第19話 ヴィナールへの旅⑥
「結婚か〜、早くない?」
「仕方ありません。我々は、駒にすぎませんから、言われたらその通りにするしか。年貢の納め時ですね」
「だね〜。フランベルク辺境伯とボルタリア王か〜。トンダル、先に選んで良いからね」
「さすがに、それは無理ですよ。僕は三男、グーテルは、長男ですよ。それに、その必要性ないような気がします」
「なんで?」
「なんとなくですが……。このタイミングで、そういう事が起きたという事は、誰かの
「ふ〜ん。じゃあ、流れのままに行くか〜」
「そうですね」
「マインハウス神聖国皇帝ジーヒルホーゼ4世陛下は、本日、
「アーメン」
ヴィナール司教の言葉で、お祖父様の誕生日の行事が、始まった。
本来、ヴィナール
だって目の前には、
その後は、なんかいろんな人が、挨拶していた。多分、ダールマ王国国王とか、ランド王国国王代理とか、神聖教教主代理とか、いろんな方がありがたい事を言っていたようだ。ほとんど寝ていたので、知らないけど。
「く〜く〜く〜」
「殿下、殿下、殿下!」
「んあ?」
「終わりましたよ。皆様、移動してますよ」
「おんぶ」
「は?」
「おんぶ」
「はっ、かしこまりました」
誰か知らない人に背負われ、会場移動して。
「グーテル! 何をしているの!」
お母様の声が、聞こえる。
「申し訳ありません。サウルヘイム、ヴィナール司教」
えっ!
僕は、慌てて飛び降りる。
「ふぉふえんあちゃい」
「いえ、いえ、殿下のお役に立てて光栄ですよ」
「ふえ」
良い人だ~。
その後も、ちょっとしたパーティーがあって初日終わり。お祖父様達は、他国からいらした
翌日も、いろんな人の挨拶と、家族での食事とか。そういう日が3日続き、そして最終日、昼からマインハウス神聖国の
僕が、トンダルと話していると、遠くから凄い圧力を感じた。
僕が振り返ると、2人の人物が、こちらへと歩いて来るのが見えた。
1人は、
もう1人は、若い感じだ。並べてしまうと余計に目立つが、身体は大きくなく、
明らかに強烈な
ボルタリア王国は、マインハウス神聖国の東端、ヴィナール公国の北にある、マリビア辺境伯と、チルドア侯国を従える、マインハウス神聖国領邦中、最大の国だ。文化的にも、経済的にも安定しており、モラヴィウ川を使った水運でも栄え、裕福な国だ。
そのさらに北西にあるのが、フランベルク辺境伯領で、こちらは、マインハウス地方最大の国だ。北は海に面しているものの、輸入を帝国自由都市ハンベルク経由に頼り、経済的にはいまいちだが、軍事力はかなりのもので、そのさらに西にあるザイオン公国とは、ライバル関係にある。
それにしても、なんという威圧感。お祖父様もかなりのものだが、迫力のタイプが違う。お祖父様が、なんでも打ち
「お初にお目にかかります。グーテルハウゼン殿下。
「へっ? 失礼しました。お初にお目にかかります、リチャード卿。僕、口に出してました?」
「ええ。なかなか面白いたとえでした。まあ、ハンマーによって、砕かれた剣ではありますが。フッフッフッフ」
笑い方が怖いよ。おっと。
「それで、こちらが……」
「お初にお目にかかります。ヴィナール公が三男、トンダルキントです」
「これは、これは。お初にお目にかかります、トンダルキント殿下。うむ、こちらは、水のような方だ。静かに流れるかと思えば、硬い氷となり、目眩ましの
「そ、そのような」
「フッフッフッフ。我々の
そう言いつつ、フランベルク辺境伯は、斜め後方を向く。
「ふう〜。ようやく挨拶出来ますね。皆様、ボルタリア王カール3世です。カールでも、ボルタリア王とでもお呼びください。陛下だけは、やめて下さいね。陛下は、今はただ一人だけなのですから」
「ボルタリア王、お初にお目にかかります、グーテルハウゼンです」
「カール様、お初にお目にかかります、トンダルキントです」
こうして、フランベルク辺境伯リチャードと、ボルタリア王カール3世と会話する事になったのだが、さて、何を話そう。
だが、リチャードさんが、先に話し始めた。
「先ほどお
「わたしとは、大違いですよ」
ボルタリア王が
「あれは、突然変異だ。気にすることは無い。何せ当初は、父親に反乱起こして、負けた男だからな」
「えっ、負けたのですか?」
僕が、思わず驚きの声をあげるが、
「ああ、負けた。そして、幽閉されたのだ。そして許され、その後、父親が死ぬと、兄が死んでいたのでな。やつが跡を継いだのだ。まあ、これも
「怖っ」
僕は、再び声を出す、
「フッフッフッフ。心配するな、やつは死んだ。お前達の前に、立つことはない。それで、跡を継いだやつは、跡取りのいないヴィナール公の未亡人と結婚し、ヴィナールを傘下に。貴族共和制という特殊な政治形態を認め、ワーテルランドの王さえつとめ。ダールマ王国すら敗北させ、領土の一部を割譲させ、マインハウス神聖国皇帝に匹敵するとも言える、力を持ったのだ」
「へ〜」
「だが……」
フランベルク辺境伯の顔が、暗くなる。
「同時代に生まれた不運だな。やつは敗れ死んだ。今のマインハウス神聖国皇帝ジーヒルホーゼ4世の、ダールマ王国を味方へと引き込む戦略と、
「ですが、これからは、タイラーさんの活躍もありますし、戦いは、変わっていきますよ」
僕が言うと、
「ああ、分かっている。だからこそ、俺は、皇帝陛下……。ジーヒルホーゼ4世ではなくてな。お前達、グーテルハウゼン殿下と、トンダルキント殿下に
「へっ? 僕と、トンダルですか?」
「ああ。時代は、変わる。新しい時代に確実にな」
「そうなんですね~。楽な時代になると良いですね〜」
「いや、大変な時代にはなると思うが、楽にはならないと思うぞ。フッフッフッフ」
「えっ!」
僕は、ただ驚くことしか出来なかった。それを受け、トンダルが聞く。
「それで、僕と、グーテルに結婚相手を」
と、今まであまりしゃべっていなかった、ボルタリア王が口を出す。
「そうなのですが、わたしの手元には、殿下方の相手になるような女性はいなかったのですが、現れたというか……。まあ、その、変わった人でして、あの〜」
「まあ、一人は、変わったやつでな。自分から嫁ぎたいとな。じゃじゃ馬の跳ねっ返りだが、まあ、目は確かだな」
言いにくそうな、ボルタリア王の言葉を受け、フランベルク辺境伯が話す。
「まったくです。どこにいるのかと思ったら、良い相手を見つけたから、結婚したいなどと……」
「どのような方なのですか?」
僕の問いに、ボルタリア王は、
「それは、会っての楽しみで」
「まあ、そういうわけで、よろしく頼む」
と、フランベルク辺境伯。
「はい」
「はあ」
そして、
「あ~。なんか緊張する。逃げちゃ駄目かな?」
「さすがに、相手に失礼ですよ。それに、フランベルク辺境伯の
「そうだね。殺されることはないだろうけど、怖いな。うん、頑張ろう。よし、おまじないだ」
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ」
「なんですか、そのおまじない?」
「さあ?」
僕は、扉の前に立つと、深呼吸して、
「さて、失礼しま~す」
「グ、グーテル! おほん。グーテルハウゼンと、トンダルキントです。入らせて頂きます。失礼致します」
僕は、扉を開け、中に入る。そして、
「あれっ? エリスちゃん!」
「殿下、会っちゃいましたね。てへっ」
そこには、給仕する時とは違い、豪華なドレスを着たエリスちゃんがいた。
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