第124話 マインハウス神聖国の未来⑨

「へ〜、人って飛ぶんだね~。久しぶりに見たよ」


「グーテル様、何をのんきな事を……」


 隣で、ガルプハルトが絶句している。反対側の隣では、アンディが。


「まあ、隊長っすからね~。俺でも、あれはけられないかもしれないっすよ」


 そう、僕達はフルーラと、そして怪僧かいそうウルリッヒさんの全勝同士の剣術大会の最終戦を見ていた。


 そして、一瞬で終わった。いやっ、実力差があったわけではない。


 ウルリッヒさんは、お得意の長い手足を全身を隠すようにローブでおおい、針のように鋭いパンツァーシュテヒャーを両手に持ち、フルーラが射程まで近づいてくるのを待った。


 それに対して、フルーラは無造作に距離を詰める。すると、ウルリッヒさんの必殺の突きが。それに対して、フルーラは避けずに踏み込むと、横薙よこなぎに長剣をフルスイング。


 いやっ、見てるとフルーラが貫かれたようにみえたのだが、直線的なウルリッヒさんの軌道に合わせるように剣を振るい、ウルリッヒさんの腕をり取るように巻き込み、そのままどういだ。そして、ウルリッヒさんは、場外へと飛んで行った。



「勝者、ボルタリア王国、戦慄せんりつの聖女フルーラ!」


 トンダルの勝ち名乗りに、フルーラはヘルムのバイザーをあげて応える。う〜ん、強いですね〜。



「しかし、フルーラも強いね~。ハウルホーフェなんて、小さな国だし田舎なのに、フルーラとか、アンディとか、良くもこんなに強いのがうまれたよね~」


 僕が、そう言うと、ガルプハルトが。


「まあ、偶然とは言えないしょうな」


「ん、どういう事?」


「どちらがどちらとは言えませんが、フルーラが居たからこそ、アンディが強くなり。アンディが居たからこそ、フルーラが強くなった。まあ、こんな感じでしょうか」


「なるほどね~」


 確かに、フルーラの体重の乗った斬撃ざんげきける為に、アンディの俊敏性しゅんびんせいが鍛えあげられ、そのアンディの動きを凌駕りょうがする為に、フルーラの身体能力は鍛えあげられた。という事だろうか?


 すると、アンディが。


「まあ、その前にガルプハルトさんっていう、良い目標があったからっすよ」


「うん? 俺か? 俺の剣技は、それほどじゃないぞ」


「まあ、そうっすけど。実際の戦いでは圧倒的ですし、それに教えるのは、うまかったっすからね」


「そうか?」


 ガルプハルトが、照れている。


「なるほどね~」


 まあ、要するに、良い目標があったからという事もあるらしい。



 これで、剣術大会は、フルーラの優勝。準優勝が、トリスタン大司教臣下の怪僧ウルリッヒさん。そして、二人には負けたが、キーロン大司教臣下の仁愛じんあいの聖騎士ドンファン・ティストリアさんが3位となった。



 そして、続いては、アンディと、フォルト宮中伯臣下の美麗騎士びれいきしウェルサリスの馬術対決だった。


 人馬一体じんばいったいとなって疾駆しっくする両者。そして、障害を飛び越えスムーズに進むアンディに対して、飛び越える時に格好良くポーズをとるウェルサリスさん。それは、水壕すいごうでも、スラロームでも続き、徐々じょじょに差が開く。そして、


「勝者、ボルタリア王国、剣身瞬鬼けんしんしゅんきアンディ!」


「いや〜、見事だったアンディ君」


「はあ、どうも」


 ウェルサリスさんは、さわやかに手を差し出し握手をする。そして、アンディの片手を上に差し上げ指差して、こいつがチャンピオンアピール。観客からは、拍手喝采かっさい。そして、黄色い声が響き渡る。


 領邦諸侯りょうほうしょこうのほとんどが集結し、闘技場は満員だった。小さな領邦諸侯まで入れると300あまりになる。奥様を連れた諸侯もいるだろうし、護衛の騎士や、世話係まで入れれば、2000人は、いるだろう。それらが闘技場に詰めかけているのだ。



「あれですな、ウェルサリス殿でしたか? あの御人ごじんは途中で勝てないと気付き、自分をせる事に、切り替えましたな」


 ガルプハルトが、僕の隣でつぶやくように話す。


「そうみたいだね」


 フルーラは、聞こえていないようで、優勝したアンディに向かって、跳ねながら手を振っている。



 まあ、これでボルタリア王国は2連勝。選帝侯会議で、僕がマインハウス神聖国の君主に選ばれ、剣術大会と、馬術大会で優勝。目立ち過ぎだよな~。信任投票大丈夫だろうか?


 僕は、少し不安になった。出るくいは打たれる。そんな事にならなければ良いが。



 で、信任投票前の最後の試合が行われた。弓術大会。これにライオネンさんは、勿論もちろん参加していない。


「申し訳ありません。その、力及ばず」


「いやっ、大健闘でしょ、勝ち越したし。僕なんかね……。なのにさ……」


 そう、僕なんかね、最下位争いなのに、最終戦で全勝のトンダルと戦うのにさ。という感じだった。


 もう、トンダルの優勝は決まっていた。もしかして、トンダルが最後に僕に勝たせてくれるのかな? なんて考えたり……。甘いかな?


「そうだぞ。4位は、上出来ではないか」


「そうっすよ、ライオネンさんにしては良かったっすよ」


「そうだな。目立たなかったので、見てないが良い試合だったと思うぞ。うん」


 ガルプハルト、アンディ、フルーラが、落ち込むライオネンさんをなぐさめ、ますます落ち込ませる。


「そうですよね~。俺って影薄いし、目立たないし、中途半端ですよね〜」


「そうだね」


「グーテル様、そうだねは、ひどいですよ。ライオネンだって、頑張っているんですよ」


「そう、影薄いっすけど」


 ガルプハルトが、僕の言葉をたしなめるが、アンディがとどめを刺した。



 まあ、こんな感じで、諸侯の信任投票前の戦いは終わり、残すは信任投票後の、闘術とうじゅつと、兵法術の戦いのみになった。闘術は、全勝同士の戦いだから良いとして、兵法術、要するにシャトランジの戦いは、すでに優勝は決まっている。消化試合だ。盛り上がるかな~?





 そして、信任投票が始まる。選帝侯のうち、僕と、トンダル、そしてザイオン公には10票。そして、フォルト宮中伯が8票、残りの三聖者が7票ずつの投票権を持っていた。合計59票。大諸侯が3票、それ以外の諸侯と、自由都市が1票ずつの投票権を持ち、おおよそ360票。


 全体で、およそ420票。信任規定数は、80%なので、おおよそ336票。今までは、選帝侯以外は、考える事なく信任に投票してきたが、前々回のアーノルドさんの投票で、始めて一度で信任が得られず、再投票になった。


 前例があるという事は、もう一度起こるかもしれない。そう考えたりした。


「まあ、大丈夫そうだな」


 そう言って、お父様がやってくる。投票中に歩き回って様子を見てきたようだった。


 お父様も、ハウルホーフェ公として、一票の投票権を持っていた。昔は三票だったが、バーゼン辺境伯とシュタイナー侯が独立して、それぞれ一票ずつとなったのだった。


「そうですかね?」


 僕が不安そうに言うと、近くにいたトンダルと、トリンゲン公フロードルヒさんが口々に。


「聞いてまわった限りですが、大丈夫と思いますよ」


「そうですよ。反対しそうなのは、ヴィナール公や、ザイオン公と、それに極めて近しい諸侯だけっぽいですからな~。大丈夫でしょう」


 どうやら、フロードルヒさんも信任に投票してくれたようだった。



 カールに投票した選帝侯ザイオン公や、フォルト宮中伯、キーロン大司教が信任しないとすれば、22票ぐらいがなくなるが、まだ60票くらいの余裕はある。大丈夫と思う……。


 なんて考えていたのだが。



「信任票が規定数に達しました、これよりボルタリア王国国王グルンハルト・ハウルホーフェ陛下を、マインハウス神聖国君主及びダリア国王に、選出致しました」


 大きな拍手が響き渡る。皆の視線が僕に集中する。一応、片手を挙げて、応えるが、恥ずかしいね~。



「なお、早馬はやうまにて神聖教教主ベネディット11世聖下におうかがいをたてたところ、グルンハルト陛下を皇帝として認めるとのお返事を頂きました、皇帝陛下としての戴冠式たいかんしきは後の事になるかもしれませんが、マインハウス神聖国皇帝としての即位式及び、マインハウス神聖国国王及びダリア国王としての戴冠式は執り行いたいと思います」


 大歓声が沸き起こる。お祖父様であるジーヒルホーゼ4世が神聖暦1291年に亡くなられてから、今は1304年。13年ぶりの皇帝の誕生であった。長いような短いような。


 アーノルドさんの1292年から1294年までの治世。そして、叔父様であるアンホレスト陛下の1294年から1303年までの治世。二代に渡り国王だったが、久しぶりのマインハウス神聖国皇帝の即位に領邦諸侯は熱狂する。



 そして、ややこしいが、ベネディット11世聖下は、僕のマインハウス神聖国皇帝としての即位は認めたのだ。だけど、お祖父様のようにわざわざ神聖教教主がマインハウス神聖国に来て、戴冠式を行ってくれるわけではなさそうだった。皇帝ではあるが、皇帝冠こうていかんは無い。ちょっと間抜けだ。


 となると、出向くしかないのかな?


 だけど、ダリア地方に出向けば御先祖様のように戦いが起きるかもしれない。と、考えると、やはり、神聖教教主によって、マインハウス神聖国皇帝が決められる事に対してもちょっと手を加える必要があるかもしれないな〜、なんてね。



 だけど、まわりを取り囲まれ、祝福の言葉をかけられるが、さすがに人数が多かった。僕は、逃げるように部屋を出て、自分の部屋へと戻る。


 そして、皆を集める。


「正式に皇帝になったよ」


「おめでとうございますっで良いんすかね? あんまり、グーテル様は、なりたくなかったんすよね?」


「こらっ、アンディ。失礼だろ」


 アンディの言葉をガルプハルトがたしなめる。


「うっ、ううう。ひっ、えぐっ。ぐっ、ぐーでるじゃま、おめぜじょう、えぐっ、ぎょじゃいまじゅ、えぐっ」


 フルーラが、凄まじい勢いで号泣ごうきゅうしていた。


「ありがとう、フルーラ。だけど、何で、泣いてんの?」


「えぐっ、だって、嬉しいじゃないですか~。わ~!」


 豪快ごうかいに泣くフルーラ。ガルプハルトと、ライオネンさんも、もらい泣きしている。それをあきれたように眺めるアンディ。


 え〜と、どうしたら良いんだろ?


 すると、オーソンさんがよって来て、僕にタオルを渡す。


 え〜と、こうかな?


「フルーラ、お鼻出てるよ」


「ありがとうございます。チ~ン!」


 僕は、フルーラの鼻にタオルを当てる。そして、フルーラが鼻をかむ。


「グーテル様、違いますよ。タオルを渡すだけです」


 オーソンさんが、僕の背後でつぶやく。だったら、オーソンさんが直接フルーラに渡せば良いのにね~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る