第138話 第一次ダリア遠征②
「これは、これは、陛下。かような場所までありがとうございます。それに、このような姿で申し訳ありません」
「ミューゼン公、それは、お気になさらず。
「良くありません。負け続けの人生ゆえ、致し方ないのでしょう」
「そんな弱気な事を、おっしゃらないでください」
「申し訳ありません」
ミューゼン公ローエンテールさん。負け続けの人生って言ってたけど。まあ、叔父様と散々やり合った。
まずは、叔父様がアーノルドさんと戦った、
そして、ダルーマ王国は、ローエンテールさんのお母さんがダルーマの王族だった事から、ダルーマ王国の王位継承戦争に参戦し、負けた。
さらに、ザーレンベルクス大司教と叔父様の領土問題に
それで、
ミューゼン公国。マインハウス神聖国の
え〜と、ローエンテールさん、叔父様と結構、戦っているが意外と
確かお母様とは、18歳。叔父様とは、16歳離れているはずだった。そして、26歳の若さで亡くなられている。
その後は、クワトワ公エンラート3世さんの娘さんと結婚された。まあ、エンラート3世さんが、ワーテルランドの王位継承を有利にしようとした
そして、ローエンテールさんは、僕に突然頭を下げて。
「陛下、私が死んだ後、息子が後継出来ますよう。
「何を言われているんですか。そんな気弱な事を……」
「私は、長くはありません! まだ、我が子は幼い。だが、陛下が御助力していただければ……」
おっと、興奮しているようだ。体に
「分かりました、ミューゼン公。
「そうですか。それならば安心です」
ローエンテールさんは、そう言って僕の手を握る。
やれやれ。
だが、僕はこの
ミューゼン公国の公都ミューゼンに少し
軍自体はミューゼンの郊外に
その後は、シュタイナー候国なのだが、昔のシュタイナー候は亡くなっていて、さらに
なので、特に
遠くに、ヒールドルクス公国がある
そして、周囲には、青々とした森林に美しい湖。
「あれま~、
「こらっ、今や皇帝陛下だぞ。言葉に気をつけろ」
ハウルホーフェ城の下。フルーゼンの街中に入ると、どこからかそんな会話が、聞こえてくる。ハウルホーフェ公国から離れて、17年。そりゃ、老けるよね~。
フルーゼンの人々が、珍しい物を見るように集まっていた。僕は、手をひらひら振りながら、歓声に応える。う〜ん、誰が誰だか、分からない。世代交代や、歳を重ねたからだろう。
僕達は、フルーゼンの街中を抜けると、丘を登る。
ハウルホーフェ城は、かなり大きい。が、現在は使っていない。
お父様達は、丘にいちいち登るのが面倒くさいという事で、フルーゼンの郊外、湖の
ハウルホーフェ公国を
そのため、ハウルホーフェ城には、皇帝直属軍の
ハイネッツさんは、ガルプハルトの下。ずーっと、輜重隊だのを率いて地味な仕事をこなしていた。すっかり忘れていたわけじゃないよ。
僕は、ハウルホーフェ城に入ると、
「良い景色だね~」
「そうですね。本当に
「うん」
眼下には、フルーゼンの街。そして、その向こうにキラキラと光る水色の湖。そして、
僕は、フルーゼンの街をよく見てみる。さっきは、街道からまっすぐ、丘への道を進んだので、街をよく見ていない。だけど、あまり変わっていないように見えた。
「フルーゼンの街も、あまり変わっていないみたいだね」
「そのようですね。カツェシュテルンは、あるのかしら?」
「そう言えば、そうだね~。行ってみようか」
「良いのですか?」
「まあ、良いんじゃない?」
「はい」
エリスちゃんが、嬉しそうに応える。
こうして、僕達は夜、懐かしいマスターが
その前に、
「コーネルの墓参りも、しないとな」
「はい?」
アンディが、僕の後ろで
コーネルは、長年、
「何が寄る年波には勝てずですか、勝手に人を殺さないでください、グーテル様!」
おっと、どうやら生きてたようだ。背後から、コーネルの声が聞こえた。
「ひっ! 幽霊〜。コーネル、ちゃんと
「グーテル様〜。何ですか、幽霊って、それに成仏? そして、その芝居がかった動きやめてください。コーネルは、生きておりますよ」
「そう?」
「はい」
幽霊は、普通に死んだ人が霊になって存在するという事は信じられている。それを
まあ、実際の職務は、洗礼時に
そして、成仏だが、何でもマスターの故郷の近くでそんな宗教があるそうだ。亡くなると仏になる? ようだった。
「コーネル、元気そうで何より」
「殿下も……、いえっ、失礼致しました。陛下も、立派になられて、ぐすッ。こ、このコーネル、
歳取ると
「あうっぐ! こ、コーネル〜」
「で、殿下〜」
エリスちゃんが、タオルを差し出してくれた。涙を拭かないと。
「チーーン」
僕は、涙を拭いて勢い良く鼻をかみ、エリスちゃんに渡す。エリスちゃんは、受け取りつつ、顔を
僕とコーネルは歩きつつ、会話する。
「コーネル、ハウルホーフェに変わりはない?」
「はい、お
「ふ〜ん。アンディのお兄さん、統治特筆することのないの?」
僕は、アンディを振り返る。
「いやっ、そんなこと、ないっすよ。頭良かったですし」
「だって」
僕は、再びコーネルの方を向く、
「勉強は出来ましたよ。アンディは、勉強しないだけでしたが。ですが、勉強出来るのと、頭が良いのは違うのですよ」
「ふ〜ん」
「勉強出来ても、政治の場では、役にたちません。まあ、せいぜい事務処理能力が早いくらいでしょうか?」
だそうだ。
「事務処理能力が、早いのは良いんじゃない?」
「まあ〜、はい」
コーネルは、不満そうに答える。我が子に厳しいですね~。
こうして、コーネルや、その息子の代官の方等と、昼の食事をしつつ、おもいで話に花が咲く。
そして、夜。僕と、エリスちゃん、そして、ガルプハルトにアンディ。さらにマスター夫婦と共に、フルーゼンの街中にある呑処カツェシュテルンへと入る。
ヴァルダのカツェシュテルンに比べて、だいぶ小さい店だ。カウンターと奥のテーブル席だけだった。なんかヴァルダのお店に慣れてたせいか。こんなお店だったっけ? という印象だった。
「はいっ、いらっしゃい! 呑処カツェシュテルンにようこそ!」
タングミンさんの元気な声が響き、その隣には、ロースちゃんがいた。
「ロースじゃありませんよ、殿下。ローセですよ〜」
だそうだ。どうやら口に出ていたようだ。
こうして、6人そろって、カウンターに座る。さて、何、飲もうかな?
と、エリスちゃんが、
「昔マスターが作っていた、フルーツのお酒ってあります?」
「あるよ。ローセが、作ったやつだけど」
「じゃあ、それください」
「あいよ!」
「私も、同じのをくださいね」
と、アイリーンさん。となると、残りは。
「ビールちょうだい、キンキンに冷えたやつね」
「あいよ! 懐かしいね~、その言い回し」
そう言って、タングミンさんは、奥に歩いて行った。
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