第136話 グータラ皇帝の優雅?な1日③
オーソンさんは、挨拶もそこそこに僕の隣に座ると。耳元に口を近づけ小声で僕にささやく。うおっ、耳がこそばゆい〜。
「神聖教教主ベネディット11世聖下が、亡くなられました」
「えっまた?」
またって言うのはおかしいが、ほぼ1年くらい前に、先代の教主様が亡くなられたばかりだ。それも、憤死なんて言われている。
「はい」
「ふ〜ん、病死?」
「いえっ、それが……、暗殺の可能性がありまして……」
「えっ! 暗殺?」
「はい」
「う〜ん?」
ベネディット11世は、
「カール、じゃないよね?」
「はい。まるっきり関係ないかと……。いえっ、もしかしたら、暗殺者の手配はしているかもしれませんが」
「そう……。だとすると、ランド王国?」
「はい。あくまでも、噂ですが」
「そう」
ランド王国フェラード4世は、パラーリ事件の事もあり、先代の教主ポルファスト8世と激しく対立していた。そして、「ウナム・サンクタム(唯一聖なる)」という
そして、ポルファスト8世の死後、教主の座についたベネディット11世は、ドミニク会出身の
そして、急死。うん、暗殺されたと考えるのが
う〜ん。これで、計画を早めなくてはいけないかな。まあ、でも、それは帰ってからにしよう。
「オーソンさん、ありがとう。色々考えないといけないけど。やってもらいたい事もあるし。まあ、でも、とりあえず、今は飲もうか」
「はい、かしこまりました」
オーソンさんは、そう言うと、白ワインを注文し、マスターに勧められて、白身魚のフリッター、タルタルソース添えを食べ始めた。その間、少し僕は思考の海に
「オーソンさん、タルタルソースに、フリッターって、どうですか?」
「えっと、美味しいですよ」
「いえっ、そうじゃなくて。
「えっ、そうですな~。タルタルソースで食べると、白身魚本来の味が消えますが……」
そう、オーソンが言うと、マスターは、ほらっ、分かる人は分かるんですよ。という得意げな顔をするが。
「まあ、川魚は独特の臭みがあるので、タルタルソースで、その臭みが消えますから、タルタルソースが良いですかな」
マスターが、ガックリとうなだれる。まあ、ヴァルダ周辺の川は、
というわけで、新鮮な魚を食べたければ、やっぱり海に行かないとね~。地中海とかかな?
その後、オーソンさんと、アンディがフリッターを食べるのを待って。結局、3人分のヴィロナ風シュニッツェルを頼む。そして、アンディは、そのままビールのようだが、我々は、赤ワインを頼む。
すると、マスターが。
「そう言えば、最近ダリア地方で、甘くない赤ワインが作られたっていうんで取り寄せたんですが、飲んでみますか?」
「味は?」
「う〜ん、そうですね~。やっぱり、エスパルダとかのワインに比べると、まだまだの印象ですが、それこそダリア料理には合うかと」
「そうなんだ~。じゃあ、もらおうかな」
「私も、お願いします」
というわけで、僕とオーソンさんは、ダリア地方の赤ワインを飲む。
ピオランティナ共和国や、サパ共和国のある辺りだそうだ。ブドウ品種は、カラブレーゼ・モンテヌオヴォ。渋みが強くなく、比較的酸味のあるフルーティーなワインになるそうだが、糖度が高くないので、ワインに甘みが残らないそうだ。
僕は、シュニッツェルを口に入れる。
そこに、ダリア地方の赤ワインを注ぎ込む。ただ飲むと確かに、軽めではあるが、酸味と華やかなフルーティーなワインという印象を持つが。
ダリア風シュニッツェルと合わせると、酸味が油を流し、そして、肉の旨味をフルーティーなワインが、包み込み美味しさをアップさせる。そして、何よりも、トマトソースに、ワインが合う。他の強いワインだと、トマトソースの旨味を消してしまうが、さすがダリア地方のワインだった。
「ハンス君、これ美味しいね〜」
「ありがとうございます」
ハンス君は、嬉しそうだ。
「それにマスター、このワイン、トマトソースに合うね~」
「そうでしょう。これで、ダリアのワインも馬鹿に出来なくなりますよ」
「そうだね」
噂で聞いた話だったが、ダリア地方。特に、ピオランティナ共和国や、サパ共和国のある辺りで、文化の復興を願う人々がいるようだ。ワインも、その流れなのだろうか?
「本当に、旨いっす」
アンディは、そう言いつつ夢中で食べていた。
そして、オーソンさんも、ハンス君を
「本当に美味しいです。いつものシュニッツェルも良いですが、うん、このトマトソースに合いますな」
「ありがとうございます。トマトソースは、父のレシピ通り何ですが。そのうち自分の味にしていけるように頑張りますよ」
「へ〜、向上心が、あって偉いね~」
そんなハンス君を、マスターは
「マスター、もう、思い残す事は無いね」
「な、何を言ってるんですか、殿下。怖い事言わないでくださいよ〜」
「ん?」
僕は、シュニッツェルを食べつつ、赤ワインを飲む。う〜ん、口の中が幸せ〜。
そして、ふと、カウンターを見ると、メヌー女さんがいた所に、別の女性が座っていた。メヌー女さんとは、タイプの違う女性。う〜ん、あんまり詳しく言うのはやめよう。
まあ、要するに、他の常連客さん達と、楽しそうに会話をしていた。メヌー女さんは、ハンス君に何か話しかけていた。特に聞いてなかったけどね。
「へ〜、そうなんだ~。そりゃ良かったね~」
「ええ、優しい方で良かったです」
「しかし、ちょっと
「おいおい、ガルプハルトさんから比べたら、みんな軟弱者になっちゃうよ」
「え〜、そうですかね?」
「そうそう。みんなが
「何だと、貴様!」
「まあまあ、ガルプハルトさん。ガルプハルトさんは、脳筋ゴリラじゃなくて強い騎士様ですが、男性、皆が強い必要性はありませんから」
「そうですかね~?」
何て、会話をしていた。何の話だろ?
すると、アンディが。
「近所の商店のお嬢様で、婚約者が決まったとかの話っすね」
「そうなんだ~」
ふ〜ん。近所の商店のお嬢様が一人で飲みに来る? 随分変わったお嬢様だ。って、人の事、言えないか〜。
「そう言えば、殿下は、いろんな所に行かれているそうですが、何か美味しい料理、ご存知ですか? 最近、メヌー用の料理が、ワンパターンになっちゃってまして」
と、ハンス君が、僕に聞いてきた。
「えっ。それだったら、マスターに聞いた方が良いんじゃない?」
「確かにそうなんですが、たまには自分で考えた料理を出したくて」
「そう」
う〜ん? 何だろ? でも、行ったと言っても、マインハウス神聖国内だし、ああ、ニーザーランドは行ったか。何か、あるかな?
「いろんな所に行ったって言ったって、マインハウス神聖国内がほとんどだしね~。美味しい料理って、そんなに無かったかな〜」
「そうですか~」
ハンス君が、残念そうに言う。申し訳ない気がして必死に考える。だけど、
さらに、マインハウス北部は、行った事が無い。とすると、マインハウス神聖国西部だけど。ミハイルで食べた、アウラウフとか、キーロンで食べたムール貝とかかな? ムール貝だったら、ニーザーランドで食べたビール
「ムール貝とかは?」
「ムール貝ですか〜。残念ながら、ヴァルダでは、手に入りませんね~」
「そうか、海から遠いもんね~」
「はい」
「だとすると……」
ザウアーブラーテンは、好き嫌いが分かれるし、後は……。ニーザーランドで食べたブレかな? うん、あれは美味しかったし。
「ブレは?」
「ブレって何ですか?」
ハンス君の疑問は当然だった。え〜と、どう説明するかな?
「え〜と、フリカデレに似てるんだけど……」
フリカデレは、チェコの郷土料理である、タタラークを焼いたものだ。
ブレとは、ニーザーランドのルージュ名物の肉団子。牛と豚の合い
要するに、ブレは、タタラークを小さくちぎって、丸め焼く。そして、甘酸っぱいソースをかけたもの。という感じで説明する。
「そうなですか、ブレは知らなかったです。甘酸っぱいソース、良いですね~」
と、マスター。
「ありがとうございます。さっそく、参考にさせて頂きます」
と、ハンス君。
良かった役にたって。こんな感じで、1日は更けていった。
そして、夜。
「オーソンさん、さっそくで悪いんだけど、タイラーさんにつなぎつけて。そろそろ、例の計画を実行しますって」
「かしこまりました。かなり早くなりましたね」
「うん、そうだね。早くなっちゃったね。暗殺のせいで」
「そうなのですか。ですが、教主様がいない状況では……」
オーソンさんは、そう言いかけるが。
「意味はあるよ、大丈夫。実際は、居ないほうが都合良かったり……」
「そうなのですか……。かしこまりました。では、さっそく向かいます」
「うん、よろしく」
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