第28話 グータラ殿下ボルタリアに行く③
「グーテルハウゼン殿下、エリス、ようこそお出でくださいました」
カール3世は、顔だけをこちらに向け、か細い声で言う。さて、なんて声をかけよう。
「ボルタリア王、ご無沙汰しております。お加減はいかがでしょう?」
「ハハハ、見ておわかりでしょう。もう、長くはないでしょうな」
しまった。挨拶失敗したな。え〜と、
「お
「それは、良かったです」
エリスちゃんに、フォローされた。駄目だな~。
少し結婚生活について話すが、ボルタリア王は、徐々につらそうになって来た。
「では、ボルタリア王。お休みください。また、明日にも、再度お見舞いに来ます」
僕は、そう言って退室しようとしたが、ボルタリア王は、僕を止める。
「エリス。殿下に少しお話しがあるのです」
そう言うと、エリスちゃんは、
「かしこまりました。お養父様、お大事になさってください」
そう言って、一人退室したのだった。
エリスちゃんが、部屋から出ると、ボルタリア王は、
「手紙の件、
真剣な顔で、そう言ってきた。
手紙の件。それは、僕をボルタリアの
僕が、ボルタリア王カール3世の養女となっていた、エリスちゃんと結婚したことによって、僕をボルタリアの王族として迎え、カール3世の息子さんを王位につけ、僕が補佐すれば良いと考えたようだった。
では、他に僕のような存在が、いないのかというと、カール2世の娘さんが、お母様と叔父様の弟、ヨハネさんと結婚しているが、お祖父様も、叔父様もヨハネさんは、
まあ、叔父様は、そのことを
なぜ、僕? 面倒くさがりで、さぼるのが好きな僕が。だけど、フランベルク辺境伯リチャードさん
そう、これが三通の手紙の正体だった。
だけど、本当に、返事に困る。確かに、自分が、無能だとは思わないが、何とかやっていたのも、コーネルはじめ、信頼出来る人達が居たからだし、ハウルホーフェ公国は、
ちなみに、ハウルホーフェ公国の人口はおよそ9万人、対してボルタリア王国は、ボルタリア王冠領まで入れたら、300万人も人口がいるのだ。それを動かす。面倒くさ……。大変だな。
僕は、
「もう一晩だけ、考えさせてください」
「そうですか」
僕は、そう言って退室すると、エリスちゃんと共に皆のところへ戻り、何事もなかったように振る舞った。
その後も、ボルタリアの領内諸侯の方々の挨拶を受けたり、僕達の歓迎する食事会などもあったが、あまり記憶が無い。そして、夜。
「しかし、こんなところに石段があるとは」
「ホントだね~」
ヴァルダ城に入って来た門の反対側は、高低差80mほどある
そして、その崖に
まあ、抜け道と言っても、上と下に
その石段を、僕と、ガルブハルト、アンディが下っていた。もちろん目的は、ピルスナーと、ボルタリア料理だ。まあ、歓迎の
僕達は、マージャストナに降りると、近くにあった、ピヴニツェに入る。ピヴニツェは、ようするにビアホールだ。まあ、ミューゼンのほど、大きくないし、うるさくもない。こじんまりしている。う〜ん。ビアパブと言った方が、良いかな?
「殿下、今日ずっと上の空ですね」
「うん、まあね」
僕達は、ピルスナーを頼み、適当な料理を数品頼む。ガルブハルトは、ピルスナーを一気にあけ、二杯目に突入。僕は、チビチビと飲んでいると、アンディが話しかけてきたのだ。今日は、どこかに行くつもりはないようだ。
「殿下にとって、人生の
ガルブハルトが、二杯目のピルスナーをグビグビ飲みつつそう言うと、
「人生の岐路か〜。そうかもね~」
僕がそう言うと、アンディは、
「まあ、俺は、殿下について行くだけですかね。楽しいし」
「ガハハハ。そうだな、殿下はどこに居ても殿下だろうからな。俺も、殿下とどこでも飲みたい」
と、ガルブハルトまでが言う。えっ、もしかして、知ってるのかな?
「ガルブハルト、アンディ。知ってるの?」
「何がです?」
と、アンディ。ガルブハルトは、
「詳しい事は知りませんが、わざわざボルタリアまで、お見舞いだけに、来るわけがないですからね。面倒くさがりの殿下が」
「そう、そうか、そうだね」
うん。そばでただ一緒に飲んでくれる家臣がいる。なんか、ガルブハルト、アンディの言葉を、聞いてたら気が楽になった。難しく考えるのやめよう。そう思った。
「よし、ピルスナーいっぱい飲んで、ボルタリア料理楽しむか」
「ですな。ガハハハ」
「ようやく、いつもの殿下だ」
ガルブハルトとアンディもそう言うと、皆で、勢い良く飲み始めた。もちろん、閉店まで飲み続け、エリスちゃんに怒られた事は、言うまでもない。
翌日、僕は一人ボルタリア王カール3世の寝所を訪れると、
「摂政の件ですが、引き受けさせて頂きます」
僕が、そう言うと、ボルタリア王はゆっくりと起き上がり、僕の手をギュッと握る。しかし、その力は、とても弱かった。
そして、
「ボルタリアのこと。妻のこと、息子のこと。よろしくおねがいします。ありがとう、ありがとうございます」
「はい」
ボルタリア王カール3世は、安心したのか、そのまま寝てしまい、僕は退室する。すると、デーツマンさんが待っていて、僕を近くの部屋へと導くと、今後のことを話し始めた。
「陛下と、話し合って決めたことです」
デーツマンさんは、そう前置きをすると、
「殿下には、先の戦いで滅んだ、クッテンベルク
一応、僕は対外的には、ハウルホーフェ公国のグーテルハウゼン殿下ということだが、ボルタリア王国において、一応、王族となったが、だから何だ? となってしまう可能性もある。
そこで、僕にカール2世とお祖父様の戦いの中で、当主や後継者も戦死した、クッテンベルク宮中伯家という名の名家の名を、名乗らせようということらしい。
「クッテンベルク宮中伯家の権力は、そのまま殿下にとの事です。もちろん、城内の屋敷、
「ちょっと待って、第三師団の指揮権?」
「はい。第一師団は王に、第二師団は王子に、第三師団はクッテンベルク宮中伯家に、指揮権がありますので」
「そうですか」
これは、予想外だ。一部とはいえ、軍事力まで持つのか……。今までは、ガルブハルトがいてくれたが。う〜ん。
まあ、その他の細かい説明もあったが、これで、僕は、ボルタリア王国の摂政を引き受け、ここに住むことになる。
となると、早く帰って準備するか~。ボルタリア王に何かあったら、大変だしね。僕が、就任する前に亡くなられたら、また
僕は、エリスちゃんと、フルーラ、ガルブハルトを呼んで、
「はい、かしこまりました」
フルーラの元気な返事が、聞こえた。理解してるのかな? 少し不安になる。
「そうですか~。ハウルホーフェを離れるのですか、
エリスちゃんは、どこか寂しそうだ。そして、ガルブハルトは、
「それで、向こうで準備したら、また、こちらへと戻ってくることになる。この城内に屋敷はもらったから、そこに住むことになるけど」
僕が、そう言うと、フルーラが、
「はい、かしこまりました」
んと? 理解してるよね?
エリスちゃんも、
「かしこまりました」
すると、ガルブハルトは、こちらへと、視線を向けて、
「ハイネッツを、置いていきましょう。あいつは、そういう事に向くので」
と言った。ハイネッツさんは、騎士団のガルブハルトの右腕的な存在で、頭脳労働担当な人だ。だけど、ハイネッツさんて、ご家族いたっけ? 確か、ガルブハルトよりは年上だと思うし。
「ガルブハルト、ハイネッツさん置いていくって、言ったって……」
「あいつは、今のところ、家族もいませんし、
「そうなんだ。じゃあ、お願いしようかな」
そう言ったけど、俺達の家もか〜。一緒に来てくれるのかな? 今は、怖いので聞くのはやめておこう。
こうして、僕達は、再びハウルホーフェ公国へと戻った。新天地ボルタリア王国に行くために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます