第119話 マインハウス神聖国の未来④

 フローデンヒルトは、そんなに大きな街ではない、人口も1万人程度だが、交易こうえきや商業の街として栄え、帝国自由都市としての納税額は、トップだったりするのだ。


 旅装りょそうの行商人が、街道を絶えず行き交い、大河マイン川の支流であるモイニン川には、大型の商船が行き交う。


 なんて、かつて言っていたが、フローデンヒルトは、マインハウス神聖国内では、大きい都市のようだ。まあ、ヴァルダと比べちゃいけないよって事だよね。ヴァルダの人口は5倍くらいだった。



「あれだね、せせこましく感じるのは、街の面積が小さいからかな?」


「確かに、ヴァルダや、ヴィナールに比べれば小さいですからね。フランベルク辺境伯領の首都フランベルク・デア・アーレンと比べても、人口はフランベルクの方が少ないですが、面積は大きいですから、そう見えるのでしょうね」


「そうだね」



 僕は、丘の上からトンダルと共に、フローデンヒルトを見下ろしつつ、そんな事を話していた。いよいよ、選帝侯会議が始まる。


 今回は、叔父様とアーノルドさんが、争った選帝侯会議より、緊迫きんぱくしたものになるかもしれない。



 ああ、そう言えば、騎士団は、かつてお祖父様が暮らしていたカイザーベルク。いやっ、皇帝は居なくなったので、ノルンベルクという岩山に、築かれた城に入っていた。


 ノルンベルク城は、戦いに明け暮れた、僕の御先祖様が作った城で、周辺に大した街のない場所だ。城も大きくないが、守りだけは固い。そして、フランベルクからも、そう遠くない。


 空城となっていた、ノルンベルク城を改築し、臨時の駐屯所ちゅうとんじょとした。ここに、騎士1000でもれば、そう簡単には攻略出来ないだろう。


 って、何を考えてんだ、僕は?



 僕達は、フローデンヒルトの街中に入り、カイザードームとも呼ばれる、聖ワルフォロメイ大聖堂へと入った。いくむねも建物の連なった、大きな教会だった。選帝侯だけでなく、諸侯達や、その騎士達まで滞在出来るようになっている。



 部屋に入ると、すぐにトンダルがやってくる。そして、


「私達が、一番遠方ですから、すぐに会議が、始まるかと思ったのですが、どうやら、トリスタン大司教がまだのようですね。直近ちょっきんで交代したようですから、致し方ないですが。で、次の君主は、グーテルで良いですね?」


「ん? う〜ん、他に居なければ……」


「居ません」


「だって、若すぎない?」


「大丈夫です。分かりました。じゃあ、良いって事で、私は、他の選帝侯達に会ってきます」


 そう言って、トンダルは出て行った。慌ただしいな〜。他の選帝侯の方々の動向を探ると共に、出来るなら説得も兼ねて、会うようだ。



 僕は、ソファーに横になりつつ。


「オーソンさん」


「はい」


 オーソンさんが、ソファーの横にひざまずく。


「カールの動きはどう?」


「はい。ヴィナールからは離れておりませんが、盛んに、書状を送っております。ザイオン公、フォルト宮中伯、キーロン大司教、トリスタン大司教、ミハイル大司教。ですが、ミハイル大司教には、拒絶きょぜつされたようで、書状の往復は無くなりました」


「そう、ありがとう。引き続き、お願いね」


「はい」



 さて、どうなるかな? フォルト宮中伯は、叔父様とは、敵対していたはずだけど? キーロン大司教も、そうだが、叔父様が有利になったら、素早くすり寄っていた。トリスタン大司教は、代わったばかりだから、良く分からない。ザイオン公だって。


 まあ、とりあえず、良く分からないが、正解かな? 会議が始まってみないと、誰が推挙すいきょされて、誰が味方するか、分からない。





 そして、一週間後。いよいよ、選帝侯会議が始まった。選帝侯会議が行われるのは、大聖堂内の奥にある、部屋だった。



 そこに選帝侯7人のみが入り、ミハイル大司教ペーターさんが、鉄製の扉に鍵を掛け、その鍵を懐に入れる。これで、ペーターさんが鍵を開けるまで、侵入も脱出も不可能となった。



 僕達は、円卓の周囲に立つと、ペーターさんの方を見る。



 一番上座にペーターさんが。ペーターさんの隣には、トリスタン大司教と、キーロン大司教が並ぶ。そして、トリスタン大司教の隣にはフォルト宮中伯が、キーロン大司教の隣には僕。さらに、フォルト宮中伯の隣にはザイオン公が、僕の隣には、トンダルと言う具合に並んでいる。



 ペーターさんが、開会を宣言する。


「これより、選帝侯会議を開催します。まずは、無事、皆様が、集まり開催出来た事を感謝しましょう。アーメン」


 僕達は、手を合わせ神に祈ると、席へと着席する。



 続いて、ペーターさんが、前回と同じく名を呼び上げていく。


「まずは、ダリア王国大宰相にして、ダリアの大書記官長であるキーロン大司教ジークフリート猊下げいか


 キーロン大司教ジークフリートさんは、1274年から大司教をしていて、確か現在50歳後半のはずだ。僕が就任してから変わらず、キーロン大司教を勤め、選帝侯会議に出続けている。ちなみに、キーロンの街からは、追放されたままだそうだ。


 白に黒の十字が描かれている法衣を着ている。


 ジークフリートさんが、頭を下げつつ挨拶をする。


「キーロン大司教ジークフリートです。よろしくおねがいします」



「次に、ブリュニュイ王国大宰相にして、マインラントの大書記官長であるトリスタン大司教ヴェルウィン猊下」


 トリスタン大司教ヴェルウィンさんは、つい最近大司教になったばかりだ。それで、遅れてきたのだが、仕方がないだろう。まだ20そこそこの若い大司教さんだ。


 そして、この方、メイデン公にとルクセンバル公が推挙した人物で、ルクセンバル公の次男だった。


 結局、僕が訴えを退けたせいで……。おかげで? トリスタン大司教へと昇りつめた。感謝されているか、恨まれているか?


 そして、キーロン大司教と同じく、白い法衣だが赤の十字が彩られている。


「トリスタン大司教ヴェルウィンです。若輩者じゃくはいものですが、よろしくおねがい致します」


 ヴェルウィンさんも、ジークフリートさんと同じように挨拶され、次に移る。



「続いては、シュワーレン地方及びマイン川流域の国王代理及び、大膳職だいぜんしき長官であるフォルト宮中伯ランドルフ1世卿」


 ランドルフ1世さんのお祖父様ルードヴィヒさんは、お祖父様の最大の協力者であり、友人だった。だが、隠居されて、息子さんに代わったが、息子さんも早く亡くなられて、ランドルフさんになったのだ。


 アーノルドさんを廃位はいいする選帝侯会議では、最後まで自分の義理の父親であるアーノルドさんをかばっていたが、結局、アーノルドさんは、廃位されて死んだ。


 その時は頼りない印象だったが、さらに若いトリスタン大司教ヴェルウィンさんの登場で、甘えられない状況だ。頑張ってね。年齢は30くらいになったと思う。


 紋章と同じく白と赤の格子こうし模様の礼服を着ていた。


 

 次は、僕だ。


「さらに、献酌けんしゃく侍従長である、ボルタリア王国国王グルンハルト陛下」


 そう、グーテルハウゼンから、公式行事のみ、ボルタリア風の読み方に変更したのだ。まあ、皆はグーテルって呼ぶけどね。


 僕は、オレンジ色の礼服を着ていた。これは、ボルタリア王国の色なのだ。



 紹介は続く。


「次は、ザイオン法地域における国王代理及び、侍従武官長である、ザイオン公国アーレンヒルト2世卿」


 アーレンヒルト2世。そう、あのロードレヒさんが辞めて、叔父であるアーレンヒルトさんがザイオン公になったが、アーレンヒルトさんは、1298年に亡くなって、アーレンヒルトさんの息子さんが、跡を継いでいた。


 アーレンヒルトさんは、ザイオン公にとっての唯一の敵対関係にあるメグルベルク大司教と戦い、戦死されてしまったのだそうだ。


 さて、ここで問題は、後継者問題だった。本来は、ロードレヒさんがザイオン公に戻るか、無理だったら、ロードレヒさんの息子さんがとなるはずだが、アーレンヒルトさんの奥さんは、お祖父様の娘。つまり、僕のお母様の妹の一人だそうで、叔父様が、アーレンヒルト2世さんを応援し、アーレンヒルト2世さんが後継者におさまったそうだ。


 アーレンヒルト2世さんは、現在、19歳。なんと、最年少。そして、今年、リチャードさんの5女と結婚。とりまとめたのは、トンダルだった。ザイオン公国とフランベルク辺境伯領の関係を密にしたいのだそうだ。


 アーレンヒルト2世さんは、黄色と黒の縞模様しまもようの礼服を着ている。



 次が、紹介としては最後になる。トンダルだ。



「最後に、財務侍従長にして、式部しきぶ長官である、フランベルク辺境伯トンダルキント卿」



 トンダルは、真っ赤な礼服をまとい、頭を下げる。顔はカールに似てかなりのイケメンだし、スタイルも良い。フランベルク辺境伯って、絵になる人ばかりだな~。


「トンダルキントです。よろしくお願いいたします」



「それで、わたしが今回の選帝侯会議を取り仕切らせていただく、ハウゼリアの大宰相にして、ハウゼリアの大書記官長である、ミハイル大司教ペーターです。よろしくおねがいいたします」


 ペーターさんは、白い車輪が描かれた赤い法衣を着ている。



 こうして、紹介が終わり、皆が円卓の周囲に座る。



 そして、雑談が始まるのだが、若い方々の表情が硬い。まあ、そうだよね、初めてだし、しょうがない。考えてみたら、僕より若い人が、トンダル入れたら、4人もいるのだ。ちょっと、なごむ話題でも、振ろう。


 え〜と、なごむ話題、なごむ話題……。



「トリスタン大司教ヴェルウィン猊下」


「はい。あっ、え〜と、グルンハルト陛下。ヴェルウィン猊下ではなく、ヴェルウィンと、お呼びください」


「そうですか。じゃあ、ヴェルウィンさん、ボルタリアに来られたことありますか?」


「いえ、行った事はありません」


「そうですか。では今度一度、いらっしゃってください。ボルタリアのクッテンベルクには……。私は、国王になる前クッテンベルク宮中伯って、呼ばれててそれで領地ではないのですが、クッテンベルクに何回か行った事があるんですが、そこの教会が面白くて」


「は、はい」


「ああ聖人教会って名前なんですが、なんでも聖者が亡くなったゴルゴダの丘の土が、かれているそうで、聖地なんて呼ばれてるそうで……」


「聖地ですか、それは興味あります」


「で、聖人教会の装飾が面白くて、シャンデリアとか、祭壇さいだんとか内装が、全て人骨で出来てるんですよ。面白いですよ〜」


「えっ、そ、それは、興味深いです……」


「一万人分の人骨だそうです。トリスタン大司教も死んだら、何か装飾にしてもらったら良いかもですよ~。あっ、頭蓋骨とうがいこつをワイングラスに、なんて良いかもしれないですね〜」


「うっ」


「グーテル、グーテル」


 トンダルが、僕に声をかける。


「ん、何?」


「わざとですか?」


「何が?」


 トンダルが、指差した先を見ると、真っ青な顔をした。トリスタン大司教、フォルト宮中伯、ザイオン公がいた。


 そして、ペーターさんが、とどめを刺す。


「ハハハハハ、グルンハルト陛下は、豪気ごうきですな~。我々も、グルンハルト陛下にワイングラスにされぬよう、頑張りませんとな~、ハハハハハ」

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