第120話 マインハウス神聖国の未来⑤
そして、その翌日、本格的な議論が始まったのだが、ペーターさんのこの言葉で、会議は始まった。
「さて、いよいよ、次期、マインハウス神聖国の君主を選んでいくわけですが、その前に、私のところに2通書状が届いたので、皆様に相談させて頂きたいと思います」
2通の書状? しかも、ペーターさんのところか~。何だろ?
ペーターさんは、
「これは、新たに教主になられたベネディット11世聖下の書状です」
「エッグベネディクト?」
僕が、つぶやくと、トンダルが目ざとく……、耳ざとくか?
「ベネディットですよ」
へ〜、そうなんだ~。じゃなくて、ちゃんと聞いてるよ。というか、知ってるよ。
ペーターさんが、言葉を続ける。
「ベネディット聖下のお言葉によりますと、神聖教、あるいは神聖教教主と敵対する者は、マインハウス神聖国の皇帝としては、ふさわしくないだろうとの事です」
そう言うと、ペーターさんは、書状をくるくると丸め、机に置く。そして、ペーターさんは。
「ふさわしくない者というのは、ランド王国の者とか、ヒールドルクス家の者とかでしょうね」
「そんな事まで、書かれておられるのか? しかし、マインハウス神聖国の皇帝を決めるのは、我々、選帝侯の役目。神聖教教主様といえど、口出しは無用に思うのだが……」
キーロン大司教ジークフリートさんが、発言するが、ペーターさんは。
「ジークフリートさん違いますよ。我々が決めるのは、マインハウス神聖国の君主、及びダリア国王です」
「あ、ああ」
ジークフリートさんが、言葉に詰まる。そして、ペーターさんは、さらに。
「ベネディット聖下は、皇帝には、ふさわしくないと言っておられる。要するに、我々が選んだ人物によっては、皇帝の名は与えぬとの事でしょう。ジーヒルホーゼ4世陛下以来、2代皇帝にはなっておられませんからな~」
「確かに」
ジークフリートさんが、うなずく。
う〜ん、どうなのだろう? 確かに、叔父様も、アーノルドさんも国王だったが、何か違いがあるのだろうか? 確かにマインハウス神聖国の国法に、皇帝権があるが……。 それに、神聖教教主が、皇帝になる、なれないを決めるのも……。
「で、もう1通ですが……」
ペーターさんは、書状をパサッと開く。
「ランド王国国王フェラード4世陛下からの書状ですが、マインハウス神聖国の君主の候補に、自身の弟ブランズ伯チャルロ卿を推挙するという事なのだが、他国から干渉を受ける言われはないと、思うのですが、いかがでしょうか?」
フェラード4世の弟か〜。噂では知っている。フェラード4世が起こした戦いの指揮官をつとめる事が多い。軍事的才能に
「賛成ですね」
「ええ」
ジークフリートさんが同意し、僕もうなずく。そして、トンダル、ザイオン公、トリスタン大司教と同意していくが、フォルト宮中伯ランドルフさんが、突然に。
「ま、待って下さい。ランド王国は、勢いもあり、無視は出来ません。ですから、わ、私がランド王フェラード4世陛下の王弟チャルロ卿の推薦人になります」
確かに、フォルト宮中伯の領土は、ランド王国に近い。フェラードさんが、怖いのかもしれないな。
ランドルフさんの言葉を聞いて、一瞬、戸惑うペーターさん。だけど。
「分かりました。では、ランドルフ卿が、ブランズ伯チャルロ卿の推薦人という事にいたしましょう」
そして、あらためて、全員を見回すと、
「では、あらためて、どのような方が、マインハウス神聖国の国王として相応しいと思われますか?」
すると、最年少のザイオン公アーレンヒルト2世さんが、手を挙げる。この環境で、凄い度胸だな~。落ち着いた雰囲気がある。
「アーレンヒルト2世卿、どうぞ」
ペーターさんが、重々しく指名する。
「はい、失礼致します。私は、現在のヴィナール公カールケント卿を推挙したく思います」
すると、ざわめきが起こる。が、ペーターさんが制して、アーレンヒルト2世さんは、話を続ける。
「お静かに。話を続けてください」
「はい、色々噂のあった、先王アンホレスト卿ですが、その治世は、素晴らしいものだったと、聞いております」
そこで、アーレンヒルト2世さんは、チラッと視線を動かす。そして、話を続ける。
「ですから、ヒールドルクス家による、継承で問題はないと思うのですが、いかがでしょうか?」
「まあ、皇帝には、なれないでしょうがね」
「異議なしです。いや〜、若いのに素晴らしい御意見だ」
ペーターさんが、チラッと
「今のところ、ブランズ伯チャルロ卿と、ヴィナール公カールケント卿ですか。他に、御意見はありますか?」
そう言いながら、ペーターさんは、意味有りげな視線を、トンダルに送る。すると、トンダルが手を挙げる。
「おっ、トンダルキント卿、どうぞ」
「はい、失礼致します」
そう言って、トンダルは立ち上がると。
「アーレンヒルト2世卿、我が父アンホレストをお褒め頂きありがとうございます」
トンダルは、そう言って、頭を下げる。
「ですが、父はどちらかというと、戦いに生きる人間です。父の治世を支えたのは、こちらに居られる、マインハウス神聖国宰相ボルタリア国王グルンハルト陛下でしょう」
うんうん。という感じでペーターさんがうなずく。いやっ、あなた議長でしょ、
「グルンハルト陛下が、まだまだ若いという方も居られるかもしれませんが、チャルロ卿に関しては44歳、兄カールケントも39歳です。だったら、36歳のグルンハルト陛下が若いとは、なりませんでしょう」
「確かに、そうですな〜」
ジークフリートさんが、
「なるほど。では、ブランズ伯チャルロ卿、ヴィナール公カールケント卿、そして、ボルタリア国王グルンハルト陛下の名があがりました。他に、御意見のある方は居られますか?」
ペーターさんが、全員を見回すが、反応はない。
僕も、周囲を見回す。トンダルは、満足そうに微笑んでいる。
ジークフリートさんは、大きく何度もうなずいている、首振り人形のようだ。おそらく、最年長であり、
アーレンヒルト2世さんは、目をつむり、腕を組んでいる。周囲を拒絶するようだった。落ち着いているように見えるが、内心は緊張しているのだろう。
ランドルフさんは、周囲をキョロキョロ見回し落ち着かない。相変わらずだな~。
そして、ヴェルウィンさんは、僕の事をじっと見ている。そんなに、見つめられると、照れちゃうよ~。そして、視線が合う。お互い、ちょっと
「いないようですね。では、ボルタリア国王グルンハルト陛下は居られますが、ブランズ伯チャルロ卿と、ヴィナール公カールケント卿を呼んで、思いを聞かせて頂きましょう」
「では、休会とします」
選帝侯会議は、
僕が、扉に向かうと、トリスタン大司教ヴェルウィンさんが、走り寄ってくる。
「グルンハルト陛下」
「はい、何でしょう?」
「
「ああ、はい」
「興味あるので、今度、うかがわせて頂いても良いでしょうか?」
どうやら、さっき見つめていたのは、これを言いたかったせいなのだろう。しかし、真面目だな~。昨日の僕の適当な話を部屋に帰ってから、考えてみたのだろう。そして、見てみたいという結論に至ったのだろうか?
「もちろんです。来て頂けたら、私、自らご案内させて頂きますよ」
「それは、恐れ多い事です。ですが、楽しみにしております」
こうして、選帝侯会議は休会し、二人の到着を待つことになった。その間は……。
トンダルの仕切りで、選帝侯対抗の剣術、馬術、
それぞれ代表は一人。それぞれの戦いの規模は縮小したが、総当たり戦での戦いになるようだ。で、ボルタリア王国の代表者だが。
「まずは、闘術は、ガルプハルトで決まりでしょ?」
「はい、かしこまりました」
「で、剣術は、アンディ出る?」
「私、出たいです。他に活躍出来そうにないので……」
いやっ、弓術も馬術もそこそこやるだろ、フルーラは。
「そうか~、じゃあ、フルーラで良い?」
「そうっすね、隊長の方が、良いかもっす」
「ありがとうございます。精一杯頑張ります」
「うん。え〜と、そうすると、アンディは……」
「馬術の方が良いですが、弓術でも大丈夫っすよ」
えっ、アンディの弓術は、ちょっとね。
「あの〜、出来れば弓術に……」
「あ~、ライオネンさんか〜、僕、弓術に出ようと思ったんだけどね~」
「いやっ、グーテル様は、どう考えても兵法術でしょ?」
「そうっすよ」
「確かに」
「そうか~、僕か~、兵法術。でも、トンダルと戦うんでしょ? 勝てないと思うよ〜」
「それでも、グーテル様しかいないと……」
「じゃあ、しょうがないか〜。で、弓術はライオネンさんで、馬術が、アンディね」
「はい、お任せください」
「やるっすよ~」
こんな感じで決まった。ただの
そして、翌日から、それぞれの大会の一回戦目が始まったのだった。
剣術大会は、前回同様、大聖堂内にある
剣術は、皆さん知っているだろう。剣で戦う。以上。
馬術は、円形闘技場の外周に作られた、ジャンプ障害や、水壕障害、そしてスラロームなどがあるコースを複数周し、どちらが速いか。
弓術は、色々な
闘術は、剣術と同じく闘技場で戦うのだが、違いは、剣を持たないで素手で戦う事だった。
そして、僕が出る兵法術だが、兵法術とは名ばかりで、シャトランジという駒を動かすゲームだった。パルス地方より伝わったのだが、
これも、闘技場でやるのだが、すごく地味だし遠くからだと見えない。諸侯などは、近くに来て見る事になるだろう。
駒の数は6種類16個で、駒の色は、赤と黒。
駒の種類は。
シャー、「王」を意味するパルス語で、全ての方向に一歩ずつ動く。駒の数は1個。
フィルズ、「将軍」、斜め四方に一歩ずつ動く。駒の数は1個
フィール、「象」、斜め四方に二歩ずつ進み、間にある駒を飛び越える。駒の数は2個。
ファラス、「馬」を意味するアレブ語、八方に桂馬飛びする。駒の数は2個。
ルフ、「戦車」、上下左右に他の駒に進路を妨げられるまで動く。駒の数は2個。
バイダク、「歩兵」、前に一歩ずつ進む。敵陣の最終列(八段目)に到達するとフィルズ(将軍)に成る。駒の数は8個。
「シャー・ムンバド」(裸の王)または「ムフラード」(孤立した王)と呼ばれるルールがあり、これは「王」の他に駒が無い状態である。どちらかが、この状態になると、負けとなる。
そして、先手は王を左に将軍を右に置き、後手は王を右に将軍を左に置く。
王手のことは「シャーマート」と呼ぶ。パルス語で「王は死んだ」という意味だ。
という感じだ、わかっただろうか?
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