第七章 chapter7-5

 雪声と私との約束が守られなかった日からしばらくたったある日の事

  とあるどこにでもあるように見える商社ビルの一室で、手元にある資料を一通り読んだ男の一人が口を開く。


「今回の実験はこれ以上の進展は認められそうにないな」


 その男から下された決断白衣の男は納得がいかず、目の前に座る数人の上司と思われるスーツを着た男達に必死に食い下がっていた。


「……そ、そんな。ここまで来て計画の中止は……」

「魔術を扱えるホムンクルスの錬成実験そのものは成功しているのだろう?ならばこれ以上の実験継続は必要ないと思われるが」

「しかし……」


 男の一人に言ったその言葉に白衣の男は小さく呟いた。


「それともこの実験には他の目的があったとでも言うのかね?少なくとも私達はそんな事は聞かされていないが……」


 男の口にした『他の目的』という言葉が出たときには白衣の男は心臓をわしづかみにされたようにどきっとする。


「そ、そんな目的などありません……」


 顔を上げることが出来ずに伏せ見がちに白衣の男はそう返す。


「なら問題は無いな、この実験は今はここまでとする」

「雪声……いえ、コード01の方はどうしますか?」


 白衣の男はそう男達に聞いた。

 男達の中心に座る恰幅のいい男がそれを聞いてこう返した。


「もう実験のすんだ検体に用はない、調、お前が好きに処分しろ」

「は、はい、判りました。それでは失礼します」


 調と呼ばれた男は一礼すると、悔しげに歪めた表情を男達に気がつかれないようにその部屋を退室した。

 部屋を出た調は足早に自分の研究室へと戻ると、手にした資料の束を地面に叩きつけた。

 そして忌々しそうに机の前の椅子に座った。


「奴らは全く判っていない。私がなんでこの実験をやっているかなど……。奴らに奪われた娘の事など……」


 そして部屋の奥にある透明な水槽の中で一糸纏わぬ姿で眠ったように瞳を綴じている、雪声の事を見た。


「お前のことを処分しろと言われたよ。だが奴らの思っているような処分はしない、安心しろ……」


 調は机の上にあるコンピュータをデータを呼び出すと、アイドルであった雪声の戸席データを呼び出すと、そこに改変を加えた。


「これでお前はもうただの普通の人間だ。好きに生きればいい」


 そう調は呟き雪声の入っている水槽の操作をした。

 ひとしきり操作をし終えると調はその水槽には興味をなくしたように部屋を出て行く

 調が部屋を出て行ってからしばらくすると徐々に水槽の中の液体がその水位を下げていった。


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