第130話 グータラ皇帝の即位式⑤

 僕達は、キーロンを出ると、迂回うかいしていた三聖者と合流し、アーデンへと向かった。


 アーデンには、2日程で到着する。はっきりしないが、はるか昔、アーデンは、帝都でもあったようだ。実は、帝都なのかはっきりしないが、この辺りに、本拠地があったのは確かなようだ。



 はっきりしている事は、アーデンは、温泉療養地として栄え、初代マインハウス神聖国皇帝カルロス大帝が、即位式を行った事により、慣例として歴代のマインハウス神聖国の君主の即位式が行われるようになった事だった。


 ただ、あまりにもはじにあるので、領邦諸侯が集まるのが大変だと、最近ではミハイルで行うことが多い。


 その即位式が行われるのが、古典主義様式で神聖暦786年に建築が始まった、宮殿教会と呼ばれる聖堂だった。その後の600年ほどで、ビザンチン様式、マインハウス様式で増築され、今の姿の大聖堂になっていた。


 そして、この宮殿教会には、カルロス大帝が埋葬されている。その大帝に即位式を見て頂くって事なのかな?



 結局、即位式自体は、ミハイルで行った事と全く同じだった。二度手間にどでまのような気がするが、仕方が無い。



 そして、


「我々は、これにて失礼致します」


「皆様、ご苦労さまでした」


「はい、グルンハルト陛下は、お気をつけて」


「ありがとうございます」



 僕達は、三聖者とお別れし、せっかくここまで来たんだし、ちょっと寄ってみたい所に向かう事にした。


 さらに、400名の近衛兵団このえへいだんの方々も、僕が帰ったというていで、戻ってもらい、フルーラ、アンディと、残りの近衛騎士の方々と共に、向かう事にした。そう言えば、ガルプハルトもついて来るそうだ。


 これで、ちょっと自由に動ける。かな?


 で、向かう先は、ニーザーランドだ! 




 ニーザーランド周辺地図

 https://kakuyomu.jp/users/guti3/news/16816927861056943699




 ニーザーランドは、低地の地方と言う意味だ。元々は、この辺りに帝都があったマインハウス神聖国の一応は、領土だった。しかし、ニーザーランドの東部は今でもマインハウス神聖国の領土ではあるものの、ただ北部は完全に独立状態だし、南部はランド王国、そして西部は、エグレス王国の影響力が強くなっていた。



 そんな中、今回の目的地はニーザーランド南西にある、フランダース公国だった。影響力を強めようとしたランド王国に対して、エグレス王国の力で、ランド王国に対抗しようとして失敗。ルージュ司教経由で、マインハウス神聖国に援助を求めてきて、ちょっと手助けしたのだった。



 というわけで、マインハウス神聖国のルージュ司教領、そして、フランダース公国の同盟国ナチュレ伯領を通って、フランダース公国に行こうと思う。まずは、ルージュ司教領だった。



 ルージュ司教ハロルドさんは、どちらの即位式にも参加いただき。アーデンからも同行して、道案内して頂く事になっていた。



「いやあ、それにしても素晴らしい即位式でした。戴冠式たいかんしきも見たいところですが、教主様が、こちらに来られるのは難しそうですな~」


「確かに、今は、難しいかもしれませんね。ですが、チャンスがあればダリア地方に行くつもりです。そして、どこかで、戴冠式を出来れば良いな~と」


「そうですか……。テリント辺りまで、来てくださるでしょうか? それとも、ヴィロナか、ゼニアか……」


 そうハロルドさんは、僕がダリア地方に乗り込んだ場合、神聖教教主様が、どこまで来てくれるかを言っているのだ。


 テリント司教領は、ダリア地方にあるがマインハウス神聖国の領土だし、他の小諸侯よりは、安定している。が、教主庁からは、ちょっと遠い。


 そして、ヴィロナ公国は、マインハウス神聖国の影響下にはない。しかし、教主派であり、教主様にとっては安全だ。そして、ゼニア共和国は、僕とは最近良好な間柄あいだがらだし、元々教主派の国であり、教主様としても行きやすい。という感じで、この辺りまでは来てくれるかな~? って希望的な観測を言っているのだ。


「実際にやってみないと、分かりませんよ」


「そうですな。これは、失礼しました」


 という感じで、馬上で話しつつ、ルージュへと向かった。ルージュへは、1日とちょっとで到着する。



 そして、ルージュの街に入る。キーロンと見比べると、建物が質実剛健しつじつごうけんと言って良いのだろうか? シックな印象を受ける。これが、宗教都市と商業都市の違いだろうか?


 石畳の道を進むと、聖パウロス教会が見えてきた。キーロン大聖堂と比べちゃうとあれだけど、大きな教会だった。



 そして、ハロルドさんに、招待を受けディナーを食べつつ、歓談する。何度も言うが、ディナーを食べるのは、お昼だ。夜は軽食、サパーね。



 そして、夕方。僕は変装し、こそっと外出する。


 しかし、エリスちゃんに見つかる、が……。


「え〜と、エリスちゃん、その格好なに?」


「グーテルさんと、同じです」


「えっ! ああ、そうなんだ。じゃあ、行こうか」


「はい」


 というわけで、外出。久々の、ぐうたらライフ……。まあ、ちょっとだけだけど。


 そして、エリスちゃんの隣には、珍しくフルーラがいる。


「ワッフル〜、ワッフル〜、ワッフル〜」


「フルーラ、どうしたの?」


 僕がエリスちゃんに聞くと、エリスちゃんは。


「フルーラさん、甘い物好きでしょ」


「うん」


「それで、どうしても食べたいって言って」


「そうなんだ」


「まあ、私も食べたかったので」


「なるほど」



 聖パウロス教会の前は、広場になっていて、そこに多くの飲食店が並んでいる。そのうちの1軒が目的地だった。僕達は連れ立ってお店に入ると、テーブルに案内される。


 飲むには早い時間だが、お店の中は、にぎわっていた。



「お飲み物は、何になさいますか?」


「ワッフル!」


「えっ! ワッフルですね。かしこまりました」


「フルーラ〜、ワッフルは飲み物じゃないよ」


「あっ、はい。え〜と……」


 フルーラが、考えているうちに、僕達が頼んじゃおう。ニーザーランドと言えば、ビール!


「えっと僕達は、ビールください。えっと……」


「俺も」


「俺もっす」


 ガルプハルトと、アンディもビール。


「エリスちゃんは?」


「ええと、私は……、ホットチョコレートで」


「えっ! ホットチョコレートってあるんですか? エリス様」


「えっ、うん、ほらっ、ここに」


 フルーラの剣幕けんまくにちょっとびっくりしつつ、エリスちゃんが、メニューを指差す。


「じゃあ、私も、ホットチョコレートください! それと、ワッフル!」


 甘い物にさらに甘い物を飲むのか~、女性って凄いな~。


 フルーラの勢いに、圧倒されつつ店員さんが返す。


「か、かしこまりました。ええと、ワッフルですが、種類がありまして……」


「プレーンと、ブラウンシュガーと、シナモンシュガーを2枚ずつ」


「は、はい、かしこまりました」


 すると、エリスちゃんも、


「私も、プレーンと、シナモンシュガーください。あっ、1枚ずつで良いですよ」


「かしこまりました。あっそれと、ビールですが、種類がありまして……」


 店員さんいわく、アビイビールは、修道院で作られるビールで、高いアルコールとコクが特徴。ゴールデンエールは、高アルコールで黄金色こがねいろが特徴。ホワイトビールは、小麦を使ったビール、白い色味いろみと小麦特有の味わいが特徴。セゾンビールは、農家が寒造かんづくりとして、夏に飲むために冬に仕込む、長期保存ができるようにホップ強めが特徴。だそうだ。


 ええと、どれにしよう。と、ガルプハルトと、アンディが、


「俺は、アビイビールを」


「じゃあ、俺は、ゴールデンエールっす」


 僕は、やっぱりすっきりしたのが好きだから。


「僕は、セゾンビールで」


「かしこまりました」



 注文が終わり待っていると、少しして、店員さんがビールを持ってくる。そのタイミングで、ガルプハルトが、目的の物を注文する。


「ブレをもらおう」


 ブレとは、ルージュ名物の肉団子にくだんごだ。牛と豚の合いき肉を玉ねぎのみじん切りに合わせ、塩胡椒しおこしょうで味付けし、スパイスを合わせ、よくねて、肉団子に形成。それを油で焼く。ソースは、飴色あめいろになるまでいためた玉ねぎに、赤ワインビネガーと、ビール、そしてシロップを加え熱を通し、肉団子と合わせる。こんな感じの料理だった。



「はい、かしこまりました。個数はいくつですか?」


「とりあえず10個だ」


「かしこまりました、フリッツにマヨネーズはつけますか?」


 フリッツは、要するにポテトフライ。ルージュでは、マヨネーズで食べるのが鉄板のようだ。


「ああ、頼む」


 店員さんが、ビールを置いて去って行く。エリスちゃん達のホットチョコレートは、まだのようだが、とりあえず。


「じゃあ、乾杯!」


 僕は、さっそく、セゾンビールとやらを飲ませてもらう。


 ごくっごくっプハー。


 って。エリスちゃんににらまれた下品げひんだったかな?


 ほのかにさわやかな香りがただよう。そして、味はさっぱりしているが、ほのかな甘みと酸味、そしてさわやかだがしっかりとしたホップの苦味が口に広がる。本当にごくごく飲めるビールだ。これは、ブレに合いそうだ。



 その後はペースを落とし、チビチビと飲んでいると、エリスちゃん達の、ホットチョコレートと、ルージュワッフルが運ばれてきた。


「うわ~、良い香り。美味しそうね、フルーラさん」


「はい、良い香りです」


 エリスちゃんに言われて、そう答えたフルーラだったが、どこか不満そうだった。


 そう、フルーラの眼の前には、3枚のワッフルがあった。プレーンと、シナモンシュガーと、ブラウンシュガーのワッフル。そう、フルーラは2枚ずつ頼んだのだが、1枚ずつしかきていない。だが、店員さんが気をつかって、温かい物を食べてもらおうと、2回に分けてくれたのだろう。


 フルーラ、やめなさいって。私、2枚ずつ頼んだんですよ、分かってますか? って顔は。



 はぐっはぐっはぐっはぐっはぐっ。


 フルーラが、ワッフルに手づかみでかじりつく中、エリスちゃんが、こちらも手づかみだが、少しずつちぎって優雅ゆうがに口に運ぶ。


「うん、外はカリカリ、中はふわふわ、生地にもしっかり味があって、美味しい〜。グーテルさんも食べます?」


「いやっ、後で、デザートで食べるよ」


「そうですか。んっ、美味しい〜」


 だそうだ。実は、この後の移動先でも、ワッフルを食べる事になる。僕は、どちらかというと、ルージュのワッフルが好きだった。



 はぐっはぐっはぐっ、グビグビグビッ。


「すみません、おかわりを」


「えっ、はい。少々お待ちください」


 フルーラがあっという間に食べ終わり、店員さんが、あわてて奥へ駆けて行く。それと入れ違いに、別の店員さんがやって来て僕達の前に、ブレとフリッツを置く。


 さっきも言ったが、ブレは肉団子、フリッツはポテトフライだ。ガルプハルト曰く、あぶらあぶらで最強なのだそうだ。


「さあ、食べようか」

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