第91話 グータラ宰相の優雅?な一日②
僕が出した2通の書状によって、銀の
フッカー家への書状には、丁寧に改善策のアドバイスに、専門家の派遣についても書いた。
そして、叔父様の方には、フッカー家の銀鉱山の鉱夫、銀の
叔父様は、チルト伯領に強い関係を持っていた。叔母様が、チルト伯家の出身なのだ。チルト伯家は、フッカー家がもたらす富で
フッカー家は、叔父様に鉱夫さんや、職人さんのボイコットの件を、隠しているだろう。それを教えてあげれば叔父様は激怒して、フッカー家に対して怒りを向けるだろう。慌てたフッカー家は、僕の言葉に飛びつく、そして、採掘開始。
まあ、そんな感じだった。
その後は、特に何もなく。のんびりと政務時間は終わった。まあ、何をしていたかは、分かるよね?
そして、政務時間が終わったら。
「お昼、お昼、美味しいお昼!」
と、口の中でボソッと歌い、クッテンベルク宮殿へと戻る。
さて、これから一日で一番しっかりとした食事が出るディナーの時間だった。そして、このディナーの時間は、外交や、家臣との交流の場でもあった。
というわけで、今日のお客様は。
「グーテルさん、お帰りなさい。お客様がお待ちかねですよ」
「ただいま〜、エリスちゃん。ありがとう。ええと、どちらにおられるかな?」
「書記官長様達は、
「そう。じゃあ、まずは、応接間だね」
「はい」
僕と、エリスちゃんは、応接間へと、向かう。
「お久しぶりです、キーガンさん」
「ご無沙汰致しております。宰相閣下」
そこには、直立不動の帝国書記官長キーガンさんと、そのお仲間さんの計3名が立っていた。
帝国書記官長キーガンさんは、わざわざ帝都フローデンヒルト・アム・アインからやってきたのだ。
今日から少し
「これは失礼しました。ええと、これなるは、帝国書記官のヴェルナーと、ジョルジュです」
「宰相閣下。お初にお目にかかります。よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしく。で、ジョルジュさん?」
すると、キーガンさんは、僕の疑問の意図に素早く気づく。ヴェルナーは、マインハウスに多い名前だが、ジョルジュという名前は、聞いた事がない。
「ああ、ジョルジュは、ランド王国出身です。ランド王国の政策にも明るく、助かっておりますよ」
「キーガン様、そんな事恐れ多いです」
ジョルジュさんが、
「へ〜」
って、そうだ! 僕も忘れてた。背後から、強い圧迫感を感じた。
「失礼しました。これは、妻のエリサリスです」
「皆様方、はじめましてクッテンベルク宮中伯グーテルハウゼンの妻エリサリスです。よろしくお願い致します」
「おお、これはこれは、
ジョルジュさん、ヴェルナーさんも挨拶して、5人で応接間を出てダイニングへと向かう途中で、もう一人のお客さんに出会う。
また、挨拶合戦が始まる。面倒くさいので、省略。
「さあ、行きましょう」
「はい」
僕達は、ダイニングに入り席につく。
ディナーというと、ランド王国の
それでも、お酒を飲みつつ前菜、スープとパン、メインディッシュにデザートなんて感じで食べる。まあ、充分だね。
そして、ここはボルタリア。マインハウス地域よりは、美味しい物が食べられる……。と思う。
「ほお、さすがグーテル様。これは良いスパークリングワインですね」
パウロさんが、スパークリングワインの香りを
そう、もう一人のお客様は、パウロさんだった。フォルト宮中伯家出身のパウロさんは、ミハイルの
まあ、飲み友達も増えるしね。まあ、それよりもだ。
「この良き日に皆と出会えた事、そして、素晴らしい食事が食べれる事を神に感謝致しましょう。では、乾杯!」
「乾杯!」
こうして、ディナーは始まった。シェフの工夫で、ランド料理みたいに、一口オードブルが置かれる。シュプーニエのスパークリングワインを飲みつつ、一口オードブルをつまむ。
小さく焼かれたワッフルの上に、いろんな料理が置かれていた。一つは、鹿肉のタルタル。スパイスと合わせ鹿肉の独特の風味を消しつつ、鹿肉の旨味が美味しかった。
さらに、人参のマリネ。人参の甘みがオリーブオイルが引き出され。さっぱりと食べれた。
最後は、チーズリゾット。少量だが、チーズの風味が強く、充分満足出来る味だった。
「いや、さすがグーテル様が言っていただけあって、美味しいですね~」
「良かった、パウロさんに気に入ってもらって」
「うむ、確かに美味しいですな。マインハウス中央域と味付けが、また違いますね」
「そう。キーガンさんは、どっちが好きですか?」
「そうですな~。はっきり言うと、我々の貧乏舌でも、こちらの方が美味しく感じます」
「良かった」
「グーテルさん、あまり無理じいするような事は……」
エリスちゃんに、注意された。美味しいって強制したかな?
「いえいえ、奥方様。無理に言ってはおりません。本当に美味しいです」
「そうですか、良かったですわ」
さらに料理は進むのだが、前菜はアスパラガスのバニラオランデーズソースだった。さっぱりとしたホワイトアスパラと違い、強い野菜の味と旨味がある。そして、サクサクとしているものの歯ごたえがあり、それをバニラの味がするオランデーズソースが、優しく包む。
で、これと合わせるのは。
「皆様、何を飲まれます? このままスパークリングワインでも良いですし、白ワインも冷やしてありますが」
「そうですな~。我々は、旅の疲れもありますので、あまり飲み過ぎてご迷惑かけるのも失礼です。ゆっくりと、このスパークリングワインを飲ませて頂きましょう」
と、キーガンさん。それに合わせて、部下の方二人は、引きつった笑みを見せる。どうやら飲みたいようだった。
「パウロさんは?」
「私は、白ワインを頂きましょう」
「そうですか、じゃあ、僕も。エリスちゃんは?」
「私は〜、夜も飲むのでしょ? 少し控えておきますわ」
だそうだ。
僕と、パウロさんのところに、白ワインが配られる。すると、パウロさんが給仕さんに何やら耳打ちする。すると、ヴェルナーさんと、ジョルジュさんの目の前に少量だが、白ワインが配られる。二人は、不満そうに、それを飲み干す。すると、給仕さんがいっぱいの白ワインを注ぎ、二人は満足気だった。
白ワインは、最近お気に入りのポルトゥスカレ王国のグリーンワインだ。
「しかし、この2年本当に平和でしたな~。さすが国王陛下と言ったところでしょう」
そう、確かにマイン平和令の期間、とても平和なマインハウス神聖国だ。まあ、少なくとも表面上は。
「そうですね~。さすが、叔父様の
「ぷふっ」
パウロさんが吹き出すが、慌てて否定する。
「いやっ、これは失礼致しました。ワインがつっかえて。ゴホッゴホッ」
わざとらしいな~。
まあ、叔父様の
その後も少し、この2年についてキーガンさんや、ヴェルナーさん、ジョルジュさんと話す。まあ、特段大きな動きは無かったね。という感じだった。
と、続いては、オニオンコンソメスープ が出てきた。春取れの玉ねぎのコンソメスープ。たっぷりと柔らかくなった玉ねぎが入り、スープの中に玉ねぎの甘みが広がる。そして、しっかりとしたコンソメの味が、玉ねぎの甘みをくどくさせていない。バランスの取れた美味しいスープだった。
そして、それに合わせてライ麦と小麦粉のパンが出る。焼き立てのようだった。少しちぎって、バターを少しつけて口に放り込むと、微かな酸味と濃厚な重みのある味が広がる。
ワインは引き続き、ポルトゥスカレのグリーンワイン。エリスちゃんや、キーガンさんも白ワインを飲み始めた。
「パウロさんは、ボルタリアの生活いかがですか?」
エリスちゃんが、パウロさんに聞く。
「そうですね。何と言っても、白く
この
「え〜と、そういう事ではなく……」
エリスちゃんが、戸惑いつつ返す。酒場で給仕やっていたくらいだから、こういうのに動じないが、思っていたのと違う答えが返ってきて、戸惑っていた。
「おっと、失礼致しました。奥方様のように綺麗なボルタリアの女性を見て、思わず本音が。そうですね。ボルタリアの国民性なのでしょうか? 最初は、クールでシャイな方々が多くて、教会内でも、自分と関わりたくないのかと思ったのですが、徐々に、慣れてくると基本的に優しく
「そうですか、良かったです」
「それに何より酒場ですね。飲むと皆さん陽気で楽しい人ばかりで」
「そ、そうですか。あまり、飲み過ぎませんようにしませんと」
「はい、ありがとうございます、奥方様」
そうだよね~。パウロさん、飲むの大好きだから。一回紹介したら、毎日のように、カッツェシュテルンに言っているようだった。
「そうだよ~。飲み過ぎはいけないよ~」
「グーテルさんには言われたく無いって、パウロさん思っていると、思いますよ」
エリスちゃんに言われて、パウロさんに聞く。
「そう?」
「はい」
だそうだ。まだまだ、食事会は続く。
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