第一章 chapter1-8
「雪声さん来たよ」
普段よりもより少しばかり早く登校して、教室で雪声の事を待っていた私とみかさは登校してきた彼女の姿を見て頷きあった。
「私達がいつもより早く来たのに、かなりゆっくりのご登校だったね」
「いつもの私達がのんびりしすぎてるだけだと思うけどね」
「ぐ……それは……」
悪戯っぽくみかさに言われて、私は言い返すことが出来なかった。
そして雪声が自分の席についたのを確認すると、私は席を立つ。
「それじゃちょっと行ってくる」
「頑張ってね」
「何をどう頑張ってっていうのよ」
自分一人に全てをまかされた私はみかさの頭を軽くこづき、席について授業の準備をしている雪声の方へと向かった。
「おはよう。ちょっと良いかな、雪声さん」
私は出来るだけ自然に彼女に向かって声をかけた。
一昨日転校してきたときにはたくさんいた彼女を取り巻くクラスメイト達は既にいなかった。
「やっぱりアイドルとかだと他の人と関わりにくいのかな?」
彼女の周りに人がいなくなった理由を勝手に私は邪推していた。
私の声を聞いた彼女は、私の方に視線を向ける。
その向けられた視線に私は一瞬びくりと背筋が凍った。
彼女の視線が私の事を鋭く、値踏みするような物に思えた。
しかしそう思えたのもほんの一瞬のことで、他のクラスメイトに向けるような親しみのある、テレビなどで見せているような笑みを浮かべた物にすぐに変わった。
「私に何かご用ですか?」
どこか余所余所しいその口調に私は若干の苛つきを感じていた。
「少し話したいことがあるんだけど、昼休みにでも時間良いですか?」
「昼休み?」
「一緒に食事しながらとか……、どう?」
私のその提案に雪声は俯き考え込んだのが見えた。
そして私の事を見ながら彼女は、硬い表情のまま頷いた。
私からは彼女のその仕草が、自分の意図ではないようにも、何故か感じられた。
「ええ、構わないわ」
「よかった、ありがとう。断られるかと思ったから」
「なんで?」
「それは……」
答えようとしたところで教師が教室に入ってきた。
「この話の続きもまた後で、屋上で待ってる」
教師の視線を避けながら話を中断をする、そして私は慌てて自分の席に戻った。
私達が席に着くと入ってきた教師はもう一人見慣れぬ男性と一緒にやってきた。
一昨日の転校生に続き、教室がざわついた。
「ああ、今日から研修でやってくることになった
「僕は津々原
そのどこか人懐こい笑みに、クラスの女子達が特に盛り上がる。
「しばらくの間、帰りのホームルームは彼に頼もうと思っている、皆悪さをするんじゃないぞ?」
その担任教師の言葉にどっと教室内に笑いが広まる。
私はその時気がつかなかった、その津々原と名乗った教師が、雪声と目配せしていることに。
「それじゃあ、朝のホームルームはここまでだ、皆今日も一日頑張るように」
そう言って二人の教師は教室を後にした。
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