第二章 グータラ殿下の立身
第26話 グータラ殿下ボルタリアに行く①
「どうしたら良いかね、コーネル?」
「どうしたらと言われましても、陛下の
「そうだよね~。ボルタリア王のお見舞いには行くとして、それから考えるか〜」
「それが、ようございます」
「で」
「で?」
「もしもの時は、コーネルが
コーネルは、少し考え。
「かしこまりました。そうですね。殿下がいない方が、この国の財政的には、良いですからね」
「えっ!」
コーネルは、ニコニコ笑いつつ、毒を
「ハハハハハ」
「コーネル〜」
そう、お父様、お母様のヴィナールでの暮らしぶりを見るに、豊かで大きな国のヴィナール公国で、領土なしだが
まあ、そうだろうね。で、僕が居なくなれば、ハウルホーフェ公国の財政も余裕が出来て、安定……。するわけ無いだろ! 僕は、
僕がお金使っているのは、ワインの収集ぐらいだ。ブリュニュイのワイン美味しくって、送ってもらった以外に、追加でお金払って、送ってもらったら、結構高くてコーネルに怒られたけど。まあ、それくらいだ。大丈夫だよね?
というわけで、ボルタリア王のお見舞いに、ボルタリア王国の王都ヴァルダへと、向かうことにしたのだった。あの三通の手紙は、お祖父様、フランベルク辺境伯リチャード、そして、ボルタリア王からのものだった。
内容は、お見舞いに行けとか、お見舞いに来てとかではなく。もっと、踏み込んだものだったのだが、それは、おいおい話すことにしようと思う。
「フルーラ。ボルタリア王のお見舞いに、ボルタリアに行こうと思うんだ、準備をお願い」
「はい、かしこまりました」
「あっ、そうだ。エリスちゃんも行くから、馬車の用意もね」
「はい。あの、ボルタリアに向かうということは、シュタイナー侯国のヴィルヘルムも通りますよね?」
「そうだね」
「では、騎士団に頼んで少し護衛を増やした方が、良いでしょうか?」
「そうか、シュタイナー侯国通るか~。うん、そうだね。よろしく」
「はい、では、準備を進めます」
「うん」
シュタイナー侯国を通る。別にシュタイナー侯が、僕の暗殺を狙っているとか。僕達が、シュタイナー侯国を
もう
シュタイナー侯国の物価は急上昇し、経済は不安定に、それが原因で
まあ、これだけ不安定になるということは、誰かが裏で糸をひいているのかもしれない。ちなみに、僕じゃないよ。
それでも、騎士が襲われる事はまずない。戦いの専門家が、一般人に負ける事はほぼない。だけど、今回は、僕だけなら良いが、エリスちゃんの乗る馬車もあるので、数人護衛を増やそう、ということなのだ。この辺の判断は、フルーラに任せておけば間違いはない。
というわけで、僕は、エリスちゃんに話す為に、エリスちゃんの
そして、翌々日、僕達は、ボルタリア王国の王都ヴァルダに向けて旅立ったのだった。
で、
「なんで、ガルブハルトがいるの?」
「はっ、騎士団から手の空いてる者、数名を貸してほしいとのことでしたので。このガルブハルトが、手の空いてる者だったのです」
「ふ〜ん」
「それに、ボルタリアと言えば、やはりビールです。楽しみですなぁ、殿下」
「ん、そだね」
遊びに行くんじゃないんだぞ、ガルブハルト。だけど……。ボルタリアのビールね。確かに楽しみだ。
ボルタリアのビールは、ピルスナーという
マインハウス神聖国のビールの多くは、エールと呼ばれる上面発酵のものだ。で、この上面発酵、下面発酵というのは、ビールを発酵させる時に、常温で発酵させ、すると、酵母が上の方に溜まってくるのが上面発酵。
井戸水や、冷たい川の水を使って冷やしながら発酵させ、酵母が下の方に沈んでいくのが、下面発酵だ。細かい原理は知らない、酵母の種類が違うのか、それとも温度のせいなのか。
ミューゼンや、この辺りでも、ツヴァイサーゲルト地方から流れてくる冷たい川の水を使って、下面発酵のビールが作られているが、ボルタリアも、冷たい井戸水を使って作られている。ミューゼンのは、ヘレスタイプと呼ばれている。
「確かに楽しみだね。ピルスナーか〜」
「はい、ペチェナーフサとか、シュニッツェルでも食べながら、ピルスナーをぐいっといきたいですな~」
「良いね~」
ガルブハルトと話しているうちに、お腹がキューキュー鳴り出した。
ペチェナーフサとは、ボルタリア料理で、ガチョウのローストで、名物料理だ。シュニッツェルは、どちらかというと、ヴィナールの料理だが、ボルタリアの居酒屋では良く出てくる料理なのだそうだ。まあ、豚肉や、仔牛肉、鶏肉を叩き薄く伸ばして、パン粉をつけて揚げたものだ。
他にも、ダルーマ料理のグラーシュと呼ばれるシチューや、タタラークと呼ばれる牛肉の生肉を叩き、胡椒や香草で風味づけをしたものが有名だ。ちなみに、このタタラークを、焼いたものが、ハンベルク名物のフリカデレなのだ。
「殿下、殿下。よだれが」
「じゅるっ。おっと」
どうやら、ピルスナーを飲みながら、ボルタリア料理を食べるのを想像していたら、よだれが出てきてしまったようだ。すると、フルーラが、
「殿下達の話し聞いていたら、お腹が空いてきましたよ」
「そうだね。じゃあ、お昼にしようか」
「はっ、かしこまりました」
フルーラが、馬を飛ばして入れる店を探しに行った。
「殿下、昼間から飲むんですか?」
「うん、エリスちゃんも、どう?」
「いえ、わたしは、遠慮しておきます」
「そう。残念。1杯だけだし良いと思うけどね~。ガルブハルト」
「ガハハハハ。はい、そうは思いますが、皆は真面目なのですよ。我々と違い」
「それじゃ、僕が不真面目みたいじゃない?」
「まあ、不真面目でしょうな~。ガハハハ!」
「え〜」
僕の不満そうな言葉を受け、エリスちゃんは、
「殿下も20歳なのですから、え〜、とかやめてくださいよ」
「はい、申し訳ありません」
「まあ、酔っぱらって馬から落ちたりしないでくださいよ」
「はい、わかりました。ですが、わたくし寝てて馬から落ちた事はございますが、酔っぱらって馬から落ちた事はございません」
「寝てて馬から落ちた事はあるんですね。それと、それやめてくれますか?」
「は〜い」
まだ、フルーゼンを出てそんな経っていないので、こんなのんきな事をやっていたのだが、隣国のシュタイナー侯国に入ると、予想外の光景に目を疑う事になった。
「これは、ひでーな」
アンディが、そばにいて僕の警護をしてくれている。エリスちゃんの馬車には、左右にガルブハルトとフルーラがつき、守っている。
「本当だね。ここまでとは」
僕は、周囲を見回す。シュタイナー侯国に入って、すぐの田園地帯は比較的に穏やかだったが、シュタイナー侯国の中心の街ヴィルヘルムに入るとその光景は、一変したのだった。
街にはゴミがあふれ、
予想以上だった。一昨年は冷害だったとはいえ、翌年は普通に収穫があったはずだ。それとも、農民は、穀物や農産物の種を食べてしまい、農作物を作ることが出来なかったのだろうか?
どちらにしても、シュタイナー侯が、ミューゼン公に援助を頼んだ以外に、何もしなかったように思える。
「やっぱり援助したほうが良かったかな? 領民が、苦しむのは見てられないよ」
「自業自得だろ。まあ、領民は領主は選べないけど」
アンディは、そう言うが、
「選べないからこそ。無能な領主は嫌いだよ」
「
「僕は、良いの。優秀な家臣に任せているから」
「はいはい、その優秀な家臣が働きやすい環境を作る。殿下の才能ですね」
「そうかな〜」
アンディに
僕は遠くヴィルヘルムの街の外れにある、大きな屋敷を見る。シュタイナー侯の屋敷だ。周囲は、騎士や兵士に厳重に警備されていた。本来、守るべき領民からの攻撃から守るために戦う為のものだ。まさに
「こうなると、ミューゼン国境を越えるのが大変かもね」
「国境に、何かあるんですか?」
アンディの疑問に、
「あるというか……」
僕は、アンディに説明した。シュタイナー侯国で仕事にあぶれた人は、大都市に向かう。決してハウルホーフェ公国のような田舎には、向かわないものだ。まあ、バーゼン辺境伯領には、行くかもしれないけど。
「あそこには、温泉地が、あるからね」
そう有名な温泉地、バーゼンバーデンがある。そこなら仕事にありつけるかもと、向かうかもしれないなと。
だけど、大多数は、ミューゼン公国だろう。そして、国境が混む理由は、
「長蛇の列ですね~。ちょっと見て来ます。ハッ」
アンディは、そう言うと道を、少し外れ草の上を馬を飛ばして走っていった。そして、しばらくして帰って来ると、
「殿下。先に通って良いそうです」
「そう」
僕達は、長く伸びた行列をしり目に、前に前にと進んだ。行列からは、凄い目で見られたり、
この列は、ほとんどがミューゼン公国に入国しようという人達の行列だろう。まあ商売しに来た商人もいるだろうが、ほとんどが、職探しで入国しようとしていると思う。だから、入国出来るとは限らないそれでも、可能性にかけて並んでいる。
入国するだけだったら、並ぶ必要はない。それこそ、森を抜けたり、丘を越えたりで入国出来るが、今度は、正規の仕事につけない。闇の仕事をするしかない。闇の仕事って、どんなのだろうか?
「ハウルホーフェ公国グーテルハウゼン殿下御一行、どうぞ御通行ください」
こうして、僕達は、ミューゼン公国へと入国したのだった。
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