第一章 chapter1-5

 そして時間は進み、学校は昼休みになっていた。

 私とみかさの二人は中庭にあるベンチに座りながら、昼ご飯を食べていた。

 購買で買ってきたサンドイッチを頬張りながら、私は持って来た昨晩のノートを取り出すとみかさに見せた。


「前に話していた曲だけどさ、こんな感じになったんだけど、どうかな?」


 ノートに書かれた詞を見せながら、私は食べていたサンドイッチを脇に置くと歌を口ずさみはじめる。

 しばらくその曲を聴いていたみかさは、うーんとその表情を曇らせる。


「なにかこう足りてない気がするね」

「やっぱりそう思う?何だろう、何か足りない気がするんだけど、何が足りないのか判らないんだよね」

「桜夜の歌が悪い訳じゃ無いけど、何かやっぱり足りてないよね……」


 残ったサンドイッチを口に入れて、紙パックのイチゴミルクを飲みながら考え込む。

 そんな私の様子を見ながら、みかさは自分達に何が足りないのかを考えながら空を見上げる。

 空を見上げようと上を見上げると、二階の自分達の教室のある方向の窓からこちらを誰かの影が見ているような気がした。

 だが一瞬影が見えたと思えたが、すぐにその影は消えていた。


「ん……、あれ?」

「どうしたの、何か良いアイデアでも思いついた?」

「そうじゃなくて……誰かが私達のことを見ていたような気がして……」

「……誰かが見ていた?」

「気のせいだよね、きっと」


 みかさのその言葉で私は思い出すことがあった。

 それは昨日の転校生がクラスにやってきた時の事だった。


「そういえば昨日のことなんだけど、雪声の前で私の名前呼んだりしてなかったよね?」

「名前?なんで?」

「昨日自己紹介もしてなかったと思うのに、私の名前を呼ばれた……と思うんだよね」

「なにそれ、またいつもの自意識過剰?」

「ちょ、何よ、その自意識過剰って……だから違うってば」


 私はみかさに昨日名乗ってもいないのに、自分の名前を呼ばれたことを説明する。


「なるほどそういえばそうだった気もするね。ひょっとして雪声さんが桜夜のファンなのかも?」

「何それ意味が判らないよ」


 冗談めかして言ったみかさの言葉に私は頬を膨らませた。


「冗談だよ、ただの偶然じゃない?他の人が呼んでいたのを聞いたとかそんな……。昨日会ったばかりのアイドルが自分のことを知っていたとか、どう解釈しても自意識過剰だってば」

「そ、そうだよね」

「そうそう、気にしすぎてると禿げるよ」

「この年で禿げたくないですよっだ」


 私はみかさとたわいもなく笑いあっていると、昼休みの終わりを告げる予鈴が校内に響き渡る。


「あ、そろそろ教室に戻らないとね。曲のことは放課後にでも」

「だね、実際に楽器をひきながらでないと判らないしね」


 慌てて私とみかさの二人はは教室へと戻っていった。



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