第56話 反ヒールドルクス同盟①
「お初にお目にかかります。クッテンベルク宮中伯グーテルハウゼン卿。わたしは、神聖教教主ニコラス4世
僕は、ヴァルダ城の本宮殿の自分の執務室で、その人物を迎えた。
「アナーニ
ニコラス4世は、現在の神聖教教主である。確か
枢機卿は、神聖教教主の顧問団のようなもので、その枢機卿団の中で、助祭枢機卿、司祭枢機卿、司教枢機卿と位が分かれているのだ。
さて、神聖教教主様が、何の用であろうか?
「それで、どのような用件でしょうか?」
僕が、聞くと。
アナーニさんは、懐から
「こちら
僕は、同じように頭を下げつつ、書状を受け取り、
そこには、かなり強い言葉で、叔父様に対する非難の言葉が書かれていた。ザーレンベルクス大司教に対する度々の嫌がらせ、ニコラス4世が支援したダールマ王の王位継承に対する邪魔、さらに
う〜ん。叔父様、随分嫌われたな。まあ、教主様が言いたい事、言っているのは、お祖父様の死が影響しているのだろうが。ちなみに、お祖父様と教主様の関係は良好だった。ダリア地方の大きな領土を寄進したからだ。
さて。僕は、さらに読み進めた。
「出兵ですか?」
僕は、顔を上げて、アナーニさんを見る。
「はい、そこに書かれているとおりです。反ヒールドルクス同盟の
そこには、速やかにヴィナール公国へ出兵し、天罰を下すように、書かれていた。天罰ね~。教主様は、神では無いのにね。
だけど、う〜ん。これは断れない。神聖教教主の神命。まあ、無視したら、こちらが標的になる可能性がある。僕は良いとして、ボルタリア王国に迷惑はかけられない。それだけ、神聖教の影響力は大きいのだ。
「かしこまりました。急ぎ王や、重臣と話し合い、出兵の準備を致します」
「よろしくおねがいします。まあ、グーテルハウゼン卿は、ヴィナール公とは、叔父、甥の
ん? アナーニさんが、何か含みのある物言いをしてきた。アナーニさんとしては、あまりこの神命とやらを、良く思っていないと言いたいらしい。
「かしこまりました。ですが、そんな事を話して良いのですか?」
「はい。ニコラス4世聖下の事は、
「そうですか、それでは……」
と、僕は言いかけたのだが、
「わたしは、あくまで使者です。それ以上でも、それ以下でもありません」
「かしこまりました。早急に、出陣致します」
「頼みます」
アナーニさんが、居なくなると、僕は急いで準備を開始する。
「ガルブハルトに伝令して、
「はい」
フルーラが、慌てて飛び出して行く。続いて、
「オーソンさんに、至急、ここに来るように連絡を」
「ういっす」
そう言いつつ、アンディが飛び出して行く。それとほぼ入れ替わりに、フルーラが戻ってくる。おそらく適当な人物を伝令として、放ったのだろう。
帰ってきたばかりのフルーラに、
「ヤルスロフさんと、デーツマンさんに、手が空き次第、こちらに来るように伝えて」
「はい」
フルーラが、再び、飛び出して行く。そして、それとほぼ入れ違いで、アンディと、オーソンさんが入ってくる。
はやっ!
「オーソンさん、連れて来ました~」
「アンディ、御苦労様。だけど、早かったね」
僕は、オーソンさんを見る。今のオーソンさんは、白髪で、白い髭をはやし、森の隠者のような格好をしているが、これが、本来の姿ではない。会う時によって、若い男性だったり、女性だったりもする。
「フォフォフォ、ちょうど近くにおりましたゆえ」
「いや、アナーニさんの動き
「さすがグーテル様。まあ、そのとおりです」
「ふ〜ん。で?」
「はい、かつては、
「そうなんだ」
僕は、少し考えるが、まあ、とりあえずそれは後だ。
「で、オーソンさん、悪いんだけど、叔父様に書状書くから、それを持っていって」
「はっ、かしこまりました。宣戦布告ですか?」
「いや、避けられるんもんなら、避けたいなと」
「なるほど。ですが、難しいでしょうな〜」
「まあね。叔父様が素直に頭を下げるとは、思えないからね~」
「そうですか」
僕は、叔父様への書状をしたためると、オーソンさんに
「よろしく」
「はっ、かしこまりました」
オーソンさんが、部屋から出ていき、しばらくすると、ヤルスロフさんと、デーツマンさんが、慌ててやってくる。
「お連れ致しました」
フルーラが、厳しく
フルーラ、その表情で言ったの? 完全に、怯えているよ、お二方。
「お、お呼びだそうで」
「わ、我々、何かしましたでしょうか?」
かつて何かよほど嫌な事が、あったのかな?
僕は、二人に教主様の書状を渡しつつ、話す。
「どうやらまた、戦いになりそうだよ」
二人は、仲良く二人で、書状を持ちつつ、応える。
「これは……。教主様の御命令ですか……」
「我々も、出陣しないと、いけませんな」
「それなんだけど、ヤルスロフさんと、デーツマンさんは、もしもの場合に、ボルタリア王国にいてもらわないと困るし……」
と、僕が、言うと。デーツマンさんは、
「そ、そのような事は、言わないでください!」
と、慌てるが、やや慣れてきた、ヤルスロフさんは、
「そうではないと思うぞ。グーテル様は、戦中のボルタリアの国政の事を、言っておられるのだ」
「そ、そうか。そうでしたか。それでしたら、お任せください」
「よろしくおねがいします。それで、兵なのですが……」
「それでしたら、国内外の
「グーテル様の招集なら、すぐに集まるでしょう」
ヤルスロフさんと、デーツマンさんが、気負って応えるが。僕は、
「それが、逆に集まって欲しくないので、第1師団から半数加える程度にしようかと思っているのですが。まあ、
「それはもちろん、許可なさるでしょう」
「
「それなんですけど、おそらく、ザーレンベルクス大司教は本気できます。ダールマ王国も、教主様に認められたいので、ある程度本気でくるかと。とすると、僕達が、本気で兵を派遣すると、大いにこちらが優位になってしまいます」
「それは、良いことでは?」
ヤルスロフさんが、首をかしげ、考える横で、デーツマンさんが、応える。
「一方的な戦いになっちゃ困るんですよ。適度に戦い、適度に勝利する」
「そうなのですか……」
デーツマンさんは、いまいち分かっていなさそうだった。
一方的に敵を倒せば、
「かしこまりました。思う存分、戦ってください。どうか無茶はせず」
ヤルスロフさんが言うと、
「そうですな。
と、デーツマンさん。
「お二方、よろしくおねがいします」
その後、僕は、レイチェルさんに面会を申し込む。もちろん、すぐに、
僕は、レイチェルさんに、教主様の書状を見せる。
レイチェルさんは、書状を読み終えると、険しい顔で、こちらを、見る。
「教主様は、どうされたのかしら?」
「さあ? さすがに、分かれかねますが……」
「そうですね、ごめんなさい。それで、グーテルハウゼン卿としては、どうなさるおつもり?」
どうなさるおつもり? か〜。さて、
「はい。今回も、第3師団を率い
すると、レイチェルさんは、
「分かりました。それでは、フェルマン副騎士団長に率いさせましょう」
フェルマン副騎士団長は知らないが、良かった。レイチェルさんは、言葉を続ける。
「若いけど、名門出身の優秀な子なのよ。鍛えてあげて」
「はあ」
ん? 鍛えてあげて? 僕が? 違うな、ガルブハルトか?
「それで、他の貴族達には、声をかけないの?」
レイチェルさんが、聞いてきた。他の貴族とは、ボルタリア王国の領内諸侯の事だろう。
「はい、兵数が多くなりすぎると、勝ちすぎてしまいますし、それに、人選も難しいです」
「そう。そうですね。分かりました。では、グーテルハウゼン卿、ボルタリア王国の
「はい、このグーテルハウゼン。王太后様と、国王陛下の
と、格好良く言いつつ立ち上がったのだが、レイチェルさんが、
「グーテルハウゼン卿。国王陛下と、王太后様です。順番逆ですよ」
「あっ、申し訳ありません」
まあ、こうして、僕達は素早く準備を済ませると、3000名の騎士、そして、6000名の兵士。総兵力9000を率いてヴィナール公国に向けて出陣したのだった。
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