第27話 グーテル殿下ボルタリアに行く②

 ヴィナールに行く時は、東へ東へと進んだが、ボルタリアへはちょうど北東へと、進む事になる。距離もヴィナールに行くのとほぼ変わりない。


 そして、国境を抜け、ミューゼン公国国境の街に入る。そして、縦断? 横断? 斜めは何て言うんだ、斜断? 南西から入って北東に抜ける。


 その真ん中辺りにミューゼン公国、公都ミューゼンがある。



 ミューゼンは、元はただの草原だったが、100年くらい前に、レンケンベールから公都は移転され、作られた人工の都市だ。しかし、今や大都市になっている。





 宿屋に入り、少し落ち着くと、僕達は、ミューゼンの街に出た。



「しかし、大きなビアホールですね~」


 フルーラが、啞然あぜんとした顔で、ミューゼンでも有名なビアホールの中を見渡す。



 本当に大きい。奥の方では、何やら楽団が演奏し、入口付近には、ビールジョッキを入れるたながあり、常連客の方々は、そこから陶器製のビールジョッキを取り出すと、思い思いの席へと座る。



 僕達も、夜と言うにはまだ早かったが、混み始めた店内で、10人で座れる席を見つけ、何とか席についたのだった。



 しかし、フルーラは、席に座ってからも、キョロキョロと落ち着かない。


「ほんとだね、叔父様の宮殿の大広間よりは小さいけど」


「そうなのですか~。へ〜」


 フルーラは、口をポカンと開け、依然いぜんとして周囲を見回している。すると、エリスちゃんが、そのポカンと開けた口に、プレッツェルという名のパンを、ちぎって放り込む。これ見た事あるぞ。湖で魚にえさをあげるのにやったな〜。


 このパンは、注文をとりに来たおばさんが、これでも食ってろという感じで置いてったものだ。ちなみに、これも食べた分だけお金とられるそうだ。


 プレッツェルは、外枠そとわくだけののハート型のような形で、中にも輪のような形のある、茶色のパンだ。塩味が効いて、サクサクと、スナックのように食べれて美味しい。当然、ビールにも合う。


 このプレッツェルは、小麦のパンに最終的にラクという液体に漬けて焼くと茶色くなるのだそうだ。ラクって何だろ?



「このビアホールは、モグモグ、1300人も人が、モグモグ、入るそうです。モグモグ、凄いですね~、モグモグ」


「そんなに入るんですね~」



 どうやらエリスちゃんは、楽しい時間を過ごしているようなので、僕もビールと食べ物に、集中させてもらおう。



 ビールは、ドュンケルという黒ビール、オリジナルという名のラガービール、ヴァイスビールという白ビール。そして、ラドラーという名の、ビールとレモネードを合わせたカクテルの4種類だ。



 ドュンケルは、麦芽ばくがの味が濃く濃厚で、ラガーは、ホップの苦味にがみがキリッと効いてさっぱり飲める、ヴァイスビールは、甘い香りがして、小麦の甘みがあり喉越のどごし良いのに濃厚。そして、ラドラーは、女性に人気のようだ。エリスちゃんと、フルーラはこれを飲んでいた。



 料理は、ヴァイスブルストと呼ばれる白いソーセージ、レバーケーゼ、そして、付け合せにザワークラウト。いたってシンプルだが、ビールに合う。


 ヴァイスブルストは、ミューゼン名物の白いソーセージだ。ハウルホーフェ城での朝食にもよく出るので、前にも言ったが、細かくひかれた豚肉を味付けし、腸に詰めてでる。一口、噛むと、溶けた脂と、肉汁にくじゅうが口内に流れ込む。ややソーセージとしては、味がさっぱりしているが、これまた美味しい。


 本来、ナイフで切って中を取り出して中だけ食べるのだが、僕は、ガルブハルトの真似をして、そのままかぶりつく。ちょっと周りは硬いが、中から肉汁があふれ出し、美味しい。


 で、レバーケーゼは、レバーではなく、豚の挽き肉を固めて茹でたものだ。ケーキっぽい見た目なので、ケーゼなのかな?



 僕の好みは、圧倒的にヴァイスブルストだ。僕は、ラガーを飲みつつ、ひたすらガルブハルトと共に、ヴァイスブルストを食べている。



 しばらく、皆でくだらない話をしていると、


「ふわぁ〜」


 フルーラが、大きなあくびをする。


「フルーラ、大丈夫?」


「申し訳ありません。いささか、人の多さに疲れてしまいまして」


 すると、エリスちゃんが、


「わたしも宿に帰るから、一緒に帰りましょ」


「はい、では、ご一緒させて頂きます」


 そう言って、二人が立ち上がる。そして、お酒の飲めない、騎士と護衛騎士一人ずつも、共に宿に戻ることになった。


 これで、残りは、五人に。ん? 五人? アンディが、いない。いつの間に、消えたのだろうか?


 まあ、いつもの事だ。しかし、痛い目にあっているのに、全然、懲りないな。



「で、ガルブハルト。今回連れて来た騎士って、何か思惑あるの?」


 ちょっと遅くまで飲んでいたら、ガルブハルトと二人になったので、ちらっと聞きたいことがあったので、聞いてみた。



 そう今回、ガルブハルトが来た上に、ガルブハルトが連れて来たのは、ガルブハルトの右腕と呼ばれている、どちらかというと、頭脳担当な人と、若手の有望株というおかしな組み合わせだった。


 どこがおかしいと言われると、なんと言えば良いかわからないけれど、家柄良い人達とか、行儀良い人を選ぶとかかな? 少なくとも、騎士団長、自ら来るとか聞いた事がない。



「いえ、特には。ただ……」


「ただ?」


「殿下の役にたちそうかなと」


「ふ〜ん」


 どういう意味だろ? 



 結局ガルブハルトと、遅くまで飲んでいて、部屋に帰ると、エリスちゃんに叱られた。





 翌日、ミューゼンを出ると、さらに北東へと進む。



 そして、国境の街、ミューゼニッシュアインシュタインを通過すると、いよいよボルタリア王国だ。そこには、


「グーテルハウゼン殿下、ようこそお出でくだされました」


 100騎あまりの騎士団を引き連れ、ボルタリア王国領内諸侯のロウジック伯デーツマンさんが、僕を出迎えに来ていた。僕は、目立ちたくなかったのだが、仕方がない。



 そして、ボルタリア王国内を護衛されるように、ボルタリア王国王都ヴァルダに到着したのだった。



 ヴァルダの街に入り、綺麗な石畳いしだたみの街中を抜け川に出ると、大河であるモラヴィウ川の対岸の丘の上に、立派な城壁に囲まれたヴァルダ城が見えた。なんて素晴らしい景色だ。



 立派な石造りの大きな橋を渡り、城へと向かう。500mもの長さの橋を渡す、ボルタリアの国力の高さが分かる。幅も10mはあり、騎士団が通っても通行人の邪魔にならない。まあ、通行人は僕達が通ると、何が起きたのかと立ち止まって、はしによって僕達を見ているけれど。



 橋を渡ると、再び両側に商店の並ぶ街中へと入り、しばらく進んで右に戻るように折れると、道が狭くなり、坂を登る。途中いくつか建物のような小さな門があり、いくつかくぐる。これは攻めにくいだろうな。


 坂をある程度登ると、急に道が広くなり、広場にいたる、その広場の周囲には立派な屋敷が建っている。その一番奥に立派な石造りの城壁と門が見えた。



 さて、このまますぐに、ボルタリア王カール3世との面会になりそうだな。出来うれば、一日休んでからお会いしたかったところだが、仕方がない。



 騎士団は、中には入れないようで、そこで解散となり、デーツマンさんの護衛騎士数名と、僕達のみが門をくぐる。


 僕達は、連れられるように門をくぐり、中庭へと出る。目の前には巨大な聖堂が見える。そして、その聖堂を周りこむように裏に出ると、再び大きな中庭が見え、周囲にはいくつもの建物が見える。迷子になりそうだ。



 敷地の広さは東西430メートル、南北140メートルあるそうで、細長い形をしている。中には、ハウルホーフェ城のようにでっかいお城が、一個どんとあるわけでは無く。


 三つの宮殿、二つの大聖堂、他にも王や王子、大臣や執政官などの屋敷、貨幣鋳造所かへいちゅうぞうしょに、銀細工ぎんざいくの工房、さらにそこで働く人達の、居住区まであるそうだ。



 僕達は、宮殿ではなく、ボルタリア王が普段居住しているという屋敷へと向かう。玄関を入ると、


「ボルタリア王カール3世の妻、レイチェルでございます」


「はじめまして、ハウルホーフェ公国グーテルハウゼンです」



 このレイチェルさんは、2世紀ぶりに即位したワーテルランド王国の国王。バラミュル2世の娘さんだった。


 ワーテルランドは、貴族共和制と呼ばれ貴族の力が強く、貴族達の話し合いで、国が運営されている。そして、カール2世の死後。急速に力をつけ、ワーテルランドを統一したのが、バラミュル2世だった。


 そして、ボルタリアとの関係強化のために、嫁いで来たのだ。



 僕達は、一度、客間に通されると、エリスちゃんと僕のみが、ボルタリア王と会うことを許された。



「では、案内させて頂きます」


 使用人に連れられ、ボルタリア王カール3世の寝所へと向かった。

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