第53話 お祖父様の葬儀③

「では、神に感謝して、頂くとしよう。アーメン」


「アーメン」


 叔父様が、テーブルの一番、上座かみざの席で、食事前のお祈りをささげる。


 かつては、お祖父様が必ず座っていた位置だ。そこに今は、叔父様が座る。



 僕は、ふと、テーブルの対面を見る。そこには、エロバカがいた。視線が合う。


「チッ。何だよその顔は?」


 カール従兄にいさんが、こちらをにらむ。


「ほ〜。領邦諸侯りょうほうしょこうである、クッテンベルク宮中伯きゅうちゅうはくに、そういうこと言いますか。カール従兄さん」


 エリスちゃんが、テーブルの下で、僕の服を軽くちょんちょんと、引っ張る。やめろってことね。言っちゃったけど。


「チッ。申し訳ありませんでした。クッテンベルク宮中伯」


 へ〜。カール従兄さんが謝った。成長しましたね~。というか、これだと僕の方が大人気ないな。


「僕の方こそ、申し訳ありませんでした。カール従兄さんは、一応、従兄さんなのに、僕の方が、位が高いからって、偉そうにして申し訳ありません」


「クッ」


 エリスちゃんが、テーブルの下で、僕を軽く叩く。やめろってことね。言っちゃったけど。


「こらっ、やめなさい。グーテル」


「そうですよ。大人気ないですよ。いくらカールが、女狐めぎつねの息子だと言っても」


 お父様が、僕に注意し。お母様が、火に油を注ぐ。そして、エリスちゃんが、あたふたと、小声で、


「お、お義母かあ様」


「お義姉ねえ様。女狐とは、誰の事ですか?」


 叔母様が、お母様をキッと睨む。カールと、表情がそっくりだ。


「あら、なんか女狐が、コンコン言ってるわよ。グーテル」


「な、な、何て、事を〜」


「こらっ! 止めないか! 父上の葬儀だぞ、家族が、相争あいあらそってどうする!」


 叔父様が怒る。叔母様は頭を下げ、お母様は舌をペロッと出す。こらっ、お母様。


「ごめんなさい。でも……」


「でも、ではない! 父上の葬儀なのだ、喧嘩などせず、思い出話に花を咲かせたいのだ」


「申し訳ありません」


 叔母様が謝り、下を向く。



 だけど、いけないのは完全に僕と、お母様なのだが。まあ、良いか~。


「お前も、ちゃんと謝りなさい」


 お父様が、お母様に注意する。


「ごめんなさい〜」



 その後は、食事を食べつつ、思い出話をしていく。ただ、かなりの昔話から始まったので、叔父様と、お母様が話の中心だった。例えば、こんな話題だった。



「そう言えば、狩猟しゅりょうにも良く3人で言ったな」


「そうそう。楽しかったわね~」


「あの頃の姉さんは、男勝おとこまさりだったから、俺より、獲物多く捕ったり。そうだ、良く殴られて、泣かされてたな~」


「あら? 今だって、勝てるわよ」


「ワハハハハ、さすがに体格が違うから無理だと思いますよ」


「そう? やってみないとわからないんじゃない? そこにいる、大きなヒンギルだって。グーテルに負けたみたいだし」


「ウッ」


 ヒンギルが、うめき声を上げる。


「お母様、それは、今言うべき話じゃないような〜」


 僕が言うと、お母様は、


「あら? 体格の話と、喧嘩の話でしょ?」


「ですから、そうですが、戦ったのは、騎士や、兵士達で、一騎討ちでヒンギル従兄さんを倒したのは、ガルブハルトだから……」


「グ、グーテル!」


「あっ!」


 トンダルが慌てて、止めたのだが。



 僕は、余計な事を言った、言い過ぎたか?



「何だと? ヒンギル、聞いてないぞ。一騎討ちの事」


 叔父様が、ギロッとヒンギル従兄さんを睨む。ヒンギル従兄さんは、おどおどしつつ、


「そ、それは……、申し訳ありません」


「まあ、良い。後で、詳しく聞こう」


「はい」


「あらあら」


 お母様も、わざとだな。



 その後も、話は続いた。だけど、徐々に、僕達でも、わかる話になってきたのだが、


「そう言えば、姉さん。良くグーテル連れて、ヒールドルクス城に来てたよね」


「えっ。え〜と、そうでしたかしら?」


 お母様が、少しドギマギする。すると、叔母様が、


「そうでしたね。お義姉様、子育て苦手だって言われて、良くグーテルを連れて来られて、だからヒンギル達とは、兄弟同然に」


「そう言えば、グーテルと良く遊びました」


 トンダルが言い。お母様が、


「そうだったかしら、アハアハハハ」



 どうやら、僕が幼い頃の話をしているらしい。確かに、子供の頃は、皆で、一緒に、遊んだ記憶がある。



 その当時は、小さな国同士で、結構仲良かったよな~。いつからだろ? まあ、仲悪いのは、お母様と叔母様だけか?



「あの頃は、母上もられた。優しく大きな母上だった。グーテルも、母上に育てられたようなものだ」


「そうだったんですね~」



 僕は、幼い頃を少し思い出していた。確かに、お母様よりは、お祖母様と共にいた記憶がある。


 そして、遊び相手は、従兄弟いとこ達。ヒンギルが率先して遊び、僕と、トンダルがくっついていく。あれっ? カールって何してたんだろ?



「そう言えば、ヒンギル従兄さんや、トンダルと一緒に遊んだ記憶がありますよ。あれっ? カール従兄さんは……?」


「フン。俺が、そんな子供の遊ぶに、付き合える分けないだろ」


「そうそう。カールは、あの頃からお勉強が、好きだったのよね」


 カールの話を、叔母様が補足ほそくする。


「そうでしたか~。だから、今は、ヒールドルクス公国の代官として活躍中だと、流石さすがですね~」


「クッ」


「こらっ、やめろ、グーテル」


「あっ、ごめんなさい」


 ついに、叔父様に怒られた。いけないいけない。いつの間に、僕はこんな皮肉屋になったんだ?



「まあ、分かれば良いが。だが、そういうところも確かに、父上に似てるな~」


 叔父様が、しみじみと言う。似ている? 誰が、誰と?


「僕が、お祖父様に似てるんですか? お祖父様は、働き者だったような気がしますが……」


「ワハハハ。確かに、父上は働き者だが、そこではない」


「そうそう」


 叔父様に同意する、お母様。


「そうですか、では?」


「何というのか? 面と向かって話しているのに、一歩引いた感じで見ているというのか?」


 ん? どういうこと? すると、お母様が、


「お祖父様も、グーテルも、真剣に話しているのかと思ったら、急に冷めた事を言ったり、こちらをからかったり」


「そう言われれば、そうだな」


 お父様まで、同意する。


 ヒンギルと、トンダルもうなずく。



 そして、お父様が、言葉を続ける。


「そうか、物事ものごとを冷静に客観的きゃっかんてきに見つめていると、表現すれば良いのか?」


「そうだな」


「常にね」


 叔父様、お母様も同意する。



 だけど、なんとなくわかる。話している時に、自分以外にもう一人冷静に自分や相手を見る自分がいた。いや、話すとき以外もかな?


 お祖父様も、そう言われれば、そうか。だから、ちゃんと話さなくても、お互いだいたいで理解しあえた。そういう意味では、似てるか〜。



「だけど、グーテル。客観的に冷静にだけ物事を見るのは、いけないぞ」


 と、お父様。


「そうだな。空飛ぶ鳥でも、地をう虫の気持ちを、理解出来ないといけないぞ」


 と、叔父様。僕は、思わず。


「ついばむだけ、ですけどね」


「こらっ、グーテル。そういうところだ」


 また、叔父様に怒られた。



 まあ、お祖父様の思い出話なのか、僕の人物評じんぶつひょうなのか、分からない感じで、食事会は進む。



 だけど、叔父様や叔母様含め、皆が楽しそうだ。まあ、いつもは、僕や、お母様が突っかかっていくから、めるのかな?



「そろそろ時間か。いや、楽しかった」


「そうですわね」


 叔父様と、叔母様が顔を見合わせて微笑ほほえむ。お父様と、お母様も、


「確かに良いものですね。久しぶりに家族皆んなで、楽しく食卓を囲む」


「そうそう。揉め事なければ楽しいのよ」


「姉さんが、それを言うか?」


「な〜に?」



 こうして、家族での食事会は終わった。


「さて、皆様お待ちかねだろう。行こうか」


「そうね」



 叔父様の言葉に、お母様が同意して、席を立つ。この後は、お祖父様の葬儀に参列していただいた方々と、パーティー……。じゃないな、え〜と、何て、言えば良いんだ。飲み会じゃなくて、会食? だ。まあ、皆様、食事も済んでいるので、飲むだけになると思うが。



 食事中、存在感のなかった。トンダルの方を見る。すると、視線に叔父様とお母様の弟さんと、その奥さんが目に入る。もっと、存在感なかったな~。


 奥さんは、カール2世の娘さんだ。カール3世の葬儀には来なかったのだが、ヴィナールと、ボルタリア王国の関係を考えると、仕方ない事か〜。一応、挨拶しないと。と思ったのだが、二人してそそくさとどこかに行ってしまった。


 まあ、後で良いか。



 僕は、立ち上がりつつ、トンダルに声をかける。


「トンダル、一緒に行こうか」


「そうですね」



 僕は、エリスちゃんと共に、トンダルの方に向かう。トンダルの隣には、ヨハンナちゃんがいる。


 四人は、連れ立って部屋を出ようとする。すると、


「グーテル。ちょっと良いか?」


 叔父様に、呼び止められた。


「はい、何でしょう」


 僕は、立ち止まり、トンダル達は、目で合図をして、外に出る。


「お祖父様の後継の事なのだが、選帝侯せんていこう会議には、グーテルが出るのか?」


「多分、そうなるとは思います」


「そうか……。いや、やめておこう。呼び止めて済まなかったな」


「いえ」


 叔父様は、そう言うと、部屋から出て、廊下を歩いて行った。選帝侯会議、お祖父様の後継。叔父様は、マインハウス神聖国の次代の皇帝の話を、しようとしていたのだろう。


 選帝侯会議。複雑なのだが、皇帝を直接決める会議ではない。マインハウス神聖国の君主くんしゅ及びダリア王を決める会議なのだ。この辺の事は、実際の選帝侯会議で、詳しく語ろうと思う。



 僕は、廊下に出て、叔父様の背を見る。あれだよな。家族や親族に対するように、臣下や、領民、周辺諸国に対する事を、なぜしないのだろうか? それとも、出来ないのだろうか?


 僕達には、素晴らしい叔父様なのにな~。



 まあ、僕も周辺諸国の人間でもある、また、戦う事になるかもしれない。それが、出来るだけ遠い将来であることを、僕は願った。

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