第84話 叔父様の即位②

 そこの店のうりは、スパークリングワインのようだった。マインハウスのスパークリングワインが2種類、ランド王国のスパークリングワインが2種類、そして、ダリア地方のスパークリングワインが1種類グラス売りされて飲めるそうだった。



 この店は、比較的空いている。それはそうだろう。5種類もスパークリングワインが飲めるからか、一杯が結構良い値段だった。中には、商人さん達と、生臭坊主なまぐさぼうず、もとい、神父さん達しか居なかった。



「チーズ適当にカットしてください。後は、おすすめのスパークリングワインを」


「かしこまりました。チーズはクセの強い物もありますが、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫です。僕も、クセが強いんで」


「えっ! かしこまりました。では、スパークリングワインですが、ランド王国ランストックの辛口のスパークリングワインがおすすめです。いかがでしょうか?」


「じゃあ、それで」


「かしこまりました」


 僕は、カウンターに座ったのだが、すぐに、チーズとスパークリングワインが目の前に置かれる。


「お待たせしました」


 お待たせしてないけど良いや。僕は、スパークリングワインを一口、口に含む。


 うん、冷えてて美味しい。炭酸も結構強く。スッキリしているが、味はしっかりとして、スカスカじゃない。


「美味しいね〜」


「ありがとうございます。このスパークリングワインは……」


 バルのマスターが、スパークリングワインの説明を始めたが、聞き流しつつ、適当に返事する。


「へ〜」


「ほ〜」


 僕は、チーズをつまむ。最初は、ハードタイプの良くあるチーズだった。それ以外は、ブルーチーズに、ブリーチーズ。うん、美味しい。



 僕は、考える。この後は、白だよな~。そしたら、ホワイトアスパラで。その後、魚行くか。それとも、赤ワインに行くか。料理も美味しそうなのあったな~。ホワイトアスパラも、美味しそうな店2件あったよな~。どっちの店にしよう?


 などと考える。とりあえず行きたい店は決めて、後は、アレンジだな〜。


「お会計、お願いいたします」


「かしこまりました。では、こちらになります」


 うん、結構良い値段だ。バルにしては高い。まあ、仕方がないか。かなり良いチーズと、スパークリングワインだったもんな〜。


 僕は、お金を置くと、立ち上がる。そして、入口に向かうと、神父さんの団体が入ってくる。


「おや、これはこれは、グーテルハウゼン卿。さすがお目が高い。こちらのお店でお飲みでしたか」


 え〜と、誰だっけ? あっ、そうだ。この間、ヴェルターさんのお墓参りに来たときに対応してくれた司祭さんだ。


「この間は、ありがとうございました」


「いえ、ヴェルター様もグーテルハウゼン卿に来て頂き、喜んでおられたと思います。次期、皇帝に是非とも、とおっしゃっておられたぐらいですから」


 後ろの神父さん達が、感嘆かんたんの声をあげる。


「お〜、それはそれは。あの方が、おっしゃられていたなら確かでしょう」


 う〜ん。こそばゆい。


「いやいや、私など」


「ハハハハ、ご謙遜けんそんを」


 いや、謙遜じゃないんだけどさ~。


「それで、もうお帰りですか?」


「いえ、他の店も回ろうかと」


「他の店ですか? とても、グーテルハウゼン卿のお口に合うものが、あるとは思えませんが……」


 いや、あなた達、普段どんな物食べてんの? 美味しいそうな物、いっぱいありそうだったよ。少なくとも、かなり良い匂いしていた店があった。


「いえ、普段から庶民しょみんの店に行くので、大丈夫ですよ」


「そうですか? もし宜しければ、我々とご一緒に、いかがでしょう?」


 いや、宜しくないって顔している人がいるよ。せっかく仕事終わりに、内輪うちわで盛り上がりたかったのに、という顔だ。


「いえ、お邪魔しては、申し訳ありませんし。挑戦したい店もありますので」


「そうですか? 残念です」


 司祭さんが、そう言ったので、僕は店から出ようと、挨拶する。


「では、失礼します」


「グーテルハウゼン卿も、お気をつけて。お互い楽しい夜になる事を、神に祈りましょう」


 そう、司祭様が言った時だった。


「俺、良い店知ってますけど、御案内しましょうか?」


「これっ、パウロ司祭、グーテルハウゼン卿に失礼ですよ」


 随分、若い司祭さんだ。だが、随分年上の司祭さんが、比較的丁寧に諭している。家柄が良いのかな?


「えっ、駄目ですか?」


 う〜ん? 実は、店混んでるからって最初の店ではアンディは外で見張って、その後も離れてついて来ているのだが、一緒に呼んで3人でまわっても良いな~。


「パウロ司祭、お願いして良いですか?」


「任せてください」


「まったく、困ったもんだ。これだから、あの家系は……」


 なんかブツブツ言われているが、パウロ司祭は、平気な顔で一緒に外に出る。



「アンディ!」


「なんすか、グーテル様?」


「一緒に3人で、飲もう」


「えっ、俺もですか?」


「うん。あっ、そうだこちらパウロ司祭」


「えっと、アンディです。宜しくお願いします」


「宜しくお願いします。パウロです。司祭はつけなくて良いですよ。ここからはただのパウロで、お願いします」


「分かった、じゃあ、パウロさん行こうか」


「はい」


 こうして、3人でワイン小路を歩く事になった。



「グーテルハウゼン卿。言いにくいな、グーテル様、何が食べたいですか?」


「う〜んと、ホワイトアスパラ食べたいなって」


「そうですか、だったら、こっちの店です」


 パウロさんに連れられて、ワイン小路を進む。そして、先程、目をつけていた一軒の店の前で立ち止まる。


「もう一軒、ホワイトアスパラの料理がうりの店があるんですが、ちょっと料理がこりすぎちゃって。ホワイトアスパラは、シンプルなのが一番ですよ」


「なるほど」


 もう一軒の店のアスパラ料理は、薄く焼いたパンの上に、ホワイトアスパラや、チーズ、そして豚肉の薄切りを乗せ、塩胡椒で味付けし、焼いたものだそうだ。


 食べてみないと分からないが、確かに。ホワイトアスパラは、シンプルが良いかもしれない。



「親父さん、邪魔するよ!」


「お〜、パウロさん。何人だね?」


「3人」


「よし、ちょっと待ってろ」


 店は、混んでいた。いっぱいで入れないかと思ったのだが。


「お前さん、こっちな。じいさんは、カウンター来いよ。あっ、そうだ……」


 なんて感じで、あっという間に席が出来た。


「ありがとうね」


「パウロさん、気にすんな」


 というわけで、僕達は席に座る。


 さて、僕はパウロさんに聞く。


「で、おすすめのホワイトアスパラ料理ってどんなの?」


「そうですね。それは見てのお楽しみで。親父さん! ホワイトアスパラのやつ、今日まだある? それと、適当な白ワイングラスで!」


「あいよ!」



 僕は、パウロさんに聞く。


「パウロさん、でも良かったのですか?」


「えっ。ああ。大丈夫ですよ。どうせ俺嫌われてんで。まあ、家の事もありますしね」


「家の事?」


 僕が聞くと、パウロさんは、頭をかきつつ。


「うちの家系、フォルト宮中伯家なんですよ」


「えっ、名家中の名家でしょ、なんで?」


「なんでって、グーテル様の方がご存知でしょ?」


「ん?」


「父も早くなくなり、兄貴は失態を演じて、グーテル様に帝国宰相を奪われるという」


「奪ったわけじゃないけど。だったら、パウロさんが、還俗げんぞくしてフォルト宮中伯家継いだら?」


「それも嫌なんですよ。せっかく、世俗せぞくというしがらみから、解き放たれたんですからね」


「そうなんだ」


 と話していると、


「お待たせ! シュパーゲルのオランデーズソースと、白ワインね」


 そう言って、僕達の前に、シュパーゲル、ホワイトアスパラね、の料理が置かれる。本当にシンプルに、ホワイトアスパラをでて、オランデーズソースをかけた料理だった。


 オランデーズソースは、バターとレモンと卵黄を混ぜて、塩胡椒で味付けしたもので、ランド料理のソースだった。



「じゃあ、さっそく頂きます」


 僕は、ホワイトアスパラのオランデーズソースを食べる。


 うん、美味しい。ホワイトアスパラが出す、濃厚な旨味と微かな甘みをソースが優しく包み、邪魔をせずにホワイトアスパラの味を伝えている。確かに美味しい。


 そして、わずかに冷やされた白ワインは、スッキリとした中に、微かな塩味えんみとミネラル感を感じた。どこの白ワインだろ?


 親父さんに聞くと、先程飲んだスパークリングワインと同じ、ランド王国ランストックのものだそうだ。


「まあ、そんなに高い品物じゃないけどな」


 だそうだが、充分美味しい。そして、シュパーゲルのオランデーズソースには合っていた。


「うん、本当に美味しいね。パウロさん、流石だね」


「良かったです。グーテル様に喜んで頂いて」


 アンディも夢中になって食べていた。そして、あっという間に完食する。そして、


「じゃあ、次行きましょう。次」


「お〜!」



 僕達は、お店を出る。


 続いて、もう一軒、川海老のフリットをつまみつつ、白ワインを飲む。これも美味しかった。ワインは、近郊のワインだそうだ。



 そして、赤ワインに移行。最初の店は、アウフラウフという料理と、ランド王国の北の海沿いで作られたワインだそうだ。軽やかだが、しっかりしたミネラル感と、ややスモーキーな味だった。


 アウフラウフはマインハウスの家庭料理で、肉やソーセージなどと野菜を重ねて焼いた料理だそうである。ホワイトソースで味付けをし、石窯で焼くのが一般的で、アウフラウフの意味は上に積み重ねたという意味で、まさにその名の通りの料理だった。


「はふっ、はふっ。熱いけど最高だね、これ」


「ふ〜、ふ〜。むぐっ、本当に旨いっす」


「ハハハハ、グーテル様も、アンディさんも、そんなに焦って食べなくても、誰もとらないですよ」


 このアウフラウフと、ワインも見事にマッチしていた。少し軽く思えたワインが、アウフラウフと飲むと、料理を邪魔をせずに、ミネラル感をスパイスに、味をさらに濃厚なものとした。


「最高だね、パウロさん」


「ありがとうございます」



 その後も、ダルーマ風のビーフシチューであるグラーシュに、ランド王国南方の赤ワインだの。


 ラム肉のザウアーブラーテンと、珍しいマインハウスの赤ワインだのを飲みつつ店を巡る。最後の方は、ワインだけでほぼ食べた記憶がない。


 そして、夜遅く、宿舎へと、帰って来て、倒れるように寝た。



「グーテル様! アンディ! それと、誰ですか? 良い加減起きてください!」


 僕は、目を覚ます。僕と、アンディ、パウロさんは、僕のベットで折り重なるように寝ていた。くさっ。



 目の前には、フルーラが怒った顔で、直立している。日はすでにかなり高い。


「あっ、おはよー、フルーラ」


「グーテル様、おはようございます。ですが、何ですか、これは?」


「さあ?」

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