第127話 グータラ皇帝の即位式②

 僕の即位式は、1304年6月29日に行われた。場所はミハイル大司教領ミハイル大聖堂だった。


 ミハイル大聖堂の中には、1000人を越える人々が着席し、その時を待つ。



「あわわわわわわ」


「グーテルさん、しっかりしてください」


「だって、エリスちゃん〜」


「もう、せっかくの晴れ舞台なのですよ」


「わかってるけどさ〜」


 僕は、大聖堂の主聖堂しゅせいどうの扉の前で、緊張の極地をむかえていた。隣にはエリスちゃんが居て、落ち着いた感じで、僕を見つめている。



 僕は、そっと目の前の扉を開き、主聖堂を覗き込む。


 最前列中央通路をはさんで、左側の一番通路寄りには、トンダルが座っていた。その隣には、何故かお父様とお母様が座っていた。良いのかな?


 そして、さらにその隣には、フォルト宮中伯ランドルフさんがというように、選帝侯が並び、その後方には領邦諸侯が座る。


 中央通路を挟んで反対の席には、ランド王国国王フェラード4世が、その隣には、王弟チャルロ卿が座り、さらに、そのすぐ後方に、ダールマ王国国王ハールイ1世が座り、その隣には、ワーテルランド王国国王バルデヤフ1世が座っていた。その一列後方から、王族以外の海外からの来賓らいひんが座っていた。



 そうそう、結局、ワーテルランド王国は、ヴェーラフツ3世陛下の死後、農民達の支持を受けたバルデヤフさんが、ワーテルランドを統一。国王へと昇りつめた。


 そして、ダールマ王国は、ミューゼン公ロイエンテールさんを倒して、ハールイ1世が即位した。ハールイさんは、現在16歳。お父さんもアンドラーテ3世陛下の対抗馬として、大貴族に担がれていたが敗北。アンドラーテ3世陛下の死後、子供がリベンジを果たしたようだ。





 大聖堂の扉が開く。教会の中に太陽の光が入り、明るくなる。そして、聖歌が修道士、修道女さん達によって歌われる。



 その中を歩く、ふわふわして雲の上を歩いているようだった。僕の隣には、エリスちゃんが堂々と歩いている。そして、僕の後ろには、ミハイル大司教ペーターさん、そしてトリスタン大司教ヴェルウィンさん、キーロン大司教ジークフリートさんがゆっくりと進む。



 僕は、白地に金の刺繍ししゅうを施された荘厳そうごんな服装だった。エリスちゃんは、真っ赤なドレスを来ている。


 これは、採寸して僕達の体型に合わせて作られた新しい物だった。



 僕の後ろを歩くペーターさん達は、それぞれ、マインハウス神聖国の宝物ほうもつを持っていた。ペーターさんが、赤地に金の刺繍が施されたマントと、その上に置かれた王冠を。ヴェルウィンさんが、王笏おうしゃくを、ジークフリートさんが宝珠ほうじゅを持ってゆっくりと歩く。



 マントは、新しく作られた物だが、王冠、王笏、宝珠は違う。どこから使用されていたか分からないが、歴代のマインハウス神聖国の君主が即位式の時に使用したものだった。



 マインハウス神聖国の王冠は円形ではない珍しい八角形の形をしている、22金のゴールドで作られ、八角形の前面部には、十字架が取り付けられていた。


 王冠に取り付けられた宝石は、144個のサファイア、エメラルド、アメジスト等で、古のダリア帝国では、気品きひんの象徴と言われた緑や青の石だった。さらに、ほぼ同数の真珠で飾られている。


 宝石は、丸みを帯びた形状に研磨されている。この技法は古のダリア帝国の技法であり、このような宝石は「カボションカット」と呼ばれるそうだ。真珠と宝石は金属に切り込まれた開口部に入れられ、細いワイヤーでとめられていた。その効果は、光が当たると、宝石はまるで内部から輝いているように見えるのだそうだ。


 まあ、要するに、素晴らしい王冠だった。重いだろうな~。首折れないかな?


 ちなみに皇帝冠では無く、王冠だ。皇帝冠は、鉄冠と呼ばれ神聖教の聖遺物でもあり、簡単にマインハウス神聖国に持ってくる事は出来ないのだ。お祖父様の時は、その時の神聖教教主様が持ってきて戴冠式を行ったけど、そのまま持って帰ったそうだ。



 続いては、宝珠だった。神聖教の発展にともない、世界に対する神聖教の神の支配権の象徴として、球体の上に十字架が付けられた。球体は世界の象徴であり、十字架は神聖教の象徴だった。こちらも22金で作られていたが、宝石などはなくシンプルなものだった。


 最後に王笏だ。王笏とは、杖の事であり君主が持つ象徴的な物だった。この王笏も22金で作られ、先端に大きな青い宝石と十字架が取り付けられていた。


 この王冠、宝珠、王笏がマインハウス神聖国の君主の象徴だった。



 僕は祭壇さいだんに昇り、そこに設置された玉座ぎょくざに座る。その隣には、エリスちゃんも座っていよいよ即位式が始まる。



 そして、即位式の進行役は、


「これよりマインハウス神聖国皇帝グルンハルト1世陛下の即位式を行います」


 なんと、キーロン大司教ジークフリートさんだ。ジークフリートさんは、ダリア王国大宰相して、ダリアの大書記官長。だからなのだろうか?



しゅよ、私たちの祈りとあなたのしもべの祈りを聞いてください。全能の神よ我々を穏やかに見つめ、あなたの栄光の、全能の永遠の神、あなたのしもべ……」


 ジークフリートさんが、祈りの言葉を捧げ神に祈る。


 すると、修道士、修道女さん達が、


「見よ、私は私の天使を送る……」


 とおごそかに、アンティフォナを歌う。


 アンティフォナとは、簡単に言うと、掛け合いのように歌う聖歌である。


 そのアンティフォナが大聖堂の中に響く中、ジークフリートさんの祈りの言葉が続く。ラテン語なので、所々しか分からない。もっとちゃんと勉強しておけば良かったのだが。


「人類を知っている神……。天と地の全能で永遠の神……」


 そして、ジークフリートさんは、僕の方を向き、質問を始める。まあ、これも伝統であり、儀式なのだ。さあ、間違えないようにしないと。え〜と。


「あなたは、聖なる信仰を擁護しますか?」


擁護ようご致します」


「あなたは、聖なる教会を守りますか?」


「守ります」


「あなたは、ダリア王国を守りますか?」


「守ります」


「あなたは、マインハウス神聖国の法律を維持しますか?」


「維持します」


「あなたは、正義を維持しますか?」


「維持します」


「あなたは、神聖教教主様達への正当な服従を示しますか?」


「示します?」


 ジークフリートさんは、


「では、グルンハルト陛下。先程の言葉が嘘ではない事を、神に誓ってください」


 僕は、立ち上がりひざまずくと祭壇に二本の指を当てて、


「誓います」



 続いてジークフリートさんは、


 列席者の方を向き。


「選帝侯会議において、グルンハルト陛下が、マインハウス神聖国の皇帝に選ばれました。あなた方は、それを受け入れますか?」


 すると、領邦諸侯達は、


「受け入れます、受け入れます、受け入れます」


 三回繰り返し答える。



 これを聞き、ジークフリートさんは、また祈りの言葉を捧げる。



「祝福しなさい、主よ、この王、グルンハルトに祝福を。父と子と聖霊の御名みなにおいて、アーメン」


 ジークフリートさんは、そう言いながら、僕の頭、胸、肩に聖油せいゆを注ぐ。もちろん少量だが。おっと、冷たい。それに気持ち悪いが、がまんがまん。



 それから僕の両手の手のひら取りつつ、


「王と預言者に油そそがれ、サムエルがダビデに油を注いで王になるように、これらの手に油を注がせてください。あなたの神はあなたに支配と統治を与えました。彼はそれを保証し、父と聖霊と共に生き、統治します」


 そして、僕の両手の手のひらに聖油を注ぐ。



 すると、今度は、トリスタン大司教ヴェルウィンさんが、僕の前に立つ。そして、マントを広げ、


「この王族の尊厳そんげんのしるしである、マントを授けます」


 という言葉を僕にかけつつ、僕の肩にマントをかける。そして、僕の頬に頬を寄せる。



 続いては、ミハイル大司教ペーターさんが、


「王笏、美徳びとくの棒を受け取りなさい」


 そう言いながら、僕の右手に王笏を渡す。そして、僕の頬に頬を寄せる。



 続いて、キーロン大司教ジークフリートさんが、


「宝珠、栄光のしるしを受け取りなさい」


 そう言いながら、僕の左手に宝珠を渡す。そして、僕の頬に頬を寄せる。



 最後に、三聖者が共同で、王冠をかかげる。


「王のしるしにして、権威と名誉のあかしたる、この王冠を受け取りなさい」



 そう言いながら、三聖者は、かがみ頭を下げた僕の頭の上に王冠を置く。重っ。ちょっとまずい。



 そして、三聖者は祈りを捧げる。そして、祭壇にあらかじめ置かれていた僕の剣を手に取り。僕の肩に当てる。


「名誉と栄光は、無限の時代を通してあなたのものです。アーメン」


「この剣は、価値はないが、聖なる使徒たちの場所と権威に奉献ほうけんされています、私たちの手によってこの剣を受け取り、私たちの祝福をもってあなたに届けてます。神聖に定められた聖なる教会の防衛のためにつかえ、誰が預言よげんしたかを思い出してください」


 それに対して僕は、


「私は神の目の前で約束し、誓います」


 と宣言すると、僕は立ち上がり剣を頭上で振る。


 そこで、修道士、修道女さん達が、レスポンソリウムを歌う。レスポンソリウムは、独唱とそれに応じる合唱で、


「私の魂はあこがれです。そして王は、しっかりと立ち、しっかりと握りなさい……」


 というような歌が、大聖堂に響く。



 続いてエリスちゃんだ。



 今度は、ミハイル大司教ペーターさんと、トリスタン大司教ヴェルウィンさんが共同で、祈りを捧げつつエリスちゃんの頭に聖油を注ぎ、エリスちゃんの頭に、王妃の冠をのせる。


 エリスちゃんは、これで終わりだ。



 その後、列席者の方々は、ラウドインペリアーレを唱える。ラウドインペリアーレは、皇帝を祝福する歌だ。



 ラウドインペリアーレが響く中、僕とエリスちゃんは、祭壇に向かい。


「全能の永遠の神、泉、そして善の源……」


 等と祈りつつ、僕はパン、ろうそくを祭壇に捧げ、さらに三聖者にワインを注ぎ、エリスちゃんは聖杯に水を注ぐ。


 その後、僕は列席者の方を向き、両手を左右に大きく開き斜め上に挙げる。そして、


「主の名において、私、皇帝グルンハルトは、神と祝福された使徒の前で、私がこの神聖なる教会の保護者であり擁護者ようごしゃであると約束し、誓約せいやくし、保証します。しかし、私の知識と能力に応じて、神の援助によって支えられている限り、多くの人を助ける事を誓います」


 これが、僕のマインハウス神聖国皇帝としての宣誓文せんせいぶんだ。そして、


「私は祖父ジーヒルホーゼが整え、叔父アンホレストが育てたマインハウス神聖国を、さらなる文化、経済において繁栄させ、世界に誇れる国にする事を誓います」


 そう宣言する。


 そして、ジークフリートさんが、


「ここにマインハウス神聖国皇帝が誕生しました」



 大聖堂に万雷ばんらいの拍手が響いた。



 叔父様の時と同じだったから、書かなくても良かったかな〜?

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