第92話 グータラ宰相の優雅?な一日③

 メインは、 鴨肉のアミガサタケと野菜の詰め物だった。鴨肉は脂っぽく無くさっぱりとしているが、アミガサタケや、野菜の香りが鴨肉に。逆に鴨肉の旨味が野菜に染み込み、旨さの相乗効果そうじょうこうかを示していた。肉汁じゅわっ〜。口の中にあふれる旨味うまみ。最高だった。



 これは、赤ワインだね。というわけで。


「皆様、赤ワインいかがですか?」


「お願い致します」


 皆の声が、ハモる。



 鴨肉だが、比較的さっぱりとした味わい。だったら、ブリュニュイの赤ワインでしょう。というわけで、皆の前に、ブリュニュイの赤ワインが注がれる。


 僕の知る限り、現状、最も洗練されたワイン。ピノ・ノワールを使った至高しこうの赤ワイン。まあ、僕はエスパルダの赤ワインも好きだけど。



「こ、これは、美味しい。さすが、グーテル様。こんな美味しいワイン飲んだ事ありませんよ」


 あれっ? パウロさんだってフォルト宮中伯家の出身、名家めいか中の名家だ。ブリュニュイの赤ワインくらい飲んだ事あるだろう。


「パウロさんだって、ブリュニュイの赤ワインくらい飲んだ事あるでしょう?」


「はい、ありますが。これは、別格べっかくです。どこの村ですか?」


「ダルア村だけど」


「そうですか。ダルア村の赤ワインも飲んだ事あるんですが……。何でしょう?」


「さあ?」


 まあ、そんな感じで、結構なハイペースで二人は飲み。2本目のボトルに突入する。



 メインの後はチーズ。ボルタリアで作られたチーズだった。トヴァルーシュキや、カマンベール、ブルーチーズ。まあ、トヴァルーシュキは、ボルタリア東方で作られた香りの強い独特なチーズだが、他は、いたって普通のチーズ。赤ワインと合わせて、チーズを食べ、味覚を落ち着かせるそうだ。



「いやいや、飲み過ぎました。しかし、美味しいですな~。料理も飲み物も、さすが宰相閣下。恐れ入りました」


「喜んで頂いて光栄です。キーガンさん」


「はい。疲れもあるのでしょう。これで失礼させて頂きます」


 そう言いながら、キーガンさんは、ふらふらと立ち上がる。慌てて、エリスちゃんが介助かいじょし、その後、執事さんが、クッテンベルク宮殿の客間へと連れて行った。大丈夫だろうか?



「キーガンさん、大丈夫でしょうか?」


 僕は、ヴェルナーさんと、ジョルジュさんに聞くが。


「さあ、どうなのでしょう。私は、一緒に飲んだ経験が、あまりありませんので……」


 と、ヴェルナーさん。ジョルジュさんは。


「結構、お強いと思うのですが、長旅の疲れでしょう」


 だそうだ。二人は立つ気配もない。どうやら、お二人はこのまま飲むようだ。



 最後は、お待ちかねのデザート。 ルバーブという野菜をメインに使用したパルフェだった。パルフェとは、完全なという意味のランド語であり、完全なデザートという感じなのだろう。


 パルフェは、卵黄に砂糖、ホイップクリームを混ぜて凍らせたスフレ・グラッセに、ソースや冷やした果物を添えて出すデザート。


 今回は、スフレ・グラッセに入ったナッツが、食感を楽しませ。まろやかな甘さのスフレ・グラッセと、酸味のあるルバーブのソースは、相性抜群あいしょうばつぐんで口の中に幸せが広がる。さらに、飾り付けのルバーブの食感も楽しい。


 これには、さすがの僕も、ワインではなく、温かいハーブティーを合わせる。あ〜、落ち着く。



 そして、給仕さんが、


「食後酒は、いかがでしょうか?」


 と聞いてくる。すると、パウロさんが、


「何がありますか?」


 食後酒は、僕はあまり飲まないが、お客様用に一通りクッテンベルク宮殿には、置いてあった。


 かおり高いお酒を飲むことで、満腹の胃をアルコールが刺激し、消化をどくす働きがある他、ディナーの最後に甘口のお酒を飲むことで、更なる満足度が得られるのだそうだ。



「そうですね~。ブランデーに、甘口のデザートワイン。後はポートワインでしょうか?」


 食後酒によく飲まれるのは、貴腐きふワインやヴィンサント、アイスワインなどのデザートワイン。 貴腐菌をつける貴腐ワイン、陰干ししたヴィンサント、凍らせたアイスワイン。このようにして、糖度を高めたブドウを発酵はっこう醸造じょうぞうし、甘美かんびな味わいの甘口ワインに仕上げたのがデザートワイン。


 発酵途中で糖度を残した状態でアルコールを添加てんかすることで、甘みがありつつもアルコール度数が高いワインがポートワインに代表される酒精強化しゅせいきょうかワインで、ポートワイン、マデイラワイン、シェリーなどがある。


 ワインに使用されるブドウのしぼりかすを醸造、蒸留じょうりゅうしたお酒で、ランド王国のマールと、ダリア地方のグラッパ。さらに、ワインを蒸留したのが、コニャック等のブランデーだそうだ。アルコール度数は40度前後。マール、グラッパの方が、ワインの風味が強いそうだ。


 が、僕は甘いワインも、蒸留酒も苦手だった。なので、そのまま赤ワインを注いでもらう。



「コニャックあります?」


 ジョルジュさんの言葉に、給仕さんは頷き。


「ございます」


「では、それで」


 さらに、パウロさんは、グラッパを頼む。ヴェルナーさんは、


「私は、もう充分です」



 だそうだ。もちろん、エリスちゃんも飲まない。ハーブティーをおかわりし、優雅ゆうがにすすっていた。


「美味しかったです。ご馳走さまでした。それで、グーテル様、今夜はどうします?」


 パウロさんが、僕に声をかける。


「え〜と」


 僕は、エリスちゃんを見る。


「どうぞ、ご自由に」


 エリスちゃんが、ました顔で言う。だけど、


「エリスちゃんも、行かない?」


「えっ、私もですか? う〜ん……」


 少し考えて。


「そうですね。私も少しは、羽を伸ばさせて頂きますか。マジュンゴにも、久しぶりに会いたいし」


「よし、決まり。じゃあ……」


 僕がそこまで言うと、ジョルジュさんが、


「夜、どこか行かれるのですか?」


「はい、城下町にあるカッツェシュテルンという、酒場に行こうかと。常連なんですよ」


 僕が、そう言うと、ジョルジュさんは、私も行きたいです。という顔をしている。


「ジョルジュさんも、行きます?」


「えっ、良いのですか? 是非!」


 すると、ヴェルナーさんが、


「これ。そのような失礼な事を……」


 と、言いかけたので、僕は。


「ヴェルナーさんも、いかがですか?」


「えっ、私ですか? 私は、御遠慮させてください。その、疲れも取りたいので」


「そうですか、残念です」



 というわけで、夜は、僕と、エリスちゃん、パウロさん、そして、ジョルジュさんで、カッツェシュテルンに行く事になった。



 僕達は、待ち合わせの予定を決めて、ディナーを終わらせる。



 そして、僕は、クッテンベルク宮殿の最上階、三階の一番東側。がけに面して、眼下にマージャストナの街を、望める場所。通称、グータラ殿下昼寝の間へと、入る。


 眼下には、綺麗なヴェルダの街並み、そして、昼過ぎの街では、たくさんの人々が歩き回っていた。


 僕は、景色を見つつ、ソファーに横たわる。窓を大きくし、寝っ転がっても景色が見えるようにしていた。


 さて、少し昼寝するか。僕は、目を閉じた。





「グーテル様、グーテル様! グーテル様! エイッ!」


「グハッ!」


 僕は、フルーラによって起こされる。


「フルーラ、お、おはよう」


「おはようございます、グーテル様」


 日は、まだ、それなりに高い位置にあった。


「じゃあ、行こうか、フルーラ」


「はい」



 僕達は、クッテンベルク宮殿の中庭へと、向かう。そこでは、僕の護衛騎士達が、訓練の準備をしていた。


 そう、僕もその訓練に参加しようと言うのだ。貴族の生活は、政務するものの、座り仕事。その後は、食っちゃ食っちゃ寝の状態。それだと、ブクブク太ってしまう。それで、こうして訓練参加したり、いろんな場所を歩き回ったり、遠乗りに出かけたりで、体力維持、健康維持をしているのだ。


 まあ、叔父様や、リチャードさんのように、軍の訓練に参加していれば、強靭きょうじんな肉体を持ち、並外れた体力を持つ人物に慣れるのだろうが。僕は、違う。戦いの最前線には立たない。だから、あくまでも健康維持だった。



「グーテル様、失礼致します」


「うん」


 僕の身体に、比較的軽く作られたプレートアーマーがつけられる。身体を防御しつつ、馬に乗って逃げるのに丁度良かった。


 訓練でも安全の為に、プレートアーマー、ガントレット、グリーブ。そして、ヘルムをかぶる。バイザーまで下げると視界がさまたげられるので、上げておく。


 だが、重い。全身を覆っているわけでは無いが、10kg以上はあるだろう。これを着て、軽々と動いている、フルーラ、アンディの事を感心する。



「では、訓練開始!」



 フルーラの掛け声で訓練が始まった。一歩ずつ前進しつつ剣を振るう。上段斬り、袈裟けさ斬り、突き、左右横斬りなど繰り返し剣を振るう。そして、中庭のはしまで行くと、回転しつつ、剣を振るい戻りつつ、また剣を振るう。いや、一往復しただけで、かなりの運動だった。それを5往復ほど、行い休憩。



「はあ、はあ」


 一回、ヘルムを外し、水を飲む。風が涼しい~、生き返る〜。



「では、次の訓練だ!」


 今度は、一対一の訓練だった。今度は剣だけでなく、盾も持つ。



 僕は、袈裟懸けに剣を振るう。相手は、盾で受けつつ、斜めに剣を流す。僕は、崩れそうな体勢を踏ん張って維持しつつ、盾を相手の盾にぶつけ、相手を押し込みつつ、剣で突く。相手は、身体を開きつつ避ける。そこを、僕は、素早く剣を引いて相手に剣を振り下ろす。と、相手は、盾で受け止める。という感じで、お互いの呼吸を合わせ、決まった動作で攻防を行う。


 最初は、僕が攻め手だった。そして、中庭の端まで行くと、攻守交代して下がる。これも、2往復ほど行う。そして、別の組が行って。また、順番がまわってきて、2往復。休みの間は、ヘルムを外して、水を飲み、風に当たるが、完全にお酒は、抜けたようだった。汗をかくのが気持ち良かった。



 これで、たっぷり1時間は経っていた。僕は、もう充分。後は。



「最後に実戦訓練を行う! グーテル様は、いかがされますか?」


「僕は、いいよ。見学させてもらうよ」


「かしこまりました! おいっ、グーテル様の鎧を外して差し上げろ!」


「はっ!」



 僕は、中庭に立って、護衛騎士の実戦訓練を眺める。一対一で、剣を振るい戦う。そして、アンディのいない日の定番だが、フルーラ無双むそうを見て、終わる。


「エイッ!」


「ギャッ〜!」


「次っ!」


「エイッ!」


「ウワッ〜!」



 怪我人出なくて良かったね~。

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