第一章 chapter1-2
「何とか遅刻しないで良かったね」
「そうね、しないですむならその方がいいよね」
「高校生にもなって遅刻ばかりは少しみっともないしね」
「……う……」
中学生の頃は比較的寝坊が多く、遅刻が多かったことを私は思い出してうなだれる。
教室に入った二人をクラスメイトが挨拶すると、クラスの中で話題になっていることを二人に聞いてきた。
「そういえば二人はあの噂は知ってる?」
「噂?」
クラスメイトに挨拶のあと唐突に聞かれたことに私とみかさは思わず顔を見合わせる。
「何か今日転校生が来るんだって、珍しいよねこんな時期に」
「確かに。四月とかなら判るけど、高校でしかもこんな時期に転校自体珍しいしね」
クラスメイトとの会話の後、私達は少し話をするとそれぞれの席へとついた。
二人が自分達の席へとつくのとほぼ同時に教室の扉が開き担任の教師が入ってきた。
そして朝のホームルームの中でそれは起こった。
「今日は転校生を紹介する、入ってきなさい」
教師に促されると、扉が開き廊下で待機していた見知らぬ制服に身を包んだ女生徒が入ってきた
スレンダーな体つきと背中まである綺麗な銀髪と深い赤色の瞳に切れ長の瞳が特徴的なその子は、教壇に立ち小さく頭を下げる
その女生徒が顔を上げると、クラスの中が騒然としたものへと変わった。
「おい、あれって……」
「まさか……だよね……」
「でもでもどう見たって……」
「……コホン!!」
騒がしくなった教室に向かって教師がわざとらしく咳払いをした後、教室に静寂が戻る。
そして黒板に転校生の名前を書き始める。
「お前達の言いたいことは判るが、今は静かにしなさい。それじゃ
「あ、はい。調雪声といいます。メディアで知ってる人も多いかもしれないですがこれが本名です。皆さんよろしくお願いします」
その転校生、雪声が営業スマイルとも取れる笑みを浮かべて自己紹介を終えると、再び教室が騒然となる。
だがその口調はどこか他人事のような無機質にも取れる物であった。
「やっぱり雪声だ!!」
「なんでアイドルがこんな時期に転校を?」
「まさか何かスキャンダルとか??」
そんな風に教室のあちこちから声が上がり騒がしくなる中、私は黒板の前に立つ彼女の視線がじっと自分に向いている様な気がした。
「彼女は仕事柄いつも学校に来ると言うことには無いと思うが、仲良くしてあげて欲しい。席はそうだな、凡河内の後ろの席が空いているな」
教師が私の隣の机を指差して、その席に座るように雪声に指示をする。
雪声はその指示に頷き、教壇から自分の机へと歩き始めた。
「気のせいだよね……」
「何が気のせい?」
私のその小さな呟きは私の後ろの席から予想もしなかったみかさの声で返された。
「え、ええっと……」
さすがに何の根拠もないことを言うわけにもいかず、どう答えたらいいのか判らずに私は狼狽する。
「それにしてもまさか現役のアイドルさんが転校してくるとは思わなかったね」
「うん、それで驚いていたんだよ」
「なるほど、あまり芸能界とかに興味なさそうに見えるからね、桜夜は」
「そう見える?少なくとも雪声の歌は好きだよ」
みかさの方へと振り向こうとした私に対して予想もしてなかった声が掛かる。
「誰の歌が好きだって?」
「え?」
そこにはいつの間に人集りから抜け出してきたのか、 先ほど話をしていた話題の主である雪声が立っていた。
綺麗な長い銀髪とクールとも取れる切れ長の鋭い目つきで私の事を見ていた
「私の曲を聞いてくれてるんだね、ありがとう桜夜さん」
「ど、どういたしまして」
悪戯っぽく言われてどう答えた物か戸惑う私のことなど全然気にした様子もなく手をひらひらと振って、雪声は自分の椅子へ向かい座った。
「それじゃ私もそろそろ戻るね、また後で」
自分の席に向かう雪声を見ながら私の頭にふと疑問がよぎる。
「あれ?私、自己紹介……してない……よね?」
*******
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます