第54話 お祖父様の葬儀④

「行きましょうか」


「そうだね」


 廊下で待っていた。トンダルが、僕に声をかける。


「何のお話でした?」


 エリスちゃんが、僕に聞くが、僕は、


「ひ・み・つ」


 すると、エリスちゃんは、


「グーテルさん、申し訳ありません。聞いては、いけない話でしたか。出過ぎたまねをしました」


「いや、話していけない話って、程じゃないんだけどね~」


 僕が、能天気に返すと。トンダルが、


「まあ、何の話かは、見当けんとうつきますが、聞かない方が、良いでしょうね。では、行きますか」



 僕達は、連れ立って教会の大広間へと、向かった。



 大広間は、歴代皇帝の葬儀も行われているからか、かなり大きな広間だった。



 部屋に入り、給仕係から飲み物を受け取り、さて、少し落ち着いて飲もうかと思ったら、すぐさま人々に囲まれた。


 素早く逃げようとする、トンダルとヨハンナちゃんを捕まえ。人の輪の中に留めた。


「グーテル。これは、グーテルに挨拶しようと、集まった方々でしょ。だったら……」


「嫌だ。トンダルも道連れだよ」


「はあ〜。仕方ありません」



 こうして、僕達は、挨拶攻勢に合うこととなった。誰だったかは、いちいち覚えていない。


「クッテンベルク宮中伯グーテルハウゼン卿。この度は、御愁傷様ごしゅうしょうさまでした。わたし、お祖父様である、ジーヒルホーゼ4世陛下には、大変お世話になり……」


 とか、


「皇帝陛下の死は、我々にとっても辛いことです。グーテルハウゼン卿も、お気を落とさず。それで……」


 とか、いろんな方々から、いろんな挨拶攻勢受ける。僕は、トンダルの真似して微笑みつつ、挨拶を返し続けた。



 そして、挨拶攻勢が一段落すると、フォルト宮中伯が、二人の男性をともなってやってきた。


「グーテルハウゼン卿、それに皆様も、陛下の御葬儀、お疲れ様でございました」



 フォルト宮中伯。マインハウス神聖国の領邦諸侯筆頭だが、小国であり、軍事力としては小さい。が、領邦諸侯筆頭に相応しい出来た方だ。お祖父様を支え、マインハウス神聖国の発展にくした。


「フォルト宮中伯様も、お祖父様の御葬儀の差配さはい、御苦労様でした」


 僕が、代表して挨拶を返し、トンダル達も頭を下げる。


「いやいや、最後の仕事と思えば、苦でもないですよ」


「えっ!」


「わたしは、次のマインハウス神聖国の君主が決まれば、引退しようと思うのです」


「そうでしたか。御苦労様でした」


「はい、ありがとうございます。お〜、そうでした。それで、ご紹介を、これは、我が息子、次代のフォルト宮中伯になるロートリヒです」


「ロートリヒです。皆様、よろしくおねがいします」


「よろしくおねがいします」


 ロートリヒさんの挨拶に、挨拶を返す。ロートリヒさんは、四十代位だろうか? とても素直そうな方だ。育ちの良さがあふれ出ている。お父さんのような強かさが見えない、ちょっと心配になるな。まあ、僕が、気にすることでは無いな。


「で、こちらは、グーテルハウゼン卿は、一度合われているかと」


 フォルト宮中伯が、もう一人を紹介する。


「はい、エリサリスとの、結婚式の折に」


「オルテルク伯アーノルドで、ございます。皆様方も、今後とも宜しくお願い致します」


「よろしくおねがいします」



 頭を下げて、上げる。調べたから知っているが、年齢は41歳だ。相変わらずその年齢とは思えない、人形のように無機質で美しい顔だった。



「では、我々はこれで。おお、そうでした。選帝侯会議ですが、来年の春を予定しているそうです。まあ、細かい日程は、大書記官長筆頭である、ミハイル大司教より連絡がもたらせると思うので、少々お待ち下さい。では、失礼致します」



 書記官長筆頭。これは、三聖者と呼ばれる三人が、それぞれ、ミハイル大司教が、ハウゼリアの大書記官長。トーリア大司教が、マインラントの大書記官長。キーロン大司教が、ダリアの大書記官長。


 これは、マインハウス神聖国に伝わる伝統で、実際の役職ではない。ちなみに、フォルト宮中伯は、大膳職だいぜんしき長官だ。


 で、その筆頭がミハイル大司教だということだ。そして、選帝侯会議を仕切るのも、ミハイル大司教なのだ。


「かしこまりました」


 そう言うと、フォルト宮中伯と、ロートリヒさんは、去って行ったのだが、アーノルドさんは残る。そして、話し始めた。



「久方ぶりです。グーゼルハウゼン卿、エリサリス様、トンダルキント殿下、ヨハンナ様。この度は祖父であらされるジーヒルホーゼ4世陛下の逝去。ご心痛、察するに余りあります」


「ありがとうございます。」


 僕達は、挨拶を返す。


「しかし、偉大な皇帝陛下の死は、マインハウス神聖国にとって、多大な損失。わたしは、この国の将来が心配になりました」


「そうですか? マインハウス神聖国にとって皇帝が、そこまで影響与えるとは……」


 しまった。余計な事を言ったな~。


「確かにそうかもしれませんね。しかし、素晴らしい実績をあげた陛下の後の、皇帝が良くない行いをすれば、マインハウス神聖国にとって、悪い影響を及ぼすと思うのですよ」


「なるほど」


 聞くだけ聞いて、適当に返事しよう〜と。


「ところで、ヴィナール公と、戦われたそうですね。えらい迷惑な話です」


「いや、あれは、僕があおって、ヴィナール内乱を引き起こしたようなものですし」


「そうでしたか。ですが、ある程度損害は出たでしょう」


「それは、ありますよ」


「人の死は、心が痛みます。戦いは、嫌なものです」


「そうですね〜」


「戦いの無い世を作りたい、わたしは、そう考えています」


「そうですか、素晴らしい心がけですね~」


 おっと、僕にも心理誘導を仕掛けてきたぞ。まあ、誘導されないけど。


「ヴィナール公は、いくさ、戦、戦、戦。本当に戦うのが、お好きなんですね」


「確かに、そうですね」


「ヴィナール公が、皇帝になれば戦い続きの世の中になってしまうのではないか。わたしは、そう不安になるのです」


「かもしれませんね~」



 自分は、戦いが嫌い、叔父様は戦いが好きということね。そして、人の死ぬのは心が痛む。だから、戦いは良くない。だから、叔父様は皇帝に、相応ふさわしくないって事かな。


「そう言えば、神聖教教主様も、心良く思っていないと。マインハウス神聖国の将来が、心配です」


「そうですか~」



 ん〜。これは、本当だったら少しまずい。神聖教教主の言動は、影響力が大きい。お祖父様には、好意的だったが、これからは、どうなるか分からないな~。


 等と、ぼーっと考えていると、アーノルドさんは、暖簾のれんに腕押しと思ったのか。


「おっと。あまり長話しては、皆様に失礼ですね。では、失礼致します」



 そう言って、あっさりと、去って行った。



「あれがですか。グーテルが、言ってなかったら。素晴らしい人と思ってしまいますよ。本当に、心にぬるっと入って来ますね」


「でしょ」


「顔も、良いですしね」


 と、エリスちゃん。


「えっ! エリスちゃん、ああいう顔好きなの?」


「いいえ、全然。わたしは、グーテルさんの、ぬぼ~とした顔が好きですし」


「ぬぼ~とした顔って、ひどくない?」


「てへっ」


 エリスちゃんが、舌を出し、とぼける。と、ヨハンナちゃんが珍しく。


「イケメン度だったら、トンダル様の方が上ですよ」


「確かに」


 僕と、エリスちゃんがうなずく。さらに、


「あの貼り付いたような笑顔より、トンダル様の柔和にゅうわな笑顔の方が、100倍素敵です」


「ヨハンナ……」


「トンダル様……」


 はいはい。後でやってね~。



 その後も、しばらくいろんな方々と挨拶を交わし。ああそう言えば、ザイオン公も、立派になっていました。いつか、皇帝候補になってくるのかな?



 翌日、それぞれの居場所へと、戻る事となった。



「わたし達は、ハウルホーフェ城に帰るよ。まあ、ハウルホーフェ公国なら、仕事量も減るし、ボルタリア王国にも遊ぶに行けると思う。ハウルホーフェには、コーネルもいるしな」


「そうですね。楽しみにしてます」


 お父様は、どこか清々せいせいとした感じだった。


「わたしは、このままグーテルにくっついて行っちゃおうかな〜。ね~エリスちゃんも、いいわよね?」


「えっ。も、もちろんです。お義母かあ様」


 お母様に言われ、エリスちゃんが、ドギマギする。だけど、


「まずは、片付けがあるだろう。それに、グーテルは、来年には選帝侯会議がある。それまでは、忙しいだろう」


「え〜!」


「え〜。ではない。ちゃんと落ち着いてからだ」


「は〜い。エリスちゃん、ごめんね。少し待っててね」


「は、はい。お待ち申しあげております」


「では、元気でな」


「身体に気をつけなさいよ〜」


「お父様、お母様も無理はなさらず。気をつけて帰って下さい」


「お義父様、お義母様、気をつけてお帰りください」


 こうして、お父様とお母様は去って行った。



 さらに、ヒンギル、カール、叔母様が少し先に発ち。わざわざ、叔父様だけが、挨拶に寄る。


「グーテル、御苦労だったな」


「叔父様も、御苦労様でした。良い御葬儀でした」


「そうだな」


 そこで、僕はふと、今考えている事を話す。


「叔父様、僕は選帝侯会議で、叔父様を推薦すいせんしようと思うのです」


「そうか」


「僕の目の前にいる今の叔父様は、お祖父様の後継者として、マインハウス神聖国の君主として、相応ふさわしい人だと思うのです」


 そう、あくまでも、親族の前にいる時の、叔父様だ。他者の前で、偉大なお祖父様には負けまいと、自分を大きく見せようと、尊大そんだい威圧的いあつてきな叔父様ではない。


「そうか」


「ですが……」


「?」


 これ以上言うのは止めよう。おいっ子が言うべき事ではない。それこそ、出過ぎたまねだ。


「何でもありません」


「そうか」


「叔父様、気をつけてお帰りください」


「ああ、グーテルもな」


 そう言って、叔父様も去って行った。



 そして、僕達も、ボルタリア王国に向けて旅立った。比較的同じ方向に向かう、トンダル達と共に。





 僕は、8月の初旬にボルタリア王国ヴァルダへと帰還した。



 そして、お祖父様が亡くなった影響は、すぐさまあらわれる事となった。それは、思わね場所からだった。


 それは、お祖父様の崩御から、一ヶ月も経たない、僕がヴァルダに帰ってすぐの事であった。


 神聖教教主の使者が、ボルタリア王国ヴァルダを訪れる。

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