第一章 chapter1-1
「おはよう……、お母さん」
初夏とは言っても、まだ暑いという程でもない朝、眠そうな目をこすりながら私は階段を下り、ダイニングへと姿を見せる。
「おはようじゃないわよ、早く準備しなさい、遅刻するわよ」
「はぁい……」
「まったく高校生になってからも、全然変わらないんだから」
高校指定のブレザーの制服を着た私はセミロングの髪をとかすのをやめ、ふらつく足取りで私は椅子に座ると、皿の上に載ったパンへと手を伸ばした。
パンを手にしたまま、テレビの画面をぼんやりと見つめる。
テレビを見つめる私の瞳にはテレビから流れる朝の情報番組が流れ、そこには最近人気の出始めた
「新曲……か」
「桜夜も好きだったわよね、この子の歌って」
「うん……、好きだよ。何故かはよくわからないんだけどね。でもどこか冷たいというか、心がなく感じるときもあって、そこは好きじゃないかも……」
梅雨入りを示す天気予報を映すテレビの画面を見ながら私はぼんやりと答えるが、テレビに映っていた占いコーナーが終わったのを見て私は慌てて立ち上がった。
「やばっ、もうこんな時間、行ってきます!!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
母親に見送られながら玄関から駆けだす。しばらく走った後、息を切らして立ち止まったところで背中を叩かれ振り向いた。
私の視線の先には銀色の長い髪が揺れる、クラスメイトの観音崎みかさ《かんのんざき みかさ》が立っていた。
「おはよう、桜夜」
「あ、みかさおはよう」
みかさに元気な声をかけられて、それとは正反対に私は浮かない声で挨拶を返した。
「何か浮かない顔をしてるね、何かあった?」
「……本当?そんな顔をしている?」
自分自身では今どんな表情しているのか、判っていないのだろうと判る私の言葉にみかさは仕方ないと小さく息を吐いた。
「何か今日の私は不幸全開ですよって感じの顔をしてる」
「あはは……。そんな顔をしているのかな」
私より若干小柄なみかさは上目使いにその赤茶色の瞳で私のことを心配そうに見つめる。
「してるよ。ひょっとして、昨日言ってた新曲のことで夜更かしでもしちゃいました?」
「そうじゃないよ、いや新曲のことも色々考えていたけど、何か夢見が悪くて……」
私は今朝見た夢を思い出そうとして、明るくなりかけたその表情を曇らせた。
「夢……ですか?」
「内容は良く覚えてないんだけどね、なんだか辛い夢を見た気がして、おかしいよね」
そう言って空を見上げる私の事を見ながら、みかさは不思議そうに小首を傾げる。
「私もよく夢の内容を覚えてないから不思議じゃないですよ」
みかさは覚えてないと言いつつ、その夢に表情を曇らせる私の事を元気づけようと考えるがすぐには何も思いつかなかった。
その思考は私の言葉で打ちきられることになった。
「そういうものかな……あれ?」
「え?どうしたの?」
「……判らない、けど、何か見られてた気がして……、あはは、気のせいかな」
どこからか見られてる気がして、私は周囲を見渡した。
しかしその周囲には特にそれらしい様子は全くなかった。
「やっぱり気のせいかな……。あ、そろそろ行かないと遅刻しちゃうかも」
私はみかさを誤魔化そうとわざとらしく時計を見て、声を上げた。
そして私とみかさは遅刻しないように歩き出した。
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