第25話 エリスちゃんとの結婚⑤

「おはようございます、殿下」


「おはよう、エリスちゃん」


 不思議な事に、かなりよく眠れ朝もスッキリと起きられた。なぜだろ?


 僕達が起きると、修道女さんが、御祈りをやめて、部屋から出ていったのだった。



 僕達は、着替えると食卓に着いた。お父様、お母様も共に食卓を囲み、軽めの朝食をとる。



「おはよう、グーテル、エリスちゃん。昨日は、良く眠れた?」


 と、お母様が聞いてきた。


「それはもうぐっすりと、朝もスッキリ」


 と、僕は言うが、エリスちゃんは、


「わたしは、良く寝れなくて。なんか緊張してしまって。それなのに、殿下は、もうスースー気持ち良さそうに寝てて、うらやましかったです」


「そうなの。まあ、そのうち慣れるわよ。わたしなんて、この人の地響じひびきのような、いびきでも寝れるようになったから。まあ、最近は、あまりにひどいから、寝室別々にしようと思ってるけど」


 お母様が、お父様の方を向いてそう言うと、お父様は、あせった顔をして、


「お、お前。それは本当か? いびき、そんなにひどいのか?」


「ええ」


 お母様は、すましてそう言うと、少し時間をおいて笑い始める。


「うふっ、うふふふ」



 こんなアットホームな感じで食事は終わった。だけど、こちらはこんな感じだが、トンダルの方を想像してみる。叔父様に、叔母様、そして、リチャード卿。もう、それだけでお腹いっぱいになりそうだな~。





 朝食を終えると、再び結婚衣装に着替えて、パーティーの続きだ。大広間に入ると、昨日よりは、だいぶ人数が減ったように見える。


 人によっては帰ったり、あるいは別の集まりを開いたり、招待されたり、あるいは観光に出かけて居なくなったのだろう。それも自由だし。出席しなきゃいけないわけではない。


 見回すと、少なくともミューゼン公や、ザイオン公達は、いないようだった。



 そして、僕達が部屋に入って落ち着く間もなく、結構な人数の集団が僕達を取り囲む。そして、代表なのだろうか、四人が前に出る。そして、そのうちの一人が、前傾ぜんけい姿勢でみ手をしながら話し始めた。


「わたくし、ボルタリア王国で、大臣をしております。ボルーツ伯ヤルスロフと申します。グーテルハウゼン殿下、エリサリス様、この度は、御結婚おめでとうございます。このヤルスロフ、心よりうれしく思います。はい」


 僕と、エリスちゃんは頭を下げつつ、お礼を言う。


「ありがとうございます」


 すると、ヤルスロフは、わざとらしく。


「おお、そうでした。それで、これらの面々は、ボルタリアの諸侯でございます。皆も殿下と、エリサリス様の御結婚を祝福しております」


 と、前に出た四人のうち最も若い人が、


「一緒にされたら迷惑だけどな」


「殿下の前で何という……」


 ヤルスロフさんが、あわてて制止しようとするが構わず、


「俺の名は、マリビア辺境伯リンジフって言う。ボルタリアの王冠の一国だ。殿下、よろしくな」


「はあ、よろしくおねがいします」


 ボルタリアの王冠とは、領邦諸侯でありながら、ボルタリア王にも忠誠をちかう国の事だ。マリビア辺境伯領と、もう一カ国が、


「では、わたくしも、チルドア侯ヤンと言います。以後、お見知りおきを」


「はい、よろしくおねがいします」


「あの勝手に……」


 ヤルスロフさんが、あたふたしていると、最後に、不機嫌そうに腕組みをしていた真面目そうな、最後の一人が、


「これでさらに、アンホレストめにいいようにされるな。全く、カール様は、それで倒れられたというのに」


「こらっ、やめないか」


 と、ヤルスロフさんは、止めるが、


「ボルタリア王は、叔父様に何かされて倒れたのですか?」


「いえ、そんな事は……」


 ヤルスロフさんは、否定するが、


「ああ、負けたんだから、領土寄越せとか、境界はこちらが、決めるとか色んな難癖なんくせつけてきてる」


「そうですか。僕は、ボルタリア王国と関係が出来ましたが、これを叔父様に利用されるような事は、させませんよ」


 面倒くさいし、迷惑だしね。


 すると、腕組みをとき、こちらをじっと見つめ、そして、


「これは失礼しました、グーテルハウゼン殿下。わたくし、ヤルスロフと同じく、ボルタリア王国にて大臣をしております、ロウジック伯デーツマンと申します。なにとぞ、よろしくおねがいします」


「はい、こちらこそよろしくおねがいします」


「殿下、もしもの時は、殿下をお頼りしてよろしいでしょうか?」


「えっ! はい、もちろんです」


「かしこまりました。末永く、よろしくおねがいします。このデーツマン、殿下にも忠誠を誓わせて頂きます」


「いや、忠誠だなんて、そんな」


 こんな感じで、ボルタリア王国の方々と挨拶をした。なんかボルタリアは大変なようだ、叔父様のせいで。しかし、四方八方しほうはっぽう敵にして、叔父様は、何が楽しいんだろ? 





 と、考えていると、もう一つの集団がやってきた、先ほどよりは少ないが、こちらは分かりやすい。フランベルク辺境伯リチャードさんを先頭に、肩で風を切るような集団が、やってくる。



「グーテルハウゼン殿下、エリサリス妃、御結婚おめでとうございます」


 リチャードさんが、頭を下げると、後ろにいる全員も一緒に頭を下げ、お祝いの言葉を言う。


「ありがとうございます、リチャード卿」


「ありがとうございます。リチャード様」


 僕とエリスちゃんは、お礼を言いつつ、さらに、


「トンダルキント殿下と、娘さんの結婚もおめでとうございます」


「ありがとうございます」



 という感じで、挨拶すると、僕はリチャードさんに聞きたい事を聞いてみた。


「ボルタリア王は、叔父様のせいで倒れられたのですか?」


 すると、リチャードさんは、少し考え、


「違うな。あいつは、そんなやわじゃない。まあ、多少は、ストレスを感じてただろうがな」


「そうですか」


 ということは、一因いちいんにはなったのだろう。と、リチャードさんは、話を続ける。


「元々、虚弱きょじゃく体質ってほどじゃないが、身体が弱かったのは、確かだな。そして、何かしらの病気になり倒れた」


「心配ですね」


「ああ、そう簡単に死ぬことはないと思うが。やつの子は、まだ幼い」


 そう言うと、こちらに近づき、耳元に口を寄せると、


「陛下には許可をもらったが、もしもの時は、殿下の力を借りたい」


 えっ! どういうこと? 僕の力? 大したことないよ。まあ、だけど。


「かしこまりました。僕の力で、良ければ」


「そうか」


 僕は、この口約束を、後々後悔することになる。


 そして、リチャードさんは、耳元から口を話すと、元に戻り、


「陛下は、叔父上より殿下の事を、かってるようだな」


「そんな事は」


「フッフッフッ。だが、ボルタリアは、殿下に一任いつにんすると、おっしゃてたぞ」


「えっ」


「責任重大だな」


 ポンッと僕の肩を叩いてリチャードさんは、そう言い残して、去っていった。


 すると、エリスちゃんが、


「殿下、なんか大変そうですね」


「う〜ん。大変になるのかな~」


「わたし、応援しますね。殿下、ファイト〜!」


「うん、ありがと」





 その後も、何組かの挨拶を受け、その後は、結構余裕出来たので、エリスちゃんと共に、食事を食べながら話していると、お祖父様が、自らやってきた。近衛騎士に囲まれ、隣に女性を伴って。ん? 誰だ?


 お祖母様は、六年ほど前に亡くなられた。だからお祖母様ではないし、かなり若い。僕より年下だろう。


「グーテル、エリサリス。結婚おめでとう」


「ありがとうございます、お祖父様」


「ありがとうございます。陛下」


「ハハハハハ。陛下等と堅苦かたぐるしい。お祖父様で良いぞ」


「では、わたくしもエリスと」


「分かった。エリス、グーテルの事をよろしく頼むぞ。グーテルは、真面目まじめにやれば、優秀なのだ。なので、尻を叩いてやってくれ」


「かしこまりました」


「え〜」


 僕の嫌そうな声を聞いて、お祖父様は笑う。


「ハハハハハ。良いぞ、良いぞ」



 僕は、お祖父様と挨拶を済ますと、


「で、そちらの方は?」


 お祖父様の隣の女性を見る。茶色の髪に、グレーアイ。気弱そうな、大人しそうな女性だった。


「ああ、これか。一応、妻と言うことになっておる」


「ええ〜」


「驚くような事ではないだろ。皇妃がいないよりは、いた方が良いだろ。それに、そういう関係でもない。預かっているようなものだ」


「そうなのですか」


 僕が、そう言うと、お祖父様は、


「ほら、挨拶をしろ、我が孫だ」


 そう言うと、両手で、スカートのすそをつまみ片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままあいさつをする。 コーツィという挨拶だ。ということは、ランド王国の人かな?


「わたくし、ブリュニュイ公ヨーク4世が五女、ベアトリスと申します。グーテルハウゼン殿下、エリサリス様、よろしくお願い致します」


 えっ! ブリュニュイ! あの有名な赤ワインの産地の! そうか、あそこは、ランド王国と、マインハウス神聖国の境界にある、今は、マインハウス神聖国の領土だが、色々大変なのだろう。それよりも。


「あのワインの名産地の、ブリュニュイですか! あれは、最高ですよね~。味といい、香りといい。まさに至高しこうという名に相応ふさわしい」



 そうブリュニュイ産のワイン。もちろん白ワインも作っているが、ピノ・ノワールというブドウを原料に作られる、赤ワインが今のところ、僕の中では世界一のワインだ。


 ダリア産のワインは、微発泡して甘い。ランド王国南方は、黒いブドウを使いコクのあるワインを作っている。しかし、ブリュニュイ産のワインの、エレガントで、優雅ゆうがなワインには、到達していないのだ。


 そして、ブリュニュイ産のワインは、ブリュニュイ公によって、ブドウも作り方も厳しく管理されている。門外不出の物なのだ。



「グーテル、お前は……」


 さすがのお祖父様も、呆然としている。だが、


「嬉しゅうございます。殿下にブリュニュイのワイン送るように、お父様に伝えておきますね」


「是非、おねがいします!」


「殿下〜」


「グーテル〜」


 エリスちゃんと、お祖父様の情けない声が響く。



 その後しばらく談笑すると、


「わしらは、そろそろ帰る。良い結婚生活をな」


 そう言って、お祖父様は帰っていった。



 まあ、こうして、結婚式二日目も無事終わった。





 そして、本当の新婚初夜なのだが、


「えーと、ふつつか者ですが、よろしくおねがいします」


「殿下。それは、わたしのセリフですよ」


「えっ。じゃ。優しくしてね」


「それもわたしのセリフだと思うのですが……。まあ、いいや。じゃあ、いただきます」


「ひ〜」





「殿下。おはようございます」


「ぐすっ。うん、おはよう。ぐしゅ」


「殿下。どうされたんですか?」


「けがされた。もう、おむこにいけない。ぐしゅ」


「それも強いて言えば、わたしのセリフですよ。はい、泣き真似やめて。は〜。こういうところは、ちゃんとしてくださいよ」


「はい、申し訳ありません」





 第一章 グーテルの青春 了

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