第134話 グータラ皇帝の優雅?な1日①

 ヴァルダに帰って来てからも、色々とやることがあって、忙しい日々を過ごす。


 その一環いっかんが、これだった。


「ヴァルダ大司教パウロを、ボルタリア王国宰相に任ず。内政権、外交権、軍事権を譲渡じょうとする」


つつしんでお受け致します」


 よしっ、これでボルタリアの政治活動は、パウロさんに押し付けられる。


 さらに、


「デーツマン3世には……」


「あの〜、一応、ヤンという名なのですが……」


「あ〜、そうだった。ごめんね。え〜と、ロウジック伯ヤンを内務大臣に任ずる」


「はっ、有難き幸せ」


 デーツマン3世あらため、ヤンさんが頭を下げる。あらためたわけではなく、面倒くさいので、僕がデーツマン3世って呼んでただけだけどね~。



 そう、僕はマインハウス神聖国皇帝だ。ボルタリア王国の政治にかかりっきりになるわけにはいかない。というわけで、ボルタリア王国の政治は、パウロさんに任せて、僕は、自由に……。じゃなくて、マインハウス神聖国全体の政治に心を配る事が出来るのだ。


 そうだよ、本当だからね~! 決して、グータラライフを満喫まんきつしようとか思っていないからね!



「しかし、グーテルさん、本当に良いんですか? 私なんかを宰相にして、よそ者ですよ」


「だから良いんだよ。僕だってよそ者だったし、国に思い入れが無い分、客観的きゃっかんてきに物を見れるし」


「そうですか……。ある程度、思い入れはあるんですが」


「そうなんだ〜、へ〜」


「興味無さそうな、返事しないで下さいよ」


「は〜い。そうだ、デーツマン3世君も頑張ってね」


「はい! ですが、デーツマン3世はやめてください」


「あ、そうだそうだ、ごめん、ヤン君」


「はい」



 そう、デーツマン2世さんの息子のヤン君もパウロさんの下で執政官しっせいかんとして経験を積んでいたのだが、優秀だということで、このたび、めでたく内務大臣に昇格となったのだった。


 これで、宰相にパウロさん。内務大臣にヤン君。そして、外務大臣は変わらずヤルスロフ2世さんという体制が確立されたのだった。


 若いけど優秀なヤン君。経験豊富にして、したたかなヤルスロフ2世さん。そして、フォルト宮中伯家という名家出身で、聖界諸侯にして、頭の切れるパウロさん。


 これで、僕が何らかの理由でボルタリアを離れたり、何かあった場合でも大丈夫だろう。



「ヤルスロフさんも、よろしくね」


「はい、年のこうで頑張ります」


「うん、お願いね」


 ニーザーランドより帰って来てから3人にこの事を話し、了承りょうしょうをもらった上で準備をしてきたのだ。



 そして、ついに僕は解放されたのだ〜。


 だけど、別に僕がボルタリアの政治に一切いっさいかかわらないって事じゃないよ。報告は受けるし、ある程度の方向性は決める。僕は、一応、ボルタリア王国国王でもあるのだ。無責任ではいられない。



 だけど、これでグータラ寝れる〜。



 まあ、今日は午前中に宰相と、内務大臣の就任式を行い、お昼は食事しつつ、国王、宰相、外務大臣、内務大臣で話し合いをした。


 そして、いよいよ自由への扉を開く、事は無く。


 今日は、ちょっとお出かけだった。



 僕と、フルーラ、アンディと数名の近衛騎士と共に、僕はヴァルダ城を出る。飛ばさないもののある程度のスピードで、広場を駆け抜けると、石畳の坂を下りて、城下町マージャストナに入る。そして、石橋を渡り、ヴァルダの街中に入ると。西に向かって街道をける。


 スピードも速め街道を駆け抜け、途中、道を折れてしばらく駆けると、大きな草原に出る。そこは、皇帝直属軍の演習場となっていた。


 演習を指揮するのは、マインハウス神聖国皇帝直属騎士団騎士団長にして、マインハウス神聖国皇帝直属軍総司令官のガルプハルトだった。


 あっ、そうだった忘れてた。ガルプハルトが、皇帝直属騎士団騎士団長にして、皇帝直属軍総司令官になった事によって、ボルタリア王国軍騎士団長には、フェルマンさんが、就任していた。その就任式は、僕のヴァルダ帰還直後に行った。ちなみに、副騎士団長は、ライオネンさんね。



「ご苦労さま、皇帝直属騎士団騎士団にして、皇帝直属軍総司令官のガルプハルト」


「だから、その呼称やめてください。グーテル様」


「えっ、駄目?」


「はい、長ったらしいですし」


「そうか〜、駄目か〜」


「はい」


 で、今回の目的は、演習の視察しさつだった。



 皇帝直属軍。それは、騎士5000名と兵士10000名で構成されていた。だが、他と違うのは、その騎士が全員馬に乗る事と、兵士達が、普段は他の仕事をしてますって事は無く、庶民しょみん出身ながらも、常に兵士を仕事としている職業軍人な事だった。


 なので、ガルプハルトは、ヴァルダに帰って来てから、皇帝直属軍に厳しい演習を課し、きたえ上げていた。


 そして、僕は、兵士の方々に、最新の装備を与えていた。大きな鉄製の盾に、全身をおおうチェインメイル、そして、パイクにハルバート。もう見た目は重装歩兵だった。まあ、それが目的だったのだけどね。


 騎士が全員、重騎兵ならば、兵士達を重装歩兵とする。考えれば当たり前なのだが。



「突撃〜!」


「お〜!」


 重騎兵が、ガルプハルトの号令で突撃する。


 ドドドッドドドッドドドッ!


 馬の馬蹄ばていの音が響く。そして、待ち受けるのは、


 パイクを持った兵士達が、密集方陣みっしゅうほうじんを作り待ち受ける。盾は、地面に刺すように起き、その上に積み重ねるように二段目の盾、さらに上部にも盾の壁が出来ている。そして、盾と盾の隙間すきまからは、パイクが突き出てハリネズミのように見えた。槍衾やりぶすまというやつだ。



 パイク。これは今までの長槍ながやりとは違う。長槍は長い木のに鉄の刀身とうしんをつけてあるが、パイクは、長い鉄の刀身に木の柄をつけてある。そして、とても長い。僕が使っているものは、長さ5m程で、ハルバートよりも長い。そして、重い。その為に、使い方としては柄の先を地面に刺し、全身で支えるように使う。


 パイクの長さは、重騎兵の持つ長槍。いわゆるランスよりも長い。ランスは、長さ2m程で、鉄製の細長い円錐えんすいの形にヴァンプレイトと呼ばれる大きな笠状のつばがついたものだ。ちなみに、馬上試合では、折れるように木で出来ている。


 要するに、騎兵のランスが届く前に、パイクが届くのを期待する。そして、動きの止まった騎兵に、3m程の長さのハルバートを持った兵士達が、後方から出て騎兵を攻撃する。



 まあ、あくまでも演習なので、木のランスを持って突撃し、それを木のパイクで、迎撃し、木のハルバートで攻撃。


 防御器具は鉄製なので、死人は出ないが、激しい演習で怪我人は出ているようだった。



「見事だね、ガルプハルト」


「はい、さすが皇帝直属軍といわれるだけあって、物覚えも早く。そして、熱心です」


「そう。これなら、すぐにでもやれそうだね」


「えっ、えっと。カール様と戦うって事ですか?」


「ん? ああ違うよ」


「そうですか。では?」


「う〜ん、それは、ひ・み・つ」


「はあ」


「それよりもさ〜」


「はい」


「今日で、一旦いったん、演習終わりでしょ」


「はい」


「じゃあ、行こうよ」


「ああ、なるほど。かしこまりました。では、後ほど」


「うん」


 僕は、演習を見学し、夕方になる前にヴァルダへと戻る。





「マスタ〜、久しぶり〜」


「おっ、これは殿下。ようこそカツェシュテルンへ」


「うん」


 いや~、また、久しぶりになっちゃったよね~。まだ開店前、忙しそうに準備をしているが、


「ですが、皇帝陛下ですか〜、殿下が皇帝陛下。う〜ん、感慨深かんがいぶかいです」


「ありがとう」



 マスターは、忙しそうに仕込みをしつつ、カウンターに座る僕に話しかける。そして、その隣には、かなり若い店員さんが同じように仕込みをしていた。そう言えば、前もいたような気がするが、前は接客をしていたような気がする。



 その時、僕の視線に気がついたのか、マスターが顔を上げて、こっちを見る。


「そう言えば殿下、紹介してませんでしたね~」


「ん?」


 マスターは、そう言って、若い店員さんの手を休ませマスターの隣に立たせる。


「こいつは、下の息子なんですけど、俺の後を継いで料理人になりたいって、言ってくれたんですよ」


「へ〜。あれっ、そう言えば、ハウルホーフェから、来たときに……」


「はい、そうです。お久しぶりです、殿下。マジュンゴの息子のハンスです。よろしくお願いいたします」


「ハンス君か、よろしくね」


 ハンス君は、髪はマスターと同じく黒髪だが、肌の色はマスターよりは、かなり白い。そして、目の色は、黒かった。そして、体格はマスターと違い、ガッチリした感じではなく、スラッとしていた。


「親バカですが、料理の腕もかなりのもので、もうある程度、料理を任せているんですよ~」


「そうなんだ~、楽しみだね。あれっ、そう言えば、マスターの手伝いしていた料理人さんが、他にも居たよね~」


「えっと、何人かいたので、誰の事を言っているのか分かりませんが、だいたいは、独立して自分の店持っていますよ。ああ、ヴァルダの街中に支店作って、それを任せているやつもいますよ」


「そうなんだ~」


 どうやら僕が興味持って見ていなかったからか、分からなかったが、何人かいたようだった。


 そして、支店作ったんだ〜。ヴァルダの街中だったら、川向こうか。今度行ってみるかな?



「まあ、今もハンスの下に、1人入ったので、料理人は若干、飽和気味ほうわぎみなんですけどね」


「へ〜、じゃあ、マスターいらないんじゃない?」


「な、な、な、何を言っているんですか、まだまだ、引退しませんよ!」


「そう?」


「はい」


 マスターは、必死で反論する。


「でも、ほらっ、奥さんと旅行したりさ~」


「確かに、そうですね~。旅行も良いですね。あいつとは、ヴァルダに来た時くらいしか、旅してないですからね~」


「ふ〜ん。ダリアは?」


「はい? ダリアでは、料理修行しましたけど……」


「そう、ダリア詳しいの?」


「ええ、まあ。色々なダリア料理覚えたくて、ネルドアとか、バブルとか、チェリアとか、ロツィアとか、ヴィロナとかにいましたが」


「そうなんだ~。ふ〜ん」


「何ですか?」


「ん? 何でもないよ」


「そうですか?」


 ふふふ、そうかマスター、ダリア詳しいのか~。



「そう言えば、申し訳ありませんでした。殿下、アンディさん、何を飲まれますか?」


「ピルスナー頂戴、キンキンに冷えたやつね」


「俺もっす」


「はいよ!」

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