第3話 グータラ殿下の優雅?な一日②

 さて、領主の仕事だが、それは、領内の穀物こくもつ収穫しゅうかく、それ以外の農産物の収穫の報告。狩猟しゅりょうの許可や、その成果の報告。さらに、税金、関税、などのお金に関する報告。そして、家臣達への報酬ほうしゅう等の支払いや、家臣や諸侯しょこう達の収入の報告。他には、 自分の領土内の家臣や領民りょうみんの裁判、不平や論議ろんぎを解決したり、結婚の承認をしたりもする等、多岐たきに渡る。



 これらを執政官しっせいかんであるコーネルや、政務官せいむかんがまとめ、僕が承認する。ある程度、僕が判断しないといけないものもあるが、その時も過去の例を調べて、見比べる材料として用意してくれている。だから、ほとんど悩むこともない。



「では、殿下よろしくおねがいします」


 コーネルは、少しあきれた顔をしつつ、執務室しつむしつの机に座る、僕の前に書類を置く。週の半分くらいは行っているので、そんなに量はないものの、三つに分けられた書類が置かれる。


 これが、大国だとすさまじい量の仕事量なのだろうが、運の良い事に大国でもないし、田舎だし、治安も良い。そして、領民もおだやかな人多いから、め事や、争いも少ない。うん、良い事だ。



 まずは、一番量の多い書類に目を通す。これは、承認のサインをすれば良いのだろうが、ただ、サインをして、コーネルに全財産を譲渡じょうとするとか、殿下を朝早く起こしても良い権利を与えるとか。そんな書類にサインしたら大変なので、きちんと目を通した上でサインをする。



 なになに。どうやら今日は、結婚の承認が多いようだ。結婚の許可は、司祭しさい様始め、地域の教会の許可が必要なのだ。


 だから、領民も貴族も、王族も神聖教を国教とする国では、一夫一妻いっぷいっさい。まあ、大貴族や王族は、愛妾あいしょうなるものはいるようだけど、妻ではない。なので、後継ぎも正妻せいさいの子供が継ぎ、愛妾の子供達は、あくまで家臣にしかなれない。


 我が家は、裕福な大貴族ではないので、お父様の妻は、お母様のみ。そして、子供も僕一人。だから、甘やかされて、こんな風に……。もとい、大事に育てられたので、こんなに、立派に育ったのだ。



 おっと、話がそれた。神聖教会の許可が下りて、それを領主が承認するのだが、神聖教の教え的には大丈夫でも、マインハウス神聖国の法律や、ハウルホーフェ公国の法律にのっとり、承認をする。


 これは、主に身分差がありすぎるとか、他の国の人との結婚とか、犯罪歴のある人との結婚とか、色々うるさいのだ。


 家臣や、領内りょうないの諸侯の結婚は、それぞれの家と家の話し合い、そして、それぞれの領主りょうしゅにうかがいをたてて、進めるので、基本そのまま承認となる。ただし、その過程を経ていないと、差し戻される。


 領民は、本人達が良ければ、一応、親の承諾しょうだくがあれば教会は許可をする。まあ、その親の許可が、相手が、家柄いえがらだとか、職業だとか、貧富ひんぷの差とか、下層民かそうみんであるとかうるさいが、そんなのは、本人達の問題だ。


 それで、領主にとって、承認に重要なのは、労働力が減少してしまうかどうかなので、男性が国外の女性と結婚するために、国外ヘ行くということにはうるさい。後継ぎが長男なら長男の移動は無理だし。後継ぎのいる家の次男とかも、厳しいそうだ。三男、四男と自由になっていくが、かえって仕事を見つける方が大変そうだ。


 まあ、我が国はそんなにうるさい方ではない。そんなに大きい耕作地こうさくちは、無いしね。



 話が長くなった。え〜と。僕は、書類を確認する。ヘーデ村キンドラのリューゼとヘーデ村ロイドルのミルシュ。これは、村の名前、家主の名前、結婚する人の名前となっている。ようするに、この場合ヘーデ村のキンドラさんの息子のリューゼと、ロイドルさんの娘のミルシュが、結婚するということになる。


 え〜と。僕は、ヘーデ村を思い浮かべる。多分、普段から仲良く仕事している、あの二人だろうな。よし、はい承認っと。僕は、スラスラと書類にサインして、書類をコーネルへと渡した。



 さて、次は、エノール街オーベルのシュテルンと、フルーゼン街リンゼイのフューリー。フルーゼンの街は城下町だし、フューリーさんは、良く知っている。雑貨屋ざっかやのさっぱりとした性格の、明るいおばちゃんだ。シュテルン、シュテルン。そうか! その雑貨屋に商品をおろしに来る行商ぎょうしょうの大人しそうな、若者かな? へ〜。年上好きだったんだ。


 と思って、年齢の所を見ると、フューリーさん。年下だった。大変失礼しました。これも、承認。



 こういう感じで、サインを書いていく。結婚の承認とか、関税の報告書などにサインを済ませ。承認のサイン書きの仕事は終わり。ちゃんと読んでたので、1時間以上経過した。



 コーネルは、真剣な表情で、サインを確認したり、再度、書類の確認をしているが、斜め後ろで、フルーラが退屈そうにしている。


「フルーラ、退屈なら、どこかで休んでても大丈夫だよ」


「いえ。退屈なように見えましたでしょうか? 申し訳ありません。私の任務は護衛です。休むなどと、とんでもありません」


「そう。なら、良いんだけど」



 僕は、再び正面を向き、書類を見る。



 次は、少し考えないといけない書類だ。え〜と。おっ、これは僕も行きたいな。


 どうやら我が家の騎士達が、およそ一週間後に、訓練も兼ねて狩猟しゅりょうを行う為の許可を求める書類だ。領内に生息するけものも、領主の物となっている。狩人かりゅうどがとるのも一応許可制だが、狩人自身が取りすぎないように加減している。


 領主や、諸侯、家臣、騎士団などが行う狩猟は、規模が違う。そこで、捕る獲物えものの量を申告しんこくして許可をもらうのだ。


 僕は、自分の名前と、フルーラ、そして、もう一人の名前を加え、少し獲物の量を増やしてサインし、コーネルに渡す。


「殿下も行かれるのですか? まあ、良いとは思いますが。お気をつけて。獲物の量も妥当でしょう」


「良かった」


 コーネルからの承諾も得て、およそ一週間後の狩猟に、参加出来るようになった。


 このような書類に、コーネルのアドバイスで書き加えつつ、サインをして。



 最後は、裁判と言うと大袈裟おおげさだが、争い事の解決だ。


 まず一つ目は、アメールガウ村のスルツという農夫のうふの訴えで、蔵を整理していた時に、先祖が書いた地図が見つかり、それによると、隣のウーエルという農夫の畑が腕を広げた位の幅で、こちらの畑に入り込んでいるというものだった。ようするに境界が、間違っていたということのようだ。



「これって、正規の書類なの?」


「はい、その当時のハウルホーフェ公のサインが書かれておりましたので、正しい書類かと」


「そう。う〜ん」


 コーネルの返事を聞き、一応考える。さて?


 すると、コーネルは、


「過去の判例はんれいでは、土地の使用料を払わせた後、境界を正しいものに戻すというものですが」


 と言うが。


「知ってて勝手に使ってたならそうだけど、そうじゃないんでしょ? お金取られて、土地奪われて可哀想かわいそうだよ」


「ですが。過去の判例では、そうなので」


 僕は、本格的に考えこんだ。


「そうだ。その畑の周囲に余っている土地無いの?」


「田舎の村ゆえ、あるとは思いますが」


「だったら、その土地の耕作を認めるってどう? 訴えた方が、それで納得するならその土地は、訴えた方が使う。納得出来ないなら、境界を正規に戻した上で、その土地は、訴えられた方に与える」


「なるほど。それなら双方損をしませんな」


「そう。過去は水に流し、前を向いていかないとね。隣の人と争ってもしょうがないでしょ」


「殿下。意外とちゃんと考えておられますな。では、早速、殿下の言葉も加えて執行しっこうさせましょう」


 コーネルは、満足そうにそう言いつつ、鈴を鳴らし、外で控えていた家臣に伝言させるが。



「意外とちゃんとだって」


 僕は、隣に立っていた、フルーラに声をかける。すると、フルーラは、


「いえ、わたしは、殿下の才能を存じております。やる気が無いだけなのです」


 そう言いながら、涙を流して感動している。


「あっそう」


 やる気が無いだけね~。



 で、最後は、


「ハウルホーフェ家の家臣と、公国諸侯のファルハルト男爵家の家臣との喧嘩けんかなのですが。判例ですと……」


「レッツ ファイト」


 僕は、手をクロスさせながら、そう言うと。


「殿下。戦わせては駄目です。さすがに」


 と、コーネル。


「だけど、遺恨いこんが残るよ。スッキリと決着をつけよう」


 と、フルーラが、


「ますます遺恨が深くなると思うのですが?」


「そう?」


 僕が言うと、コーネルは、


「はい。で、過去の判例ですと、喧嘩両成敗けんかりょうせいばいで、双方にむち打ちとなっております」


「そう」


 僕は、少し考えてみるが、他に良い解決策は思いつかなかった。


「そうだな。じゃ、それで。ただし、ハウルホーフェ家の家臣は、ファルハルト男爵領で、ファルハルト男爵家の家臣は、ここの広場でむち打ちね」


「なるほど。お互いの見せしめですな」


「まあ、喧嘩しちゃだめよって事でね」


「分かりました。では、早速。殿下、今日の政務は以上です。お疲れ様でした」



 こうして、僕の仕事は終わった。2時間以上かかって、時間は、正午を過ぎていた。

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