第5話 グータラ殿下の優雅?な一日④
ふ〜。何が
まあ、良いか。今日はアンディが、夜間の護衛の当番だ。ということは、城を抜け出して。グフフフ。
「殿下。どうしたんですか? 気味の悪い笑い方などなされて」
「えっ。フルーラの気のせいじゃない? 僕は、笑っていないよ」
「そうですか。失礼しました」
おっと、いけない。笑っていたらしい。
僕達は、帰り道を休みなくひた走ると、再び、フルーゼンの街を抜け、城へと続く坂道を駆け上る。馬がだけどね~。
僕は馬を降りると、馬の首すじを
「ご苦労さま」
馬は、ブルッと鼻息で返事する。なんて言ってんだろうか?
僕が、城内に戻るために歩きだすと、フルーラと、アンディがついてくる。他の護衛隊士は、馬をひいて、馬屋へと向かう。これで、彼らの仕事は終わり、次に全員が
「フルーラも、昨日の夜からでしょ。帰って良いよ。お疲れ様」
「はっ、ありがとうございます。殿下が、お部屋に戻られたら、わたしも、失礼させて頂きます」
「そう」
昨日の夜は、フルーラが夜間の護衛だった。それから、連続勤務、絶対疲れてるよ。顔にも疲れが見える。
部屋に入ると、フルーラは、
「では、殿下。これで失礼致します」
「うん。フルーラもゆっくり休んでね」
「はっ、ありがとうございます。では、アンディ頼んだぞ。殿下を連れて、フルーゼンの街に行くなどしないようにな」
「え〜」
「え〜」
僕と、アンディの声がハモる。
「で、殿下。え〜、ではございません」
「やだ、やだ、やだ。飲み行きたい」
「殿下〜。あまり夜出歩くのは、好ましくないかと」
「やだ、やだ、やだ。マスターに会いたい、エリスちゃんに会いたい。やだ、やだ、やだ」
と、僕が
「で、殿下。そ、その、あ、あまり、その、領民と、その、そういうことは、その、良くないかと……」
ん? フルーラどうしたんだ? 僕は、アンディの方を見る。すると、こっちは、悪い顔をして、ニヤニヤと笑っている。こっちもどうしたんだ?
「隊長〜。だったら、隊長が、殿下の夜のお相手をして差し上げれば、良いんじゃないないんですか〜。そしたら、殿下も出歩かずに済むんじゃ?」
ん? アンディ、何を言ってるんだ? 夜のお相手? ああ、そういうことか~。
僕が、フルーラの勘違いを正そうとした、その時だった。
「わ、わ、わ、わわわ、わわわわわわ、わ〜!」
そう言いながら、フルーラは
その本気のフルーラの
「あ〜。そうか、隊長には無理か~。経験ないもんね~」
やめろ、アンディ。それ以上、
「け、け、け。うわ〜〜〜〜〜!」
フルーラが泣いた。アンディが、泣かせた!
「アンディ、やめろ。フルーラ、あのね、エリスちゃんは、そういう女性じゃないから。フルーラ、聞いてる? フルーラ……」
僕が、そう言いながら、フルーラに近づくと、
「こ……ろ……」
「ん? フルーラ、何を言ってるんだ。良く聞こえないよ」
すると、きっと顔を上げ、アンディを
「アンディ。殺す!」
駄目だって、殺しちゃ。僕がそういうより速く。フルーラは、すさまじいスピードで、アンディに斬りかかる。
さすがのアンディも、大きく跳び避ける。そして、アンディは、その反動を利用して、僕の方に突進してくると、僕を左腕で抱え、もう片方の手で、床に落ちていた。クッションを窓へと投げる。すると、いつの間にか鍵を開けていたのか、窓がゆっくりと開く。
そして、僕を抱えたまま、窓に向かって走ると、そのまま、飛び出した。
「アンディ、ここ2階!」
僕が、そう言うが、もう空中だ。
だが、アンディは、軽々と、窓の前にあった木の幹や、壁を利用して、減速し、華麗に着地する。そして、口笛を鳴らすと、アンディの馬が走って来る。アンディは、僕を押し上げて、馬に乗せると、自分もまたがり、手綱をとる。
「殿下。行きますよ」
「うん」
アンディは、馬を走らせる。
すると、上から、フルーラの声が、
「アンディ! 明日……は、わたし休みか。明後日、覚えていろよ!」
うん。意外とフルーラ、冷静だった。大丈夫そうだな。明後日、フルーラに謝ろう。
「ガハハハ! それは、フルーラっぽいな。だが、アンディ。フルーラは、剣の道一筋に生きてきたのだ。だから、そういう方面には、
「すみません」
「ガハハハ! まあ、気にするな。ガハハハ」
そう言いながら、アンディの事を、バンバンと叩く。うん、痛そうだ。笑い声の主は、名をガルブハルトという。この国の騎士団長だ。
今は、甲冑は着ていない。だからかえって目立つ、その肉体。比較的涼しいこの夏だが、それでも、暑いのか。かなりの薄着だ。
上は、甲冑の下に着る半袖の肌着のようなものをまとい。下は、七分丈の薄い通気性の良さそうなズボンなのだが。腕も、胸も、そして、太ももも、はち切れんばかりに隆起していた。ようするに、かなりのマッチョだ。
白い肌のはずだが、日焼けで茶色くなっている。金髪の髪は短くかられ、濃く太く短い眉の下のブルーアイは、ギョロっとしていて、鼻も口も大きく、鼻の下や、顎にはえた髭も合わせ、豪快な雰囲気を醸し出している。
結構年齢もいっているように見えるが、まだ三十歳。騎士団長にしては、比較的若い。それだけの実力もある。剣の腕は、アンディ、フルーラと言ったが、純粋な強さだけならこの男が、最強だろう。
騎士団長だが、本人、剣は、あまり使わない。全身を厚い甲冑でおおい、ウォーハンマーという、打撃用の武器を用いる。いくら攻撃されても、重装騎兵の如く進み、敵をそのウォーハンマーでなぎ倒すのだ。
このガルブハルト、名家の出身ではない。傭兵として、若い頃からマインハウス神聖国内を渡り歩き。それこそお祖父様の対ボラタリア王国の戦役等で名を上げ、お父様に請われて、このハウルホーフェ公国にやって来た。そして、この戦乱もない、のんびりしたこの国を、気に入ったようだ。
さすがのアンディも、一目置いている、このガルブハルトには、軽口を叩けず。少し、ムスッとしていた。
ここは、カッツェシュテルンという名の、フルーゼンの街中にある酒場だ。名前のとおり大きな店ではないが、マスターの作る料理と、店員のエリスちゃんの
そこにアンディと共にやって来たのだが、この店の常連でもある、ガルブハルトに先程の話をしたら、こうなったのだった。
しかし、店は常連客でいっぱい。マスターが、汗をかきながら、慌ただしく料理を作り、エリスちゃんが、慌ただしく料理を運んでいる。
マスターは、異国からの放浪者だったようで、この辺りでは珍しい黒髪で、肌の色も違う。髪は短く切られているが、逆に立派な髭をはやしている。目はくりっとして男性に言うのは失礼だが、可愛らしい。身長はさほど高くないが、料理が美味しそうな体をしている。名は……。知らない、皆がマスターと呼んでいるのでマスターなのだ。
そして、給仕を担当している、エリスちゃんだが、こちらは、金髪でブルーアイだが、言葉にちょっと癖があり、地元ではないのだろう。
エリスちゃんは、歳は僕より少し上か、同じ位だろうか。美人というよりは、可愛らしいという笑顔の素敵な女性だ。そして、何よりよく働くし、客の扱いもうまい。たまに、ボケるが。それも愛嬌だろう。
初期からの常連客さん
マスターは、この地で結婚して、子供もいる。僕は聞いたことないが、マスターとエリスちゃんの関係を、常連客さんが聞いたところ、笑って
「おりゃ〜。思うんだけどさ。ありゃ〜、どこかのお姫様と、従者だったんじゃねえかね〜。ほら、エリスちゃん、どこか気品あるしよ。国が滅んで、マスターが一人守って連れて来た。く〜。泣けるね〜」
と、常連客のミューツルさんの話だった。これは、ミューツルさんの妄想で、真実かはわからない。謎なのだ。
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