第137話 第一次ダリア遠征①

「じゃあ、ガルプハルト。準備よろしく」


「はっ! かしこまりました。すでに全軍準備は、整っております」


「そう。じゃあ出陣しようか」


「はっ!」


 こうして、第一次ダリア遠征は、始まった。



 な〜んてね~。まあ、ダリアに行くのは本当だが、遠征じゃなくて、目的は、僕のマインハウス神聖国皇帝の戴冠式たいかんしきね。



 で、神聖教教主様だと、なかなか教主庁きょうしゅちょうから動いてくれないが、教主様のいない今、枢機卿すうききょうの方々から代理で戴冠式を行ってもらえるし、北部の枢機卿が戴冠式を行ってもらえば、ダリア中部まで行く必要性は無い。


 というわけで、教主様のいない今がチャンスなのだ。



「ねっ、エリスちゃん」


「何が、ねっ。なのですか?」


「ん、何でもないよ」


「そうですか。それよりも、子供達、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だよ。お父様、お母様もいるし。それに可愛い子には旅をさせよって言うじゃない?」


「言うじゃない? じゃないですよ、グーテルさん。それに、旅をするのは私達ですよ」


「そっか~」


「もう、グーテルさん〜」


 ペチペチとエリスちゃんが、僕の肩を叩く。


「お父様〜、お母様〜、いつまでも〜、イチャイチャせずに~。あれを〜どうにか〜、してくださいよ~」


「セーラ、そのしゃべり方やめなさい」


「は〜い、お母様。分かりました~」


「もう」


 エリスちゃんは、そう言いつつ、セーラの視線の先を見る。


御祖母様おばあさま、行きます!」


「いいわよ!」


「タッーーー! うわ~!」


 67歳のお母様の剣を受け、跳ね飛ばされ転がっていく、11歳のジーク。


 だが、ジークは、すぐに立ち上がる。


「まだまだ、御祖母様、行きます!」


「ジークちゃん、どうぞ」


「イヤアア〜! わわ~!」


 ジークが、大剣を持って、お母様に斬りかかるが、お母様は、あっさりと受け止めると、勢い良く跳ね飛ばす。


 お母様も、容赦ないな~。というか、あれでも手を抜いているんだろうな~。


 エリスちゃんが、ジークの挑戦を止めるが。


「ジーク、いい加減にやめなさい!」


「お母様は、黙っててください。御祖母様を倒して、私もダリアに行くのです!」


「ですが、勝ててないじゃない」


「まだまだ、これからです」


「ジークちゃん、頑張ってね。御祖母ちゃんも、頑張っちゃうわよ~」


 ジークの挑戦を張り切って粉砕ふんさいする、お母様。やれやれ。



 まあ、どうしてこういう事になったかというと、僕がダリアへの戴冠式に向かう事を宣言すると、ジークが、共にダリアへと向かい初陣をはたしたい。と言い始めたのだ。


 僕は、別に良いかな? と思ったのだが、エリスちゃんは、


「ジーク。あなたは確かに身体も大きく、強いです。しかし、精神的にはまだまだ、未熟です。お父様の邪魔になってしまいます。つつしみなさい」


 と言われてしまったのだ。確かに、頭脳と、精神的には、ちょっとまだまだ感はある。


 と、エリスちゃんと、ジークの平行線の押し問答もんどうが行われていた時。お母様が、


「ジークちゃんは、まだまだ、強くなれるわ。だけど、まだ成長期。戦場の戦いには力不足なのよ。そうだ! 私と戦って勝ったら、行けるように口添くちぞえしてあげる。それでどう?」


「お義母様かあさま、それは……」


 エリスちゃんが、言いかけるが、ジークは。


「分かりました! やりましょう、御祖母様」



 というわけで、この戦いになったのだ。一本勝負かと思ったが、かれこれ小一時間こいちじかん戦っている。


 肩で息をする、ジークに対して、お母様は余裕の表情だ。


「さすが、ヒールドルクスの鬼姫おにひめ


「何か、言いました、グーテル?」


「いえっ、何も」


「そうですか。なら、良いですが」


 こわっ。僕のつぶやきをお母様に聞かれたようだ。さすが、ヒールドルクスの鬼姫。



 お母様は、体が大きく。若い時は、叔父様にも勝つほどの強さで、ヒールドルクスの鬼姫。なんて呼ばれていたそうだ。今どき珍しい女性騎士として暴れまわり、慌てたお祖父様が、お父様に押し付け……。もとい、穏やかな気性のお父様と結婚させ、その後は、大人しく……。なってないかな?


 まあ、フルーラという女性騎士を誕生させたのも、お母様かもしれないな~。


 全盛期ぜんせいきのお母様と、フルーラが戦ったらどちらが強いのだろうか?


 今は、フルーラだ。この間、お母様が、フルーラと剣術の試合を提案して、実際行われたが、手加減てかげんという言葉を知らないフルーラによって、お母様はたたきのめされたのだった。



 そんな事を考えていたら、まわりが静かになった。見ると、ジークが意識を失い、ぼろ雑巾ぞうきんのように転がっていた。


 それを見下ろし、お母様は。


「はあ、はあ。ジークちゃんも、体力は立派ね」


 なんて、ジークに声をかけているが、ジークの反応はない。気絶しているようだ。


「フルーラ」


「はい」


 フルーラが、僕の言葉を聞き。冷たい水をみ、タオルを持って、ジークのもとに駆け寄る。


 そうそう。こういう場合、ヘルムを脱がせ、額に濡らしたタオルを当て、しばらく寝かせて……。


 ジャーー!


「うわっ!」


 ジークが飛び起きる。フルーラが、冷たい水をかけたのだ。そして、飛び起きるジーク。


「ジーク様、お疲れ様でした」


「えっ、あっ、ありがとう。フルーラ」


 フルーラは、ジークにタオルを渡し、ジークはタオルを受け取り、顔をく。


 なるほど、そういう使い方するのね~。



 これでジークは、ダリア行きを諦めてくれた。まあ、こんな事もありつつ、僕達はダリアに向かう準備を進める。



 ボルタリア王国に関しては、政治面でパウロさん、ヤルスロフ2世さん、ヤン君がいる。軍事面でも、フェルマンさん、ライオネンさん、そして、デコイラン2世さんもいる。問題はない。子供達には、お父様、お母様もいる。大丈夫だろう。なんの心配問題無く、ダリアに向かえると、思う。



「ところでグーテルさん、ダリアにいる期間は、どのくらいになりますか?」


 エリスちゃんが、出発の準備をしているとそう聞いてきた。う〜ん? どのくらいになるかな~?


「そうだね~。教主庁まで行くと、行き帰りで2年ぐらいかかるかもだけど。僕の目標としては、ヴィロナ公国だから……。いやっ、ゼニア共和国にも行く事になるかな~? そうすると、1年か、1年半か……」


「そうですか~。分かりました。では、長期間だというつもりで、準備しますね」


「うん、お願いね~」





 そして、1305年の春。準備が整い。僕達は、皇帝近衛団500騎と共に、ヴァルダ城を出発する。皇帝直属軍は、途中の街道で合流する事になっていた。なのだが、ガルプハルトは、何故なぜかここにいた。


「ん~~、ん~~、ん!」


「グーテル様、準備が終わりました。積み込んでおきます」


「ガルプハルト、ご苦労様」


「はい」


「ん! ん! んん〜〜!」


 ガルプハルトは、かついでいた荷物を馬車に積み込む。すると、1人の女性が、荷馬車に乗り込み、荷物に語りかける。


「あなた、楽しみですね~。久々の旅行」


「ん~~、ん~~」


「そう? 感謝しないといけないわよ。ただで、旅行出来るんですから。ダリア。そう言えば、返事はまだなのだけど、ルドルフには会えるかしら、楽しみね」


「んん、ん~~」


「そうね。確かに、ベルーニャは遠いから分からないわよね」


「ん~~」



 そう、サプライズで、マスターにダリア旅行のプレゼントをしたのだった。ハンス君と、マスターの奥様には、あらかじめ話してあったが、マスターには完全サプライズ。そして、行くのを拒否したため、ガルプハルトによって、簀巻すまきにされ、拉致らちされたのだ。


 まったく、わがままなんだから〜。


「んん! ん~~!」


 なになに、申し訳ありませんでした?


「ん~ん、ん!」


 どうやら、違うようだ。何を言っているんだろうね~。


「んん!」



 呑処のみどころカツェシュテルンのお店は、ハンス君に任せて大丈夫なようだ。


 そして、マスターの奥様アイリーンさんは、貨幣鋳造所かへいちゅうぞうしょの管理職だったが、いったん退職して帰国後。まあ、息子さんの件もあり、宮廷きゅうていづとめしてもらう予定だった。


 財務系ざいむけいの方なので、庶民しょみんの中で最高位の財務補佐官ざいむほさかんをやってもらう予定だ。まあ、とにかく優秀な方らしい。



 綺羅きらびやかな皇帝近衛団の隊列。その中段を僕が進む。ヴァルダの市民の方々も道の両脇に集まり、歓声をあげる。


 僕は、ひらひらと手を振りつつ、ゆっくりと馬を進める。もちろん、僕の両脇には、フルーラとアンディ。そして、僕のすぐ後方を進む豪華ごうかな馬車にはエリスちゃん。


 エリスちゃんも、馬車から顔を出して、歓声に応えている。それにしても、すごい人だ。



 石畳の坂を下り、城下町マージャストナに入る。


「いってらっしゃーい! 気をつけて!」


 ハンス君が、マスター達に手を振っている。馬車の中からアイリーンさんは元気に応え、マスターは、猿轡さるぐつわまされ、簀巻すまきになって馬車の中を転がっていた。



 石橋を渡り、ヴァルダの街中に入っても、大勢の市民の歓声が聞こえる。うん、明らかに人口が増えたな~。


 そう、今、ヴァルダは帝都という事になっている。そのために、ヴァルダの街中に帝国書記官の方々をはじめ、帝国の中枢機関ちゅうすうきかんも移転していた。そのためにも、人口が増えたのだが、今や、マインハウス神聖国内では、圧倒的な大都市だ。


 しかし、ダリアには、このクラスの都市はまだまだあるそうだ。それだけ、ダリアは、経済の中心となっているということ。マインハウス神聖国は、その流れに、おいていかれているのだ。


 今回の戴冠式で、少しでもマインハウス神聖国の発展につながれば。なんて、少し考えている。



 ヴァルダを出て、街道に出ると、南西へと進路をとる。昔、僕がハウルホーフェからヴァルダに来た時の逆ルート。まずは、ミューゼン公国へと向かう。



 一応、ミューゼン公とも会談予定だったが、どうも具合が悪いらしい。まだ、老齢ろうれいってわけじゃないが、大丈夫だろうか?





 ダリア地方地図


 https://kakuyomu.jp/users/guti3/news/16817330652738738000

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