第125話 マインハウス神聖国の未来⑩

 フルーラが落ち着いたところで、皆に指示を出す。


「ライオネンさんは申し訳ないけど、ノルンベルク城で騎士団と合流して、いったんヴァルダに行って、エリスちゃんと合流して、ミハイルに向かって」


「かしこまりました」


 ライオネンさんは、そう言って頭を下げて、部屋から出て行った。


 本当に、二度手間にどでまになってしまうが、ライオネンさんにノルンベルク城にいる1000名の騎士と合流して、ヴァルダに行き、そして、エリスちゃん達を護衛しつつ、即位式が行われるミハイル大司教領のミハイルへと向かってもらうのだ。


 本来、ガルプハルトが良いかと思うのだが、ガルプハルトはまだ試合がある。アンディ、フルーラは僕の護衛に残ってもらいたい。そして、ヴァルダにいるフェルマンさんは、ヴァルダを離れるわけにはいかない。というわけで、ライオネンさんしかいないのだ。


「後は、フルーラ。皇帝近衛団こうていこのえだんへの指示をお願いね」


「え〜〜〜! わ、わたしがですか?」


「そうだよ、他にいないでしょ」


「ガルプハルトさんとか、アンディが……」


「ガルプハルトは、まだ試合あるし、アンディは、あくまでフルーラの補佐役で、それに、僕の警護けいごにどちらかには居てもらわないといけないし」


「はい、分かりました〜」


 不満そうな、フルーラ。何が、不満何だろ?


 フルーラが、不満そうに、こっちをちらちら振り返りながら、部屋を出て行った。



 すでに、元々大聖堂の警備にあたっていた方々がいたのだが、それが、皇帝近衛団というらしい。その数、400名。それが僕が皇帝に決まった事により、僕の警護もしてくれるのだそうだ。


 そして、皇帝近衛団には、団長は居なくて、数人の隊長のみ。そこで、フルーラを団長に、アンディを副団長につけようというのだ。


 だからフルーラが、その皇帝近衛団に団長として、指示出すのは当然なのだが、何が不満なのだろうか?



 で、後は。


「オーソンさん、引き続きカールの動きを見張っていてね」


 結局、カールは、明らかな敵対行為はすることなく、あっさりとしていた。そして、信任投票が終わるとさっさと、ヴィナール公国に向けて出発した。戦う準備でもするのかと、ちょっと考えて、オーソンさんに引き続きの警戒をお願いしているのだ。


「かしこまりました。それで、ザイオン公や、複数の諸侯も、共にヴィナールに向かっているようでして……」


「そうなんだ……」


 何をする気だ? 複数の諸侯と一緒に? 戦う気じゃなさそうだ。戦う気なら、それぞれの国に帰って戦う準備をするだろうし、皆で、ヴィナールへというのはおかしい。


「まあ、何かする気だろうけど、とりあえずは、様子見だね」


「はい、かしこまりました」



 というわけで、後は。ガルプハルトの試合だ!





「ミハイル大司教臣下、戦う城塞じょうさいアンドレアス! 対するは、ボルタリア王臣下、英傑えいけつガルプハルト!」


 トンダルの声で、二人は闘技場へとあがる。二人共に大きいが、頭ひとつ分くらいアンドレアスさんの方が大きい。



 アンドレアスさんは、入場口も結構な高さがあるのだが、そこを頭を下げてくぐるように出てくる。大きいと思っていたガルブハルトでさえ、普通に入場したのにね。身長は、およそ2m20cmくらい。ガルプハルトが192cmくらいだったから、そんな感じだ。

 

 体格が大きい。これは、最大パワーも大きいということだ。これで愚鈍ぐどんであれば、そのパワーも無駄になるのだが。そんな人物が、この戦いに出てくるわけはない。



 闘術とうじゅつは文字通り、お互い武器を持っていないだけで、よろいで全身を覆い、その身一つで闘う試合だった。


 試合を見てると、戦い方は色々で、相手をなぐり倒したり、タックルして押し倒したり、関節を極めたり色々だった。



 ガルプハルトは、相手の攻撃をしのぎつつ、相手のふところに飛び込んでテイクダウン、そして、上から攻撃という戦い方が、多かった。対して、アンドレアスさんは、その巨体を利用して、パワーで圧倒してという戦い方だった。


 全勝対決。さて、どんな戦いになるかな?



「始め!」


 開始の掛け声がかかった瞬間、アンドレアスさんが動く。両手を威圧いあつするように斜め上方にかかげて、前進する。


「ウォオオオオ〜!」


 アンドレアスさんの突進を、ガルプハルトは冷静に対処する。アンドレアスさんは、ガルプハルトを捕まえる為に、手を前方へと突き出していた。それを、手ではじくように防御しつつ、闘技場を円を描くように、下がる。そして、すきがあるタイミングで、足で、アンドレアスさんのすね辺りを蹴る。


 ガッキーン!


 鎧同士がぶつかる甲高い金属音が響くが、アンドレアスさんにダメージはなさそうだった。


 と、ガルプハルトが素早く動く、アンドレアスさんの左側にまわりこむと、下半身に向けて強烈なタックルをかける。そして、アンドレアスさんの左脚の膝裏ひざうらに両手をまわすと、アンドレアスさんの左脚を持ち上げつつ、肩でアンドレアスさんにタックルするように、押し込む。


 すると、アンドレアスさんと、ガルプハルトがもつれ合うように倒れ、ガルプハルトは、アンドレアスさんの上にのしかかる。


 ガルプハルトは、アンドレアスさんの腹の上辺りに座り、下で仰向けになっているアンドレアスさんに、攻撃をしようとするが、アンドレアスさんの長い手に邪魔され、攻撃しにくいようだった。


 そして、アンドレアスさんの両腕が、ガルプハルトの鎧をつかみ、ガルプハルトを放り投げるように、脱出する。


 お互いが素早く反転し構える。見事な攻防だった。


 闘技場に大歓声と拍手が響く。



 そして、アンドレアスさんは戦い方を変える。長い手足を利用して、殴りかかったり、蹴ろうとする。だが、こっちの攻防の方は、ガルプハルトのテクニックに圧倒される。


 長い手足を振り回すようにアンドレアスさんは、攻撃するが、ガルプハルトは、素早く避けつつ、懐に入ると、素早く攻撃し、距離をとる。まあ、全く、アンドレアスさんの攻撃が当たらない。


 ガルプハルトは、パワーだけじゃないんだね~。



 しばらくの攻防の後に、再びガルプハルトが、アンドレアスさんをテイクダウンすると、アンドレアスさんは戦意を喪失そうしつ。降伏する。


「勝者、ボルタリア王国臣下英傑ガルプハルト!」


 ガルプハルトが、ヘルムを外し、小脇に抱えつつ、歓声に応える。


 アンドレアスさんも、そんなにダメージないようで、同じくヘルムを外し、ガルプハルトと握手をかわし、歓声に応える。


 アンドレアスさんの優しそうな顔がのぞく。抜けるように白い肌と、オレンジ色の髪。マリル人である、アンドレアスさん。遠く西方の島からやって来たのだろうか?



 こうして、ボルタリア王国は、僕とライオネンさん以外は、優勝という輝かしい成績をあげる。



 そして、僕は。


「シャーマート」


「ううう、ありません。負けました~」


 僕の完敗だった。全くトンダルは容赦なく、僕を叩き伏せた。これで僕は一勝六敗。見事、最下位だった。二勝はしたかったな~。


「グーテルは、戦いの用兵は見事なのに、シャトランジは駄目ですね」


 ちょっと、得意気なトンダル。ちょっとイラッとする。トンダルは、全勝優勝だった。


「優勝決まっているんだから、ちょっとは手を抜いてくれれば良いのに〜」


「そういうわけにはいきません。勝負の世界は厳しいのですよ」


「ちぇー」


 僕は、周囲を見回す。大聖堂の大広間には、結構大勢の諸侯の皆さんが集まっていた。女性もわずかにいるが、ほとんどは男性だった。うん、地味な戦いだからね~。


 諸侯の方々は、真剣な顔で、僕とトンダルの戦いを振り返って周囲の人と議論していた。



「いやっ、最初はびっくりしましたが、最初だけでしたね~」


 とか。


「う〜ん。意外と好勝負でしたな~」


 とか。そういう声が聞こえた。意外と良かったようだった。



 まあ、これで、選帝侯会議での全ての行事が終わった。


 そして、我がボルタリア王国は、フルーラ、アンディ、ガルプハルトの活躍で、対抗戦でもトップだった。ライオネンさんや、僕の成績はまるっきり影響なし。良かった良かった。


 後は……。ミハイルに向かうのだけど。三聖者は、すでにミハイルに向けて旅立った。フォルト宮中伯は、何か悩んでいたが、ミハイルに向けて出発した。ザイオン公は、ヴィナールに向かった。どうする気だろうか?



「は〜、皇帝か〜」


「どうしたのだ? グーテル」



 即位式に向けて出発する前夜、僕と、お父様、そして、トンダルの3人で夜。サパーと呼ばれる軽食を食べつつ、ワインをたしなんでいた。


「いやっ、僕が皇帝か〜と思って」


「そうか、成りたくなかったか?」


 お父様の質問に僕は。


「いえっ、そういうわけでもないのですが……」


 僕は、お父様を見つつ。


「お父様が皇帝にっていうのでも良かったかな〜って」


「ハハハハ、今更いまさら、こんな老人引っ張りだしてどうする。それに、冗談でも、そんな事を言うもんじゃない。推挙すいきょしてくれた方や、応援してくれた者達に失礼だろう」


「そうですね。ですが……」


 お父様も名家ハウルホーフェ家の者だし、政治家としても優秀だ。それに、ヴィナール公国の宰相を辞めてからは、暇そうだし。


「それに、私は所詮しょせん、2番手の人間だ。誰かの下にいてこそ役に立てる」


「そんな事は……」


「あるだろう?」


「うっ」


 僕は、言葉に詰まる。


「おほん! 伯父様がどうであれ、私やカールも同じですよ」


 急に、トンダルが話に割って入ってきた。


「ん? どういう事?」


「所詮、2番手の人間だという事です」


「そうかな〜?」


「はい。カールは、父上の庇護ひごのもとだから、あれだけ暗躍あんやく出来たのです。私も、グーテルのもとだから、安心してフランベルク辺境伯を出来るのです」


「ふ〜ん、そういうものかね~」


「ハハハハ、トンダルの言う通りだぞ、グーテル。お前だからこそ、人は集まり、そして、のびのびと働けるのだ。分かったら、しっかりやるのだぞ」


「しっかりやるのだぞ」


 お父様の言葉を真似して、トンダルも僕に発破はっぱをかける。


「は〜い」



 翌日、僕達は、ミハイル大司教領ミハイルに旅立った。

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