第三章 グータラ殿下の乱世
第51話 お祖父様の葬儀①
僕と、エリスちゃん、そして、フルーラとアンディの四人は、馬で急ぎ、お祖父様の下に向かっていた。
向かうのは帝都ではなく、フォルト
お祖父様は、体調が回復し
僕達は、第一報の手紙を受け取ると、すぐさま
それによると、すぐさまフォルト宮中伯が自分の
さらに、
フォルト宮中伯は、自領でお祖父様が亡くなったので、自分が疑われないように必死なようにみえた。だけど、フォルト宮中伯にとって、お祖父様は居なくてはならない存在。殺したりして得な事はない。
だから、誰も疑わないと思うのだが……。そうじゃないのかな?
僕は、そんな事を考えつつ進んでいた。結構急いだので、四日目で総行程500kmの半分くらいを進んだ。いつもは、半分馬鹿にしたような目つきで僕を見る愛馬も、今回は真剣な表情で走っている。意外と頭が良いんだよんね〜。
急いで向かっていた。だから、みんな格好がヨレヨレだ。特にいつもは馬車で移動しているエリスちゃんは、結構疲れが見える。今日は、早めに休んだ方が良さそうだな。
僕達は、早めに宿を見つけ入る。
「エリスちゃん、大丈夫?」
僕達は宿に入ると、早めに食事を出してもらった。急ぎ向かっているが、自分たちが体調悪くなったら、元も子もない。少し休みながら進んでいるが、まともに食事を、食べれるのは宿に入った時だけだ。
「大丈夫です。ちょっと、お尻が痛いですけど」
「見ようか?」
「結構です!」
エリスちゃんが、ちょっとムッとして、怒る。うん、怒る元気はあるようだ。
「グーテル様、意外と陛下が亡くなられたのに、平気なんすね~」
「こらっ、無神経な事を言うな!」
アンディが、僕と、エリスちゃんのやり取りを聞いて、そんな事を言い。フルーラがアンディを注意する。
「う〜ん? 平気だね。実感がないのかな? それとも、覚悟が出来ていたのか?」
僕は、左右に首を傾げつつ、考える。
「そうですよね~」
エリスちゃんが、ポツッとつぶやく。そうだった、エリスちゃんは御両親を亡くしていた。え〜と。
「ごめんね、エリスちゃん」
「へっ?」
「いや、ほら、エリスちゃんは御両親亡くされてるのに、僕が……」
「そうでしたね~。わたしって、
「へっ?」
「でも、今はグーテルさんもいるし、マジュンゴも、みんなもいるから、幸せで。あまり悲しいって、思わないんですよね~。むしろ懐かしいな~って」
「そうなんだ」
良かった。エリスちゃん、御両親が亡くなった事とか思い出して、悲しくなっているのかと思ったら違った。じゃあ、なんで、なんか暗かったんだろう?
「そうか! やっぱり、お尻が痛くて。僕が見てあげるよ」
「だから、違います! 少し疲れているだけです!」
「そうなんだ、ごめんね」
「もう!」
と、ここでフルーラの視線にも気付く。どうしたんだろ?
「フルーラ、食べ終わっちゃった? 僕の食べる?」
見ると、フルーラの皿は、
「いえ、グーテル様。わたし、そんなに大食いじゃあ、ありませんから」
「そう?」
いや、結構食べると思うけど。
「そうではなく、これからこの国はどうなって行くのかと思いまして」
「隊長も、お祖父様を亡くされたばかりの、グーテル様に
「だから、今話すのはよそうと思ったのだ。だが、グーテル様が言うから……」
「はいはい、人のせい〜」
「貴様!」
食堂で
「はいはい、二人とも喧嘩しない。フルーラも、怒らない。はい、どうどう」
「グーテル様。わたしは馬ではありませんが……」
フルーラが、
「まあ、それよりも」
「はい」
「この国って、ボルタリア王国のこと? それとも、マインハウス神聖国のこと?」
「それは……。マインハウス神聖国でしょうか? 皇帝陛下は、マインハウス神聖国の皇帝であらされましたので」
「そう。だったら、変わらないよ。何も」
「そうでしょうか? それだと良いのですが、偉大なる皇帝だと皆が、言っておりましたので……」
「そうだね。確かに偉大なる皇帝だったけど、マインハウス神聖国の体制が体制だから、影響は、少ないよね~。むしろ、影響ありそうなのは、親族だね」
「親族ですか? グーテル様のような」
「そうだね」
「どのような?」
「お祖父様という、巨大な力を持った盾であり壁となってくれる人がいなくなり、僕達に敵意を持っている人がいれば、その敵意が僕達へと直接、襲いかかると」
「そうなのですね」
「うん、そういう意味では、これからが大変かも」
「そうですか、我々もしっかり気を引き締めて、グーテル様達をお守り致します。なっ、アンディ」
「うっす」
「よろしく頼むよ」
僕達が、そう話した時だった。
「ふわあ〜」
「エリスちゃん、眠そうだね」
「ごめんなさい、グーテルさん。眠くなって来ちゃった。先に寝ますね」
「いや、僕達も早く休もう。休める時に休んでおいた方が良いしね」
「そうっすね。明日も朝早くから、移動ですからね」
「では、部屋に行きましょうか」
フルーラが立ち上がりつつ、そう言うと、皆も立ち上がる。そこで、僕は、
「そう言えば、エリスちゃん、お尻……」
「グーテルさん、しつこいですよ。結構です! フルーラに見てもらうから、良いです!」
「は、はい。ごめんなさい」
こうして、僕は、
それ以降も僕達は、朝から晩まで馬を飛ばし、ゲルンハイムへと向かった。そして、八日目の夜遅く、ゲルンハイムに到着する。
ゲルンハイムには、フォルト宮中伯の軍勢が滞在し、街を守っていた。ゲルンハイム自体は、そんなに大きな街ではないので、郊外に仮説の宿舎が作られ、僕達は、割り当てられた宿舎に入ると、泥のように眠った。
そして、翌日、体を洗い、身を清めると、用意されていた
僕達は、フォルト宮中伯に案内されて、教会へと入る。
「グーテル卿、
「案内ありがとうございます」
教会の中は、薄暗くヒンヤリとしていた。お祖父様の遺骸は、教会の奥の祭壇に安置されていた。周囲だけがぼんやりと
お祖父様の周囲には花が飾られ、遺骸が腐らないよう冷やされているので、周囲は寒いくらいだった。
お祖父様の顔は、白いものの、笑っているように見えた。眠っているだけで、今にでも起きそうだった。
僕は、お祖父様の顔をそっと
「お祖父様、お疲れ様でした」
僕が、ポツッとつぶやくと、
「ううっ。う」
エリスちゃんが、泣き始めた。僕は、そっと手を握る。すると、エリスちゃんは、僕の胸に顔を押し当てて泣く。
僕は、エリスちゃんの頭を
「皇帝陛下の死には、不審な点はございませんでした。それは、トリスタン大司教と、マインツ大司教も証明してくれます」
「そう」
僕は、フォルト宮中伯の話を、聞きながらぼーっとしていた。不思議な感情だった。悲しいけど、泣けない、
それ以降、僕は自分が何をしていたのか、記憶があいまいだった。
そして、その夜、お父様、お母様、叔父様に叔母様達、そして、トンダルに、リチャードさんが到着した。これで全員がそろった。ゲルンハイムから、
僕は、エリスちゃん達と共に、お父様、お母様の所に向かった。
お父様、お母様は、やはり長距離移動で疲れていたが、暖かく迎えてくれた。
「グーテル。元気でしたか~!」
「はい。お母様も元気なようで……、ぐっ、ぐえ」
お母様が、駆け寄ってきて、ギュッっと抱きしめる。うっ、く、苦しい。いつもより、パワーアップしていた。
「エリスちゃんも!」
今度は、エリスちゃんをギュッ。
「く、苦しいです。お母様」
「あら、ごめんなさいね~」
そして、今度は、お父様と挨拶。
「グーテル。あまりヒンギルをいじめるなよ」
「いじめてませんよ。向こうから向かって来たので、防衛しただけですよ」
「まあ、そうだな。しかし、アンホレストにも困ったもんだな」
「じゃあ、お父様がなんとかしてくださいよ」
「知らん。わたし達は、ハウルホーフェに戻ることにしたのでな」
「えっ。それって、僕のせいでは?」
「違うぞ、グーテル」
「そうですよ。あのバカ弟がいけないんです」
お母様が、口を
「まあ、そお、言うな。だが、考え方の
「そうですか……」
「まあ、話は後だ。今日は、ゆっくり休ませてもらおう。疲れた顔で、お義父様に会うのは失礼だろう」
「そうですね。グーテル、エリスちゃんも、また明日。ゆっくりとね」
「はい」
お父様、お母様は、ヴィナール公国からハウルホーフェに戻るようだ。まあ、でも、僕と、叔父様の関係悪化が原因だろうな~。
大丈夫かな?
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