第30話 新天地へ②

 ボルタリアへと向かう準備が整った。最後にガルブハルトが、縄でぐるぐる巻きの荷物? を荷台に放り込むと、準備完了である。


 馬車四台と、およそ二十人の人がそろうと、いよいよ、出発となった。


 騎士の皆の荷物は少なく、僕達の荷物も出来るだけ減らしたが、


「殿下、ワインこんなに持って行くんですか?」


「かなりしぼったんだけど、貴重なワインが多くて……」


「そうですか……」


 うん、やっぱり、コーネル。ハウルホーフェ公国の経済は楽になるかもしれない。





「さあ行こう、新天地!」


「いや。なんで、わたしも行くことになってんですか! おろしてください!」


 荷馬車の上で、ぐるぐる巻きになっているマスターが叫ぶ。


「後のことは、俺に任せてくださいよ」


 という、タングミンさんの言葉を、


「お前に何ができるんだ? わたしの店だぞ」


「わたしも、支えますから大丈夫ですよ」


 と、ローセちゃん。その左手の薬指には、指輪が輝いていた。


「ありがとう、ロース」


「わたしは、ローセですよ〜」


「俺、パクリ……。モノマネ上手いんすよ。マスターの料理、ばっちりパクリますんで」


「パクるな〜」


「まあまあ、あなた。せっかくなんだし行きましょう。新天地」


「なんでお前まで?」


「そうだよ、父様。冒険心ない男は嫌われるよ」


「ぼうげんちん、ないきょは、きたわれちゅよ」


 マスターの二人の子供も、同調する。さすが、オーソンさん。どんな手法で、奥さんを説得したのだろうか?


「お前達まで〜」


「さあ、マスターの承諾、取れたところでしゅっぱ〜つ」


「えっ!」


 ガタゴトガタゴトガタゴト。


「承諾してないし、止めろ〜。オエッ、酔う。止めて、止めて下さい。オエッ、止めろ〜」


 マスターこと、マジュンゴの、叫びだけがむなしく響く。





 その頃、


「さて、わたしも行くとしますか」


 旅装りょそうに身を包んだオーソンさんが、フルーゼンを旅立った。



「何だよ~これよ~。遠いじゃんかよ~。だけど、でかい仕事だし、引っ越すか~」


 旅装に身を包んだミューツルさんも、旅立った。どこへ行くのだろうか? 北西へと向かい歩き始めた。ボルタリア王国とは方向が違う。バーゼン辺境伯領だろうか?





 一日目、二日目と旅は順調に進む。そして、シュタイナー侯国に入る。のどかな田園地帯を抜け、ヴィルヘルムへと入る。そこは、治安が劇的げきてきに改善し、元の綺麗な街となっていた。


 街の中は、綺麗になっており、街にも活気があった。出稼ぎにでかけた人達は、まだ帰っていないのだろうが、それでもシュタイナー侯は何か手をうち、経済は改善したのだろう。



「アンディ、良かったね。街が、綺麗になってるよ」


「そうっすね〜。だけど、気持ち悪いような。なんか落ち着かないっすよ」


「そう?」



 と言っていた、アンディのかんは、当たることになった。





「俺達は、え〜と、この辺を根城ねじろにする、何だっけ? ああ、そうだ、盗賊団、裸の王だ。えっ、ああ、禿鷹はげたかの王だ! 誰が、禿げだ! この野郎!」


 なんか頭がツルツルの人相の悪い男が、50人程の配下を連れて行く手をふさぐ。そして、一人ツッコミをしていた。



 ここは、シュタイナー侯国のヴィルヘルムを過ぎ、半日程進んだところだ。周辺に村や街は無く、人通りは少ない。


 で、下手くそな口上こうじょうと、明らかに盗賊ではない、明らかに騎士団の騎士達だとまるわかりの、綺麗に整列した方々が登場したのだった。そして、口上の最中に、綺麗に左右に展開し、我々を包囲する。さらに、ヘルムもかぶる。



 これが、タイラーさん言ってたやつかな?


 目的は、僕達のボルタリア行きの阻止が目的だろうな。叔父様の計画としてなら、とても杜撰ずさんだ。まあ、シュタイナー侯がやるとしたら、こんな感じだろうか?


「シュタイナー侯国は、大変だそうだな」


「いえ、そんなことは」


「ふん。援助してやっても良いが、一つ頼み事を聞いて欲しい」


「えっ、何でしょうか?」


「グーテルのボルタリア行きを、阻止してもらいたい。父上の息のかかった計画だが、こちらにとっては、迷惑なのでな。ただし、殺すなよ」


「えっ、陛下の? わかりました。やります、やらせて頂きます」


「そうか、なら、さっそく、援助を送ろう」


「ありがとうございます」



 で、シュタイナー侯は、騎士団の人相悪いのを頭領役にして、騎士達を野盗として派遣したと。



 さて、どうしよう?


 ガルブハルトが、アンディが、フルーラが、ライオネンが、状況を察して、僕の周囲に素早く集まる。


「どうします、あれ?」


 ガルブハルトが、完全に察した表情で聞いてくる。


 う〜ん? まあ、適当にあしらって突破しても良いけど。ここは、


「ガルブハルト、フルーラ、アンディ、ライオネン。騎士を襲うとは、困った盗賊です。ここを通る民のためにも少々懲らしめてやりましょう」


 そう言うやいなや。


「はっ!」


 フルーラの元気な返事が聞こえ、限界まで引き絞って、放たれた矢のように凄まじい勢いで、頭目? の方に走っていった。


 速い! そう、アンディが、軽々と避けるから、目立たないけど、フルーラの身体能力は、かなり高いのだ。あっと言う間に、相手の間合いに入ると、腰から剣を抜き、斬りかかる。


 相手も、フルーラの動きを見ていたはずなのに、まだ、剣を抜いてもいなかった。



 いや、フルーラさ〜ん。手加減してね~。


「あっ、殺さないようにね」


 だけど、フルーラの重く速い剣撃けんげきは、相手の右側頭部辺りに当たり、激しく火花が飛ぶ。相手も、ちゃんとチェインメイルを着てヘルムをかぶっていたが、首があらぬ方向に折れ曲がり、崩れ落ちる。


 そして、フルーラが、「殿下、言うの遅いですよ、どうしましょう?」という顔でこちらを、見る。ああ、まあ、良いか〜。


「フルーラ、ああ、殺さないようにね」


 すると、フルーラの顔が明るくなり、


「はい!」



 フルーラの元気な声が聞こえ、次の標的に向けて走り出す。


 周囲の敵は、さっきの一撃を見て、すでに腰が引けていた。そのままの勢いで、フルーラは戦う。


 スピードと体重が乗った、重い一撃は、チェインメイルの上からでも、かなりの威力いりょくのようで、次々とうめき声を上げ、敵が倒れていく。痛そ〜。



 僕は、周囲を見回す。アンディ、ガルブハルトも、次々と敵を倒していた。



 アンディが舞うように剣を振ると、周囲を取り囲んでいた相手が、次々とうめき声を上げ、剣を取り落とす。


 アンディは、相手の間を縫うように駆け抜けつつ、見えないような速さで、剣を振るい、チェインメイルとガントレットとの隙間や、脇の下、レッグアーマーや、ブーツとチェインメイルの間など、素早く浅く斬って、敵の戦闘意欲を奪い取っていく。



 ガルブハルトは、ウォーハンマーを、とりわけ派手に振り回す。動き回るスピードは遅いが、その圧倒的パワーで、蹂躙じゅうりんする。


 ガルブハルトが振るう、ウォーハンマーに、剣が触れると、剣は高い金属音を発し、折れる。チェインメイルに触れると、火花を発し、相手は大きくよろけ、倒れる。そして、相手にまともにぶつかった時は、振り抜かず。相手の体重をウォーハンマーに乗せるように力を加え、斜めに振り上げる。


 人間って、空飛ぶんだね~。面白いように飛んでいく。まあ、長距離じゃ無いけどね。



 そして、ライオネンも、1対1でも、1対2でも敵を圧倒していく。さらに、他の騎士達も、四人の動きをサポートするように戦う。


 すると、あっと言う間に半数は逃亡し、半数は地面に倒れた。死人は、そんなにいないようだ。フルーラ、よく頑張った。こちらは、もちろん無傷。だって、ガルブハルトが、育て上げた騎士だからね。



「さてと、これ以上の戦闘は無駄だね。通るよ、あっ、そう言えば、あんた達の雇い人に、忠告しとくよ。これ以上、ちょっかい出すようなら、お祖父様に言うよ。って、伝えといてね。じゃあね~」



 うめきながら転げ回る、相手をそのままに、僕達は、何事もなかったかのように、道を、進み始めた。



 あっ、そう言えば、さっきの忠告は、シュタイナー侯じゃなくて、叔父様に対してだ。シュタイナー侯は、失敗したこと、さらに、僕が言った事を叔父様に伝えるだろう。


 すると、叔父様は、僕への手出しと、シュタイナー侯への制裁せいさいも封じられる事になるだろう。感謝してよ、少しは。





 その後は、何事もなく進み。シュタイナー侯国、ミューゼン侯国、そして、ボルタリア王国へと入る。



 今度は、ロウジック伯デーツマンさんは、迎えにきていなかった。あえて連絡しなかったのだ。それでも、ボルタリア国境を越えて翌々日には、デーツマンさん本人は忙しく来れなかったが、その配下の人と、10騎ほどの騎士が、出迎えに来たのだった。



 そして、ボルタリア王国王都ヴァルダに無事到着すると、デーツマンさんの配下の人に、ボルタリア王には、屋敷に入って休んでから、翌日に面会させて頂く事を、伝え屋敷へと入る。



 屋敷は、門から入って最も奥。マージャストナを眼下に見る、崖の上にあった。そして、ヴァルダ城にある三つの宮殿の一つ、クッテンベルク宮殿と呼ばれる建物だった。オレンジの屋根がとてもかわいい、三層の建物と、二つの物見の塔で構成されていた。



 大きいよね。ハウルホーフェ城に比べれば小さいけど。


「遠路、お疲れ様でした」


 ハイネッツさんが、新しい使用人さん達と、共に出迎えてくれた。内部は綺麗に掃除されて、光輝ひかりかがやいてみえた。


 よし、まずは、


うたげだ〜」


「荷物整理です!」


 エリスちゃんが、厳しい口調で、言う。


「はい」

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