第132話 グータラ皇帝の即位式⑦

「それは、難しいでしょう」


 ピエールさんは、がっかりとした表情をした。しかし、事実は事実だ。



「そうですか……。では?」


「ランド王国と、講和こうわするしかないでしょうね」


「講和ですか?」


「はい」


 今度は、ピエールさんが、それは難しいでしょうという顔をする。しかし、僕には、考えがあった。


「多分ですが、ランド王国は、フランダース公国にかまっている余裕が無くなると、思います」


「えっ!」


 僕は、説明する。


「エグレス王国に動きがあります。おそらく、エグレス王国の同盟国のババラント公国が動いて、エル伯領と戦いになると思います」


「なっ、それは……、なるほど」


 エル伯領と言ったが、現在、エル伯爵ユニ2世が支配するのは、エル伯領のみならず、ゼーレント伯領に、オレンジ伯領まで支配していた。


 エグレス王国が動いたという事は、狙いは海沿いにあるゼーレント伯領か、オレンジ伯領だろう。


 エグレス王国軍が海から、ババラント公国軍は、陸から侵攻し、前後から挟み撃ちにするように攻略する。


 そして、エル伯領が攻め込まれるとなると、同盟国のランド王国は、援軍を送らないといけない。となると、フランダース公国にかまっている余裕はない。


 なので、そのタイミングで、ランド王国と講和を結ぶというわけだ。だいいち、ピエールさんは、ピエール・ランピエールという名前なのだ。


 元々は、ランド王国のランピエールという小地域を納める領主だったが、今は、フランダース公になっている。元々、ランド王国とは関係が深いはずだ。


 僕が、こう説明すると、ピエールさんは。


「なるほど……」


 そう言って、考え込む。心配症なのかな?


「ですが、もし、その戦いが終わって、ランド王国の目が、再びこちらに向いたら……」


「今度は、エグレス王国を頼れば良いと思いますよ。ランド王国に勝った国。エグレス王国にとっても、是非とも同盟を結びたいでしょうから」


 いやっ、頼るふりだけすれば良いのだ。そうすれば、ランド王国も再び戦いになる可能性を考えて、侵略を諦めるだろう。


「なるほど。だったら最初からエグレス王国と手を結んだ方が……」


 ピエールさんの言葉をさえぎるように、僕は、言葉をかぶせる。


「それこそ、ゼーレント伯領や、オレンジ伯領を放っておいて、ランド王国は、フランダース公国に攻め込んで来ますよ。ゼーレント伯領やオレンジ伯領より、フランダース公国の方が、ランド王国に近いんですから」


「そうですか……、なるほど」


 ようやく、納得したようだった。


「分かりました、ありがとうございます。ですが、何かありましたら、また、陛下を頼らさせて頂きます」


「分かりました。今後とも宜しくお願いいたします」


 そう言って、握手をかわす。フランダース公国に中途半端に手を貸して、その後は放置というわけにはいかない。こうして、ちゃんと話しておけば、こちらの意図いとも伝わるし、後々の為にも良いだろう。



 その後の、ディナーの席で、フランダース公ピエールさんや、招待されていたフランダースや、ルクセレス、そしてゼーレントの商人さん達に、モーゼ川等の水運を使って、マインハウス神聖国の西部地域との交易の充実。さらに、港の使用許可をもらい。これで、主目的は終わった。



 ちなみに、ディナーの料理は、ランド王国の宮廷料理だった。まあ、美味しかった。



 後は、帰るだけだが。その前に。



 門番さんに、脇門わきもんを開けてもらい、こそっと外出する。目的は、城の前の広場にある、飲食店だった。


 さて、どこが良いかな?


 そして、今回も、エリスちゃんと、フルーラもついてきていた。


「せっかく、ルージュワッフルを食べたんですから、もう一方のルクセレスワッフルを食べないと、いけませんね!」


 という事らしい。フルーラ、本当に甘い物好きだね~。それで、太らないのがうらやましい。



 僕達は、その広場の1軒に入る事にした。僕としては、隣のビアバーが良かったのだが、あくまでも、ビアバーで、甘い物が無いそうで諦めた。


 まあ、確かにビアバーでビールもちょっとね~。ボルタリアのビールが好きな僕としては、こちらのビールは、ちょっと違うのだ。まあ、ビール好きじゃないんだろうね。


 だけど、面白そうなのは、面白そうだったんだけど、大きくて長い面白い形をしたビアジョッキで、皆がビールを飲んでいた。皆が、片方の靴がないので、聞いてみると、そのビアジョッキを盗まれないように、片方の靴をお店が預かるのだそうだ。



 店に入ると、今度もテーブル席に通される。カウンターは、常連客の方々で、いっぱいだった。さて、何を飲もうかな?



「飲み物、何にする?」


 おっと、きっぷの良い女性店員さんだった。


 すると、ガルプハルトが、


「グーテル様も、ビールで良いですかね?」


「うん」


「じゃあ、ビール3つね」


「あいよ!」


 おっと、アンディは、問答無用のようだ。


「エリス様は、何になさいますか?」


「ええと、私は、ホットチョコレートかな?」


 エリスちゃんは、ホットチョコレートが気に入ったようだ。


「じゃあ、ホットチョコレート2つで」


「あいよ! で、ビールの種類はお任せで良いかい?」


 おっと、これは困る。


「セゾンビールみたいに、比較的すっきりとしたビールってあります?」


「ちょっと、待っててよ」


 店員さんは、そう言いながら奥に消える。


 店員さんは、しばらくして、頭をかきながら帰ってくると、


「セゾンビールは、この辺りじゃ作ってないって、で、さっぱりっていうと、ホワイトエールか〜、ゴールデンエールだって」


 う〜ん、難しいな~。


 店員さんの説明によると、ルージュよりもさらに、濃い味のビールが好まれるようで、先ほど言った。ホワイトエールや、ゴールデンエール、そして、アビイビールが……。


 あっ。え〜と、ホワイトエールは甘い感じがして、ゴールデンエールは、アルコール感が強くて、そして、アビイビールは、濃すぎて好みじゃないのだった。僕って、わがまま?


 さらに、この地域独特のランピックビールや、レッドエールは、さらに味が独特なそうで、おすすめ出来ないそうだ。


 レッドエールは、濃い液色からは想像できないような、 甘酸っぱい味が特徴なのだそうだ。対して、ランピックビールは、ルクセレス近郊でのみ作られ、大気中に生息する自然酵母しぜんこうぼやバクテリアを利用して発酵はっこうさせ、長い時間をかけて熟成じゅくせいさせ、柑橘系かんきつけいや動物の香りにもたとえられる独特の香りと、強い酸味が特徴なのだそうだ。


 う〜ん、無理っぽい。と思ったのだが、後々、ガルプハルトのを飲ませてもらったら、ランピックビールは、白ワインぽく、レッドエールは、赤ワインぽくて、逆に美味しく後半は、レッドエールを中心に飲むことになったが、今は。



「じゃあ白ワインください」


「あいよ!」


 周囲を見回すと、ワインを飲んでる方々もいたので、頼む事にしたのだ。聞くところによると、ニーザーランドでは、ほとんどワインは作っていないそうだが、ランド王国の北部や、オクセンタス公国辺りで作られたワインが運ばれているそうだ。



「あいよ!」


 しばらく、話していると、店員さんが、飲み物を運んでくる。


 ガルプハルトには、ゴールデンエールが、アンディには、ホワイトエールが置かれる。僕には白ワイン。そして、エリスちゃんとフルーラの前にはホットチョコレートが置かれる。


 そして、乾杯の前に、フルーラ、僕が動く。


「すみませんワッフルください」


「あいよ。で、トッピングは?」


「チョコレートに、ホイップクリームに、いちごを2つずつ」


「じゃあ、私は、ホイップクリームといちごで。ああ1枚ずつで大丈夫です」


 エリスちゃんも、すかさず注文する。


「ええと、あいよ」


 店員さんは、ちょっと考えてすぐに考えるのを止めたようだ。


 さて、僕は。


「ワーテルゾーイと、ムール貝ください」


「あいよ。え〜と何個ずつ?」


 店員さんに聞くと、ワーテルゾーイは小さいのがあるそうで、3つ。そして、ムール貝は大きめのがあるので、それを1つ頼んだ。ガルプハルトは、後、肉料理を食べたいようだが、少し待ってもらうことにした。



 ワーテルゾーイとは、肉類をでた煮汁にじるにクリームと卵黄をいれて作るデントの郷土料理。


 ワーテルは、水。ゾーイは、ごちゃまぜという意味で、元々は川魚かわざかなを使う料理だったが、庶民しょみんに手の届く、より安価あんかな材料として鶏肉が使われるようになったそうだ。



 そしてムール貝。タマネギやリーキとともにし煮にした、ムール貝のビール煮という郷土料理だった。



 そして、


「じゃあ、旅も終わりだね。お疲れ様でした。乾杯!」



 そして、待っていると、まずは、ワッフルと、ワーテルゾーイが運ばれてくる。


 ルクセレスワッフルは、ルージュワッフルが楕円形だえんけいなのに対して、四角形だった。そして、生地きじも、パイのように、サクサクなのだそうだ。軽い生地に、トッピングを加え食べるのが、ルクセレスのスタイルなのだろう。


 というわけで、フルーラも手づかみとはいかず、苦労して食べていた。


 サクサクサクサク。実に軽い音がする。


「うん、これはこれで美味しいです」


 フルーラの言葉から、ルージュワッフルの方が好きなようだ。


 そして、フルーラは、トッピングをミックスして、美味しい食べ方をみつけたようだった。いっぱいのホイップクリームをワッフルにつけ、その上にストロベリーソースをつけて、さらに最後、チョコレートクリームを少量すくって食べる。うん、美味しそう。


 エリスちゃんも、真似して、チョコレートは無いものの、ホイップクリームといちごのソースで食べていた。僕も後で食べてみよう〜。



 で、僕達は、ワーテルゾーイだ。クリームだが、濃厚過ぎず、野菜の旨味もあり、あっさりと食べれる。今回は、鶏肉がメインだったが、川魚や、海鮮のも飲んでみたいな〜。


 ガルプハルトも、アンディも夢中で食べていると、ムール貝が運ばれてくる。


 えっと……。すさまじい量だった。金属製のたらいみたいなのに入っていた。これをタルタルソースにつけて食べるらしい。ニーザーランド南部の人達は、濃厚なの好きね~。



 僕は、ムール貝を食べてみる事にした。ニンニクの香りがたっている。口に入れるとふわっとした濃厚なムール貝の味がする。そして、噛めば噛むほど、口の中に旨味が広がる。


 うん、美味しい。そして、白ワイン蒸しより、身がふわっとしていて、いその香りも強くなく。まろやかだった。大満足。



 その後、僕はお腹いっぱいになってしまったが、ガルプハルトは肉料理を食べて満足そうにしていた。



「それで、グーテルさんにとって、この旅は、有益ゆうえきだったんですか?」


 ビールを飲みつつまったりしていると、エリスちゃんが僕に話しかけてきた。


「うん、有益だったよ」


「そうですか、良かったです」


「うん、思ってた以上にね」


「そうなのですか?」


「うん、僕はフランダース公国の港をって思っていたんだけど、どうやら、ババラント公や、エノー伯も興味持ってくれたみたいでね」


「そうなのですか? お会いになっていないですよね?」


「うん、直接わね。でも、ルクセレスの商人さんや、ゼーレントの商人さんが、わざわざ顔を出してきた。まあ、さすがに勝手に、フランダース公国に来るわけないから、ババラント公や、エノー伯の指示があったんだと思うよ」


 ピエールさんは、商人さん達が陛下が来られるなら是非とも同席させて頂きたいと言っていましてね~、なんてのんきな事を言っていたけどね。


「そうなのですか、良かったですね」


「うん」


 僕は、一人で満足感にひたっていた。それを見て、エリスちゃん、ガルプハルト、アンディも満足そうだった。フルーラは、さっきからガクガクと、前後に揺れているけどね~。寝てるのかな?


 まあ、こんな感じで、デントの夜はふけていった。



 後は、ヴァルダへと帰るだけだけど、遠い〜。距離にして850km以上。日数にして20日以上かかる。休みつつ帰るから1ヶ月くらいかかるかな~。

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