第一章 chapter1-6
放課後、誰もいなくなった教室で、私とみかさはそれぞれ自分の楽器の音を鳴らしていた。
教室を使っている理由は私とみかさの二人は部活ではなく、趣味の延長という形で放課後の教室で練習をするのが日課となっていた。
ひとしきり先ほどの旋律を奏でた後、みかさがこう呟いた。
「やっぱりさっきも思ったけど、私達二人だけじゃ何か足りないんだと思う、この曲……」
「二人だけじゃ足りないってそれってどうしようもないよ、新しいメンバーでも入ってくれればいいのかもしれないけど……、あ、軽音部に再入部とかは絶対に死んでも嫌だからね」
「判ってるって、そんな事言わないよ、私だって嫌だものそれは」
みかさと私は顔を見合わせてため息をついた。
この学校にもバンド活動を行う軽音楽部は存在していた、しかし二人はそこにはあえて所属せずに二人での活動をすることを選んでいたのだった。
「もうあんな目に会うのは、嫌だからね……」
「うん……」
私とみかさ、二人の間に何とも気まずい微妙な間が生まれる。
そして私が視線をみかさからずらした時、教室の入り口に動く影を見つけた。
私は慌てて立ち上がり、急いでその影が動いた扉まで駆け寄ると小さく開いた扉を勢いよく開けた。
「あれは……」
誰もいない廊下を走り去っていく一人の女性の背中が私の瞳に映る。
走り去っていったのは少し前に自分のクラスに転校してきた女生徒の着ていた他校の制服で、彼女と同じ綺麗な銀髪をしていた。
「どうしたの?桜夜」
「誰か私達のことを見ていたみたいだったから誰かと思ってみてみたんだけど……」
「みたんだけど?」
歯切れの悪い私の事を心配そうにしながら聞き返してきた。
「多分……さっきのは雪声だったと思う……多分だけど……」
「雪声さんって転校生の?アイドルだよね?なんでそんなストーカーっぽいことをする必要が……」
「わからないけど、あの着ていた制服と髪型と髪の色……間違いないと思う」
「ひょっとして私達のバンドに入れて欲しいとか?」
冗談めかしたみかさの言葉を私はもやもやしながら聞いていた。
「ひょっとして昼休み、私達のことを見ていたのも雪声……だったのかな?」
「なのかな?」
私はみかさの言葉に相づちをうちながら、ひょっとして昨日から感じていた視線は彼女の物ではないかと考えはじめていた。
「でも天下のアイドル様が私達のことなんて気にしないんじゃない?」
「そ、そうだよね」
みかさの言葉に私は先ほどまで考えていた事を気がつかれないよう再び相づちを打った。
「これを言ったらまたみかさに自意識過剰とか言われかねないしね……」
さすがにここ数日、何度も言われた事を思い出しながら私は小さく呟いていた。
「なんにしても今はまだ情報が足りなさすぎるね、明日雪声さんに聞いてみる?」
「聞くのはいいけど、なんて聞くの?まさかストーカーをやってました?とは聞けないでしょ?」
「取りあえず少し考えてみようよ、夜にでももう一度連絡するからその時に話そうよ」
さすがに帰る時間だと思った私はみかさの提案に頷いて、同じように帰り支度をはじめた。
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「少し離れたところから見ているだけで本当にいいの?今日私の事を見られたと思うんだけど」
「ふむ……そうだな、明日からは距離を取らず向こうから接触してくるようならば、それにあわせなさい」
「……判りました」
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