二つの心のレゾンデートル

藤杜錬

序章

 夕暮れ時の小さな街角の公園。

 二人の少女が小学校からの帰り道、公園にあるブランコに目が止まった。


「ねぇ、ブランコ両方ともあいてるし、乗っていかない?」

「良いけど昨日も乗らなかった?」

「いいの!!私、ブランコ好きだもん」


 そう言って二人はブランコに乗ってこぎ出した。


「ねぇ、桜夜さやちゃんは将来の夢とかってある?」

「将来の夢?」

「うん、なりたい物とかしたい事とかそういうの!!」


 ブランコをこぎながら桜夜と呼ばれた青みがかった黒髪の少女、凡河内桜夜おおしこうち さやは学校で先生の話していた、正体の夢について思い出しながら話しかけた。


「なりたいものかぁ。なんだろなぁ、雪声ゆきなちゃんはなにがしたいの?」


 桜夜に問いかけをしてきた銀髪の少女に対してブランコの動きを止め、立ち上がると逆に聞き返した。

 逆に聞き返されて、雪声と呼ばれた銀髪の少女はじっと桜夜と呼ばれた少女の顔をじっと見つめた。


「……笑わない?」

「笑う?なんで?」

「……だって…………だから……」


 雪声はあかね色の空のように顔を真っ赤にしててこう言った。


「歌を……」

「歌?」

「……歌を歌いたいの」


 その雪声の言葉に私はあっけにとられた。


「だって……雪声ちゃんって……」

「判ってる、判ってるけど、歌いたいのテレビに出てるアイドルみたいに」


 私は雪声が音楽の授業がとても苦手なのを知っていた、だからこそ驚いて聞き返したのだ。


「……だから笑わないか聞いたの、悪い?」

「悪く無いよ。……じゃあ私の夢も今決めたよ」

「今決まったの?」

「うん、今」


 一拍、間を開けてそう言いいながら私は満面の笑みを浮かべた。


「私の将来の夢は雪声ちゃんと一緒に歌を唄うこと、そう決めた」

「本当?じゃあ二人で一緒に唄うこと、約束だよ」

「うん、約束」


 雪声はそう言って小指を差し出しその指に私は自分の小指を絡めた。


「そうだ、桜夜ちゃんハンカチある?」

「ハンカチ?あるけどどうしたの?」


 不思議そうに雪声がハンカチをポケットから取り出す。


「それはね、こうするんだよ」


 私は雪声の持っている花びらの描かれたハンカチと自分の音符の描かれたハンカチを交換する。


「この交換は今日の約束のしるし。このハンカチを見てこの約束を忘れないようにしようよ」

「あ、そっか。これなら忘れないね、きっと」


 私と雪声はそう言って笑い合った。


「それじゃあ私はそろそろ帰るね、また明日」

「うん、また明日」


 二人は手を振り合うとそれぞれ別々の方向へと歩いて行った。

 それが私が雪声の姿を見る最後になるとは夢にも思わなかった。

 二人が約束をした翌日、小学校に登校した私には予想もしなかった言葉が担任の教師からクラスの面々に伝えられた。


「雪声ちゃんは昨日下校中に交通事故にあいました。その事で入院のため急ではありますが、ご家族と一緒に引っ越しをされることになりました。寂しいとは思いますが、みんなも彼女のこと忘れないでいてあげて下さい、それではこれで朝のホームルームを終わります」

「え?」


 教室を去った担任の話を信じられず、私は呆然と黒板を見つめた。


「……あれ?ここは……?」


 ベッドの上で私はゆっくりとまぶたを開ける。

「……何だろう?凄く懐かしい夢を見た気がする……」


 そう言って枕元に置いてある目覚まし時計を手にとって慌てて身を起こした。

「……早く起きなきゃ!!」


 慌ててベッドから立ち上がると私はパジャマを脱ぎはじめた。



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