第八章 chapter8-1
エピローグ
「夏休みが終わったら、もう文化祭だね。高校の文化祭ってどんな感じなんだろうね」
「中学の時よりは凄いんだろうね」
あの事件から一ヶ月程たち、既に季節は巡りはじめもうすぐ夏休みを迎えようとしたある日の放課後、私とみかさはそんな事を話していた。
「折角の文化祭だし、私達もどこかで演奏したいよね」
「だねぇ、問題は軽音部だけど……」
私達はまだ経験したことのない高校での文化祭に期待に胸を躍らせていた。
「そうだね……。いざとなったら、空いてる広場とかでゲリラやってもいいんだし、まずは私達が納得出来る演奏できるようにならないとね」
「納得の出来る演奏、か……」
私は手にしたギターの弦から指を離し、私は窓の外から見える校庭を見た。
校庭では夏に向けて激しい練習をする運動部の姿が見えた。
「私達二人だけでやっていけるのかな」
「またその話題?仕方ないじゃない。桜夜ちゃんと私の二人しかいないんだしそれに……」
みかさはそこまでいいかけ、言葉を止める。
「……ほら、取りあえず私達で出来ることはやらないとね」
みかさはキーボードに指をかけて旋律を奏で始め、それに併せて私もピックを握り直しギターを弾き始めた。
「もう一人……、一緒に歌ってくれるあの子がいてくれたら良かったんだけどな……」
私は心の中にその呟きを飲み込んだ。
「そういえばこの桜夜ちゃんの作った『約束をキミと』って曲どう見ても一人で唄う曲じゃないよね?」
「え?そ、そうかな?」
もう一人ヴォーカルが入ること前提の曲だったとはさすがに言えずに私は視線をそらした。
「私は嫌だからね、唄うのは。だからこの曲をやる時は桜夜ちゃんが一人で唄うか、別のヴォーカルが見つかったときだからね」
「はいはい、わかりました」
頬を膨らませるみかさをを見てついついおどけたように肩をすくめたのだった。
******
「何か今日転校生が来るんだって、珍しいよねこんな時期に」
「確かに。4月とかなら判るけど、7月に転校自体珍しいしね」
私とみかさが新しいメンバーについての会話をかわした翌日の朝のこと。
担任が教室に入ってくると、慌てて私達も自分達の席へとついた。
「今日は転校生を紹介する、入ってきなさい」
教師に促されると、扉が開き廊下で待機していたであろう私達と同じ制服に身を包んだ女生徒が入ってきた。
「はい」
――ガタッ!!――
そう促されては言ってきた女性とを見て、私は思わず音を立てて立ち上がる。
「どうした、凡河内。ひょっとして知り合いだったか?」
「あ……。は、はい……」
私ははからずもクラスの注目を浴びてしまった事が照れくさく、そのまま小さくなって椅子に腰掛けた。
「
教室の中からは彼女に向けて様々な囁きが飛び交っていた。
「おい、なかなか可愛いんじゃないか?」
「こんな時期に珍しいね」
「どこから転校してきたんだろうね」
そのどれもが以前に彼女がやってきたときの物とは違うことが私には無性に嬉しかった。
「彼女は、両親が仕事で外国に行くことになって一人日本に残ることになったそうだ。しばらくの間一人暮らしとのことだから皆仲良くしてあげるように」
担任が彼女について説明をして、教室の中を見渡す。
「それじゃあ、席は凡河内の後ろの席が空いているな、調君、席はそこで」
「はい」
担任が私の後ろの席を指差しながら言うと、雪声はその席に向かって歩き始めた。
私の横を通り過ぎる雪声にだけ聞こえるように私は小さく囁く。
「私は雪声の歌が好きだよ」
「……馬鹿」
前とは違いわざと彼女の耳に聞こえるように言ってやり、彼女が照れたようにしたのを見て私はしてやったりと思ったのだった。
******
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