第18話 ヴィナールへの旅⑤
「父上、
「待て、ヴィナール公。わたしは、誰だ?」
「えっ! あっ、申し訳ありません、陛下。ご案内させて頂きます」
「うむ。ヴィナール公。ご苦労」
「ははっ」
マインハウス神聖国皇帝ジーヒルホーゼ4世は、ヴィナール公国公都ヴィナールへと到着したのだった。その
マインハウス神聖国。その名は、
そのマインハウス神聖国皇帝ジーヒルホーゼ4世は、出迎えたヴィナール公アンホレスト達に、
かなり広いヒールドルクス宮殿。共に来ていた領邦諸侯達も、それぞれの客室に案内され、ジーヒルホーゼ4世の周囲には
挨拶もそこそこに、
「昨年、ヴィナールが、安定せずうちに、ヒールドルクスで、戦闘になったそうだな」
すると、ヒンギルハイネが、
「申し訳ありません。我が力及ばず、敗北しました」
謝罪するが、
「うむ、ヒンギル。ご苦労だった。あの状況で良く戦った」
「えっ! はっ!」
「でだ、アンホレスト。
「そ、それは、ツヴァイサーゲルド地方の反乱が拡大傾向でしたので、それを拡大する前に叩こうと」
「拡大する前にか。さらに拡大しているが?」
「申し訳ありません。敗北したために……」
「違う! 敗北したことを攻めているのではない。戦いのタイミングを言っているのだ」
「はい、申し訳ありません」
「どうも、おまえは、戦いの
「はい、肝に命じておきます」
「うむ。でだ、ヒンギルハイネ。ヒールドルクス公国を見事治めているそうだな。反乱の
「は、はい、ありがとうございます」
「うむ。
「はい」
「そうだ。
「はい、ありがとうございます」
「ところでだ、婿殿。我が娘と、グーテルの姿が見えないようだが」
「そ、それが……」
ジーヒルホーゼ4世は、部屋の中をキョロキョロと見回す。すると、アンホレストの妻、イザベラが口を挟む。
「陛下、
すると、それまでの比較的穏やかだった顔はどこかへと。厳しい顔で、イザベラをにらむ。
「何だと?」
部屋の空気が、
「早く、早く、早くしなさい! グーテル!」
「わ、わ、わ、待って。お母様〜」
「とにかく急ぎなさい。お父様は、すでに到着しているんですよ」
「わ〜。待ってよ~」
状況を説明しよう。マインハウス神聖国皇帝である、お祖父様が来訪されるという重要なこの日、僕は寝坊したのだった。
だが、お母様も偉そうに言っているが、この状況を生み出した原因の
お母様は、朝早く、僕を起こしに来て、気持ち良さそうに寝ている僕を見て、そのまま、僕のベッドに
それで僕達は、今。広い広いヒールドルクス宮殿を
で、ようやく見えてきた。お祖父様のいる部屋だ。扉には、マインハウス神聖国の
僕は、お母様と共に部屋に飛び込んだ。
ん? 部屋の空気が重い。
「お祖父様〜〜〜!」
「お〜、グーテル。元気だったか?」
「ほら、ジョリジョリジョリジョリ」
「お祖父様〜、チクチクする〜」
「ハハハハハ。グーテルは、変わらんな〜」
そして、お祖父様は、お母様を僕と、共にハグし、
「エリーゼも元気だったか?」
「はい、それはもう」
そして、呆然とした空気に包まれた中。しばらくハグした後、何事もなかったように、離れると、僕は、
「お祖父様。この度の
「うむ。グーテルも元気そうで何より」
「お父様、良くお越しくださいました。このエリーゼ、お会いできたこと、心より嬉しく思います」
「うむ。エリーゼも元気そうで何より。だが、エリーゼ、お前太ったか?」
「お父様! 太っておりません!」
「そうか、そうか、すまなかった。ハハハハハ!」
「もう!」
場の空気が
「では、父上。長旅でお疲れと思います。本日は、ゆっくりお休みください」
「うむ。そうだな。明日からは、色々めんどくさい行事も
「はい。では、失礼致します」
「ああ。そうだった。グーテル、トンダル」
「はい」
「少し残ってくれ、話がある」
「はい」
僕と、トンダルを除いた皆が出ていき、部屋にはお祖父様と僕、そして、トンダルのみとなった。お祖父様は、近衛騎士までも、部屋の外に出したのだった。叔母様は、やはり凄い目でにらみつつ出ていった。怖いよ~。
「トンダル。あやつの
「はい、グーテルのお陰で、
「困ったやつだ」
お祖父様は、白くなった立派なあご
「うむ。決めたぞ。あやつは、わしが連れていく。あの女も、わしが
「そうですね。お母様も、お祖父様が手元で育てると言えば、皇帝の後継候補だとでも勘違いすると思います」
「うむ。でだ、グーテル」
「んあ?」
「寝てたのか?」
「いえ」
「まあ、良い。トンダルもだが、そろそろ結婚相手を見つけないとな。まあ、
「それはもう。覚悟致しておりました」
「え〜。
さて、どちらが僕のセリフでしょうか?
まあ、それは置いといて。
「ですが、カール
僕が、一応聞くと、
「今のあれに、結婚などさせられるか。分かってて聞くな」
だそうです。
で、政略結婚の駒だが。僕は兄弟姉妹はいないというわけで、使いようがないが、トンダルのところは、3人の姉、そして、ヒンギルはすでに結婚している。
そうそう、ヒンギルは、なんと! ランド王国の国王の妹と、結婚しているのだ。
ランド王国は、西や、北に、お祖父様は、東や南へと勢力を拡大したいため、お互いの思惑が合致したためだった。
「それで相手だが」
お祖父様は、座っていた椅子から見を乗り出し、僕達の顔を交互に見ながら話す。
「えっ! すでに相手決まってるんですか?」
「そうだ。あのボルタリア王と、フランベルク
そう言うと、お祖父様は背もたれへと倒れ込み、上を見て
「手強い相手だったが、今や、素直なものだ。ハハハハハ!」
お祖父様が、ボルタリア国王カール2世を戦いで討ち破り、戦死させたのは、1278年。8年前の話だった。
その後、ボルタリアは、カール2世の息子カール3世が継いでいる。フランベルク辺境伯は、お
「ですが、ボルタリアには、失礼ながら
「えっ!」
トンダルの言葉に僕は驚き、思わず叫ぶ。
そう言えば、カール2世は、戦いに明け暮れて、子供が少ない。確か、カール3世と、女性が2人。
女性2人は、すでに結婚されているが、もしかして、旦那さんが亡くなられて、その
あるいは、カール3世に最近赤ちゃんが誕生されたとか? その子が女の子で、その子ととか? いや〜〜!
「大丈夫だ。心配するなちゃんと、ボルタリアの家系だ」
「そうですか。わかりました」
お祖父様が、僕の心を読んだかのように応え、トンダルが同意の言葉を返す。
「グーテル、トンダル。相手の女性呼んであるが、行事がすべて終わってから、ゆっくり会えるようにしてある。お〜、そうだった。どちらがどちらを選んでも良いからな。相談して決めよ。まあ、向こうの
「えっ! 選ぶんですか? う〜ん?」
「ハハハハハ。嫌か? まあ、そうだろうな。が、諦めろ。これも運命だ」
「は〜い」
僕は、ただどちらかを選ぶって事が、相手に失礼って思っただけだよ。うん。本当だからね。決して、めんどくさいとか思ってないよ。うん。
「そろそろ休ませてもらおう。グーテル、トンダル、下がって良いぞ。おっと、そうだった。ボルタリア王と、フランベルク辺境伯だが、わしと共に来ておる。わしの誕生パーティーで、挨拶に行くだろう。ちゃんとしろよ」
「はい。かしこまりました」
「え〜。フランベルク辺境伯、怖そうなんだよな〜」
「こらっ。そこはちゃんとしろ。将来がかかってるかもしれんのだからな」
「は〜い」
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