第22話 エリスちゃんとの結婚②

「そういやあ〜、なんで、殿下と、エリスちゃん、一緒にいるんだ?」


「それ、今言うか?」


 ミューツルさんの言葉に、ガルブハルトが、ボソッと突っ込む。


「本当じゃぞ。入ってきた時から、一緒におったではないか」


「そうだっけ?」


 ミューツルさんは、オーソンさんに言われても、ピンとこないようだ。


「で、なんで一緒にいんの?」


 めげないミューツルさんが、さらに聞いてくる。


「えっと」


 僕が考えていると、エリスちゃんが先に答える。


「わたし、殿下と結婚するの。今は、婚約中だけど」


「えっ! そうなんだ。って事は、この前殿下といっぱ……」


 ミューツルさんが、そこまで言った時だった、ガルブハルトの大きな手が、ミューツルさんの顔を鷲掴わしづかみにする。


「貴様、下品なことを言うな、やめろ」


 ガルブハルトが、静かだがドスの聞いた声で、語りかける。ミューツルさんは、ガタガタ震えながら、うなずく。


 ミューツルさん、何言おうとしたんだろ? 下品なこと? う〜ん?


 それでも、ミューツルさんは、打たれ強かった、さらに聞いてくる。


「ヘ、ヘ〜。そうなんだ、殿下と、エリスちゃん、結婚するんだ~。ということは、やっぱりエリスちゃん、良いところのお嬢様だったんだ?」


「まあ、一応ね」


 エリスちゃんが、言いよどむ。


「そっか。じゃあ、マスター、もうかった?」


「はい? ミューツルさん、どういう意味です?」


「だってよ、エリスちゃん良いところのお嬢様だったんだろ。マスターが連れてきて、殿下に斡旋あっせんしたんだろ? だったら……」


「わたしは、人買いじゃありません!」


 マスターが怒り、ガルブハルトが、ミューツルさんを片手でり上げる。


「貴様、いい加減にしろ! エリス様を、殿下と一発やっただの、殿下に斡旋しただの、下品なことを言うな!」


「いや、ガルブハルトもね」


 僕が、ガルブハルトをたしなめると、ガルブハルトは、ミューツルさんを離し、頭を下げる。


「あっ。申し訳ありません」


 ドサッ


 かなりの高さから落ち、ミューツルさんがうめく。


「う〜、痛て〜」


自業自得じごうじとくだ。謝らんぞ、貴様」


 ガルブハルトが、かなり怒っている〜。怖いよ~。



 だが、そんな事でめげないのが、ミューツルさんだった。少しの時間黙っていたのだが、


「エリスちゃん、殿下と結婚か〜。おめでとね」


「ありがとうございます」


 僕と、エリスちゃんがお礼を言う。


「て事は、エリスちゃん、でんぴって呼べば良いのか?」


「でんぴって、何じゃ? そのどこかが、詰まってそうな名は?」


 オーソンさんが、聞くと、ミューツルさんは、


「だってよ。ほら、王様の奥さん、王妃おうひって言うだろ? 公爵様の奥さんも公妃こうひだし、だから、殿下の奥さんになるなら殿妃でんぴ?って言うのかなって?」


「なるほど」


「殿下。なるほどじゃないですよ~。わたし、でんぴじゃありません」


「ハハハハハ。ごめん、ごめん。ミューツルさん、でんぴって呼称なくて、強いて呼ぶなら、エリスとかかな」


「エリス妃なんて、も〜う」


 パシッ!


「痛っ!」


「あっ、殿下ごめんなさい」


 エリスちゃんのパシッ。スナップが効いて意外と痛いんだよね~。



 その後も、マスターの料理を食べつつ、ちびちびとお酒を飲み、のんびりとした時が流れる。


「ナンジーハ、スコヤカナァ〜トキモ〜……」


 ミューツルさんが、訳のわからない呪文を唱える。


「ミューツルさん、何じゃ、それは?」


「えっ、こんな感じじゃない、結婚式って?」


「どこの結婚式だよ?」


 と、オーソンさんや、ガルブハルトが突っ込むが、


「いや、俺、結婚式あげてねぇから知らねぇ〜」


「何じゃそりゃ」


 笑いが起き、楽しい夜が続く。





 そんな楽しい夜を過ごすと、翌日からは、しばらく僕は、公務こうむにおわれた。たまっていた仕事をコーネルと共にこなしつつ、結婚式ヘの準備も進めていく。色々出費もかさみそうだが、結婚式での参列者のお祝い金で穴埋め出来るだろうか?





 そして、コーネルと共に対策してきたから何とかなりそうだったが、一番の大問題と直面する。



「殿下のおっしゃてた通り、今年の収穫量かなりの減少です」


「そう、やっぱりね」


由々ゆゆしき事態です」



 コーネルから収穫量に関する、報告があった。小麦を始めとする穀物類、野菜など軒並のきなみ収穫量が良くない。まあ、一部寒さに強い穀物は影響受けなかったが。



 う〜ん。こういう時の為に、そういう穀物の生産を推奨すいしょうした方が良いのだろうか?


「ねえ、コーネル」


「はい、何でしょう」


「こういう時の為に、寒さに強い穀物の生産を推奨しておいた方が良いのかな〜?」


左様さようですな~。難しい問題です。確かに、こういう場合は、収穫量減らず、良いでしょうが、普段生産量が少ないのは、売れないからという理由がございますから」


「やはり、難しいか〜」


「はい。ですが、我が国が、安定して買うとなれば話は別です。しかし」


「食料庫が、あふれちゃうか~」


「はい、殿下も我々も、美味しくないパンを食べ続けると。まあ、健康には良いでしょうが」


「やめよう。今まで通り、こういう時の為に備蓄びちくするだけにしよう」


「はい」


 うん。名案みょうあんかなと思ったけど、上手くいかないな~。まあ、しょうがない。


 だけど、僕は机の引き出しから、礼状を取り出す。


「くくくくく。これだけ恩を売っておけばいずれは……」


「殿下、心にもない事をおっしゃっても似合いませんぞ」


「そう? 上手く言えてたと思うんだけど」


 僕は、そう言いつつ、手にした礼状を見る。民主同盟タイラー、ヒールドルクス公国ヒンギルハイネ、ザーレンベルクス大司教、バーゼン辺境伯、そして、ミューゼン公。


 これは、僕が一応、影響あるかなと思い、忠告した国からの礼状だった。まあ、実際どう対処したかは知らないけど。



 この夏、マインハウス南部地域は、平年に比べかなり涼しかった。さらに、実りの秋は、寒いくらいになったのだった。


 それに対して僕は、コーネルと相談の上、ダリア方面など、影響の無さそうな地域から保存のきく、品物を買い、もし、領民達の食料が足りない場合に備え、食料庫に詰め込んだのだった。


 もちろん元から、長期保存のきく、穀物や、干し肉、乾燥豆が非常事態用に備蓄びちくしているが、それだけだと、味気ない。


 そして、領内の商人達にも声をかけ、物価の急騰きゅうとうを避ける為に、動いてもらったのだ。


 さらに、同じ状況になりそうな国々に声をかけ、被害が及ばないようにしたのだった。



「で、どうすれば良い?」


 ヒンギル従兄にいさんは、直接聞いてきたので、コーネルに頼んで、一部品物をまわしたり、ダリアの商人を紹介したりした。


 まあ、我が国が大国だったら、支援することも出来るが、そんな余裕は無い。それで勘弁してもらったのだった。


 でも、ヒンギル従兄さんも、少しは、自分で考えろよとは、思うんだけど。使える家臣もいないのかな?



 それで、礼状が届き、感謝された。まあ、シュタイナー侯、テーリン公、ルノー公からは、何も返事がなかった。影響なかったなら良いんだけど。まあ、余計なお世話だったかな?


 まあ、いいや。結婚式の招待状、送ってあげないんだ。ふん。





 こうして、秋を越え、大雪の冬を迎え、新年は、あまり身動きとれない状況で過ごした。


 その後は、本格的に結婚式の準備に入る。


 僕は、お祖父様の紹介だとダリアから、仕立て屋さんが雪に埋もれながらやってきて、滞在しながら僕の結婚式の衣装いしょうを作っている。


 なんか白い服に金の派手な装飾をしているが、なんか、バカ王子に見える。フルーラや、エリスちゃんは似合っているって言うけど……。



 そして、エリスちゃんは、主にマナートレーニングをしている。やはり、一時的に貴族の生活から離れていたので、色々細かいマナーが大変そうだ。


 さらに、ボルタリアからエリスちゃんの衣装作成に、同じように雪に埋もれつつ、仕立て屋さんがやってきたのだ。赤い豪華なドレスだが、こちらの仕立て屋さんは、理想家なようで、


「く、苦しい」


「エリスちゃん、大丈夫?」


 どうやら、ドレスが最も美しく見える理想的な形で作っているようだが、エリスちゃんは、かなり苦しそうだ。



せなきゃいけないわけじゃないけど、もうちょっと身体引き締めないと」


「そうなんだ、頑張ってね」


「うん、頑張る」


 女性は、大変だね〜。



 まあ、忙しい合間をぬって、カッツェシュテルンに行くぐらいしか、楽しみがない。そして、エリスちゃんが、身体を引き締める、良い運動について発言した時だった。


「そりゃ、殿下と一緒に夜の運動やりゃ、すぐ痩せるんじゃねぇ。ハハハハハ」


 ミューツルさんが、お決まりのセクハラ発言をする。すると、ローセちゃんが持っていた金属製のトレーを素早くエリスちゃんに渡す。で、できる。


「はい、エリスちゃん」


「ありがとう、ローセちゃん。エイッ!」


 エリスちゃんは、それを振り上げ、落とす。


 ガンッ!


「イテッ!」


「駄目だよ、エリスちゃん。トレー変形しちゃうよ」


「ごめんね。マスター」


「マスタ〜、俺の心配は?」


 頭を抱えつつ、マスターの言葉にへこむミューツルさん。さらに、ガルブハルトが追い打ちをかける。


「ふっ、自業自得だ。下品と書いてミューツルと呼ぶ。ガハハハ」


「本当ですな~。フォフォフォフォ」


 オーソンさんも笑い。カッツェシュテルンが、笑いに包まれる。や〜。良いな、こういう時間。


「良くねえよぉ〜」





 雪が溶け春を迎えた頃、僕の両親と、エリスちゃんの親代わりのボルタリア王カール3世が、わざわざハウルホーフェ公国までやってきた。結婚式のおよそ四十日前に行われる、婚約こんやくのためだった。

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