第147話 第一次ダリア遠征⑪

「僕達が、バブル王国軍を相手するから、ビオランティナ共和国連合軍は相手してね。時間稼じかんかせぎで良いから」


「はっ? えっ? かしこまりました……」


「少しお待ち下さい、陛下」


「えっ、何?」



 ヴィロナ公国軍、そして、サパ共和国軍との共同戦線。その為に、アペリーロ・ヴェルディさん、そして、オストルッチャ・オロスコーニさんと軍議ぐんぎを行ったのだった。


 その僕の第一声が、最初の言葉だった。



 ヴィロナ公国軍のアペリーロさん。そして、サパ共和国軍のコンドッティエーロのオストルッチャさん。2人は、僕の一言に、首をひねっていた。



 しかし、お二方ふたかたとも、優秀な方だった。


「なるほど、確かに陛下の軍は、バブル王国軍との方が戦いやすい」


「うむ。逆に、我々は、バブル王国軍との相性は悪い。さすが陛下です」


「うん、ありがとう」


 というわけだった……。


 分からないよね~。


 話を戻そう。



 バブル王国。元々は、チェリア王国だった。うん、何を言っているか分からないよね。


 11世紀半ば、ランド王国からやってきた騎士が、今の、バブル王国と、チェリア王国の支配地域である、南ダリアを征服する。


 その後、その騎士の子孫がチェリア王を名乗り、王として南ダリアを支配していく。だが、僕のご先祖様が、1194年に征服をたす。そして、チェリアの支配者となるのだが、教主様の怒りを買い、破門はもん。さらに、ランド王国に攻められ征服される。


 その後、ランド王国王家の分家が統治するのだが、教主様と組んで、東ダリア帝国の征服に乗り出し重税じゅうぜいを貸した事で、チェリアの民に嫌われ大反乱が勃発ぼっぱつ。ランド系住民4000人が虐殺ぎゃくさつされ、チェリア島から対岸の南ダリアに逃亡。


 チェリアは、新しい王をエスパルダ地方から迎え、チェリア王国となり、逃げた人達は、バブル王国となった。分かるかな?



 こんな感じで、バブル王国は北ダリアと違い、マインハウス神聖国と同じく貴族と騎士の文化だという事だ。


 そのため、バブル王国軍の主力は騎士。騎乗きじょうした重騎兵と、重武装の重装歩兵が軍の主力で、かき集められた民衆達が兵士として同行する。



 さて、一方の北ダリアだが、商人の文化だった。ゼニア共和国や、ネルドア共和国はもちろん、ヴィロナ公国にしても、街の裕福ゆうふくな有力者が、権力者となり、国を統治しているのだった。


 そして、それらの軍の主力は傭兵ようへいだった。傭兵は、その出身地も様々で、ダリアの民もいたが、ランド王国、エグレス王国、マインハウス神聖国、エスパルダ地方、ダルーマや、ワーテルランドの民までいた。


 さらに、傭兵は、自由騎士と呼ばれる傭兵騎士が多かったが、元はなんの職業でも武功ぶこうをあげれば、傭兵として認められた。そんな世界だった。


 さらに、市民兵と呼ばれる兵士達もいたが、これもややこしくて、元々は、高いこころざしで街を守る街の自警団じけいだんを意味していたが、最近はお金で雇われたあらくれ者や、傭兵を目指す地方からの流入者りゅうにゅうしゃまでいた。そして、国がお金をちゃんと出して装備を整えるので、装備も良かった。


 マインハウス神聖国の兵士達が、鉄製の武器は持っているが、革や木製のよろい武具ぶぐなのに、ちゃんと鉄製の防具も持っていた。そして、意欲いよくも高い。


 要するに、アバウトに表現すると、騎士>傭兵>市民兵>兵士という感じだろうか?


 となるとなのだが、相性は言い過ぎだが、僕達は、バブル王国軍との方が戦いやすいし、アペリーロさん達は、ビオランティナ共和国連合軍の方が、戦いやすいとなるわけだ。



 というわけで、勝手に想像したアペリーロさん達の声を入れつつ、会話として再現してみよう。


「僕達が、バブル王国軍を相手するから、ビオランティナ共和国連合軍は、相手してね、時間稼ぎで良いから」


「はっ? えっ? かしこまりました……」


「少しお待ち下さい、陛下」


「えっ、何?」


 僕の返事に一瞬考えて、アペリーロさんは、


「戦うならば、敵の合流を待たず戦うというのはわかります」


「敵軍が合流すれば、数で下回る我が軍がさらに不利となるのですから」


 アペリーロさんの考えを受けて、オストルッチャさんが続ける。お二方とも優秀なようだ。


「ならば、我が軍は軍を分けず、敵の合流前にたたけば良いかと」


 アペリーロさんの言葉を受け、僕はこう返す。


「ダリアの方々って、慎重でしょ。そうなれば合流を急ぐんじゃない?」


 そう、ダリアの軍勢は弱いと言われていた。まあ、いにしえのダリア帝国は除いてだが。


 その為、慎重というか、用心深いというか、きちっと偵察ていさつをして戦っていた。こういう面では、呑気のんきな田舎貴族のマインハウス神聖国とは違う。


「おっしゃるとおりです」


 アペリーロさんが、そう答え考える。すると、オストルッチャさんが、納得したように。


「なるほど、それで二正面にしょうめん作戦を展開すると、確かに陛下の軍は、バブル王国軍との方が戦いやすい」


「うむ。逆に、我々はバブル王国軍との相性は悪い。ならば、我々が、時間稼ぎしている間に、陛下の軍勢がバブル王国軍を討ち破り軍を返し、ビオランティナ軍を撃破げきはすると。さすが陛下です」


 と、アペリーロさん。


「うん、ありがとう」


 とまあ、うまくいけばこんな感じだろうね。以上、妄想もうそう軍議でした。



 というわけで、僕は皇帝直属軍を率いて南下、アペリーロさんと、オストルッチャさんは、ヴィロナ公国軍と、サパ共和国軍を率いて、東に向かいサパの街を、出撃したのだった。





「来たね~」


「はい」


 ガルプハルトと共に、遠くバブル王国軍をながめる。バブル王国軍21000。我が軍は、15000。数では、バブル王国軍が上回っていた。だから、バブル王国軍は、警戒せずに近づいてくる、一気呵成いっきかせいに我が軍を討ち破ろうというのだった。



 我が軍。皇帝直属軍は、すでに布陣ふじんが終わっていた。戦略とか、戦術とか、そういうのは今回は無し。まあ、細かく言うとあるが、ニーザーランドのフランダース公国で使ったやつの焼き直しだった。



 10000の兵士のうち、6000が大きな頑強がんきょうな鉄の盾を並べ、さらにその上にもう一段組み上げるように盾を配置し、さらに上方にも盾を配置し、まるで亀の甲羅のように盾が並ぶ、そして、その隙間からパイクが突き出て、槍衾となっている。


 まあ、今は、上部の盾の隙間すきまは大きく開き、一部の兵士は、パイクを置いて、クロスボウを構えていた。突撃してきた敵の重騎兵に矢を射ろうというのだ。まあ、全身を鉄製の鎧で覆われた重騎兵には、あまり意味ないだろうが、せいぜい嫌がらせかな?


 残りの4000の兵士は、その後方でハルバートを下に置き、同じようにクロスボウを構えていた。こちらも嫌がらせかな?


 そして、ガルプハルト率いる5000の重騎兵が最後方で、とどめを刺すために待機していた。



 一方のバブル王国軍も布陣する。中央に重騎兵、そして、その左右に重装歩兵が並び、最後方に兵士達が並ぶ、ごく一般的な布陣だった。


 で問題はその数だが、確かに兵力では、バブル王国軍が上回っている。だけど、重騎兵3000、重装歩兵4000、そして、兵士14000という形だった。まだこの時代、戦うのは騎士の仕事であり、兵士達の主な仕事は、荷物運びや、食料の運搬うんぱんなのだ。


 もう、お分かりだろう。すでに勝敗は決まっているのだ。なので、一応使者を送る。無駄な戦いはせずに降伏せよと。まあ、無駄だったけど。



 ただ、降伏勧告こうふくかんこくは、敵将を怒らせるには、効果抜群だったようだ。あまりこちらの布陣を確認せずに突撃を開始する。


「突撃〜!」


 ドドドド〜!


 バブル王国3000の重騎兵の馬蹄ばていの音が、草原にこだまする。1306年8月29日、ここに、マルテコーニの戦いと呼ばれる戦いが、開戦したのだった。



「フルーラさ~」


「はい」


 フルーラが、馬を寄せてくる。


「もし、バブル王国軍が、なかなか兵を返さなかったら、王弟殿下だっけ? それを討ってバブル王国軍を敗走させてね」


「か、かしこまりました」


 フルーラに、すさまじい気迫きはく宿やどり、眼が血走ちばしる。怖いよ、フルーラ〜。



 バブル王国軍の重騎兵3000は、凄まじい勢いで、我が軍の密集方陣みっしゅうほうじんに突っ込み、甲高かんだかい金属音と、そこかしこで、火花が飛び散る。



 先頭を駈けていた、バブル王国の重騎兵は、ある者は槍衾やりぶすま餌食えじきになり、ある者は、盾の上に投げ出され、ある者は、盾に激しくぶつかり落馬する。そして、無事だった者も、背後からさらに駈けてきた仲間にはばまれ、身動きがとれなくなる。


 すると、ハルバートを持った兵士達が、盾の上に駆け上がり、落馬した者や、盾の上に転がっている者を、凄まじい勢いで殴りつけた。


 あちらこちらで、悲鳴があがる。



 こう聞くと、一方的な戦いに聞こえるが、もちろん、一部のバブル王国の重騎兵は、密集方陣を破り、中に入り込もうとしているが、その重騎兵達にも、ハルバート部隊が殴りかかっていた。



 さて、そろそろかな?



 見るとバブル王国軍の重装歩兵が、自軍の不利をさとり、重騎兵の救援の為に、こちらに向かっていた。重装歩兵は、敵を待ち受けてこその部隊であり、移動しては意味が無いのだ。


 僕は、片手を挙げ、振り下ろす。すると、ガルプハルトの大音声だいおんじょうが聞こえる。


「突撃〜!」


「お〜!」


 ガルプハルト率いる重騎兵が、左右に分かれると、左右から挟み込むように、こちらに走ってくる重装歩兵に襲いかかり、蹂躙じゅうりんする。重装歩兵は、逃げまどい。さらに戦場に悲鳴があがる。



 ガルプハルトは、ある程度重装歩兵を蹂躙すると、その重騎兵をまとめ、未だ、我が軍の兵士と激しい戦いを繰り広げている、バブル王国の重騎兵に背後から襲いかかる。


「うわっ!」


「ギャッ!」


 優秀な指揮官がいたようで、立て直しをはかっていたバブル王国軍の重騎兵が混乱におちいり、敗走を開始する。


 よし、終わりかな?


 と思ったのだが、重騎兵の一部が敗走しつつ、立て直しをはかって、それに、重装歩兵が合流をしようとしていた。まだ、戦う気かな?



「フルーラ、よろしく」


「はっ!」


 純白じゅんぱくの鎧を着たフルーラ、栗毛くりげの馬を飛ばして駈けて行く。速いね~。


 鎧は、フルプレートアーマーで、馬はワーテルランド産の駿馬しゅんめ。一瞬で、敵軍の中に駆け込む。そして、



「殿下! お逃げください!」


 フルーラの接近に慌てて、フルーラの進路をはばむために、二人の騎士がフルーラの眼前がんぜんに飛び込む。だが、フルーラは馬で駈けつつ、剣を振るう。


 白銀はくぎんかがやく長剣が綺麗な円弧えんこを描き、無遠慮むえんりょに振り下ろされる。


 ブーン!


 二人の騎士は、フルーラの長剣により、剣を折られ吹き飛び、さらに致命傷ちめいしょうを負う。


 一人は、くの字に折れ曲がり、下に叩きつけられ、もう一人は、剣先けんさきで鎧を斬りかれ血飛沫ちしぶきき上げ、倒れる。


 すると、当初の目標であった人物は、馬首ばくびを返し疾駆しっくしつつ、声を張り上げる。


「引け〜引け〜!」


 フルーラは、その声を聞きつつ、こちらを振り返る。えっと、これで良いですかね? という表情だった。


 うん、フルーラ。予想以上だよ。僕は、大きくうなずいた。



 フルーラは、ただ一振ひとふりで、バブル王国国王の王弟殿下のさらなる弟と、王弟殿下の嫡子ちゃくしを討ったのだった。


 うん、フルーラさん。素晴らしい〜。


 さて。


「じゃあ、行こうか」


 僕は、軍を返した。

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