第107話 新王は誰?

 ボルタリア王国国王ヴェーラフツ3世陛下の葬儀が終わると、ボルタリア王国は、一応の静寂せいじゃくを取り戻した。



「して、後継者ですが」


 ヤルスロフ2世さんが、血筋的ちすじてきに後継者に相応ふさわしい方を列挙れっきょしていく。はずだった。



「ヴェーラフツ3世陛下は、結婚されておりませんでした。ので、当然お子さんはおられません」


「そだね~」


「続いて、ヴェーラフツ3世の父上であるカール3世陛下ですが、身体が弱く、お子さんはヴェーラフツ3世陛下のみです」


「うん」


「さらに、カール3世陛下のお父上カール2世陛下ですが、当時のヴィナール公の娘さんと結婚されましたが、子供はおらず、離婚。そして再婚、クリエナ様、アネシュカ様、そして、カール3世陛下が、お産まれです」


「へ〜。というか、神聖教徒なのに離婚できるんだね~」


 ここは、パウロさんが答える。


「何でも、相手の方が高齢で世継よつぎを産める可能性が無いって事で、神聖教教主様が特例で認めたって話でしたね」


「ふ〜ん」


 そこで、ヤルスロフ2世さんが、話を続ける。


「よろしいでしょうか? クリエナ様は、当時のマリビア辺境伯にとつがれましたが……」


「マリビア辺境伯か〜、そこは厳しいね〜」


「はい」


 リンジフさんが、ボルタリア王ヴェーラフツ3世陛下を暗殺したばかりだ。王位簒奪おういさんだつが理由だったと思われる。なので、絶対に無理。


「アネシュカ様は、ヴィナール公であり、マインハウス神聖国国王アンホレスト陛下の弟君に嫁がれ、男性のお子さんも居られますが……」


「え〜と、叔父様の弟の……、お母様の弟でもあったな~。え〜と、そうだ! ヨハネさんか~。確か、精神的に病んでるから駄目だね。お子さんもいたはずだけど……。表に出てこないな~」


「そうですか……。それでは、カール2世のお父上ヴェーラフツ2世陛下ですが……。」


随分ずいぶんさかのぼったね~」


「はい。それで、マインハウス神聖国の当時の皇帝の娘さんとご結婚されて、若くして亡くなられた長男。そして、カール2世、そして、女性がジェナ様と、アネッサ様です」


「へ〜」



 若くして亡くなられた長男って、昔、リチャードさんが、物騒ぶっそうな事を言っていたな~。


 え〜と、あっそうだ。カール2世は父親に反乱を起こして負けて、そして、


「その後、父親が死ぬと、兄が死んでいたのでな。やつが跡を継いだのだ。まあ、これも若干じゃっかん怪しくはあるが、何せやつは、お前の表現で言えば、いつ刺されたかわからないほど、鋭いレイピアだ。いつ刺されたか分からぬうちに、心臓に刺さって、あの世へと」


 何て、事を言っていたな~。



 ヤルスロフ2世さんの説明は、続く。


「ジェナ様は、フランベルク辺境伯リチャード卿に嫁がれておりますが、男性のお子さんは、居られません」


「うん、そうだったね」


「それで、アネッサ様ですが、ヒールドルクス公国のデスラー卿と結婚されて、娘さんが閣下の奥様エリサリス様です。ですから、血の繋がりはありませんが、エリサリス様は、カール3世陛下の養女でもありますし、閣下にも王位継承権はあるのです」


「え〜、嫌だよ」


「ですが、ここまで血筋を辿たどって王位継承権のある方は、居られませんので……」


「ぶ〜」


「ぶ〜って、子供では無いのですから、閣下」


 まあ、ヤルスロフ2世さんが、ちゃんと説明している中、僕は、茶化ちゃかしつつ考えてはいた。僕が王。がらじゃない。けど、ヴェーラフツ3世陛下の葬儀中も、領内諸侯の方々に言われた。


「陛下は、亡くなられましたが、実際の統治を行っていたのは、宰相閣下です。とすれば、この国は変わらないですね。安心ですよ」


 だそうだ。まあ、僕が、そのまま、宰相やれば良いのだよね。と思っていたのだが、ヤルスロフ2世さんは、僕を国王にしたいようだ。



 王位継承の話し合いは、ボルタリアの重臣の出席の元に行われていた。僕や、ヤルスロフ2世さんに、パウロさん、そして、その他の大臣達、そして、デーツマン2世さんだった。


 本来、王太后おうたいごうだった、レイチェルさんにも出席を願ったのだが、今は無理だそうだ。まあ、そうだよね。お子さんを亡くした、悲しみの中にいるのだ。どうやら、デーツマン2世さんが、サポートしているようだった。



 そんなある日、叔父様から書状が届く。


「何だろ?」


 僕は、封蝋ふうろうを破り書状を開く。そこには、ボルタリア王ヴェーラフツ3世の冥福めいふくを祈ると共に、こう記されてあった。



「王太后様だが、ヒンギルハイネの再婚相手に、どうであろうか?」


 と。確かに、ヒンギル従兄にいさんは、ランド王国国王の妹さんと死別後、再婚していない。それに、子供もいない。確かに良いかも。



 ヒンギル従兄さんは、現在40歳かな? そして、レイチェルさんは、41歳。ちょうど良いかもしれない。まあ、後継ぎが生まれるかどうかは分からないけど。


 だが、レイチェルさんが了解するだろうか?



 何て事を考えていた、翌日だった。


「次期国王ですが、マインハウス神聖国国王アンホレスト陛下の御子息、ヒンギルハイネ様は、いかがでしょうか?」


 翌日の会議において、突然デーツマン2世さんが、こんな事を言い始めた。


「ん?」


 そういう事か、ボルタリア王国の王太后レイチェルさんを、王妃にしてヒンギル従兄さんをボルタリア国王にする計画だったのか。気が付かなかった。だが、確かに良いかな? 


 ヒンギル従兄さんは、筋肉バカ……。え〜と、だが悪い人では無い。僕が、このまま宰相をやれば良いのだ。と思ったのだが。



「馬鹿な事を言うな! ヴィナール公国の者等を、この国に介入かいにゅうさせる等と」


「そうです、あの欲深いアンホレスト王が、関わっているのですよ」


 ヤルスロフ2世さんと、パウロさんを筆頭に強く反発する。


 え〜と、僕も一応、親族なのですが……。


「ですが、これは、すでに王太后様に承諾しょうだくを頂いている事なのです」


「何を勝手に!」


「そうだ、そうだ!」


 ヤルスロフ2世が怒り。パウロさんがあおる。


「皆さん、今日は、一旦いったん解散としましょう。また、後日、この件について冷静に話し合いをしましょう。では、解散」


 僕は、そう言うと、さっさと本宮殿の会議場を出る。フルーラを始めとする護衛騎士達が、慌ててついてくる。



 僕は、その足で新宮殿に向かい、レイチェルさんに面会を求める。さて、会ってくれるだろうか?


 と思っていたのだが、あっさりと受け入れられた。



「グーテルハウゼン卿、ヒンギルハイネ様の事ですね?」


「はい、どのような経緯けいいで、ヒンギル従兄さん。いえっ、ヒンギルハイネ殿が、次期ボルタリア国王にという事になったのでしょうか?」


「そうですね。あなたが、やるとさっさと言えば良かったのですよ。それなら、誰にも文句が出ずに……」


「お待ちください。なぜ、私がボルタリア国王という話になっているのですか?」


「ですから、前にも言ったように、今までボルタリアを統治していたのは、あなたなのです」


「私は何も。大臣が優秀であったればこそ」


「その大臣を選んだのは、あなたです。そして、選帝侯としてマインハウス神聖国に影響力を持っていたのも、あなたなのです」


「まあ、それはそうですが……」


「あなたがなれば、誰も文句は言わない。だけど、あなたは国王には成りたくないのでしょ?」


「はい」


「だったら、誰かが国王に成らなければならない。それで、アンホレスト王の言葉にのったのですよ。ヒンギルハイネ様とは、仲が良いとの事でしたので。それに、戦いは好きだけど、政治は得意ではないのでしょ?」


「はい」


「だったら、グーテルハウゼン卿。あなたが、ボルタリアの宰相を続けて政治を動かせば良いのですよ」


「そうですか……、そうですね」


 僕は、顔をあげる。すると、レイチェルさんは本当に嫌そうな顔をして、


「私は、嫌なのを我慢するのです」


「えっ!」


「そうですよ。せっかく、自由に暮らせると思ったのに、また結婚なんて」


「えっ、申し訳ありません」


「そうですよ。責任感じてくださいね」


「はい、かしこまりました」


 やれやれ、レイチェルさんに大きな貸しを作ってしまったな~。



 僕は、新宮殿を辞し、クッテンベルク宮殿に戻ると、叔父様宛おじさまあての書状を書く。



 これで、ボルタリアの新王は決まった。しかし、この時、叔父様は動けない状況だった。ダルーマ王国国王アンドラーテ3世さんが、病死したのだ。


 激しい後継者争いが、起きていたのだった。叔父様自身は、ダルーマ国王になろうとしていなかったが、王位継承戦争に参戦していたのだった。



 その為に、ヒンギルハイネは、ヴィナール公国軍3000だけを率いて、ボルタリア王国に向かっていた。



 僕は、国境に向かい、ヒンギル従兄さんを出迎えた。



「お久しぶりです、ヒンギル従兄さん」


「ああ、久しぶりだな、グーテル」


 僕達は、久しぶりの再会を果たす。そして、ヒンギル従兄さんの第一声は、


「俺が、ボルタリア王になって、良いのだろうか?」


「叔父様の跡を継いで、ヴィナール公の方が良かったですか?」


「いや、そういう意味では無いのだが……。まあ、あれがボルタリア王になるよりは、俺がボルタリア王になった方が、グーテルには良いだろ?」


「ああ、あれですか。確かに、そうですね〜」


 あれとは、ヒンギル従兄さんの弟、カールケントの事だった。


「ああ。最近も何やらこそこそと、何か企んでいるようだぞ。あれは」


「そうですか……。最近ね~」


「うん、どうした?」


「いえっ、何でもありません」


「そうか、そう言えば、グーテルは、このまま宰相を続けてくれるんだろ?」


「はい、もちろんです。ヒンギル従兄さんが王なら、こちらもやりやすいですし」


「そうだな。飾り物の王として頑張るよ」


「いえっ、そういう意味じゃないのですが……」


「ハハハハハ。良いんだよ、俺は自分の限界を知っている。戦いならいざしらず、治世者ちせいしゃとしては二流だ。ハハハハハ」


「そんな事……」


 あるな。治世者として二流というか、まあ、平凡だし、申し訳ないが戦いならの方も、平凡だね。個々の戦闘力は別として。


 だから叔父様は、配下にネイデンハートさんをやとい、ヒューネンベルクさんと組ませて最前線に置いているのだ。


 おっと、いけないいけない。余計な事を言うところだった。



「さあ、行くか」


「はい」



 僕と、ヒンギル従兄さんは、連れ立ってヴェルダ城へと向かう。そして、僕は、クッテンベルク宮殿に、ヒンギル従兄さんは、とりあえず、本宮殿に入る。そして、いよいよ戴冠式たいかんしきに向けて準備を開始する。



 だが、その夜、大事件が勃発ぼっぱつするのだった。場所は、クッテンベルク宮殿、標的は僕だった。

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