す。どうやら、満更まんざらじゃないようだった。


 全く、単純なんだから。



 さて、全員の挨拶が終わると、楽しく歓談かんだんなのだが、お酒ないので、僕は、いまいち話せない。女性三人で盛り上がっていた。



 そんな時だった。ルシェリアさんが、ジークに話を振る。


「ジーク様は、どのようなボルタリア王国を目指されるおつもりですか?」


「えっ」


 う〜ん、これは政治を動かした事ないと、分からないだろうな。


「ルシェリアさん。ジークは、まだボルタリア王国の政治にたずさわった事がありません。それに、ボルタリア王国には、パウロさん、ヤルスロフさん、ヤン君という、非常に優れた人材がいます。彼らのもとで政治にかかわり勉強して始めて、ジークが考える理想のボルタリア王国像が出来ると思うのですよ」


 僕の言葉に、ルシェリアさんは、


「大変失礼しました。そうですね、かしこまりました」


 そう言って、ルシェリアさんは謝る。



 精神年齢は、女性の方が高いもんね。だけど、若いよね。ルシェリアさんも。エリスちゃんは、こういう時、昔から馬鹿にもなれる。


 イタタタタ!


 いやっ、エリスちゃんは、馬鹿だって言ったわけじゃないよ。



「そうだ。ジークは、剣技けんぎが凄いのよ。ルシェリアさんに見て頂いたら」


「はい、母上」


 ジークは、そう言って立ち上がる。


「剣技ですか。強い男性は素敵すてきですね」


 ルシェリアさんも、同じように立ち上がると、ジークの後ろをついて出て行った。



 すると、カレンさんの奥さんがため息をつく。


「は〜、申し訳ありません。誰に似たのか、ああいう子でして」


 ああいう子っていうのは、どういう子だ?


「仕方ありませんよ。同世代の男性が、頼りなく思える時は必ずありますし、結婚するんです。この人、大丈夫かな? なんて不安に思うもんですよ」


 だそうだ。エリスちゃんも、不安だったんだろうな~。


「そうですわね。確かに」


 カレンさんの奥さんは、そう言って、チラッとカレンさんを見る。カレンさんの顔が一瞬くもる。


 この後も、かしましい。いやっ、やかましい、話が続き、僕は、そっと部屋を出る。



「陛下に、何か失礼な事、しましたでしょうか?」


 カレンさんの声が、聞こえる。


「いえっ、グーテルさんは、話にきたのですよ。良い意味でも、悪い意味でも自由人なので」


「そうですか」


 だそうだ。

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