第121話 マインハウス神聖国の未来⑥

 で、始まった戦いは、1日やって、まあ、終わらない。剣術や、闘術などの試合時間が延びて、大変な事になった。


 結局、兵法術の戦い。要するに、シャトランジの戦いは、場所を移し行われた。



 そして、翌日から、剣術や、闘術、兵法術が、時間制限がつけられる事になった。



 で、戦いの経過は、我が部下達は、剣術でフルーラ無双。馬術でアンディ無双。闘術でガルプハルト無双が繰り広げられる。


 それぞれに、一応ライバルらしき人がいたが。トンダルのさじ加減か、強い相手とは、後半に当たるようになっていて、まだ戦っていない。



 そうそう、かつて剣術大会に出ていた方々の顔も見かけた。


 女傑じょけつバルベーラさんのように、もちろん引退された方もいたり、剣王ネイデンハートさんのように選帝侯の臣下しんかじゃなくなって、居なくなった方もいたが、キーロン大司教臣下の仁愛じんあいの聖騎士ドンファン・ティストリアさんとか、トリスタン大司教臣下の怪僧かいそうウルリッヒさんは、剣術大会に出ていた。


 さらに、フランベルク辺境伯臣下の戦う哲学者アルキピアテスさんは弓術に、フォルト宮中伯臣下の美麗びれい騎士ウェルサリスさんは馬術、そして、ミハイル大司教臣下の戦う城塞じょうさいアンドレアスさんは闘術に出て、それぞれに大活躍していた。



 そして、僕とライオネンさんは一進一退。ライオネンさんの弓術は、それぞれの国の弓の名手が出ているのだ。そりゃ、なかなか勝てない。だって、ライオネンさんの弓の腕は、僕のまわりの中で、え〜と。


 一応、僕か、ガルプハルトが一番上手い。そして、フルーラかな? かなりの剛弓ごうきゅうまとすらくだけるが。そして、アンディはセンスはあるが、当たらない時は全く当たらない。そして、そのアンディよりややマシなのがライオネンさん。


 だったら、他の競技にと思うかもしれないが、最も強い剣術は、アンディ、フルーラという化け物がいて、闘術は、ガルプハルトという化け物がいる。そして、馬術にもアンディという化け物がいたり、で、シャトランジは、ルールを知らない。


 というわけで、ややマシな弓術に出ているのだ、可哀想かわいそうなライオネンさん。よっ、永遠の3番手……。


 まあ、僕のシャトランジよりは、マシだけど。



 僕のシャトランジの腕は、やはりそこそこ。ルールは知っていて、やれるという程度だ。なにせ、定跡じょうせきとやらを覚えるのが苦手なのだ。


 奇策を用いて、たまに大勝するが、経験豊富な方には惨敗ざんぱいする。まあ、そんな感じだ。逆に、定跡を見事につないで、勝つのがトンダルだった。今のところ全勝。さすがだよね~。



 こうして、それぞれの大会の半分が終わった頃、カール達がやってきた。





「グーテル様」


「ん、なに?」


 僕が、初日、シャトランジで惨敗ざんぱいして、闘技場が見える特別室で不貞腐ふてくされていると、オーソンさんがやってきた。


「ヴィナール公が、ヴィナールを出ました」


「ふ〜ん。で?」


「はい、兵ですが近衛騎士30騎ほどを率いておられますが、それ以外の兵達に動きはありません」


「そう、ありがとう」


 これで、早々に戦いに突入する危険は、回避したようだ。


「オーソンさん、ヴィナール国境に集結させてた兵は引き上げて良いって、パウロさんに連絡して。ああ、後、ノルンベルク城の兵は、一応、そのまま待機で」


「はい、かしこまりました」


 そう言って、オーソンさんは、部屋から出て行こうとするが、その背中に僕は声をかける。


「カール自体の監視は、しなくて良いからね、危ないし」


 オーソンさんは、立ち止まり、振り返る。


「ありがとうございます」


「うん」


 そうカールの周囲には得体の知れない暗殺教団の人がいるのだ、オーソンさんの手の者だって、見つかって戦いになったら、命が危ない。



 僕は、オーソンさんが出て行くと、フルーラとアンディを呼ぶ。


「フルーラ、アンディ、怪しい人間いたら斬っちゃって良いからね」


「かしこまりました」


「うっす」


 そう、フルーラの野生の勘とアンディの観察眼は、無敵なのだ。そして、対人戦闘において、暗殺教団の人と戦っても負けないだろう。だが、重要なのは、そこでも無くて、相手の攻撃が触れる事もないだろう。という事だった。


 暗殺教団。どうやら毒を得意としているようだ。得物に毒が塗られているかもしれないのだ。フルーラは、先手必勝で瞬殺するだろうし、アンディは、軽い身のこなしで全てをかわすだろう。



 僕は、二人を見てうなずくと、立ち上がる。


「じゃあ、行こうか」


 トイレに……。トイレは怖いよ~。暗殺されないようにね。





 で、しばらく経って、皆がそろったということで、選帝侯会議が再開するのだが、まずは、僕の企画の食事会だ。美味しい物を食べ、美味しいお酒を飲み歓談かんだんする。そして、腹を割って話し合う……。


 前も言ったが、そうらしい。そして、その人の人となりを見るには、食事会は良いと思う。



「いや〜、我が国のワインは最高ですな~。まさしく至高しこうの存在。ワハハハ」


 これが端麗王たんれいおうと呼ばれる男の王弟とは、本当だろうか?


 端麗とは、口当たりがさっぱりして癖が無く……、それは、淡麗だ。姿、形が整っていて美しいという事だった。


 ランド王国国王フェラード4世さんの弟さん、ブランズ伯チャルロさん。見た目は、さすがに端麗王の弟というように、見た目は良い。清潔感せいけつかんあふれた好男子に見える。


 だが……。


 ランド王国で兵を率いて戦えば、かなりの名将と言われていたが、頭が良いわけではなさそうだ。


 対エグレス戦役や、ダリア地方の騒乱そうらんで、数々の勝利をあげていた。だが、その反面ダリア地方の騒乱に、無駄に首を突っ込んで、さらなる混乱を招いたり、エグレス王国との和平で、変な事を言い始め、慌ててフェラード4世陛下が自ら飛んで行ったとか。まあ、そんな感じの人だ。



「ワハハハ、皆さん、若い女は良いですよ。こう自分も若返った気がしますぞ、ワハハハ」


 うん、本当に下品。こういう場での食事の話題に、女性の話はないだろう。まあ、それで場が盛り上がっていれば良いのだが、皆が明らかに顔をしかめていた。そして、それを気にせず話し続ける。



 そして、僕はというと。チャルロさんが、所望するランド王国のワインを色々試していた。


「飲み物は、いかが致しますか?」


「勿論、ランド王国のワインをもらおう。ランド王国のワイン以外は、あり得んな」


「では、赤と白はいかがしましょう?」


「そうだな……。いやっ、やっぱりシュプーニエだろ」


「かしこまりました」


 はい、まずは、チャルロさんは、シュプーニエのスパークリングワインを所望しょもうでした。


 まあ、最初からシュプーニエのスパークリングワインで、乾杯予定だったので、ちょうど良かったのだが。



 そして、それ以降もガバガバと、ランド王国のワインを飲む。かなりの酒豪しゅごうのようだ。白ワイン、赤ワインと。


 現在は、ランド王国の影響下でもあるブリュニュイのワインも、ランド王国のワインという定義で良いらしい。



 だが、味分かってんのか? 


 僕は、疑問が起きて、ブリュニュイ、ランド王国南部のワインだけで無く、一応ランド王国だが、低価格のラントストックのワインとか、北の海沿いのワインとかを出してみたが、変わらず美味しそうに飲んでいる。


 まあ、実際に美味しいんだけど、コクとか深みとかが、違うんだけどね~。



「そう言えば、カール従兄にいさんも、女性好きでしたよね~」


 僕は、カールに話を振ってみる。


「おお、カール殿も、お好きですか?」


 チャルロさんが、食い付く。


「おいおいグーテル。昔の恥ずかしい話は止めてくれよ。皆様のお耳を汚すような話ではありません、若気わかげいたりです。お恥ずかしい」


 おっ、怒るとかではなく、冷静に返してきた。しかも、否定するわけでもなく、若気の至り。う〜ん、素晴らしい。



 だが、チャルロさんが、さらに暴走する。


「選帝侯会議が終わり帰ったら、ルテティア郊外にあるヴィヨンヌ宮殿にて、彼女とデートするんです。楽しみだな~。彼女、15歳なんですよ。初々ういういしくて……」


 15歳。まあ、結婚年齢としては若すぎない。が、どちらかというと、婚約者という感じだろうか? 共に暮らして、女性の成長を待って、子供を作り。まあ、貴族の結婚、政略結婚せいりゃくけっこんがほとんどのこの時代だから、結構あることだ。



 ちなみにチャルロさんにとって、3人目の奥さんという事になる。神聖教の文化圏であるランド王国、勿論、離婚ではなく病死。まあ、産後の肥立ひだちが……。というのが多いのだ。


 離婚する為には、近親婚であることや、不貞行為ふていこういの証明によって、神聖教会の許可があれば出来る、一応。だが、近親婚はまだしも、不貞行為の証明ってなかなか出来ないだろう。まあ、近親婚だと分かっていて結婚して、近親婚なので離婚っていうのもおかしな話だけどね。



 料理は、後半になっていた。今回も、ランド料理のフルコースだが、前回とは違う料理人さんだ。


 ちなみに今回は、マスターの紹介で、ランド王国にいた時に、お世話になった人だそうだ。宮廷料理人を辞めて、地方に越したが、それでもルテティアに住む貴族達が、わざわざ食べに行く店らしい。料理人の名はフィミンさん。


 そう言えば、チャルロさんも驚いていた。



「アンコウとあん肝のパートフィロ、ジロールたけのピュレ添えです」


「これは、ランド王国の白ワインだな?」


「王弟殿下、アンコウ単体なら白ワインですが、今回はあん肝を使用しております。赤ワインでも面白いですよ」


「おお、フィミン殿が言うなら、間違いないだろう。おいっ、ランド王国の赤ワインを持ってきてくれ」


「かしこまりました」


 アンコウ? アンコウって何だろ?


「え〜と、フィミンさん。アンコウって何?」


「はい、ちょっとグロテスクな魚なのですが、白身の魚です。ランド王国では、最近使われるようになった魚ですな。味はタラに近いでしょうか? 今回は、焼いたアンコウの身に、コクがあるあん肝を合わせて、パートフィロ。小麦粉を薄く焼いた生地です。で包んで、さらにパリッと焼き。ジロール茸。マインハウスでは、アンズタケでしょうか? を、添えた物になります」


「へ〜、ありがとうございます」


 僕は、切って口の中に放り込む。


 サクッと生地が切れ、中から確かにタラよりは濃厚だが、白身の魚の味が立ち上り、そして、ねっとりとして甘いような、あん肝の味がする。そして、アンズタケのサクサクとした食感と香り。


 たまりません。


 そして、ブリュニュイの赤ワインを合わせてみる。うん、美味しい〜、最高。


 ああ、チャルロさんには、ランクトックの赤ワインを飲ませている。と、フィミンさんが、ちょっと眉をひそめる。


 ランクトックは、ブドウの品種からしてブリュニュイとか、ランド王国南部のワインと違ったりする。


 赤ワインだと、ブリュニュイは、ピノ・ノワール。ランド王国南部は、マドレーヌ・ノワール・デ・シャラント。ランクトックは、ムールヴェードル。結構味も違うがね〜。


 あれっ、怒られるかな?


「王弟殿下、そのワインは、美味しゅうございますか?」


「ああ、美味しいぞ。さすが、我が国のワインだ」


「そうですか、では、良いです」


「?」


 セーフ。

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