第122話 マインハウス神聖国の未来⑦
「次は、肉料理です。今回は、シンプルに鹿のローストにさせて頂きました」
本当にシンプルな鹿のローストが出てきた。それまでの前菜などで、カブのブランマンジェとか。ああ、ブランマンジェは、名称はランド語で「白い食べ物」という意味なのだが、今回は、カブを裏ごしして固めたものだった。
後は、
マグロのポワレとか。ポワルで、カリッと香ばしく焼き上げた料理で、その上にアボカドのソースかかっていた。
などの、かなりこった料理が出てきていたのだが、一転してシンプルに。
だが、その肉の色は
さすがにこれは、赤ワインだよね~。というわけで、飲める方々には、エスパルダの赤ワインを、さすがに料理に失礼なので、チャルロさんにも、ランド王国南部のワインを飲んで頂こう。
「うん?
「はい、正真正銘のランド王国のワインです」
「そうか……。なら良いのだ」
「はい」
「……」
「……」
僕は、鹿肉を口に入れる。すると、何とも柔らかい食感。相当良い鹿肉なのだろう。そして、鹿肉独特の
「美味しいですね~」
「ええ」
どうやら、選帝侯の方々にも大好評のようだった。
その後、デザートタイムになり、酒もまわり歓談のはずが。まあね、チャルロさんのおかげで盛り上がらず解散となった。
まあ、良いや。食事の評判は最高に良かったのだ。僕の役目は終わりだ。後は知らない。
「フィミンさん、ありがとうございました。とても美味しいお料理でした。さすが、マスターの師匠です」
「ハハハハハハ、グルンハルト陛下のお口に合えば、幸いです。ですが、マジュンゴですか。
「?」
僕が、首を
「ランド王国のルテティアは、大都市です。それこそ、いろんな人々が入って来ますが、やはりランド王国の人間以外が活躍するのは、難しいのです」
「なるほど、比較的田舎のボルタリアの方が、良かったと」
「えっ! いえっ、そういう意味ではないのですが」
まあ、これは冗談だ。フィミンさんは、笑ってくれなかったけどね。
だけど、それだけランド王国の王都ルテティアには、色々な人々が入りはじめていると言う事だ。
そして、純粋なランド王国の人々。要するに、ランド系の人種の人々の仕事が奪われる。すると、ランド系の方々は、団結し、ランド系以外の人々を
まあ、こんな感じだろうか? 現状、ボルタリア王国では、マスターのような異国人は珍しく。逆に興味をもたれている。まあ、それも今後はどうなっていくかは分からない。現に、スラヴェリア系住民と、ガルハリア系住民の対立なんかはあったりするからね~。
「え〜と、すみません。冗談です」
「そうですか、ならば良いのですが……。そうでした、その〜、あんまり王弟殿下をいじめないで下さいね」
「王弟殿下? いじめる?」
はて? なんの事でしょうかね〜。
「はい。王弟殿下は、ああいう方ですが、一応王弟殿下なので……」
「いじめてはないですよ。ランド王国のワインがご希望だったので、どこの地域が好みかな~って」
「なるほど。そういう事でしたか。ならば、しょうがありませんね~。しかし、王族がランド王国のワインの味の違いを、分からぬとは、実に
フィミンさんは、そう言って去って行った。
そして、いよいよ始まる。選帝侯会議の本番だった。ミハイル大司教ペーターさんは、鉄製の扉に鍵をかけると、その鍵を懐にしまう。
各自、
参加者は、選帝侯7人。ミハイル大司教ペーターさん、トリスタン大司教ヴェルウィンさん、キーロン大司教ジークフリートさん、フォルト宮中伯ランドルフさん、僕こと、ボルタリア王グルンハルト、フランベルク辺境伯トンダルキント、そして、ザイオン公アーレンヒルト2世さん。
さらに、次代の君主候補である、ヴィナール公カールケントと、ランド王国王弟殿下、バロンズ伯チャルロさんだ。
9人は円卓に座る。司会を務める、ペーターさんが一番、上座で、バロンズ伯チャルロさんが、一番の末席になる。とても不満そうなチャルロさん。
「では、これより、マインハウス神聖国、及びダリア王国の君主選挙を実施する。まずは、神に感謝しよう。アーメン」
「アーメン」
ミハイル大司教ペーターさんの
「では、ヴィナール公カールケント卿。君主になった時の、抱負と心構えをお聞かせください」
さて、カール従兄さんは、どんな事を言うのかな?
「ヴィナール公カールケント・ヒールドルクスです。よろしくお願いいたします。我が父上、マインハウス神聖国国王アンホレストは、偉大だった。ヴィナール公となりマインハウス神聖国の国王として、立派なお働きをされた。最期は不幸なお最期ではあったが、マインハウス神聖国にとっては、名を残された立派な国王だったと思う」
そう言いながら、カールは周囲を見回す。
うん、イケメンですな~。トンダルに似てかなり整っているが、昔みたいに人を見下したような目はしないが、その目はあくまで冷徹だった。だけど、見る人によっては、その外見に合う、冷ややかな目がクールに映る。
そして、頭も切れる。まあ、悪い方にだが。過激な言動と行動。そして、短気だった叔父様とは違い。表面上は穏やかなカールの評判は良い。
「だから私は、父上の
この後は、カールは、叔父様の政策を引き継いでランド王国の政策を模した政策について語った。
これは、今まで、なあなあだった土地管理をフープマイスターを使い徹底し、都市においては、大商人に特権を与え財務官に任命し、都市の経済、そして、徴税を安定させるというもの、それを引き続き徹底するという感じだろうか?
まあ、良いと思いやってる諸侯は、すでにやっているし、昔ながらのやり方を好む諸侯は、やっていない。代替わりなどで、徐々に浸透はしているが、まだまだだ。
だけど、これ以上は難しい。僕は、そう思っている。あくまで他国の政策なのだ。
「私の話は以上です。
そう言いながら、カールは椅子に座る。拍手が起こる。
「では、続きまして、バロンズ伯チャルロ卿」
「おお」
チャルロさんは、そう言いながら立ち上がる。「おお」って、どういう事がだろうか?
「ランド王国フェラード4世の王弟、バロンズ伯チャルロだ、よろしく。先程、カールケント卿が言った政策だが、元々は、ランド王国の政策だ。それなら、俺の方が詳しい。以後は任せてもらって構わないと思う」
そう言って、チャルロさんは、カールに冷ややかな視線を送る。俺の方が上だぞ。という感じだろうか?
「それで、抱負と心構えだったか?」
「はい」
ペーターさんが、そう返すと、
「心構えだが、俺はランド王国フェラード4世の王弟だ。安心して欲しい」
ん? どういう事?
だが、続けて発したチャルロさんの言葉でなんとなく分かった。
「抱負としては、ランド王国との強固な結びつきをさらにし、ランドマインハウス連合王国とも言えるような、強き国を作ってみせる。以上だ」
そう言って、チャルロさんは、椅子にどかっと座った。
まあ、要するに、お兄さんと組んでマインハウス神聖国を私物化すると、宣言したようなものだ。
パラパラと一応皆が拍手をするが、フォルト宮中伯ランドルフさんですら、微妙な顔をしている。
「ありがとうございました。では、ボルタリア王国国王グルンハルト陛下、よろしくお願いいたします」
あくまで事務的にペーターさんは、話を進める。
僕は、ゆっくりと立ち上がると、話を始める。
「御紹介にあずかりました、選帝侯にして、ボルタリア王国国王グルンハルト1世です」
そう言って、僕は頭を下げる。そして、
「現状、叔父様が行った政策により、マインハウス神聖国の状態は安定しています。しかしながら、マインハウス神聖国は、大きく肥大していくランド王国に圧迫されております」
そう、大きく肥大するランド王国。人も集まり大きく発展していく。だが、それは関係ない。問題は、マインハウス神聖国に人が集まってこないという事だった。
ペーターさんと、トンダルが大きくうなずく。
「もちろん、北の海を利用して北部の帝国自由都市が、貿易を行い
ゼニア共和国については、話さない。
「ですが、それ以外の地域に関しては、現在良好な関係にあるランド王国との貿易だけでは、マインハウス神聖国全体の発展に繋がっていないのが現状です。なので、私の目標としては、ダリア地方への通商路の開拓及び、ニーザーランドとの関係強化を行い、マインハウス神聖国の発展を目指したいと思います。以上です」
大きな拍手が湧き起こるが、皆が、意外そうな顔を僕に向けている。
僕が、意外と本気そうなのに驚いているようだった。
そりゃ、カールにマインハウス神聖国を任せるワケにはいかないのだ。
さて、どうなるかな?
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