第31話 新天地へ③
その後、片付けが始まったのだが、僕は
「殿下! 物をどこに置くとか、どの部屋を使うとか、指示くらいして下さい!」
「はい」
エリスちゃんに、またまた怒られた。だって、片付ける役にはたたないから、マージャストナで飲んでようかと思ったのだけど。マスターの様子もみたかったし。
ああ、そう言えば、マスターは、マージャストナの城からの石段近くの空き店舗を、ハイネッツさんが確保してくれたそうだ。
そして、住居は、城内。貨幣鋳造所の近くに決まった。
どうも、奥様は、元々ハウルホーフェ公国でも、
マスターの奥様は、
マスターのお店の状況も見に行きたいが、それはいろいろ落ち着いてからになりそうだった。
「その棚はこちらに、その本はその本棚に収めて下さい。後は……」
エリスちゃんの指示で、的確に整っていく部屋。僕も、自分の
部屋割りは、すでにハイネッツさんが、ある程度「こちらでどうでしょうか?」と、提案してくれて、あっと言う間に決まり、後は、荷物の配置だけだった。
だけど、
「あの、殿下。本当に、こちらでよろしいのでしょうか?」
ハイネッツさんが、僕の後ろで不安そうに聞く。
「そう、良いの。ここが攻められるような事は、ほぼないだろうし、危なくなったら、すぐに逃げるしね」
「はあ、かしこまりました」
その部屋は、僕の休憩室? といった所のようなものだ。貴族のたしなみとして、午後のお昼寝に使用したり、後は、疲れた時に仮眠とったり、一人になりたい時もあるだろう。そんな時の為の、部屋だった。
場所は、宮殿三階の一番東側。
マージャストナに敵が迫り、崖を攻略されたら、一番に狙われる場所だが。まあ、それはほぼ無いだろう。なにせ崖の高さは80mはあるのだ。さらにこの宮殿も、一階には、
というわけで、この部屋を確保したのだった。
そして、翌朝。僕は、この部屋で、素晴らしい
眼下では、
「ふっ、
と、その時、背後から声が聞こえた。
「殿下。
「あっ、えっと、うん」
「じゃあ、お
エリスちゃんに、
「良く来てくれた。グーテルハウゼン殿下。いや、グーテルハウゼン
「はっ、ご
「かしこならないでくれ、グーテルハウゼン卿」
「はい」
「ご機嫌麗しくございます。お養父様」
「うん、エリスも良く来てくれた」
こうして、挨拶を済ませると、ボルタリア王は、これからの事を、話し始めた。今回は、最初からロウジック伯デーツマンさんもいた。
「わたしは、出来るだけ早く退位しようと思う。そして、息子がヴェーラフツ3世として即位する。それを、グーテルハウゼン卿が、摂政として補佐してほしい」
「はい」
「うん。まあ、政治に関しては、ここにいるロウジック伯もいるから、心配ないと思う」
「はい、お任せください。グーテルハウゼン卿、何でもお聞き下さい」
「はい、よろしくおねがいします」
う〜ん。確か、ボルタリア王国の領内諸侯の筆頭は、ボルーツ伯ヤルスロフさんだったと思うけど。ボルタリア王が信頼しているのは、デーツマンさんなのかな?
「あの、ヤルスロフさんは?」
すると、デーツマンさんは、渋い顔をして、ボルタリア王も、
「ああ、あの者か。人あたりもよく、交渉能力も高いから、外交能力があると思い、ヴィナール公との交渉役を任せていたら、いつの間にかヴィナール公に
「そうですか」
これは、どう考えればよいのだろうか? ボルタリア王の言葉を、そのまま受け入れるわけにはいかないな。さて、どうするか?
「まあ、とりあえず、ヴェーラフツ3世の即位式を急ぐつもりなので、グーテルハウゼン卿の出番はそれからです。それまでは、ゆるりと、お過ごし下さい」
「はい、ありがとうございます」
という感じで、話し合いも終わった。それで、即位式だが、デーツマンさん
「行ってらっしゃいませ」
「うん、行って来ます」
エリスちゃんのお見送りを受けて、僕は、アンディと共に出かけた。たっぷりと
僕は、崖の石段ではなく、城門から、外に出て、マージャストナを目指した。
「おばちゃん、これ
「あいよ。えっと、貴族様かい? 貴族様の、お口に合うような物じゃないよ?」
「ああ、いいの、いいの。そんなお
「そうかい」
「うん、美味しいよ。塩味が効いてて」
「そうかい。それは、良かった。でも、貴族様で、こんな出店で、食べようなんて珍しいね」
「そう? 僕の国では、普通だけど。まあ、凄く田舎だしね。そうだ! 田舎の貴族の僕にボルタリアのこと、もっと教えてよ」
「そうだね……」
という感じで、いろんな場所で、食べたり、休んだり、話しに
で、どんな感じだったかというと、多少の不満はあるが、
農産物の生産量は悪くなく、牧畜によって、肉類や乳製品の生産も悪くない、ほぼ
ただ、銀製品の輸出や、銀そのものの輸出に頼り過ぎなように見えた。
さらに、細かく聞くと、やや判断が遅く、ごちゃごちゃしているようだ。それは、政治判断だったり、司法の判断だったりも同様のようだった。前回と今回で判断が違ったりもあるようだ。この辺は、ちょっと問題かな?
そして、ボルタリア王にかんして聞くと。先王のカール2世は、
それに対して、カール3世は、
それで、デーツマンさんと、ヤルスロフさんに関してだが、これも評判は、悪くなかった。というか、ボルタリア王よりも、身近な存在なようで、それぞれの領地はもとより、ヴァルダにおいても良い評判だった。
デーツマンさんは、真面目で堅物、そして不正を許さない高潔な人物。対して、ヤルスロフさんは、温厚で人の話をよく聞き、的確に対処してくれる人という評価だった。
う〜ん。確かにな。デーツマンさんは、少なくとも、真面目で堅物そして、高潔な人物という感じだった。それを、ボルタリア王カール3世は、気に入ったのだろうか?
ヤルスロフさんに関しては、
そして、やはりというか、そうだろうと思っていたが、デーツマン派とヤルスロフ派があるようだ。今は、デーツマン派が優勢なようだが。さて?
こんな感じで、グータラな日々を過ごすと、ハウルホーフェ公国からやって来た、僕のグータラ殿下の評判は、ボルタリアの街々に、行商人達によって広まっていった。
そして、いよいよヴェーラフツ3世の即位式をむかえる事となった。
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