第4話 グータラ殿下の優雅?な一日➂

「さあ、お昼! お昼!」


 いよいよ一日で、最もゆっくりと、そして美味しい料理が、たっぷりと出てくる昼食だ。僕は、そう言いつつ、執務室からの廊下を歩いていると、後ろをついてきたフルーラが、またなさけない声を出す。


「殿下〜」


「ん? 何だっけ?」


 僕は、立ち止まりフルーラの方を振り返る。すると、


「殿下〜。殿下がおっしゃったんですよ。ランチバック持って、少し遠くまで視察しようって」


「そうだった。ごめん、ごめん。ハハハ。じゃあ行こうか」


「はっ!」



 そう言うと、僕達は、城の中庭へと向かった。そこでは、フルーラ配下の護衛隊がすでに準備を整え、僕達を待っていた。


 まあ、護衛隊と言っても、総勢5人。隊長がフルーラで、副隊長がいて平隊士3人。という編成だ。


 家柄でフルーラが隊長で、経験豊富な騎士が副隊長に選ばれ、後は比較的腕が良く、家柄も良い人間が、隊士に選ばれる。


「おっすー、おはよう殿下」


「ああ、おはようアンディ」


「貴様! 殿下に対して何たる口の聞き方! そこに、なおれ!」


 フルーラが激昂げきこうして、剣に手をかける。


「まあ、良いじゃないフルーラ」


 僕が、そう言うと、アンディも


「そう、そう、殿下も、そう言ってんだしさ」


 すると、フルーラが抜剣ばっけんして、本気で剣を振り回す。それを少しずつ下がりながら、上半身を軽く揺らして華麗かれいにかわす、アンディ。


 うなりを上げ振られるフルーラの剣は、アンディにかすりもしない。そうこの男こそ、僕が知る限りだが、一番の剣のつかい手だった。


「はあ、はあ。なぜ貴様のような人間が、あの高潔こうけつな方から産まれるのだ」


「産まれちゃってごめんね、隊長」


「くっ。貴様」



 高潔な方から。そう、アンディは執政官コーネルの息子だ。騎士団に属しているから分かるように、長男ではない。次男だが。


 アンディは、かなり軽薄けいはくな性格をしているし、顔面偏差値がんめんへんさちが、フルーラいわく、無駄に高い。


 そう、僕から見てもその長身とすらっとした体型。そして、ほとんどの女性が振り返るだろう顔、そして、甘い声。とことん、ねたましい。もとい、うらやましい。コーネルと似ているところがまるでない。唯一ゆいいつ、その茶色の髪と、ブラウンアイが、コーネルの息子であると示していた。


 本当に、なんでコーネルの息子なのに、こんな軽いんだろうね〜。まあ、年齢は向こうが1歳上で、お互い気にしない性格だから、話し相手としては、僕とは気が合うんだけどね。



 他の護衛騎士は、またやってるよという顔をして、さっさと準備を済ませ、馬上の人となる。僕も、馬に乗ると、声をかける。


「フルーラ、アンディ、置いてくよ」


 そう言うと、軽く馬の腹を蹴る。僕の馬は、軽快に進み始めた。フルーラ、アンディ以外の護衛隊も続く。


「お待ち下さい〜。殿下〜」


 フルーラの叫び声が聞こえ、あわてて馬に乗ろうとして、失敗し転落。よろよろと立ち上がり、馬にまたがると、必死に追ってきた。痛そ〜。


 アンディの方は、口笛を鳴らすとアンディの馬が走り出し、それに併走しながら跳び乗る。ほんと、絵になるね~。





 城門を出て、城のある小高い丘から駆け下りると、城下町であるフルーゼンの街に入る、そして、北へと抜けるのだが、馬のスピードを落とし、石畳を進む。



「おばちゃ〜ん。風邪治った?」


「殿下、お陰様でよーなりました」


「そう、良かった」


「あっ! フューリーさん、結婚するんだって。おめでとう」


「殿下。わざわざ有り難うございます」


「あっ、マスター。今日、夜行くからね」


「お待ちしております」


「殿下!」


 なんて、街の人達と、挨拶しながら進む。お父様は、もう少し貫禄かんろくを見せ、鷹揚おうように挨拶するべきだというけど、出来ないんだよね~。



「あっ、グータラ殿下だ!」


「こらっ、止めなさい!」


 僕のあだ名を呼ぶ子供の声がして、母親が慌てて止めている。


「ハハハ。良いじゃないグータラ殿下で、本当の事だし」


「申し訳ありません」


 近くをそう言いながら、通り過ぎる。子供の母親に謝らせちゃった。いけない、いけない。


 グータラ殿下。


 僕の名前はグーテルハウゼン。親や、親しい者は、グーテルなり、グーテル殿下と呼ぶ。そのグーテルだが、この地域の方言だとグータラに聞こえなくもない。そして、ぐうたらとは、マインハウス神聖国から、はるか東の国では、気力に欠け、なまけ者をそう言うらしい。そこで、僕についたあだ名が、グータラ殿下。というわけだ。



 街を抜け、馬のスピードを上げる。湖を右手に見ながら、進む。そして、


「ここで、休もうか」


 僕がそう言うと、


「はっ!」


 護衛隊は、素早く、敷物しきものを敷いて。僕の休憩所を作る。そして、それぞれがおもいおもいに、ランチバックを広げ、食事を開始する。



 朝食と同じく、パンだ。だけど冷めても美味しいように小麦の多いパンとなっている。そこに、アスパラガスを始めとする野菜。そして、今回は、細長いソーセージが入っていた。おそらく、マインハウス神聖国帝都フランケルアルアインの名物ソーセージだろう。細長いソーセージのため、比較的冷めても美味しいのだ。


 そして、付け合せに、ザワークラウト。ようするに、キャベツの漬物つけものだ。キャベツを千切りにした後、塩と香辛料で漬ける。決して、酢漬けではない。



 隊士達は、おもいおもいに座っているが、フルーラと、アンディは、僕の目の前に座ると。普通に、3人で、軽妙けいみょうな雑談が始まる。仲良いんだよね〜。



 ただ、普通、休憩においては、二人くらいは周囲を警戒するために、食べずに立番たちばんし、急いで食べ終わった者が交代するというものなのだが。誰も立っていない。



「平和だね~」


「どうされました、殿下?」


「隊長〜。殿下は、歩哨ほしょうがいないねって、言ってるんすよ」


「えっ! これは失礼しました。早速!」


「ああ、いらない、いらない。平和なことは良いことだよ。うん」


「そ、そうですか。では、そのように致します」


「ハハハ。隊長〜駄目だな〜」


「おい、貴様。分かっていたなら、お前が歩哨に立てば良かっただろう」


「え〜。嫌ですよ~。疲れるし。隊長がやれば良いじゃないですか〜」


「き、貴様!」


 と、フルーラが剣を抜く。そして、また、出発前と同じ事が始まった。練習熱心だね~。僕は、それを見つつ、ゴロッと横になった。おやすみ。



「殿下、殿下」


「ん? あっ、おはようフルーラ」


「はい、おはようございます……。ではなくて、そろそろ出発しませんと、視察の時間が無くなりますよ」


「そう。じゃあ行こうか」



 僕は起き上がって、すでに準備の整っている馬に乗ると、再び移動を開始したのだった。あ〜。眠い。



 小一時間こいちじかんほど走って、視察予定の村に到着する。ヘーデ村。緑豊かな農村で。城のあるフルーゼンの街からは、だいぶ北にあるのだが、山岳地帯から距離があるためか、若干、温暖で雨も適度に降り、耕作に適した土地となっている。



 僕は馬に乗ったまま、耕作地をを回る。ちょうど昼の休みも終わり、耕作地には人が、ちらほらと見える。うん、のどかだ。眠くなってくる。


 だけど、城は丘の上にあるから、涼しいのかとも思ったが、まだ夕方と言うには早いこの時間だが、少しヒヤッとする風が吹く。


「秋にはまだ早いのに、ちょっと涼しいね」


「そうですか? わたしは、結構暑いのですが」


 僕は、フルーラを見る。う〜ん、銀色に輝く甲冑が、熱を吸収しているのかな? 僕は、甲冑は着てない。普段の服のままだし。


 季節は、暑すぎない真夏を過ぎ、晩夏ばんかといったところだ。いつもの年なら、少し汗をかきつつ、視察に出かけるのだが、今年は、秋の訪れが早いようだ。



「おじさん。今年の出来はどう?」


「これは、殿下。今年は夏の暑さがいまいちで、成育せいいくがいまいちですな。悪いというほどでは、ないんですが」


「そう。最近、特に、涼しいもんね」


「はい。左様さようで」


「じゃあ、仕事頑張ってね」


「ありがとうございます」



 この後、数人に声かけたが同じような感じだった。う〜ん。



 村を、ぐるっと一周した。自分的には視察終わりだが。お父様の視察に比べて明らかに短い。どうやって時間潰そう。このまま帰ったら、コーネルに色々言われそうだし、街に、飲みに出るには早いし。



 本来の視察は、まず村長等のその土地を統轄とうかつする者の家に行き、案内されて、村長が選んだ耕作地へ行き、その耕作地の主人の話を聞きながら耕作地を見た後。村長の家で、歓待かんたいされながら、村長が選んだ村人の話を聞き、村長に助言や、め言葉を与えるという感じなのだが。あまり、意味感じないんだよね。





「うん。良い景色だし。暖かそうだ」


「はい?」


 フルーラが首をかしげる。が、僕は構わず馬から降りると、村が見渡せる、ちょっとした丘の上に上がる。


 すると、アンディが素早く敷物を敷き、僕はその上にゴロッと横になる。日差しが暖かくて気持ち良い。これじゃ、秋の陽気だよね~。


「殿下〜。村の皆が、見ております。殿下〜」


 いや、見られるより、フルーラの声が大きくて、僕がここにいるのが、伝わっちゃうよ。



 僕が、うつらうつらしていると、人が集まってくる気配がある。すると、フルーラが僕に声をかける。


「あの〜、殿下〜。ヘーデ村の村長が挨拶したいそうですが」


 すっかり目の覚めていた僕は、敷物の上に座り直すと、周囲を見廻す。周囲には、村人がほぼ全員集まっていた。


 おっ。彼らだよな。僕は、人垣の後ろの方にいる、若い男女に声をかける。


「え〜と、リューゼさんと、ミルシュさんだよね? 結婚おめでとう」


「えっ! わ、わたし達を、ご存知で?」


「うん。前に見たし、今日ちょうど結婚の承認したからね。なんとなく」


 そう言うと、周囲の人間。おそらく、二人の両親や家族だろうか。慌ててペコペコと頭を下げつつ。


「あ、ありがとうございます」


 等と、口々にお礼を言われ、さらに、


「で、殿下〜。わ、わ、わ〜ん」


 ん? ミルシュさんだっけ? が、泣き出した。何か、悪い事したかな?



 そのタイミングで、


「あの〜。殿下。不手際は無かったでしょうか?」


 村長が、心配そうに僕に声をかける。


「特に無いよ。平和で良い村だね」


「ありがとうございます」


 安心したようだ。


「あっ、そうだった。今年涼しくて作物の成育悪いみたいだけど、来年用の種分たねぶんの確保は、しっかりしてね。冬の食料足りなかったら、国の食料庫、開けるから」


 ようするに、収穫量減っても、来年用の作物の種まで食べる事はしないようにって言ったのだ。


「か、かしこまりました」


 村長は、びっくりしたような顔をして、返事をする。失礼な。僕だってちゃんと考えているんだよ。一応。



「さて、帰ろうか」


「はっ」



 こうして、僕のヘーデ村視察は、終わった。



喧嘩するフルーラとアンディとグーテル。作画みんとさん。


https://kakuyomu.jp/users/minta0310/news/16817330655485020448

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