第71話 選帝侯会議⑪
剣術大会が再開された。僕達は闘技場に集まる。諸侯達も集まり、闘技場は熱気で
次は準決勝。対戦は、ガルプハルト対ネイデンハートさん。そして、ウルリッヒさん対アンディだった。
「ガルプハルト、怪我しないように頑張ってよ」
「はい、そうさせて頂きます」
と言いながら、練習は頑張っていたようだ。両手持ちの大剣が
ネイデンハートさんは、長剣を片手で持ち、反対の手に盾を持って戦うスタイル。対して、ガルプハルトは両手持ちの大剣で戦うスタイル。
どういう戦いになるのだろうか?
僕は、各選帝侯に与えられた。観戦室に入ると、この前の食事会で気に入ったエスパーダ地方のワインを片手に観戦する。
上が
と、そこへ。お父様が入ってきた。今は叔父様の所を離れ、自領に戻っているフレーゲルハウゼン・ハウルホーフェだ。
「やあ、グーテル。お誘いに甘えさせてもらうよ」
「お父様、ゆっくりして下さい。ワインもありますし。上は、混みすぎですよ」
「そうだな」
実は、選帝侯会議が終わってすぐに、お父様には、挨拶していた。ちなみに、お母様は、ボルタリア王国にいる。僕の居ない間に、エリスちゃんに何かあったらいけないのだそうだ。
「お父様、
「いやいや、特に移動だけだからな。疲れてはいない。それよりも、選帝侯会議の方が、疲れただろう。アンホレストを推薦したようだしな」
「選帝侯会議に関しては、正直、疲れてません。だいたい予想通りでしたし、ですが、叔父様に関しては疲れました」
「そうか?」
「ええ、予想以上でした」
「そうか。ハハハハ」
お父様は、そう言って笑う。
叔父様は、予想以上に
古い体制を
まあ、選べるんだったらこんな人を皇帝にはしないだろうな。だって、国がどうなっていくかわからないし、自分が表舞台に立つことも出来ない。
僕は、どう変わっていくか見てみたい。もし、手にあまるようだったら……。まあ、その時に考えよう。また、策士だの、呼ばれそうだ。
観戦席に、僕、お父様、そしてトンダルと3人で座る。後ろには、フルーラと護衛の騎士達。
お父様は、何やらトンダルと話している。
僕は、後ろを振り向き、
「ねえ、フルーラ。ガルプハルト、勝てそう?」
「う〜ん? どうでしょうか? わたしには、分かりません」
「そうか、そうだよね」
僕は、闘技場を見る。両サイドからガルプハルトと、ネイデンハートさんが入ってくる。
ネイデンハートさんは、
対して、ガルプハルトは、ネイデンハートさんを上回る
「外見は、ネイデンハートさんの勝ちかな」
「そういう事、言うのは、やめてください」
フルーラに、注意されてしまった。
リチャードさんの声が、闘技場に響く。
「これより準決勝を開始する。まず第1試合。ボルタリア王国クッテンベルク宮中伯臣下
歓声が沸き起こり、二人は歓声に応える。
そして、ヘルムを被り構える。ガルプハルトは右足をやや下げて、大上段に剣を構える。ネイデンハートさんは、盾を持つ左手をやや前に出し、右手の剣の先端をすぐ突けるように、その盾の右横に添え、
「はじめ!」
リチャードさんの掛け声と共に、ガルプハルトが動く。大きく踏み込んで、大剣を振り下ろした。ネイデンハートさんは、それを盾で防ごうと、盾を、斜め上にあげる。
「ガッキッーン!」
場内に金属音が響き、火花が飛び散り、ネイデンハートさんが、1mほど、後方に飛ばされた。一瞬だが、信じられない事が起こったというように、ネイデンハートさんが、盾やガルプハルトを見る。硬い金属で出来ているはずの盾は、ぐにゃっと変形していた。
ガルプハルトが普段持っている、ウォーハンマーだったら、すでに勝負はついていただろう。ネイデンハートさんの左腕は
しかし、今回は、剣術大会。ネイデンハートさんの左腕は、痺れているようだが無事のようだ。ガルプハルトの息もつかせぬ連続攻撃を曲がった盾も使って、なんとか
ネイデンハートさんは、ゆっくり下がりながら、体勢を整える。そして、反撃に転じた。
ガルプハルトの剣の軌道を
だが、その程度で
ネイデンハートさんは、上手く回り込みつつ、ガルプハルトの周囲を回りながら、ガルプハルトを攻撃する。
と、今度は、ガルプハルトが後退し始める。こうなると一方的になった。ネイデンハートさんの攻撃を受けつつ、ガルプハルトも攻撃を返そうと大剣を振るうが、ネイデンハートさんに、攻撃が当たる事はなく。
「参った」
追いつめられたガルプハルトの
「勝者、ネイデンハート!」
闘技場に大歓声が、巻き起こる。
両者がヘルムを外す。その瞬間、どよめきが起こる。ネイデンハートさんの右目は腫れ上がり、額からは血が流れていた。ガルプハルトの最初の一撃でこうなったのだろう。
もし、戦場だったら、あるいは、大剣に刃があったら、やはり勝っていたのは、ガルプハルトだっただろう。あらためて歓声が起きる。
「いや、強い強い。完敗です。ガハハハ」
ガルプハルトは、笑いながら手を差し出す。
ネイデンハートさんもそれに応え、握手しつつ、
「戦場でなくて良かったです。戦場だったら、俺は間違いなく死んでいたでしょう。戦場であなたと会わない事を、神に祈りますよ」
この願いを神は受け入れる事なく、時には味方として、時には敵として二人は会うこととなる。
この戦いを見ていたある人物によって、引き抜かれ、その人物に
こうして、準決勝第1試合が終わった。
「ガルプハルトお疲れ様。怪我は大丈夫?」
「ありがとうございます、グーテル様。ええ、特に怪我してないんですよ」
そう言いながら、ガルプハルトは自分の身体を見ていた。
お父様も、トンダルもガルプハルトの戦いを讃えていた。
「これで、アンディが優位に戦えるかね?」
「アンディが、決勝に行くことが、前程なのですが」
フルーラがそう言うと、ガルプハルトは、
「まあ、アンディとの戦いになるでしょうが、戦場で生きてる人間です。ちゃんと対策をとってくると思いますよ」
だそうだ。
「そう」
観戦室にディナーの準備がされ、ガルプハルトも加わりゆっくりと食事をとると、午後の試合。アンディの試合の準備が始まる。
アンディが入ってくると、大歓声が起きる。女性の悲鳴のような歓声が響きわたる。
相変わらず、大人気ですね~。
まあ、あの顔だからね。まさに
対して、ウルリッヒさんは、相変わらず両手に、パンツァーシュテッヒャーを持ち。長いマントを羽織り、長い手足を隠し
「準決勝第2試合を行う。トリスタン大司教臣下
ウルリッヒさんが、パンツァーシュテヒャーを、自分の顔の前で交差するように構える。アンディは、ネイデンハートさんと同じような自然体に構える。
「はじめ!」
リチャードさんの声が響くが、両者動かない。やがて、じりっじりっとアンディが前進を開始する。
そして、ある程度まで進むと、足先で闘技場の床に傷をつける。何だろ?
アンディは、さらにじりっじりっと前進する。と、その瞬間、ウルリッヒさんが動く、右足を前に大きく踏み込み、右腕を伸ばす。アンディは、その動きを、読んでいたように後方に飛ぶ。すると、
「コツッ」
ウルリッヒさんのパンツァーシュテヒャーが、軽くアンディの盾に当たる。
アンディは、やや自分が闘技場につけた線の後方に立っていた。アンディは、さらに素早く距離をとり、お互い離れ構える。
アンディは、もう一度だけ、同じ事を繰り返す。すると、今度は、線の上に立った。これで、アンディの間合い確認は終わったようだ。激しく試合が動き出す。
アンディは再び構えると、やはりじりっじりっと動き、おそらくウルリッヒさんの間合いに入ると、凄いスピードで、左右にフェイントを入れつつ、ウルリッヒさんに迫る。
ウルリッヒさんも、前方に飛び、アンディを突くが、アンディには当たらず、そのままアンディは飛び込み、剣を振るう。ウルリッヒさんも、なんとか、剣で防ぐが、後方に逃げる。
アンディが、追撃をかけると、ウルリッヒさんは体勢が崩れ防戦一方となる。すると、ウルリッヒさんが、両手を地面につけ、そのまま足を上げて回転し、アンディを蹴る。
ウルリッヒさんの足先には、短剣が仕込まれていたが、アンディはなんとかそれを躱し、後方に飛ぶ。
再びお互いが間合いをとり、構える。一瞬の攻防だったが、見応えのある攻防だった。自然に会場に拍手と歓声が沸き起こる。
そして、再び、アンディが動く。先程と同じように、左右にフェイントを入れつつ前方に飛ぶ。ウルリッヒさんは、今度もなんとか防御するが、また防戦一方となり、そして、再び、両手を地面につけ、そのまま足を上げて回転し、アンディを蹴る。
その瞬間、アンディが僕の視界から消える。
後で、フルーラに聞くと、素早く前方に足から、ウルリッヒさんのマントの下に
アンディは、素早く前方に滑り込み、そのまま反対側に通り抜けつつ、回転軸となっていたウルリッヒさんの手を剣で強く叩く。そして、アンディは身体を素早く反転させ、ウルリッヒさんに剣を突き付けた。
ウルリッヒさんは、両腕を激しく、剣で叩かれパンツァーシュテヒャーを取り落とし、うずくまる。
「ま、参りました」
これで、アンディの勝利が決まった。決勝は、ネイデンハートさん対アンディとなった。
凄まじい歓声の中、ウルリッヒさんがヘルムを始めて脱いだ。どこにでも居そうな平凡な顔があらわになる。まあ、こういう人の方が怖いよね。人混みに
「決勝も頑張ってください」
「ありがとうございます」
アンディが、爽やかに答える。
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