第一章 chapter1-3
「……うーん、やっぱり自己紹介とかした記憶はないよね……」
私は自室のベッドの上でギターを弄りながら、今朝のことを思い出していた。
みかさには誤魔化したというか、うやむやにしてしまったが転校してきた雪声について思い出していた。
彼女の歌が好きだというのはまぐれもない事実ではあったが、何かが頭の隅に引っかかっていた。
彼女の歌が好きでその歌い手と会えたというのは嬉しかったが、それだけではない何かがそこにあった
「芸能人と会った事なんてないしな……。でも何か……うーん……、あー!!もうむしゃくしゃする!!」
思い出そうと思っても、思い出せない、何か私の心の中にもやが掛かっているようなそんなイライラする感覚が心の中に広がる。
心に広がったそんなもやの波紋の正体が私は判らずにそのもやを発散するためにギターの弦をただかき鳴らした。
「はぁ、こんな事をやっても何の意味もないよね……」
ひとしきり指を動かした後、むなしくなりその手を止めた。
「もやもやはするけど、今はそう言うことをやってる時じゃないよね、夏休みが終わったらすぐに文化祭だし、早く新曲を作らないと……」
机の上に置いてあるノートを腕を伸ばして手に取るとぺらぺらとページをめくる。
「ここの歌詞はこうして……」
ギターを弾きながらノートに書いてある歌詞に合わせる。
『あの時貴方に出会っていなければ私は思い出せなかっただろう。
その忘れてしまった言葉を、約束を
What are you doing now?
でも私はそれを覚えていない
そのあなたとの大事な約束を』
「……だめだ……、こうじゃない、何か……」
何か集中できないとピックを持った手をだらんと垂らし壁により掛かる。
「こんな感じじゃ集中できないな……、明日みかさと話しながら進めよう……」
昼間から感じる違和感にもやもやとしたままベッドに横になって天井を見つめる。
そのまま私はじっと天井にある木目の模様を見ている内に意識を失うように眠りに落ちていった。
*******
「……どうだった?学校は」
「どうって、特に何もないわ、それよりも本当に意味があるの?こんな事をして……」
「さあな、俺だって詳しいことは聞かされていないんだ、全くマネージャーの次は保護者役とか上は何を考えているんだか……」
「とりあえず、今の所は問題ないと思うわよ、お兄ちゃん」
「やめてくれ、お前にそういう風に呼ばれるとと気持ちが悪い、コード01」
「その名前で呼ばないで、私は雪声よ、コード01じゃない」
「はいはい、判りましたよ、雪声お嬢様」
*******
「……あのまま寝ちゃってたのか……」
まだ夜のとばりも消え去らぬ早朝、歌を作っている途中、歌詞に悩んだまま眠ってしまった私はゆっくりとベッドの上で目を覚ました。
私はベッドの脇に置いてあった目覚まし時計を見て、寝返りをうちながら、自分の目から涙が出ていたのに気がついた。
「あれ?何だろう、変な夢でも見てたのかな……」
涙をふきながらこれからどうするか私は考える。
「もう一度寝直すには……、ちょっと遅いよね。……また寝ると確実に遅刻しちゃうよね……」
自分が着がえもしてないことに気がつく。
「そっか、そのまま寝ちゃったなら着がえもしてないよね、よしまずはシャワーを浴びて気分転換しよう」
ベッドから降りると家族を起こさぬように静かに部屋を出てゆっくり階段を下りて風呂場へと向かった。
洗面所に入り、鏡に映った自分の顔を見ると、ひどい顔をしているのがよくわかった。
「なんだろう、そこまで夜更かしをした訳じゃ無いのに……。ひどい夢でも見てたのかな……、覚えてないけど……」
洗面台で軽く顔を洗い、私はシャツのボタンに手をかけてゆっくりと外しはじめた。
そして服を畳んでおき、一糸纏わぬ姿になるとバスルームの扉を開けて中へ入る。
バスチェアに腰掛けるとゆっくりとシャワーの栓を捻る。
そのまま熱いお湯で嫌な物を全て流してしまいたくて頭からお湯を浴びる。
しばらくそうしていたが私はため息をつき、蛇口のハンドルを回した。ゆっくりとお湯が止まりその短くまとめた髪から水がしたたり落ちる流れをしばらく見つめた。
――パチンッ!!――
突然バスルームに甲高い音が響き渡る。
「いったぁい……、でもこれで気合いは入った」
私は両手で大きな音を立て頬を叩き、自分に活をいれたのだった。
*******
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